夏の赤岳 2011年7月9日 - 10日 テント定着

7月9日 晴れのち曇り

遅くまで天気サイトを見ていたせいで、睡眠は3時間もないくらい。始発列車を乗り継いで茅野へと向かう。勝沼ぶどう郷は駅周辺が山の中のような濃霧に包まれ、ホントに今日は晴れるのかな、と心配になるくらいだったが、韮崎を過ぎたあたりからようやく八ヶ岳が見えてきて、気付けば甲斐駒も鳳凰も姿を見せてくれた。
茅野から美濃戸口行きの1番のバスに乗り込んだのは、我々のほかには学生っぽい8人パーティと単独の男性が2人ばかりだった。

9:46 美濃戸口(高度計:1555m)

バス停前の八ヶ岳山荘のトイレで着替えてから出発。美濃戸まで林道歩きが続く。
美濃戸までは車で入れるため、いつもかなりの車に抜かれて砂埃と排ガスでいやな思いをする道なのだが、このときはどういうわけか、車はほとんど通らなかった。
強烈な日差しで猛烈に暑くて参った。また、アブだかブヨだかが凄まじい。そういえば10何年か前に初めてここを歩いたときにもそんな経験をしたことを思い出した。前を歩く人の周囲にたくさんの黒い虫がぶんぶん舞っているのが見えるのも恐怖感を煽る。牛が尻尾で虫を追い払うように、みんなタオルで体の周囲をぱんぱんと払いながら歩いていた。

10:35 美濃戸着(1770m)

美濃戸山荘前の水場で水を補充。その間もアブの襲来は止まない。

10:50 美濃戸発(1770m)

森
深くて美しい森(10:54)
沢
何度も沢を渡り返す道(11:10)
美濃戸からは南沢に入る。八ヶ岳らしい深くて美しい森の道になる。そして、あれほどしつこかったアブがいつの間にかいなくなった。鳥のさえずりが美しい。
この道を歩くのは2006年の秋以来だが、以前はなかった緑のコースロープがついていた。特に、堰堤を越えて最初に左岸に渡ったすぐあとは、道が谷筋に向かっていくように見えるので(正解は尾根に取り付く)、ここがロープで塞がれたことで道迷いもずいぶん減ったことだろう。

13:21 行者小屋着(2365m)

キバナノコマノツメ
キバナノコマノツメ(12:11)
白河原
白河原を行く(12:52)
登るにつれて、花もちらほらと増えてきた。定番のキバナノコマノツメや、モミジカラマツ、オサバグサなど。途中にはシロバナノヘビイチゴの素晴らしい群落があり、そこで休憩をとった。
白河原に出ると大同心が見えるはずだが、山は雲に覆われていた。ここまでくればあとは大体30分くらいだろうと見当がつくので、少しホッとした。
あともう少しで小屋、というところで雨がぽつぽつと降ってきた。しかし疲れていてどうにもスピードが上がらない。コースタイムを30分オーバーしてようやく行者小屋に到着。雨は気にならない程度の小降りだったし、小屋の混雑がなんだか凄そうだったので、迷わずテント泊の受付に向かった。

テント場にて

雨はぱらぱらと降ったり止んだりで、降っていてもフライを閉じなくてもいられるほどで、幸いにも、夕立と言うレベルではなかった。そうこうしているうちに、雲がとれて大同心やら小同心やら赤岳やら阿弥陀岳やらが見渡せるときもあった。
とにかく疲れてしまって、テントを張るのもようやくと言った感じで、そのあとも何もする気が起きない。寝不足もあるのだろうが、少し熱射病気味だったのかもしれない。相棒に、小屋へ行ってポカリを買ってきてもらって飲み干し、ひと眠りしたら随分楽になった。
夕食にはキュウリとプチトマトを持ってきたが、急に決めた山行だったためマヨネーズの買い置きがないことに出発前夜に気づき、出発の朝、コンビニでサラダ用の20円のドレッシングを買って急場をしのいだのだった。
小屋の受付には向こう3日間の天気予報と、等圧線が数本ほどのざっくりした天気図が掲示されているのだが、それによると、翌日は晴れのち曇りの予報で、高気圧圏内で晴れて暑くなりそうだった。
この日の最高高度は2370m、最低高度は1555m、積算上昇は790m、積算下降は0mだった。テントは50張ほどあった。

7月10日 快晴

4時半出発を目指して、3時に起床。テント内の気温は14.5℃と、さほど寒くはなかった。
外に出てみると、超快晴で満天の星空。月のない、絶好の観測条件だった。なにしろ急に決めた山行だったので、星空観察のことまで考えていなかったので、これは儲けものだ。
星を眺めながら、リフィルのきつねどん兵衛をコッヘルで作って食べ、足りないのでクリームパンを追加するというめちゃくちゃな朝食をとっていたら、結構な時間が過ぎていった。

4:47 テント場発(2370m)

赤岳
朝の赤岳を見上げる(04:46)
道
鉄階段に到達(05:10)
スタートから森の中だ。10分ほどで阿弥陀岳への道を分ける。相変わらず鳥の声が美しい。目の前で鳴いているようだが、まったく見つけられない。諦めて登りに集中すると、ようやく見つけたのは枝のてっぺんにとまった小鳥。どうやらカヤクグリのようだが確かではない。結構長い時間姿を見せていたが、望遠レンズはテントに置いてきてしまった。嗚呼・・・
ザレッザレの道を過ぎ、いよいよ鉄階段に到達したのは5:10過ぎ。振り返れば行者小屋の建物、目を上にうつせば北アルプスが視界に入ってきた。朝日を浴びる阿弥陀岳もカッコイイ。花はツガザクラやイワカガミが目立った。

5:41 阿弥陀岳分岐(2730m)

南ア
南アの名峰が勢ぞろい(05:45)
阿弥陀岳
阿弥陀岳と遠くに御嶽山(05:47)
階段が終わるとまたザレザレの道になり、蟻地獄な気分で稜線の分岐に到達。稜線ということは、反対側の景色も見えるということで、南アルプスがどっかーんと出てきたのだった。稜線に着いたら休憩しようと思っていたが、平らな良いところがないのと、あまりの景色の良さにそんな計画は吹っ飛んでしまった。
というわけで歩き続けたのだが、この道の花が凄かった。イワウメやらシオガマやらイワベンケイやらチョウノスケソウやらが次から次へとお目見得で、まったく飽きない。

5:53 権現岳分岐(2785m)

分岐
分岐についた(05:55)
チョウノスケソウ
チョウノスケソウと阿弥陀岳(06:17)
花を楽しみながら歩いていたら、あっという間に権現岳への分岐に着いた。ここから急な岩場になるので、ザックにストックを収納する。ぼちぼち降りてくる人も増えてきた。
岩をよじるが、さほど難しくない。10数分で岩場を越えると、まぶしい朝陽とともに、富士山が目に入ってきた。これほど美しい富士山を見るのは久しぶりだ。チョウノスケソウも陽に輝いていた。

6:21 赤岳登頂(2885m)

山頂
赤岳山頂と南アルプス(06:41)
シオガマ
小屋前の岩場に咲くシオガマ(07:04)
山頂は混雑していたが、覚悟したほどではなかった。前日見かけた人たちは、いったいどこへ行ってしまったのだろう。
展望は360度で、絶好のパノラマ写真日和だったが、どうせ混んでいるからと三脚を持ってこなかったことを後悔した。富士山・南ア・中ア・北ア・頸城・浅間など、名だたる山々が見えた。
山頂でひとしきり景色を楽しんだ後、頂上小屋の近くに移動して、日陰で行動食をとって休んだ。小屋の前だと富士山が建物に隠れ、甲斐駒が山頂に隠れて見えないのがちょっと残念だ。

7:11 下山開始(2880m)

道
天望荘へと下るザレザレの道(07:19)
帰りのバスの時間から逆算して、9時にはテント場に戻りたい。8時に赤岳天望荘を出れば間に合うだろう。薄い記憶では、山頂から天望荘の間の道に花が多かったような。そこで、山頂から天望荘まで花を見ながら時間をかけてのんびり下ることにした。南アとはこれでお別れだ。

7:40 赤岳天望荘(2725m)

花
天望荘近くのチョウノスケソウなどの群落(07:35)
富士山
富士山ともこれでお別れ(07:38)
記憶とはあてにならないもので、花は天望荘の近くでは多かったが、その上のほとんどの部分はザレだった。天望荘より山頂側ではチョウノスケソウやオヤマノエンドウ、小屋の西側斜面にはウルップソウや小さな黄色いスミレ(ヤツガタケキスミレ?)が咲いていた。東側斜面には少数ながらコマクサがあったが、まだほとんどが蕾で、花は数株だけだった。

8:41 行者小屋着(2360m)

道
地蔵尾根の悪路(08:03)
道
地蔵尾根のザレは凄まじい(08:07)
天望荘からは再びストックを出した。間もなく、地蔵尾根の分岐に着いた。横岳の岩場にたくさんの人たちが連なっているのが見えた。この時間に稜線を行く人は、縦走する人が多いのかもしれない。
地蔵尾根はいきなり強烈なザレで始まった。ストックがなかったら、たぶん尻をついて降りていたことだろう。一枚岩のようなイヤらしい道を過ぎ、階段を降りると道はようやく森に入った。涼しくてほっとする。あとは行者小屋までだらだらと下るだけだ。目標の10分前に到着。山には雲がもくもくと湧いていた

9:54 行者小屋発(2360m)

赤岳
赤岳を振り返る(09:54)
森
苔むした美しい森(10:14)
テントはずっと日陰だったため、結露したまんまだった。乾いてるもんだとばかり思っていたのでちょっとショックだったが、中に入っても暑くないので、まあどっちがいいんだか。撤収してから残っていたゼリーを食べ、トイレを済ませ、水を補充し、虫除けのミントスプレーをふりまいてから出発。前日歩いた道をまた戻る。小屋から振り返ると、横岳から赤岳にかけての稜線は雲に包まれてしまっていた。
小屋の下の森は、晴天下で明るく、曇っていた前日とはまた一味違った美しさだった。倒木(なのか切り株なのか)を苔が覆っていて、そこに陽が差している。思いのほか人が少なく、静かなのがこれまたイイ。

11:40 美濃戸着(1770m)

ギンリョウソウ
美濃戸近くでギンリョウソウを見つけた(11:24)
前日と変わらず美しいシロバナノヘビイチゴの群落を眺めたり、野鳥を探したりしながらだらだらと下って美濃戸着。
ここから下のアブ・ブヨが凶悪なのは前日経験済みだ。ストックがあると虫を払えないのでザックに収納し、ミントスプレーをさらに厳重にふりかけ、根性を入れて、出発。

12:29 美濃戸口着(1555m)

やはりアブ・ブヨは凄まじかった。もう怖くて立ち止まれないし、ふたりともほとんど無言で歩いた。途中で単独の男性に抜かれたのだが、彼の尻には虫がたくさんたかっていた。それを見た相棒は自分の尻もそうなっているんじゃないかと気を失いそうになったという。
美濃戸口にはバスの出る50分前に着いたので、八ヶ岳山荘で一風呂浴びてさっぱりすることができた。風呂を出た頃には茅野行きのバスがすでに到着して停まっていたが、アブが凄くて入口は人が出入りするときだけ開け閉めしていた。それでも結局20匹くらいのアブが車内に侵入し、乗客はみんな戦々恐々としていた。そして、バスの出発時刻になるとなんと土砂降りが。もうちょっとのんびりしていたら喰らっていたところだった。
この13:19発のバスは、席がほとんど埋まる程度の混雑具合だった。茅野からはあずさに乗って帰った。
この日の最高高度は2,885m、最低高度は1,555m、積算上昇は525m、積算下降は1,340mだった。
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