屋久島縦走 (2/3)

11月5日 曇り

3:30起床。テント内の気温は5.5℃。覚悟していたほど寒く感じなかったが、フライの外側は見事に凍っていた。
朝はエスプレッソパスタのマカロニを食べた。暗闇であの悪路を歩くのはためらわれたので、もたもたしていたらすっかり遅くなってしまった。そういえば、ネズミは我々のところにまでは来なかったようだ。

6:53 鹿之沢小屋発(1570m)

道
ステップの刻まれた石の道(07:08)
昨夜はあれほど見事な星空が広がっていたのに、夜が明けたら空は雲に包まれていた。しかし重い感じはなく、おそらく朝霧なのだろうと思った。
登りはなかなかハードだった。この山域独特の踏面が寸詰まりな階段は、普通に足を置くとカカトがはみ出てしまい、つま先立ちと同じになってしまって辛いので、腰をひねって横歩き状態で登る。ロープ場も何度か出現する。まあ、どれもこれも昨日下りに使っているから、ある程度は覚悟していたのだけれど。
一番キツいロープ場では、登りでは荷の重さもあって難渋した。体を起こして地面に対して90度に立たないと、さすがの花崗岩でもスリップしてしまう。腕力のない相棒には辛かったようだ。

7:30 ローソク岩展望所(1720m)

空
海側が晴れてきた(07:48)
ローソク岩は、展望所に着くちょっと前には見えていたのに、すぐに雲に隠れてしまった。雲はひつじ雲で、空を覆い尽くして西から東へ流れていた。それがだんだん薄くなっているようで、空は青みを増してきた。これは前日とまったく同じパターンだ。きっと晴れるに違いない。
鹿之沢を出発するとき朝露避けのためにカッパを着たが、茂みはほとんど乾いていたのでただ単に暑いだけだった。ザックを降ろし、ここでカッパを脱いだ。

8:15 永田岳山頂への分岐(1875m)

道
山頂へはもう少しだ(08:10)
岩
山頂部の巨岩:右下の人と比べると大きさが分かる(08:13)
登っていくと霧の中からぼうっと山頂の巨岩が現れてきた。頂上に着いた頃には上空に晴れ間も出たが、それは一部だけで、全体には高曇りだった。雲海は見事だったが位置が前日より高く、そのため障子尾根は雲に隠れて見えなかった。望遠レンズで宮之浦岳山頂を見ると、10人くらいの人がいるのが見えた。

8:55 永田岳発(1860m)

宮之浦岳
朝の宮之浦岳(08:26)
高曇りでも、この空間を占有できる満足感は大きかった。またまた長居をしてしまった。
前日歩いた道を焼野三叉路へ向かう。鞍部まで一気に下ったあとはだらだらと登っていく感じだ。永田岳への登りで暑くなったので、ウールシャツを脱ごうと思っていたら、山頂で寒くなってきて、結局着たまま歩きだしてしまった。

9:43 焼野三叉路(1790m)

相棒はもう一度宮之浦岳に寄りたがった。鹿之沢小屋は宮之浦岳山頂に一番近い小屋で、時間が早ければ人の少ない山頂を踏めるという考えからだ。しかしこの朝は出発が遅れ、山頂に着く頃には前日と同じくらいの時間になってしまうし、曇っているしで、かつりんはあまり乗り気ではなかった。協議の結果、往復45分だし、空身で行けるので、寄ることにした。ただ、先を急ぐという点からも長居はしないことに決めた。

10:04 ふたたび宮之浦岳(1940m)

永田岳
永田岳(10:16)
空身だとさすがにラクだったが、それでも20分弱かかった。前日とだいたい同じ時間の登頂だが、あれほどの喧騒はなかった。
前日に快晴の景色を見てしまっていると、やはり曇天ではいまひとつだった。それでもここからの永田岳を再び見ると、やはり感動した。見下ろせると、バックが雲海になるのがイイのだ。もちろん焼野三叉路付近からも見えるのだが、見上げるようになってしまうから印象はかなり違う。

10:16 宮之浦岳発(1935m)

宮之浦岳山頂はFOMAが通じる。天気予報サイトを確認すると、なんと翌日に雨マークが。今日のうちに、高塚小屋を通過して一気に荒川登山口まで下山するには少し時間が遅すぎる。どうしたものか。
10分ほど景色を眺め、山頂裏の祠を見物してから下った。

10:33 焼野三叉路着(1790m)

10:50 焼野三叉路発(1790m)

道
焼野三叉路から行く手を眺める(10:52)
宮之浦岳からは基本的には下りだが、1/25000図を見るとこの先は細かいアップダウンがあるようだ。次なる目標はコースタイム30分の平石だ。登山道の行く手には岩の固まりが見え、その上に人が2人くらいいるのが視認できた。あまり平らじゃないけど、あれが平石なのだろうか。

11:06 平石(1715m)

道
例によって花崗岩の道に水が流れている(10:56)
道
笹原の中の道が人面岩へと続く(11:09)
笹原の中の道を行くと、10数分で平石に到着。早すぎるが、先ほど人の見えた巨岩はまだ先だ。ここから見ると巨岩は人の顔のように見えた。

11:22 平石岩屋(1715m)

宮之浦岳
宮之浦岳と歩いてきた道を振り返る(11:17)
鹿
永田岳をバックに佇むヤクシカ・・・と思ったら逃げられた(11:20)
それからヤクザサの道を20分弱でその人面岩に着いた。岩の裏には「平石岩屋」の看板が。どうやらエアリアのチェック地点である「平石」とはこの岩屋だったらしい。面倒だし天気も曇りなので、岩の上には登らないでここは一気に通過。

12:04 第二展望台(1630m)

道
ヒメシャラとシャクナゲの道(12:20)
道
木の根が縦横無尽にはびこる道(12:22)
岩屋を過ぎると唐突に森に入った。シャクナゲの森だ。ヤクシマシャクナゲは葉の裏に防寒のための綿毛があることが知られていて、テレビかなんかで見たときはそれが白かったように記憶しているのだが、今は枯れているのか、茶色かった。触るとふかふかで、手触りがよい。
たまに露岩帯があると景色が開けるが、それ以外は基本的になだらかな森の中を歩いた。道には木の根がはびこっていたが、なぜだか歩きづらいということはなかった。また、木道が敷かれている区間もあった。
立派な標識のある第2展望台からは(ここも岩を登ると展望がありそうだがパスしてしまった)、一気の下りとなった。奇妙な形のヒメシャラが出没する森だ。

13:05 新高塚小屋

宮之浦岳
ここで宮之浦岳は見納めとなった(12:34)
森
ヒメシャラの森にうっすらと霧がかかる(12:48)
標高が下がるにつれて次第に雲の中に入っていき、あたりは霧が立ち込めて幻想的な景色になってきた。
唐突に新高塚小屋に着いた。もっと人声がするかと思っていたから意外だった。それもそのはずで、小屋前の広々としたウッドデッキには3人パーティが座り込んで昼食をとっているだけだった。テントは0で、今なら場所も選び放題だが、やはり夜と朝の縄文杉を見てみたいので、予定通りここは通過する。

14:08 高塚小屋(1345m)

木
木の上にさらに木が生えるなんてのはそこらじゅうにある(13:39)
道
この階段を下りたところが高塚小屋だ(14:07)
道はなだらかに登る。小高塚山を過ぎると徐々に下り始めるが、それでもまだほとんど高度を下げない。巨木が増えてきて(そろそろ驚かなくなってきた)、階段だらけになった。いい加減飽きたところで、これまた唐突に高塚小屋に着いた。
小屋周辺は非現実的なくらいに静まり返っていた。小屋の中を覗くと、ザックが2つ置いてあるだけで、誰もいなかった。縄文杉でも見に行っているのだろう。テントは0で、たったひとつのウッドデッキも空いていた。今なら小屋だろうがテントだろうが選び放題だ。普段なら迷うことなくデッキにテント設営なのだが、ここは霧の中にいるような感じで湿気がもの凄く、上から木の雫が雨のように落ちてきてデッキ上はびしょびしょだ。脇の地面は花崗岩の砂地で水はけは良さそうだが、万一大雨でも降ったら斜面からの流水をまともに受けそうな気がする。小屋はなんだか薄暗いし、このあと混まないとも限らない。・・・と、かなり迷ったが、結局初志貫徹でデッキにテントを張ることに決めた。

縄文杉

縄文杉
縄文杉を見上げる(15:12)
縄文杉
超広角レンズでようやく収まるほどの大きさ(15:30)
手早く設営を終えて、水筒類を全部持って縄文杉へと向かう(高塚小屋の水場は縄文杉なのだ)。縄文杉は小屋に近くて道も整備されていて・・・と勝手に思っていたのだが、木の根の張り出した小さなアップダウンの道で、意外なほどの悪路だった。夜中の縄文杉の写真を撮りたいと思っていたのに、これでもう萎えた。
縄文杉展望デッキには2パーティの7人ほどがいるだけで静かだった。展望デッキ上は飲食禁止で、せっかくおやつを持ってきたが、お預けとなった。
縄文杉はさすがにデカかった。しかし感動したかというと、自分の場合それほどでもなかった。なんというか、写真やらテレビやらで見慣れているせいで、街中で有名人とかを見かけたときのような「あぁ、あの人だ」という感覚に近かった。縄文杉よりも、ちゃんと小屋にたどり着いて、しかもたったひとつしかないウッドデッキにテントを張れたことの方が嬉しく思えた自分は、俗すぎるだろうか。
杉を眺めたり、写真を撮ったりしていると、結構多くの人がやってくる。もうこの時間なのでおそらくみんな泊まりのはずだ。小屋は相当混みあうことだろう。テントにして(しかもあんな一等地で)良かったと思ったのだった。
縄文杉前では携帯がつながる。周りの人の反応を見ていると、auはダメっぽかった。FOMAも場所を工夫しないと繋がりにくかった。改めて明日の天気予報を見てみると、屋久島は朝から曇りで昼過ぎには晴れマークがついていた。しかし隣の種子島は雨マークなので、油断はできない。
展望デッキの下にある水場で水を満タンに汲んでからテントに戻った。

高塚小屋に戻る

テント
猛烈な湿気の高塚小屋前テント場(16:02)
テント場に戻ると、テントが2つ増えていた。先ほど縄文杉で見かけた人たちだ。どうやら下から登ってきた1泊ツアーのようだ。そのうちの一方が肉を焼き始めると、親子連れのシカがやってきて物欲しそうにガン見していた。シカは草食のはずだが、どういうことだろう。まさか人間の食べ物の味を覚えてしまったのだろうか?

登る女がやってきた

そろそろ薄暗くなってきた17時過ぎ、なんとテレビクルーがやってきた。小島聖がいる。この秋に始まったBS日テレ『登る女』の撮影隊だった。耳をダンボにして聞いていると、どうやら13人もいるらしい。せっかく静かな夜を過ごせそうだったのに、これは・・・
静寂を打ち破られたのは残念ではあるが、撮影には興味津々だ。彼らはやって来て休む間もなく、テント設営→食事と撮りつづける。こっちも夕飯を食いながらずっと見物していたが、結構長い時間カメラをまわしているんだなあと感心した。30分番組だから、おそらくほとんど使われないんだろう。男性スタッフの喫煙率の高さが異常だった。
かつりんたちは19時には食事も終わったのでもう寝たいが、うるさいしまぶしいしで眠れない。まあまだ早いと言えば早いので仕方ないか。テントを閉めたのでよく分からないが、撮影は食事シーンを終えて雑談シーンになっているようだ。そして案の定、雑談から、なしくずし的に宴会に突入。こうなるともう撮影中よりうるさい。夜の森にいくつもの馬鹿笑いがこだまするのを聞いていると、何ともやり切れない寂しい気分になった。さすがに随行ガイドが注意すると一旦は収まるのだが、また元の音量に戻るのは飲み会の常。21時過ぎても騒いでたら文句言ってやろうと思っていたら、20時半を過ぎた頃お開きになった。静かになったら、自分もいつの間にか眠ってしまった。
この日の最高高度は1,940m、最低高度は1,345m、積算上昇は665m、積算下降は880mだった。
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