屋久島縦走 2010年11月4日 - 6日 テント縦走

計画

今回、参考にして現地でも大活躍だったのがヤマケイ発行の『屋久島ブック2010』だった。非常に便利に使ったが、欠点はそのサイズ。A4だと自分のザックの外ポケットにはギリギリすぎて、収納・取り出しともに困難だった。
また、ウェブでは、屋久島リアルウェーブの情報が有益で、特に小屋や水場の情報はありがたかった。

日程

11月にもなれば屋久島ブックの縄文杉混雑カレンダーも「混雑感のない」日が増える。山も人が少なくなるだろうと考え、文化の日をからめた5日間とした(しかしこれは甘かったと後で思い知る)。

行程

見たい・行きたいところは宮之浦岳・永田岳・花山歩道・縄文杉・ウィルソン株・白谷雲水峡。この時季は縄文杉に朝日があたるのが見られるということなので、これは外せない。そこで、白谷雲水峡から入って高塚小屋に1泊し、次の日朝の縄文杉を味わってから宮之浦岳・永田岳に登ったあと、2泊目を鹿之沢小屋にして花山歩道を下る山中2泊というのが当初のプランだった。
しかし、週間予報資料を吟味すると、初日の11月3日と次の4日が好天のピークのもよう。上述のプランだと山頂到達が5日になってしまい、天候の良さそうな4日は森の中となってしまう。そこで花山歩道は諦め、淀川よどごう登山口から入って4日に宮之浦岳を縦走し、高塚小屋に泊まって白谷雲水峡に下る1泊プランに変更。永田岳は縦走路から外れるが、時間と天候が許せば寄り道をすることにした。
羽田を出る朝一番の鹿児島行きに乗れば、その日のうちに淀川小屋まで入ることはできる。しかし小屋は登山口からわずか40分のところ。だったら安房あんぼうに宿をとり翌早朝のタクシーで山に入っても、時間的にもそう変わらないし体力的にも楽だろう。それに、安房の街で買い出しなどもできる。というわけで、鹿児島までの往復の飛行機と11月3日の安房の宿を予約した。
しかし結果的には、山中でこの行程も変更することとなってしまった。

装備

小屋の周辺では幕営が許されているので、テントを持参する。北海道でもそうだが、混雑する無人小屋ではマナーが問題になっているらしいので、できれば入りたくない。
燃料のガスカートリッジは鹿児島市内のほか、島内でも宮之浦や安房で調達できる。食料も、野菜などは島で買えばいい。
服装は迷った。なんせ聖岳より南・西穂より西の山を歩いたことがないので、どの程度の気候なのか見当がつかない。しかも夏ならともかく、晩秋ともなれば防寒対策を考えなくてはならない。屋久島では11月には山が紅葉し、12月になると標高の高いところで降雪があるという。小屋の標高は高いところで1,500mほどなので、上高地と同じくらい。最高点宮之浦岳は1,935mで、涸沢よりも低い。ということで、上高地~涸沢の10月初旬程度を目安に防寒対策を考えた。朝晩は冷えるだろうが、日中は天気さえよければTシャツ1枚で行動できるだろう。

そのほか

心配なのは屋久島の小屋にはネズミが出るということ。彼らがテントにまで遠征して来るのかどうか定かではないが、対策はとったほうがいいだろう。調べると、ネズミはハッカの匂いを嫌うというので、夏に防虫用に使っているハッカスプレーを持参することにした。

11月3日 晴れ

移動日。屋久島へと向かう。

屋久島へ

室戸岬
室戸岬(08:11)
朝一番の飛行機はそれほど混んでいなかった。昼過ぎには島に着いて食事ができそうなので、空弁は控えめに「関さば押し寿司」だけにしておいた。空は快晴で、機内からは芦ノ湖やら富士山やら知多半島やら室戸岬やらが手に取るように見て取れ、南アルプスはメインの山は仙丈以外はすべて見えたし、初めて見た霧島は雄大で、地図好き・山好きには堪らないフライトだった。
しかし西風が強くて鹿児島到着が遅れ、高速船乗り場への直通バスがすでに出発済みという、いきなりの試練。次の鹿児島市内行きのバスももうすぐ出てしまう。聞けば、このバスに乗って鹿児島中央駅で降りて、タクシーを使えば10:20発の高速船トッピーには間に合うだろうという話。この安房行きトッピーを逃すと、次は2時間後の宮之浦行きロケットになってしまう。とにかく急いでバスに乗り込んだ。
さらにこの日の鹿児島中心部は「おはら祭り」とやらで交通規制があり、あちこちで渋滞が起きていた。そんなこんなで鹿児島中央駅に着いたのは10時過ぎ。すぐにタクシーに乗る。港は駅から車で5分というが、5分経っても港の雰囲気は皆無。渋滞しているうえに運転手がなんだかのんびりした雰囲気の人で、こちらはやきもきすることしきり。途中ではほとんど諦めかけたが、それでもどうにか出発3分前の10:17にトッピー乗り場に着いて、滑り込みセーフだった。タクシー料金は1,200円だった。
ジェットフォイル高速船は完全定員制なので、空席がなかったらここでアウトだったが、この日はがらがら。雄大すぎる桜島を眺めているうちにやっと気持ちが落ち着いて、少しうとうととした。

安房探訪

安房港着は定刻の13時。まずは腹ごしらえということで、屋久島ブック2010に載っている「寿し いその香り」へ。港からは歩いて10分ちょっとかかった。今日はいい魚が入っているということで、地魚握りセットを注文した。名物の首折れ鯖のほか、アカバラ、カツオと、もう1種類の白身は名前失念。それにしても美味い。醤油は鹿児島独特の薩摩醤油。この極上のネタを関東の醤油で食えたらどんなにいいだろうと思ったが、郷に入っては郷に従うことにした。1杯やりたいところだったが、まだ旅は始まったばかりだし、ぐっと我慢。
県道をそのまま南下し、登山用品店の「アンデス」に寄り、ガスカートリッジを購入。イワタニはもちろんあった。1泊の予定なので125ml缶にしようかと思ったが、非常用でもあるので250mlの寒冷地用にしておいた。店は2009年に移転していて、屋久島ブック2010の地図では新しい所在地になっていたが、エアリア山と高原地図の安房拡大では2010年版でもまだ旧所在地のままだった。
続いてまたまた屋久島ブックに載っている「じぃじ家」に行き、鯖節バーガーを食す。鯖節は燻製したシーチキンという感じだろうか。この薫香とマヨネーズがよくマッチして、マヨラーには堪らない。店は夜は居酒屋になるような感じだった。
港に戻り、近くのAコープで食材の買い出し。真空パックの鯖節が売っていたので、さっき食べた鯖節バーガーを思い出し、マヨで和えたらサラダにいいんじゃないかということでミニチューブのマヨネーズとともに購入。ほかに、パンとキュウリ2本を買った。

御宿鶴屋

酒
鶴屋のカウンターには島の酒がずらり(19:50)
宿は出発の前日に予約した、御宿鶴屋。これまた屋久島ブックに載っている宿で、港やAコープから近い。
チェックイン後、タクシーを予約するべく電話をしてみると、なんと明朝は予約がいっぱいあって配車可能か即答できないとのこと。いったん電話を切って、調整してから結果を知らせてくれるという形に。結局O.K.だったのだが、この返事待ちの数分は気が気でなかった。淀川登山口までは50分くらいかかるというので、4時に配車をお願いした。これで5時に行動を開始できる。
宿は、部屋や風呂はちょっと小ぎれいな普通の民宿という感じだったが、食事は評判どおり素晴らしかった。屋久島の食材を使った懐石で、ここで「カメノテ」にありつけた。潮くささが美味い、まさに珍味だ。飛魚の唐揚げ(羽までバリバリ食える、美味い!)や、郷土料理の「とんこつ」などをいただき、最後は屋久島野菜の鍋で〆だが、まだちょっと腹に余裕があったので、チレダイのお造りを追加で注文した。醤油はやはり薩摩醤油だった。申し出れば普通の醤油も出してもらえるようだが、ここは例によって郷に従う。
しかし、この甘じょっぱい醤油が焼酎にとてもよく合う。やはりその土地の料理にはその土地の酒が一番なのだ。焼酎は、レア物として有名らしい「三岳」と、ほかに「大自然林」、「屋久の碧玉」の3種を飲んだ。好みは「大自然林」だったが、焼酎は普段あまり飲まないのでその理由は分からない。「三岳」は飲みやすいしレア度は高いのだろうが、味のほうはそれほど旨いとは思わなかった。
非常に満足のいく宿だったが、山行前にはもったいなさすぎ。ここは山を下りた後に泊まってゆっくりしたかった。

11月4日 晴れ

3時に起床。ちょっと頭が重い。昨晩の酒が少し残っているようだ。いつもは山行前は節制するのだが、昨夜のメシが美味すぎた。飲みつけない焼酎にもペースを狂わされたかもしれない。が、まあこの程度なら山歩きには影響はないだろう。
宿の朝食はおにぎりに変更してもらってある。登山口で食べようかと思ったが、腹が減ったので半分だけ食べてから、約束のちょっと前に来たタクシーに乗り込んだ。空は星でいっぱいだった。暗いうちは水場がわからないことが想定されるので、念のために宿の水道水を水筒に詰めていった。
運転手氏によると、今日は山の上は混むのでないかという。前日に、自分が知っているだけで30人は入山しているというのだ。確かに、タクシーの予約もぎりぎりセーフだった。11月なんで人が少ないと思ったんだけど、と言うと「この時季は天候が安定しているから山登りする人は結構多いんですよ」、ということだった。真っ暗な山道を走り、途中、紀元杉は車中から車のライトで見た。でかい。
登山口に着いたのは5時少し前だった。料金は早朝2割増だが、それでも7,000円ちょっとですんだ。登山口周辺のようすは真っ暗でよく分からない。とりあえず、トイレがあることと、車が4台止まっていることだけは把握できた。道端のベンチで靴紐を直したり身支度をととのえた。寒かったが、日が出れば暑くなると考え、上はTシャツ・ウールシャツ、下はサポートタイツと短パンというスタイルにした。

5:09 淀川登山口(高度計:1365m)

登山届をポストに提出してからスタート。この間にも車が2台やってきて、登山者を降ろしていった。
いきなり軽く階段を登る。淀川小屋まではなだらかで歩きやすい道だろうと勝手に想像していたが、実は細かいアップダウンが連続するれっきとした(?)山道。歩きにくく感じたが、それは道が悪いというよりは辺りが真っ暗だったせいかもしれない。

5:54 淀川小屋(1375m)

世界遺産の標識が現れてから、人の声が聞こえてきて、淀川小屋に着いた。エアリアのコースタイムをちょっとオーバーしてしまった。真っ暗な中に、なんだか凄い数のヘッドライトがうごめいていた。案の定、水場の場所も分からないし、ザックを置けそうな場所も分からないので、ここは通過することにした。
ヘリ墜落事故で一旦中止されていた復旧工事が間もなく始まるという淀川橋は、橋脚が土のうで囲まれていたために、写真で見たことのあるあの静謐なイメージはなかった。
橋を渡ってすぐに階段の混じる道となった。しばらく行くと、ようやく空が白んできた。登山口からずっと歩きどおしだったので、ザックを降ろして休憩し、朝食おにぎりの残りを食べた。食べている間に夜は明け、歩く分にはヘッドライトの必要はなくなった。ここまで歩いてすでに暑くなったので、ウールのシャツを脱いでTシャツ1枚になった。

7:15 高盤岳展望所(1615m)

トーフ岩を戴く高盤岳(07:14)
辺りはさまざまな木の森で、謎めいた形だったり、一抱えもある巨木だったり。今までに見たことのないような景色が続き、楽しい。道は整備されまくっていた。
下ばかり向いて歩いていると見落とす場所に「高盤岳展望所」の標識があったので行って見ると、なんとも不思議な形のトーフ岩を山頂に抱いた高盤岳が、向かいに見えた。

7:34 小花之江河(1625m)

小花之江河
トーフ岩を水面に映す小花之江河の湿原(07:39)
なおも階段などが続く道を行くと、ヤクシカと遭遇。親子連れで、登山道を横切って森の中へ潜っていった。
左に時折トーフ岩を見ながら一山越える感じで緩く下っていくと、小花之江河こはなのえごうに到着。日本最南端の高層湿原だ。こじんまりとした箱庭といった風情で、トーフ岩が借景になっているのがいい。周りを囲む山はほんのりと色づいていて(今年の屋久島の山の紅葉はイマイチらしい)、その中に白骨樹が点々とあるのがよいアクセントになっていた。出口には、うねうねとした木肌の白骨樹が、ひつじ雲の流れる青空をバックに屹立していた。

7:50 花之江河(1635m)

花之江河
花之江河の湿原(07:54)
10分足らずで花之江河はなのえごうへ。木道が広場のように設置されていて、休憩ができる。すでに数人の人が休んでいた。我々もザックを降ろして行動食のチョコなどを頬張った。
小花之江河よりもこちらの方が広いが、トーフ岩のようなシンボリックなものがない。小花之江河同様、周囲の山には白骨樹が美しい。
花之江河を過ぎてすぐのところに湧き水があり、そこでようやく水を補充した。クセのない軟らかい水だ。

8:18 黒味岳分れ(1680m)

道
薄く水が流れ両脇が苔むしている花崗岩の道(08:05)
花之江河から先は、小さいながらも名前のついたピークがいくつかあるが、道はそれらを巻いていく。道の付いているピークは黒味岳くらいだ。
その黒味岳への道の分岐が黒味分れ。ここは峠のようになっていて、そこまでは登り、そこから下る。焼酎「三岳」の三岳とは、この黒味岳と宮之浦岳・永田岳。ここは先を急ぐのでパスした。
階段や木道が続く中に、ところどころ花崗岩の岩盤が露出している。屋久島の花崗岩の結晶は巨大で、人工的に散りばめられたかのようだ。表面はザラザラしていて滑りにくく安心して足を乗せられるが、絶えず水が流れている際は苔が生えていて色が黒くなっており、そういうところはちょっと滑りやすかった。

8:42 投石平(1675m)

道
このようなロープ場がときどき現れる(08:32)
道
箱庭のような小広場の道(08:40)
進むとロープのかかった一枚岩なども出現。とはいえ、足場はしっかりしているので怖さはない。続いて明るく開放的な小広場となった。箱庭的で非常にいい雰囲気だ。いつの間にか空は快晴となり、花崗岩の道をナメる水が陽光に反射してまぶしい。
それから少し下った先で急に開けたところが投石なげし平。巨岩が転がっている広場で、あちこちで人々が休憩をしていた。ここで初めて、宮之浦岳が永田岳とともに姿を見せた。九州最高峰である宮之浦岳は、ゴツゴツした永田岳とは対照的に、意外なほどになだらかな女性的な姿をしていた。

8:48 投石平発(1695m)

山
永田岳(左)と宮之浦岳を眺める縦走路(09:16)
翁岳
翁岳へと続く気持ちのよい縦走路(09:41)
投石岳の西を巻くと海が見えた。さらに進むと小さな谷状の地形に入る。あたりは笹原で、花崗岩の一枚岩の道の上を、周辺の小ピークから集まった水がナメるようにうっすらと流れていた。これらの小ピークは、例外なくその山腹に巨岩を散りばめていた。空の青とヤクザサの緑と花崗岩の白のコントラストがまぶしい美しい道を歩くと、ふわふわとした楽園的な気分になった。これほど気持ちのいい道を歩くのは、ずいぶん久しぶりな気がした。

10:08 栗生岳(1845m)

岩
謎のモアイ現る(09:51)
宮之浦岳
栗生岳山頂の巨岩の陰から宮之浦岳を望む(10:10)
翁岳を過ぎるとひときわ目立つ謎の岩が登場。我々はモアイと思ったが、後続パーティのガイドの声が聞こえ、「私はエイリアンと呼んでいます」とのことだった。
このモアイ・エイリアンを過ぎると、高さ10mはあろうかというとにかくデカい卵形の巨岩があり、それが栗生岳の山頂部だ。栗生岳は1個の山というよりは宮之浦岳に付属したコブのようなもので、ここを通過すればいよいよ宮之浦岳山頂となる。

10:30 宮之浦岳登頂(1925m)

標識
あと30m!(10:29)
宮之浦岳の山頂は意外にも狭かった。そして思ったとおり、大勢の人がいた。
展望は360度で最高だった。下る方向の高塚山方面の雲海が美しかった。歩いてきた縦走路を振り返ると重畳たる山並みが大きく、ここが離島であるとは到底思えないほどだった。
永田岳の姿は絵になった。ゴツゴツした山頂部と、岩を散りばめた笹原が印象的で、飽きずに眺めていた。

11:23 宮之浦岳発(1930m)

永田岳には、登高意欲をかきたてられた。この山に登らないでこのまま通過したら、おそらく後悔するだろうという気がした。行きたいのは山々だが、今日は高塚小屋か、少なくとも新高塚小屋まで行かねばならない。永田岳山頂は焼野三叉路から往復2時間はかかる。コースタイムどおりに歩いたとしても、新高塚小屋に着くのは17時くらいになってしまう。ちょっと遅すぎる。
と、ここで相棒から妙案が。今日は永田岳に登ってその向こうの鹿之沢小屋に泊まればいいのでは、というのだ。山中1泊の予定で入山はしたが、元々2泊のつもりで準備してきたので、食料も燃料も充分ある。今までの人の多さからして、新高塚にしても高塚にしても、相当な混雑が予想されるが、鹿之沢は空いてそうだ。というわけで、この案を採用することにした。

11:40 焼野三叉路(1785m)

永田岳
焼野三叉路付近からの永田岳(11:53)
焼野三叉路にはザックがいくつかデポしてあった。ここから左へ入る。下るばかりかと思いきや、細かいアップダウンが続いた。えぐれがひどい道は、要所では階段など整備されてはいるものの、これまで歩いてきたメイン縦走路とは違って不充分で、ところどころで腰ほどの高さもある段差をクリアしなければならなかった。
湿原になりかけのびちゃびちゃとした小広場のあたりで何人かの人とすれ違った。三叉路に置いてあったザックの持ち主たちだ。みんな新高塚小屋泊まりなのだろう。鞍部を過ぎ、行く手を見上げると鳥居のようなものが見えるが、山岳信仰の遺跡か何かなのだろうか。木製の階段をまじえた道を進んでいくと、その鳥居に到達。なんのことはない、単なる柵だった。

12:39 永田岳山頂への分岐(1870m)

道
道は岩の間を縫うように続く(12:28)
岩
山頂まであと少し!(12:37)
永田岳の山頂部には巨岩が並んでいる。柿のような形の岩がひときわユニークだ。そのたもとが山頂への分岐で、標識もあった。ザックをデポして、ロープを頼りに岩を攀じり、永田岳登頂。分岐から5分とかからなかった。
山頂は直径数mはあろうかという巨大な岩で、そのため山頂標識は少し西寄りの土の地面に立てられていた。誰もいない微風の山頂は静寂そのものだった。眺めて良し、登って良し。なんと素晴らしい山だろう。
ここから見る宮之浦岳は、裾野はなだらかで、堂々としていて、実に素晴らしかった。飯豊の御西小屋から見る大日岳に似ているような気がしたが、それよりももっと優しい。優美さと威厳を兼ね備えた、まさしく名峰だ。
一方、北西方面には見事な雲海が広がっていた。おそらくその下に永田の集落があるのだろうが、そんなわけで見えなかった。しかしこの雲が引き立てていたのが障子尾根。切り立った崖と湧きあがる雲が美しい。
座り込んでそんな景色を眺めていたら、あっという間に時間が経ってしまった。水筒1本の他すべてをデポしてきてしまったことが悔やまれた。ここでコーヒーでも飲めたら最高の気分だったろうに。防寒着すら置いてきてしまって、Tシャツ1枚ですっかり寒くなってしまった。分岐は近いんだから取りに戻ればいいんだけど、なんだかすっかり根が生えてしまったのだった。
1時間近くいたが、この間、やってきたのは1パーティだけだった。

13:52 永田岳発(1875m)

宮之浦岳
永田岳からの宮之浦岳(13:47)
道
鹿之沢方面の眺め:結構な下りだ(13:58)
鹿之沢への下りコースタイムは40分となっているが、事前の調査ではかなりの悪路のもよう。1時間はかかると考えてスタートした。全般的に上部の方が道が悪かった。ロープの付いているところはまだいい方で、えぐれた道の脇に平均台のように残った笹の踏みつけ跡を行ったり、しかもそれが途中で切れて結局大きな段差を笹やシャクナゲをつかんで降りなきゃならなかったりと、なかなかの悪路っぷりだった。しかも刈り払われた笹の葉が道を覆い、様子が分からないので怖くて足を踏み出せない(しかし、もし刈られていなかったとしたら、結構なヤブ漕ぎとなっていたのかもしれない)。花之江河あたりの整備されまくった道を歩いているときは、なんだか山を歩いている気がしないなんて言っていたが、今ではそれが懐かしい。

14:41 鹿之沢小屋(1570m)

ローソク岩
火を灯したようなローソク岩(14:18)
途中でローソク岩展望所があり、その一帯だけ木道が敷かれていた。落ち着いて休憩できそうなところもここしかなかった。
それにしても長い下りだった。本当に道があっているのか不安になるほどで、標識はごく稀にしか現れない。ここを歩いていて気づいたのだが、屋久島の登山道には、岩にペンキ印がまったくない(ピンクテープはあるのだが)。だからなんかビミョーな違和感を覚えるのかもしれない。もしかして小屋に気づかずに通り過ぎてしまったんじゃないかと疑いだしたころにようやく沢の音が聞こえてきて、それから間もなく鹿之沢小屋に着いた。森が深いせいか、ぎりぎり直前になるまで屋根も見えなかった。
小屋には、この下りの間に我々を抜き去った人がひとりいるだけで、テントは0だった。テントは1つか、せいぜい2つしか張れそうにない。このあとで人が増えるとイヤなので、我々はテントを選択した。ちょうど我々と時を同じくして単独行の男性が到着したが、この人は小屋に入った。

鹿之沢の夜

テント
鹿之沢小屋前にテントを張る(15:38)
最初に小屋にいた人の連れの人が遅れてやってきて、小屋泊まりは総勢3人になった。彼らが小屋前でのんびりしながら話しているのを聞いていると、最初に小屋に着いた人は、我々と同じく今朝淀川から入山したが、タクシーがなくて難儀したそうだ。同じ宿に泊まった人と相乗りでなんとか助かった、というような話だった。我々はラッキーだったのだ。単独行の人は白谷山荘から登ってきたが、道中ほとんど人がいなかったのに、宮之浦岳に着いたら物凄い人で驚いた、と言っていた。二人とも、今日は新高塚小屋は相当混んでいるに違いない、と口を揃えて言っていた。まったくその通りだと思った。結果的に、この鹿之沢を選択したのは良かったのだろう。
我々のこの日の夕食はカレーで、テント内で食べると匂いが付いてネズミをおびき寄せてしまいそうな気がした。しかし外で食うのは場所も狭くてちょっと億劫だったので、窓を全開にして食べた。10秒カレーは家で試しに食ってみたらヘタなレトルトよりはるかに美味くて、今回本格採用となった。速い・軽い・美味い。鯖節サラダは予想通りになかなかイケた。食後にハッカスプレーをテント周りにかけて結界を張り、食料はザックに押し込んだ。
食後は窓を開けて星空を眺めていた。この夜は凄い星空で、流れ星を2つ見た。この新しいテントは、前のと違って庇がないため、テント内から寝転がったまま空を眺められるのがイイところ。
暗くなりかけた頃、やたらと大声でわめき散らす男3人のバカ学生っぽいパーティがやってきて、小屋に入った。結局この夜の鹿之沢は、小屋に6人、テントは我々2人だった。寝る前に気温を確認すると、9.1℃だった。思ったほど寒くない。Tシャツ・ウールシャツを着て、フリースのセーターは着ずにシュラフの中に掛け布団のようにして寝た。しかしさすがに夜中に寒さを感じて目が覚めた。フリースセーターをちゃんと着て、シュラフの口を締めたらその後は熟睡できた。今回初めて使ったフリースのテント用ソックスはある程度の効果があったようだ。
この日の最高高度は1,930m、最低高度は1,360m、積算上昇は890m、積算下降は690mだった。
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