ニッコウキスゲの尾瀬 2010年7月19日 - 21日 テント縦走

プラン

ネットで情報収集すると、大江湿原あたりはすでにニッコウキスゲが満開らしい。また、至仏山にはまだ見たことのないオゼソウや、ホソバヒナウスユキソウがちょうど咲いているという。そこで尾瀬沼から入って尾瀬ヶ原を縦断し、至仏山を登って下山するプランとした。尾瀬ヶ原縦断は、場合によっては燧ヶ岳登山に切り替えてもいいだろう。
尾瀬沼のテント場は定員があって予約制となっている。いちおう電話で予約をしたのだが、そのときの話ぶりはまったく混んでいない雰囲気だった。ちなみに前日の18日(3連休の中日)は、満員ということだった。
今回は初めて、関越交通の高速バスを使うことにした。始発列車で新幹線を使えば朝10時過ぎに大清水につけるが、高速バスでも11時20分と大差ない。初日は尾瀬沼東岸に行くだけだし、なにしろ運賃が新幹線利用のJRに比べてはるかに安いし、乗り換えでウロウロしなくてもいいし、ということで選択した。前日に近ツリでチケットを買ったら指定された席は前の方だった。おそらく空いているに違いない。

7月19日 曇りときどき晴れ

新宿駅新南口の階段下にバスターミナルはあった。コンビニでおにぎりなどを買って乗り込む。乗客は20人程度で快適そのもの。
と、出だしの印象は良かったが、しばらくすると運転手氏から不吉なお告げが。「本日は休日なので高速が混むかもしれません。昨日は2時間遅れだったと聞いております」・・・げげっ。もしそんなことになったら、最悪の場合、今日中に尾瀬沼までたどり着けん。まさかに備えて大清水泊まりのプランを慌てて練る。
が、この日の関越道は順調で、これは杞憂となった。三芳・赤城で休憩をとり、沼田で高速を降りて、鎌田・土出温泉で少しずつ乗客を降ろし、戸倉の鳩待峠行きバス連絡所でほとんどの客を降ろして、大清水には定刻ぴったりの11時20分に着いた。2時間遅れどころか、途中ではいかにも時間調整っぽいノロノロ走行もあったくらいだった。

11:41 大清水発(高度計:1120m)

大清水は物凄く暑かった。トイレで山スタイルに着替え、水筒1本だけに水を詰めて出発。
一ノ瀬までは林道歩きだ。この林道はGWの残雪期に歩いたことがあるが、暑かった印象が強かった。この日もそのつもりでいたが、意外にも木陰が多くて助かった。GWには落ちていた木の葉が茂っていたからなのだった。

12:31 一ノ瀬(1335m)

一ノ瀬は売店が営業していて、かき氷が美味そうだった。しかしここは先を急ぐことにする。これだけ暑いと夕立が心配だ。登りの階段の最中で降られたらカッパを着なければならないだろうが、それを過ぎて樹林帯に入ってしまえば傘で軽快に歩けるだろう。それまでもってほしいものだ。

12:46 一ノ瀬発(1335m)


13:15 岩清水(1490m)

木道
岩清水手前の斜面の木道(13:05)
岩清水で水を補給。相変わらず美味いが、思ったほど冷たくなかった。それでも手拭いをひたして首に巻くと気持ちよかった。
十二曲がりの階段を登りきり、上部の樹林帯に入ると少し涼しさを感じた。樹間から見える燧ヶ岳は雲をまとっていた。この樹林帯もほとんどが木道でとても歩きやすかった。

13:53 三平峠(1655m)

三平峠のベンチには多くの人が休んでいた。三平下までは10数分なので、三平下まで下りてから休憩をとることにして、ここはちょっと腰を下ろして水を飲むだけにした。
下りの途中から3本カラマツを見るのを楽しみにしていたが、なんと木が生い茂っていて見えなかった。1箇所だけ、沼の向こうが黄色く染まっているのがちらっと見えるところがあったが、その先でもっと広く見えるところがあるはずだと思って写真を撮らなかった。残念。

14:11 三平下(1570m)

ニッコウキスゲ
三平下のニッコウキスゲと燧ヶ岳(14:21)
ごく緩やかに下って三平下へ。林間の道は単調だ。
三平下の唯一の小屋である尾瀬小屋の前はベンチが多数あって、木陰では昼寝をしている人が多かった。なんだか妙に暑いので、結局ザックを下ろさずに先へと進むことにした。
気がつくと燧ヶ岳は全身を現していた。小屋から数分行くと小湿原があって、ニッコウキスゲがちらりほらりと咲いていた。ここは正面に燧が望める撮影ポイント。木道が沼側にステージ状に張り出しているので、ここでザックを下ろして休憩した。人通りもまばらで、鳥の鳴き声がしているだけでとても静かで、楽園的だ。

14:37 尾瀬沼東岸(1575m)

長蔵小屋カフェ
長蔵小屋カフェでブレイクタイム(15:04)
その後は林の中を通って東岸へ。尾瀬沼ヒュッテでキャンプの手続きをした。サイトは申込の際に番地を指定できる。早い者勝ちで、すでに2張りが手続きを済ませていた。
テントサイトは確保できたので、大江湿原へと散策に向かう。まだ暑いのでテントを張らずに、ビジターセンターの荷物置き場にザックを置かせてもらってカメラと水だけを持って行くことにした。その前に小腹が減ったので、長蔵小屋の喫茶店でコーヒーブレイク。とても穏やかなひとときだった。

大江湿原散策

大江湿原
大江湿原のニッコウキスゲと燧ヶ岳(15:19)
大江湿原
一列に並んで写真撮影に余念のないカメラマングループ(15:48)
大江湿原のニッコウキスゲは見事だった。中央を流れる大江川の左岸に道がついているが、その周囲の密集が凄かった。川の右岸はキスゲはほとんどなく、代わりにワタスゲの穂がたくさんあった。連休最終日ということで、名残惜しそうに沼山峠方面へ帰っていく人が多かったが、我々には時間がたっぷりあった。ゆっくり楽しんでいたら、1時間半も過ぎてしまった。夕方は人が少なくなってまた雰囲気が良かった。

尾瀬沼キャンプ場

この日はテントはわずか3張りだけだった。ウッドデッキのサイトは快適そのものだった。こんなに平らなところにテントを張ったのは初めてで、あまりに平らすぎて奇妙だった。
周囲の環境もよくて、小屋の喧騒とはまったく隔絶されてたいへん静かだった。ひとりだけ、小屋泊まりの人がオカリナを吹きに来たのがうるさかったが(なにもテント場でやらなくてもいいのに・・・)、聞いているうちになんだか慣れてしまったし、あまり長い時間でなかったのでよかった。それより、ほかの2張りがどちらもタバコ飲みだったのが最悪だった。そうと知ってりゃもっと離れたところに張ったのになあ。
夕食をとって寝ようとしても、暑くてなかなか寝付けなかった。風がないので、入口を全開にしていたにもかかわらず、テント内は25℃もあった。あまりに暑いので、シュラフはしまったままでマットの上に直に寝た。夜中の0時を過ぎた頃に急に冷やっとしてきたので、ようやくシュラフを引っ張り出して入って寝た。

7月20日 晴れときどき曇り

大江湿原
大江湿原のアヤメだかカキツバタだかの群落(05:48)
テント場
尾瀬沼キャンプ場(06:55)
もやの立ち込める大江湿原を見たくて、夜明けちょっと前の4:30に起床。雨が降らなかったのはよかったが、テント内の気温は20.7℃もあって、あまりよく眠れなかった。
早朝の大江湿原は予想通り美しかった。人は夜明け直後はさすがに少なかったが、その後徐々に増えてきた。もやは立ち込めるというよりは流れるようで、刻一刻と景色が変わるのがおもしろかった。
8時出発を目指して、6時にテントに帰った。燧は山頂付近がほとんどずっと雲の中。燧登頂はすっぱりと諦めた。

7:52 尾瀬沼発(1560m)

大江湿原
輝く大江湿原と三本カラマツ(08:09)
エスプレッソリゾットの朝食をとり、テントを撤収すると7時半だった。小屋で天気予報をチェックしてから(しばらく好天が続くという予報だった)出発、またまた大江湿原へ。ここは早々に通過するつもりだったが、朝の光線の具合がなんとも言えずよかった。結局、美しい眺めにまたまた長居してしまった。
三本カラマツに別れを告げて、沼の北岸を西に進む。浅湖湿原はワタスゲがそよそよと揺れていたが、大江湿原を見てしまったあとでは見劣りがする。そのまま通過して沼尻へ。朝から暑い。

9:08 沼尻(1555m)

沼尻
沼尻(09:20)
沼尻周辺にはトキソウやサワランが多かった。また、チングルマの穂があった。尾瀬にチングルマというのはなんだか意外な気がした。ザックを下ろして大休止。暑い。
10分ほど休んでから見晴に向かって歩き出す。15年ぶりに歩く道だ。歩くとすぐに蕎麦屋があるが、ここはとっくに店をたたんでいる。15年前に食べたときは結構繁盛していた記憶がある。空き家は思ったほど朽ちていなかった。
その先は森の中を行く。歩きにくいところもあるが、多くは木道になっている。10分も歩くと川を渡る。小さな中州にはヒオウギアヤメが群生していてきれいだった。

9:35 白砂湿原

白砂湿原
ワタスゲの揺れる白砂湿原(09:54)
この道中の白眉は白砂湿原だ。この日はワタスゲが見事だった。また、池塘にはトンボがたくさんいた。美しかったのは青いイトトンボで、ヒラヒラとたくさん舞っていた。黄色っぽいのと交尾しているのも見かけた。この時はルリイトトンボだろうと思っていたが、帰宅後写真を見て調べてみたら、青いイトトンボには実に多くの仲間がいて驚いた。これじゃあ素人には区別できん。尾瀬で見たのでオゼイトトンボと勝手に推定。

10:04 白砂峠(1570m)

木道
白砂峠直下の木道(10:02)
峠を越えて、ひたすら下りになる。それまでの道に比べて木道率が少し落ちるが、まあまあ歩きやすい。道中にはあちこちにショウキランがあった。
イヨドマリ沢を過ぎると道は広い木道となる。そうなると見晴は近い。あいかわらず緩い下りだが、単調でしかたない。

11:07 見晴着(1320m)

ずっと左手にあった沼尻川を離れるようになるとしばらくして燧ヶ岳山頂からの道を合わせ、ようやく見晴に到着。ウグイスがやたらと鳴いていた。至仏山は背後に雲があったがよく見えていた。
見晴には、弥四郎小屋の前に学校登山の小学生が大勢いた。うるさいので、一番はなれた第二長蔵小屋で、コーヒーを買って日陰のベンチで休憩した。

11:41 見晴発(1320m)

キンコウカ
下田代木道沿いのキンコウカ(12:03)
次は東電小屋に向かう。発つ前に弥四郎清水を汲みに行くと、なんと小学生の出発と重なってしまった。やり過ごすにも時間がかかりそうなので、構わずスタート。
下田代の湿原はキンコウカがきれいだったが、キスゲはほとんどなかった。相棒のカメラのメモリーがいっぱいになってしまったので、赤田代のT字路のベンチで写真整理がてら大休止。この間に小学生たちははるかかなたに行ってしまい、再び静寂が戻ってきた。

12:29 東電小屋(1315m)

東電小屋で休憩していた小学生に追いついてしまったが、彼らは我々と行き違いに出て行った。
東電小屋を過ぎるとヨシッ堀田代で、エアリアマップによるとここもニッコウキスゲが咲くらしい。しかし、この日はほとんどなかった。花がないのはがっかりだったが、至仏山を眺めながらの木道歩きは実に尾瀬らしくて気持ちよかった。それにしても暑かった。

13:00 ヨッピの吊り橋(1305m)

ニッコウキスゲ
中田代はニッコウキスゲが意外に少なくてガッカリ(13:06)
ヨッピの吊り橋を過ぎて、竜宮へと向かう。エアリアマップには吊り橋-竜宮間にニッコウキスゲがあることになっている。確かにキスゲがあるにはあったが、ちょっとまばらな印象。こんなもんなのだろうか。
至仏はずっとよく見えていたが、反対側の燧は雲がとれたりまた隠れたりと忙しかった。

13:31 竜宮十字路(1315m)

燧
燧をバックに木道を行くとても尾瀬らしい眺め(13:48)
竜宮十字路に到着。小屋は十字路から見晴方面に少し戻らなければならないので、十字路付近のベンチで休憩することにする。近くの池塘にはヒツジグサが咲いていた。草むらの中にもコケモモやらトキソウやらサワランやらが可憐な花を咲かせている。

14:05 下ノ大堀川

ニッコウキスゲ群落
一面のニッコウキスゲと景鶴山(14:23)
のんびりしてから山ノ鼻方面へ。するとようやく密度の濃いオレンジが見えてきた。下ノ大堀川のビューポイントの近くにニッコウキスゲの群落があったのだ。もう日が高くなっていて光線があまりよくないが、それでもここはやはり絵になる。遠くをよく見渡すと、結構色がついている。どうやら道から遠いところは結構咲いているようだった。

14:37 三叉路(1310m)

三叉路
三叉路が見えてきた(14:35)
三叉路は通過して、山ノ鼻へ進む。至仏が大きくなって、燧が小さくなってきた。
このあたりになるとニッコウキスゲは少なくなった。池塘が増えてきたので、比較的乾燥を好むというニッコウキスゲは暮らしにくいのかもしれない。池にオゼコウホネがないかと注意して見ていたが、道沿いにはひとつも見つけられなかった。ヒツジグサはたくさんあった。
目立ってきたのはナガバノモウセンゴケとカキツバタだった。カキツバタはなぜか木道の近くに多かった。木道沿いに咲いているとなんだか人工のアヤメ園のように思えてしまう。

15:17 山ノ鼻着(1320m)

橋
川上川にかかる橋は壊れかけていた(15:12)
山ノ鼻に着いたときには結構疲れがたまっていた。この日はほとんど標高差のない歩きだったが、暑さにやられたのかもしれない。
翌日は早朝から至仏登山なので、その日のうちに見本園を散策しておくことにした。山ノ鼻のテント場は風通しがよさそうなので、テントを張ってから出かけることにした。このあたりは熊がよく目撃されるらしく、あちこちに熊に遭ったときの対処法が書かれた看板があった。「騒がない」「写真を撮らない」「走らずに静かにその場を立ち去る」というのがそれだった。テントの受付の際にも熊のことは注意された。

自然研究見本園

ハッチョウトンボ
ハッチョウトンボ発見(16:04)
見本園ではハッチョウトンボを見かけた。どうせ使わないだろうと望遠レンズをテントに置いてきてしまったことをとても後悔した。花は少なかったが、オゼコウホネがあったのと、半周コースの中間あたりのカキツバタの群落が素晴らしかった。
そして、コースのほとんど終わり、見本園の入口に近いところにそれは現れた。 なんと熊だった。体長1mほどの子熊が、わずか10mほど先の木道を横切っていったのだ。熊を見てまず思ったのは、「かわいい」ということだった。テレビのネイチャー番組なんかで見るのと同じだった。ぬいぐるみのようで、ほんとうにかわいいのである。次に、写真を撮ろうと思った。しかしこれは熊に遭ったときにしてはいけない項目のひとつに入っていて、すぐに思いとどまった。それから次に、子熊の近くには母熊がいるに違いないことに思い至った。じんわりと恐怖を感じた。うかつにも熊鈴はテントに置いてきてしまったので、ふたりで声をあげながら元来た道を戻った。禁止事項の中に「走ってはいけない」というのがあったが、相棒はその禁を見事に破っていた。自分は不思議と冷静でいられた。

山ノ鼻キャンプ場

テント場
山ノ鼻キャンプ場(18:35)
夕暮れ
夕暮れの至仏山(19:22)
テントは5張りだったが、尾瀬沼と違ってこちらは小屋の騒音がかなり気になった。夕食はビビンバ入りのレトルト具材『ビビン丼』で、見た目はイマイチだったが、卵を落としたらとたんに旨そうになった。小屋で生ビールでも飲みたいくらいの暑さだったが、どこもスーパードライみたいだったのでやめた。それに翌日はメインイベントの至仏山登山が控えているので深酒は禁物だ。
寝る前にラジオでこの日のニュースを聴いていたら、なんと前橋の最高気温が38℃だったとか。暑い暑いと思っていたが、下界がそれじゃあ、高原も暑いわけだ。それでもこの日の夕は、明らかに前日よりも涼しかった。最初からシュラフに入って眠りについた。
星がきれいな夜だった。来る前は、原か見本園あたりで燧か至仏の星景を撮りたいと思っていたが、熊出没地域でそんな無謀なことができるわけない。
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