天狗岳(北八ツ縦走) (2/2)

10月12日 晴れのち曇り

みどり池
みどり池にようやく朝日が差し込む(06:20)
朝は4時に起きた。テント内は6.5℃だったが、2時ごろに確認したときは5.5℃だった。前日に鍋を食べたにもかかわらず、フライは内も外も完璧に乾いていた。それほど空気が乾燥しているのだ。今日の晴れを確信した。
朝食は岳食シリーズのカレーうどんにアルファ米ごはんを投入して食べた。うどんはもちもちしていてカレーとよく合いなかなか美味だったが、いかんせん量が少ない。だからごはんを投入したのだが、そうしたらとたんに不味くなった。やはりカレーソースの味がうどん向けにできているのだろう。最後はパンでコッヘルを拭いて食べたが、なぜかまだ腹八分目くらいだった。

6:26 出発(1960m, 11.7℃)

木
オブジェのような木の根っこがあちこちにある道(06:39)
林
たくさんの倒木とたくさんの若木(07:23)
小屋を出てしばらくは、地図からも読み取れるとおりのなだらかな道を、落ち葉を踏みしめながら歩く。30分ほどもするとだんだん急になってきた。周りの苔が増えてきて、前日の道よりもぐっと理想に近づいた。自然と歩くスピードが遅くなる。じっくりと鑑賞しつつ歩いた。
苔に覆われた朽ちた根っこが美しかった。感心したのは、有り得ないはずの苔の花だった。もちろん花のわけはなく、朔と呼ばれる胞子嚢なのだが、どう見ても花としか思えなかった。しかもかなり可憐な印象だった。道の周りは苔に包まれていた。横たわる倒木や、朝日に輝く苔など、普段は見過ごしてしまうようなものに目が向く。差し込む朝日のスポットライトのような効果に、なぜかモノクロの黒澤映画を連想した。

7:51 中山峠(2320m, 12.2℃)

道
最後のクサリ場は傾斜が急だ(07:48)
中山峠
林間の中山峠(07:53)
急傾斜のジグザグになり、落石注意の看板が出て、しまいにはクサリまで登場すると、中山峠に到着。ここでザックをデポし、サブザックに切り替える。
峠の看板のあるところは林なのだが、そこから天狗岳方面へすぐ10mばかり行ったところは東側が開けていて、素晴らしい雲海と奥秩父の山並が見えた。裾野も美しく、シラビソの緑とカンバの薄黄色が縞々になっているのが印象的だった。我々が荷物の詰め替えをしている間に何組かが通過していったのだが、この眺めに皆一様に歓声をあげていた。

8:05 中山峠発(2325m, 10.7℃)

北アルプス
北アルプスの登場に思わず歓声をあげる(08:13)
10分も歩くと今度は西側も開けて北アルプスが見えた。お馴染みの槍穂高・乗鞍だ。進むにつれて視界は広がり、真っ白に冠雪した立山が見えてきた。鹿島槍・五竜・唐松・白馬と順に姿を表した。白馬は立山同様に真っ白だった。
道はなかなか厳しい。ひとかかえもあるような岩がゴロゴロしていて、岩の上をぴょんぴょん飛んでいく感じだ。西風をまともに受けてかなり寒く、そこら中で霜柱がたっていて、凍りついている岩もあった。あまりの寒さに、普段は滅多につけない手袋までつけた。

8:45 分岐(2480m, 8.8℃)

黒百合平
黒百合平を見下ろす:奥の雲をまとっているのは蓼科山(08:40)
西天狗岳
分岐から西天狗岳を望む(08:45)
黒百合ヒュッテへのショートカット道の分岐。このあたりから風が強さを増して、とにかく寒くてたまらなかった。山頂でゆっくり休む、なんて無理じゃないかと思う。すれ違う人が増えてきたが、ジャケットとかカッパをフードまで被っている人が結構多かった。上は相当寒いに違いない。

8:57 東天狗岳通過(2530m, 7.1℃)

東天狗岳山頂のすぐ直下で西天狗への道を分けるが、東のてっぺんは狭く混んでいるうえに風を避けるところがないので帰りに寄ることにし、まずは三角点のある西天狗岳に向かった。天狗岳は双耳峰で、その鞍部は暖かいかと思ったら風が強くて寒かった。プロトレックも腕に着けているのに7℃台をキープ。ほんとうの気温はもっと低いはずだ。

9:12 西天狗岳登頂(2555m, 13.3℃)

西天狗岳山頂
霜が融けてぐっちょぐちょの西天狗岳山頂:左奥に見えるのは赤岳・右奥は南ア(09:19)
西天狗岳の山頂は広めだが、霜柱が融けてぐちょぐちょで、座れるところは少なかった。なんとか見つけた端っこのハイマツの陰に座ると風もなくて暑いくらいになった。これなら長居できそうだ。お湯を沸かしてコーヒータイム。日だまりにいると、プロトレックも25℃まで上がった。
眺めは最高。北アルプスは大キレットのグリグリっと抉れている感じが素晴らしかった。八ヶ岳あたりからだと見える角度がちょうどよいのだろうか。頚城山塊や中央アルプスもバッチリだった。一番気に入ったのは南アルプスで、北岳・甲斐駒・仙丈がきれいに並んでいた。塩見や鳳凰も見えるが、この3つのボリュームがちょうど均衡がとれていてよかったのだ。ほかの八ヶ岳の山々は当然よく見えたのだが、なぜか蓼科山の山頂だけに雲がついていた。そして何か足りないと思ったら富士山だった。おそらく硫黄岳の裏側に隠れているのだろう。これほどの展望なのに富士山が見えないのがちょっとへんな感じがしたのだった。

10:10 西天狗岳発(2570m, 15.9℃)

東天狗岳
西天狗から見た東天狗(10:13)
下山時刻が心配になってきたので名残り惜しいが山頂をあとにした。ガレた急斜面を引き返す。

10:27 東天狗岳(2575m, 17.9℃)

東天狗より
東天狗岳山頂からの大パノラマ:左奥には北アルプスも見えた(10:33)
道
東天狗山頂付近の岩と黒百合平(この岩は左下を巻く)(10:40)
西天狗の丸いなだらかな山容と違い、東天狗はとんがっている。西天狗の山頂はハイマツに囲まれているため足元から下の景色が見えず、なんとなく山中の広場のような気がしたが、東天狗は下が見下ろせるので山頂に立っているという実感があった。いずれの山頂からも見えるものはほとんど同じなのだが、こうまで印象が違うとはおもしろい。眺めていて気分がいいのはもちろん、東天狗の方だった。うーん、こっちでのんびりすればよかったのか・・・でも風避けがないし・・・

11:19 中山峠(2350m, 17.2℃)

天狗岳
中山峠から見た東天狗岳(左)と西天狗(11:14)
岩ゴロの道を中山峠へ戻る。霜が融けて泥がひどくなり、それを踏んだ靴で岩を踏むから岩も滑りやすくなっていた。朝はこんなにひどくなかった。
峠でパッキングをしながら作戦タイム。下山は渋の湯と決めていたので、あとはコースをどうするかだ。パノラマコースを下りて一風呂浴びるか、高見石からの白駒池を見物してから下るか。高見石経由だと時間的に風呂に入るのは無理だろう。散々考えた末、高見石へ行くことにした。

11:43 中山峠発(2340m, 13.7℃)

東斜面
東斜面の黄葉が縞々なのが印象的だった(11:52)
中山峠からすぐにちょっと喘ぐくらいの坂を登る。それまでと同様の岩ゴロ道で歩きにくい。しかしこれはすぐに終わり。登りきったところで振り返ると東西の天狗岳が並んでいるのが見えた。東の方から雲が湧いていて、秩父方面は見えなくなっていた。
高見石方面への道は人が少なくて静かだった。落ち着いた雰囲気で気分良く歩けた。しかしそれは最初のうちだけで、またあの岩ゴロが始まった。まあ、登りだからまだいいんだけど。

12:13 中山展望台(2420m, 16.1℃)

縞枯
中山展望台から北には縞枯現象のなだらかな林が広がる(12:18)
展望
展望台に着いた頃は雲が増えてきた(右奥が蓼科山)(12:18)
全体に緩やかな岩ゴロの登りが続き、あれ、登りきったかな、と思ったところで樹林が切れてパッと視界が開けたところが中山展望台。おそらく登りきったと思ったところが中山の山頂だったのだろう。
樹林の中を歩いているうちに雲が増えていて、めぼしい山は蓼科くらいしか見えなくなっていた。おそらく雲がなければ北アルプスも見えていたのに違いない。
再び樹林に入り、高見石小屋まではだらっとした下りになるのだが、これがまた例の岩ゴロ道で、しかもよく滑って歩きにくいことこのうえない。これは辛い。一気にペースダウン。

13:09 高見石小屋(2210m, 15.6℃)

道
ずるずる滑る岩ゴロ道の下り(12:52)
高見石
青空に映える高見石(13:20)
下りきって、まさかの登りに転じてから少しして高見石小屋に到着。それまで人がほとんどいない道だったが、高見石小屋に着いたとたんに大勢の人が。ほとんどが観光客のようだ。
小屋のすぐ裏手に巨岩が積み重なっていて、そこを指して高見石というらしい。その高見石からの白駒池が見たくてここまでやって来たのだ。早速登るが、結構な人で軽く渋滞。岩に慣れていない観光客は大変そうだった。てっぺんへは小屋から数分で着いた。そしてそこにはガイドブックの写真のとおりの大展望が広がっていた。池にボートが浮かんでいるのが興醒めな感じがしないでもないが、今まで樹林の悪路でイライラしていた鬱憤が完全に吹き飛び爽快な気分になった。寄った甲斐があったと思った。

13:31 高見石小屋発(2205m, 13.2℃)

ここでコース変更。渋の湯までのコースタイムは1時間10分で、バスが出るのが1時間20分後と、余裕が10分しかない。この先の道がもし今までのような岩ゴロ道だとしたら、我々のスピードでは・・・というわけで、コースタイムが1時間で、バスが出るのが2時間後の麦草峠に下山することにしたのだった。

13:48 丸山(2270m, 12.4℃)

道
丸山-麦草峠間のずるずる岩ゴロの悪路(13:57)
この道がまたひどくぬかるんでいた。ぬかるみを通り越してすっかり池と化したところもあった。
丸山の山頂には立派な標識と祠があった。下りがまた悪路。しかし周囲の苔がなかなか見事だった。高見石の観光客はみな白駒池からの往復らしく、この道は人がいなかった。麦草峠まで歩いた1時間あまりの間、1組のカップルとすれ違っただけだった。

14:43 麦草峠(2075m, 14.3℃)

麦草峠の下山口にはヒュッテがある。ヒュッテの駐車場の一角がバス停となっていた。茅野駅行きバスは15:20発。どろどろになった靴を洗いたかったのだが、近くにはそのような設備はなかった。
当初の下山予定地を渋の湯にしていたのは、麦草峠だと白駒池の紅葉目当ての観光客で道が渋滞しているんじゃないかと思ったからだった。しかし、そんな心配は無用だった。バスの乗客も10数人程度で、もちろん全員座れた。
峠からすでに携帯の電波が通じたので、えきねっとで帰りのあずさを予約しようとしたのだが、空席表示があるのになぜか満席だと断られてしまった。今日は連休最終日で、立ちっぱなしも覚悟したが、茅野駅にやってきた臨時のあずさは自由席は結構余裕があって、離れた席だったが二人とも座れたので結果オーライ。