知床連山・羅臼岳 2ページ目 2004年7月17日 - 19日

7月19日 霧のち晴のち曇

目覚ましは3時にしていたが、隣の大パーティがご来光を見るとかで大騒ぎになり2時に目が覚めた。外を見ると昨夕とまったく変わらず強い風が吹き、濃いガスが立ち込めているようだった。がっかりした。再び眠りについた。
ご来光部隊は5時すぎに帰って来て、またその騒ぎで目が覚めた。なんと山頂だけは雲の上で、真っ赤なご来光が見えたという。ホントかな。
テント内の温度は2時も5時も13℃くらいだった。Tシャツ1枚でいたせいか、かなり寒く感じた。

6:00 晴れ間

羅臼岳
2日ぶりの羅臼岳
とりあえず食事をとることにする。スープだけ淹れて、パンを食べた。これなら水の消費が少なくてすむ。そうこうしていると大パーティから歓声が。なんと晴れ間が出てきたという。慌てて外を見ると、三ツ峰が青空の中にそびえていた。羅臼岳はまだ雲の中で、どこにあるかもわからなかった。しかし今日は天気は期待できそうだ。
大パーティは6時前には下りていった。縦走ではなく、羅臼岳が目的だったのだ。そしてその少しあと、ついに待ち焦がれていた羅臼岳が見えた。雲がかかっては流れ、刻一刻と姿を変える。全体的に荒々しい印象を受ける山だが、流れる雲から山頂部だけが見えている姿は幽玄な感じもする。
大パーティも下りてしまった今、この景色は我々ふたりだけのものであった。それがまた嬉しく、パンだけの食事も一段と美味しく感じる。

7:00 南の雪渓

国後島
雪渓、太平洋、国後島
天候が回復したので、サシルイ岳まで往復することにした。往復3時間くらいだろう。11時に羅臼平に戻ってテントを撤収し、12時に下山を開始すれば15時過ぎには岩尾別温泉に着けるだろう。
朝食を終えて、デポする分の食料と生ゴミをフードロッカーに入れに行った。そのついでに、一昨日迷いそうになった雪渓に行ってみた。雪渓はかなり長く続いており、やはり下らなかったのは正解だった。周辺の花はガスの中で見た方がきれいだったと思った。雪渓の向こうに太平洋をはさんで国後島が長い胴体を横たえていた。

7:29 羅臼平発(高度計:1300m, 温度計:21.4℃)

羅臼岳
気が付くと羅臼岳が我々を見下ろしていた
再びテントに戻り、キツネ対策としてラジオを点けっぱなしにして三ツ峰に向かう。朝露が残っているのでカッパ上下を着込む。この頃にはあたりはまた真っ白になったが、今度は霧ではなく、雲だ。上空は明るく、天気が良くなる傾向にあるのは間違いなかった。
三ツ峰への道は素晴らしい花畑に囲まれていた。まず、ウコンウツギ。続いて大輪のキンバイ。そしてチングルマとエゾツガザクラの混生群落。キバナシャクナゲもちらほら見えるが、もう花期が終わりのようだ。道はザレて歩きにくいが、楽しくてそんなことはまったく気にならなかった。ぐんぐん登り、ふと後ろを振り返ると、思いもよらない高いところに羅臼岳が頭だけをにょきっと出し、我々を見下ろしていた。その気高い姿を見てまた歓声をあげた。

7:49 三ツ峰(1410m, 25.7℃)

羅臼岳
三ツ峰からの羅臼岳は迫力満点
花畑
チングルマとエゾツガザクラの花畑
三ツ峰の鞍部に着いた頃には、羅臼岳は全身を露にしていた。ここからの姿はどっしりとして迫力があり、羅臼平から見上げる姿よりもいいと思う。
三ツ峰の3つの頂にはそれぞれ道がついているが、寄らずに先へと進む。斜面には、チングルマ、エゾコザクラ、エゾツガザクラ、ハクサンチドリ、フウロソウなどが群落を作っていた。

8:26 三ツ峰テント場(1350m, 34.5℃)

サシルイ岳
テント場への下りからのサシルイ岳(中央下の雪田がテント場の水源)
三ツ峰のテント場へはザレた、意外にも急な道を下っていく。途中で長さ10mばかりの雪田を越えるが、これがテント場の水源となるのだろう。今年は残雪が多いと言われていながらこの程度とは。
テント場周辺はチングルマの群落が美しかった。また、雪田からの流れに沿って大ぶりのキンバイがたくさん咲いていた。
一息ついてからサシルイ岳の登りにとりかかった。1時間ほどの登りなのでカッパの上着を脱いだ。

登り

三ツ峰
三ツ峰と羅臼岳、水源の雪田の下がテント場で、チングルマでうっすらと白く見える
サシルイ岳は中腹に小さな雪田があり、その周辺がチングルマの大群落となっているが、ほとんどが穂になっていた。もう少し早い時分だったらさぞや美しかったことだろう。
雪田で90度左に曲がり、右に大きくカーブを描くようにしてザレた道を登って行く。振り返ると、三ツ峰の二つのピークの間から羅臼岳がひょっこりと頭を見せていた。登るにつれて風が出てきて心地よい。
上から3人パーティが降りてきた。見ると、一昨日羅臼平にキャンプしていた人たちだった。話を聞くと、昨日の雨の中を二ツ池まで進んだということだった。今日は岩尾別温泉に下山するらしい。二ツ池はぬかるみがすごかったという話だった。

9:14 サシルイ岳着(1535m, 33.7℃)

羅臼岳
サシルイ岳から羅臼岳を望む
本当の山頂は縦走路から少し外れたところにあるが、乗っ越したところにあるケルンで終点とした。プロトレックの値は30℃を超えていたが、風があって寒く感じたので、再びカッパの上着を着た。
三ツ峰を従え、左右を太平洋とオホーツク海にはさまれた羅臼岳がすばらしい。この眺めを見たかったのだ。反対側には目指していた硫黄山が見えた。ここまで来ると奇岩コケシ岩や、第一火口の水源となる大雪渓もはっきりとわかる。
今日はもう下るだけなので、ここで行動食の処分市を始めた。ゼリーやらケーキやらクッキーやらで盛大に催した。眺めもいいし、実にいい気分だ。縦走の雰囲気もちょっぴり味わえたし、ここまで足を伸ばしてよかったと思った。

9:58 サシルイ岳発(1510m, 27.0℃)

硫黄山
サシルイ岳から硫黄山を望む
11時に羅臼平に帰るには9:30には出発したいところだったが、この眺めを充分に味わいたくて、結局10時近くまでのんびりしてしまった。ほんとうはもうちょっといたかったのだが、雲が増えてきたので渋々帰ることにしたのだ。まあ13時に下山開始でも、ウトロ行きのバスにはちょうどいいくらいだろう。
ザレた道を慎重にゆっくりと、花を見ながら下っていった。斜面のハイマツの途切れたところは、チシマツガザクラの群落に覆われていた。雪田の周りも石がごろごろしていて歩きにくい。雪解け跡に多い浮石に気をつける。一昨日痛めた左ひざがまたちょっと痛くなってきた。

10:44 三ツ峰テント場(1325m, 27.0℃)

テント場
チングルマに囲まれた三ツ峰のテント場
三ツ峰
三ツ峰を見上げる
テント場でまた一息つく。歩き出して少しして三ツ峰を見上げると、覆い被さってくるように見え、なかなかよい感じだった。
往きと同じ花畑でまたまた感動しながら、写真をバシバシ撮りつつ歩いた。三ツ峰鞍部まで登りきると、これから縦走する人に会った。サシルイを下り始めたときにかかっていた雲はとれ、羅臼岳は再び姿を見せていた。しかし太陽が逆光気味の位置にあるので、朝ほど美しく感じられなかった。

11:44 羅臼平着(1330m, 29.2℃)

羅臼平
キンバイの咲き乱れる道を羅臼平へ下る
またまた花を愛でながら三ツ峰をゆっくりと下り、大勢の登山者が休憩している羅臼平に到着。とりあえず正午まで休憩してからテントを撤収することにした。テントはすっかり乾いていたが、当然中は蒸し風呂状態であった。
さらに行動食を減らし、弥三吉水まで行けば新鮮な水が得られるので、1リットルばかりを残して水を捨てたら、ずいぶんと軽い感じがした。

12:54 羅臼平発(1335m, 30.1℃)

大沢雪渓
オホーツク目指して大沢雪渓を下る
名残惜しいが羅臼岳に別れを告げて出発。これから重荷を背負っての下りとなるので膝が心配だったが、相棒が、以前膝を痛めたときに使っていたサポーターを今回も持ってきていたので、それを借りて着けてみた。なかなか効いている感じがする。
いきなり雪渓の下りとなるが、途中で岩場をはさむことを考えるとアイゼンを使うのがどうしても億劫になり、ここでも使わなかった。キックステップで慎重に下りれば問題はない。
見下ろすと雪渓はオホーツク海までずっと続いているような感じに見えた。雪渓の先には知床五湖が見えた。

13:33 銀冷水(1030m, 27.1℃)

30分ちょっとしか経っていないが、なんと言っても標高差1100mを一気に下るので、意識的に休憩をとる。各ポイントの標高差は300m弱ずつなので、平均的に下りていく感じだ。昨日あれだけ雨が降ったのに登山道はほとんどぬかるんでいない。登りのときにも思ったが、いい道だ。
時間的に日が真上に近いので、日陰スペースが少ないように思った。

14:21 弥三吉水(780m, 27.1℃)

銀冷水を出てからというもの、頭の中では弥三吉コールの繰り返しだった。極楽平の看板に到達してから思いのほか時間がかかり焦らされたが、その分到着したときの喜びは大きかった。ザックを下ろして水をがぶがぶ飲む。水筒の水を全て捨て、汲みなおした。ここの水といい、テント場の大岩といい、弥三吉氏にはずいぶん助けてもらった。
下山後について考える。当初はウトロの国設野営場でキャンプするつもりでいたが、明日は天気が崩れる予想で、早いところでは今晩のうちから雨が降り出すという。せっかく乾いたテントをまた雨で濡らすことになるかもしれない。それは避けたいので、どこか空いている宿に泊まることにした。3連休は今日で終わりだし、どこか民宿なら空いているだろう。
あと2時間ほどで下界だ。登りのときは蒸し蒸しだったが、今日はそれほど蒸さない。

15:11 オホーツク展望(500m, 27.5℃)

ここが最後の休憩地点となるだろう。念のため携帯を取り出してみると、なんと棒が3本立っている。よっしゃ、早速宿の予約だ。事前にホテルの電話番号を何軒かメモしてきていたのだが、1軒目ですぐに予約がとれた。15時を過ぎたところだったが、ちゃんと夕食も出してくれるとのことだった。これで安心できた。しかしまだ気は抜けない。あと250mばかりくだらなければならないのだ。

15:58 岩尾別温泉着(245m, 27.5℃)

知床連山
バスから見た知床連山(羅臼・三ツ峰・サシルイ)
オホーツク展望までの道は乾いて歩きやすかったが、そこから下は少しぬかるんでいて、中にはずるずる滑るイヤらしい箇所もあった。登りではそんな記憶はないので、おそらく昨日の雨の影響なのだろう。ウトロ方面のバスは16:50なので、それまでに下ればいいということで、歩幅も普段の半分くらいにして、ゆっくりゆっくり下りていった。それでもオホーツク展望からは30分ほどで下山できた。
木下小屋で靴を洗わせてもらってから、ホテル地の涯でジュースを買って飲んだ。ホテル前の芝生でストレッチなどをしながらのんびりバスを待った。ここからバスに乗ったのは我々だけだった。
バスからは知床連山がきれいに見えた。今日縦走している人は気持ちいいだろうなあと思った。

ウトロ

ウトロ
ホテルから眺めるウトロの夕景
ホテル街共同の送迎バスで宿へ。泊まるのは夕陽のあたる家だ。知床野営場のすぐ隣で、ホテル街でも一番海寄りにあり、名前のとおり夕陽がきれいだった。しかもエレベーターホールから知床連山も見える。露天風呂は狭かったが入るたびに貸切だったし、内湯が広々としているので問題なし。全般的に、こぎれいでこじんまりとしていて、ホテルとペンションの中間といった感じを受けた。
食事もきちんとしていて感動。刺身ホタテキンメダイなど、知床の海の幸を美味しくいただいた。いつもそうだが、山から下りてくると食べ物のありがたさが身に沁みる。刺身のつまも1本も残さず平らげた。
食事のあとにはネイチャーガイドによる知床ビデオ解説を聞いた。斜里町はクマの目撃件数がダントツで多く(年間400件超!!)、道内でもちょっと特殊なところだという話が印象に残った。中途半端にクマに慣れている道内他地域の人たちの方が、始終びくびくしている我々内地の者よりも危険なんじゃないかと思った。

7月20日 晴のち曇

宿の朝食はバイキングだったが、ミートボールなどもあって、洋食派も満足できるものだった。
女満別16:00で予約していた飛行機を13:40の便に予約変更し、早めに帰宅することにした。ウトロを10:30のバスで発てば間に合うので、それまで知床観光をしようということになった。自然センターのオーロラビジョンにも興味があったが、ここはやはり、昨日まで歩いた山を海上から眺めようという話になり、ちょうど時間の合う便を見つけたので観光船に乗ることにした。
斜里アポロは使用済みガスカートリッジの回収もしているので、返却をしてから観光船乗り場へ向かった。

海上観光

カムイワッカ
カムイワッカの滝
知床連山
船から見た知床連山
大型船では入れない小さな湾内にも入れるということで、小型船に乗り込んだ。おかげで、断崖などの迫力ある眺めが楽しめた。有名なカムイワッカの滝は、まあこんなもんかと思ったが、ここが当初予定していた縦走のゴール地点だったんだと思うと、感慨深いものがあった。
ウミウの大群や、ケイマフリ、オジロワシといった珍しい鳥も見ることができ、知床の自然の豊かさにあらためて感動を覚えた。

女満別空港へ

ジャガイモ畑
バスはジャガイモ畑の中を走る
港近くの海産物店で丼の持ち帰りができるというので、うに・いくら丼と、うに・いくら・かにの三色丼を買い、バスに乗った。帰りは斜里バスを利用した。ターミナルで待っていてもバスはなかなか来ず、到着が5分くらい遅れたのだが、これはカムイワッカ周辺の路上駐車のせいだということだった。
丼は調理後30分以内に食べろということだったので、発車してすぐに食べた。うにがむちゃくちゃ美味かった。しかし揺れるバス車内では食べるのが難しく、いくらを一粒落としてしまったのが悔しかった。かにの味噌汁がついていたが、こちらはなかなか上手く食べることができた。
知床斜里駅で乗客を半分くらい降ろしてから空港まではノンストップ。一面のジャガイモ畑の中を延々1時間もかけて走り、ようやく空港に着いた。
空港で「カムエク」の名を冠したセミハードタイプのチーズなどを土産に買って飛行機に乗り込んだ。機内は空席が目立った。飛行中、東京の気温が37℃もあることがアナウンスされるとあちこちで悲鳴があがった。東京はこの日、観測史上最高の39.5℃を記録したのだった。
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