知床連山・羅臼岳 2004年7月17日 - 19日 テント定着

計画

岩尾別 - 羅臼 - 硫黄山 - カムイワッカの縦走は、ガイド本などは山中1泊としているものがほとんどだ。しかしそれでは1日のコースタイムは10時間ずつになってしまい、我々にとってはかなりハード。それに、せっかく北海道まで出かけるのだから、もっとゆっくり山を楽しみたい。そこで、三ツ峰と第一火口にそれぞれ1泊ずつする山中2泊のプランとした。
この山域は今回が初めて。かつりんは知床自体、全く初めてだ。実は知床連山には昨年行くつもりだった。行く気満々で、大沢と硫黄沢の雪渓用に6本爪軽アイゼンまで購入したのだが、直前でトムラウシに変更してしまった。
と、とても楽しみにしていた山行だったが、後述のように、肝心の縦走2日目に寒冷前線が北海道を通過して山は大荒れとなり、結局縦走は果たせなかった。

7月16日 晴

女満別

12時過ぎに女満別空港に降り立つと、北海道のさわやかな空気が・・・と思っていたら、東京と変わらない雰囲気。それもそのはず、なんと空港前広場の温度計は30.5℃を示していた。
バスの出発までまだ時間があるので、空港内のレストランでかつりんは北海道カレー(ビーフ、オニオンリング、ポテト入り)、相棒はジンギスカンラーメンを食す。名古屋や大阪、札幌からの便もあって団体客があちこちで固まりを作っていたりするのだが、利用客数に対して空港施設が小さすぎるのだろう、人でごった返している。

ウトロへ

ウトロの街
ウトロの街
13:40発のウトロ行きの網走バスはわずか8人ばかりの客を乗せ、5分くらい遅れて出発。いきなり広大なジャガイモ畑の中を走り、北海道に来たんだなあと実感する。その後は「○○宅」などという、東京近郊ではおよそ考えられない名前のバス停を横目にしながら、網走市内で1人を降ろしていよいよオホーツク海へ。有名な北浜駅にへんてこな展望台が出来ているのにがっかりしたり、原生花園にツアー客の人だかりが出来ているのにびっくりしながら、のんびりと海岸沿いの道路を進む。
知床半島に入ってからスピードアップし、予定よりずいぶん早い時間にウトロ到着。ほとんどの乗客が、本来の停留所ではない斜里バスのターミナル前で降ろしてもらった。このあたりのバスはややこしいので注意が必要だ。 ターミナルのすぐ近くのスーパーミタニでハウスみかんとパンなどの食料を買い、また少し歩いて斜里アポロでガスカートリッジを買い、少し戻ってボンズホームで熊除け鈴を買った。
覚え書き
網走バスは斜里に寄らない・斜里バスは網走に寄らない
ホテルの共同送迎バスが来るのは斜里バスのターミナル
網走バスと斜里バスのターミナル間は徒歩5分ほど

宿へ

ターミナルに戻ってホテルに電話し、送迎車で迎えに来てもらった。今宵の宿はホテル知床。ウトロでも最大級のホテルのようだ。建て増しに建て増しを重ねた造りが田舎の温泉旅館らしい。高台にあるウトロのホテル街では最も山側なので、海の眺めはそれほどよくなかった。
部屋に入ってすぐに地元のウトロ観光ハイヤーに翌朝5:30の送迎を予約。次に、登山口にある木下小屋に電話して、水場の情報を聞く。「登山をしたいのですが」と切り出すと、いきなり「今はみなさん冬じゃなくて夏の格好ですよ」と言う。このテのしょーもない質問がよほど多いのだろうと苦笑した。あらためてこちらの予定を告げると羅臼平と第一火口でキャンプするのが良いだろうというような口ぶりであった。三ツ峰はもう水が枯れているかもしれないし、二ツ池は水質が悪い。羅臼平の南側と、第一火口にも大きな雪渓があり、どちらも水の心配はないだろうということだった。また、最近は2泊で抜ける人が多いという話だった。
明日の準備を終えてほっとしたところで風呂に入る。風呂は大きく露天風呂もあり、気持ちよかった。男湯からは海が辛うじて見えたが、女湯からは見えないようだ。
夕食は、知床なのにわざわざ「和洋中バイキング」なので、あまり期待していなかったのだが、予想通りさっぱりだった。大量の団体客をさばくのだから、まあこんなものなのだろうが、係員の応対などはよく訓練されていて気持ちよかっただけにちょっと残念だった。あまり量を食べずに早々に寝ることにした。
天気予報は向こう3日間のうち、2日目が悪化した。降水確率も50%ということだった。状況によっては羅臼岳ピストンのみで終了ということも覚悟した。

7月17日 晴のち曇

4時に起床、朝食に棒ラーメンを食べ、予定通り5:30にタクシーで岩尾別温泉の登山口へ。ウトロからは4,000円ちょっとだった。ホテル地の涯の右手の「羅臼岳登山口」の標識にしたがい、すぐ裏の木下小屋まで進む。登山届に記入し、パッキングをしなおし、靴紐を締め、水を1.5リットルばかり汲み、軽く準備体操をし、ここが最後となるトイレを済ませて出発。

6:14 岩尾別温泉発(高度計:285m, 温度計:26.1℃)

登山道
歩きやすい登山道
登山口からすぐのところに注連縄が張ってあった。高さが1.5mくらいしかない。ザックを引っ掛けて注連縄を切っては縁起が悪いので、体を折って慎重に潜り抜けた。間もなく登山者数調べのセンサーを通過し、それから本格的な山道となる。1/25,000図の描く通りに、大きくジグザグを切ってぐんぐん登る。右・左・右と曲がるとほぼ水平なトラバースとなり、やがて急登になる。時折木の根が張り出している他は大きな段差もなく、実に歩きやすいいい道だ。あの山好きな、やんごとなき方がデートで登った際にでも整備されたのかもしれない。また、オホーツク展望・弥三吉水やさきちみず・銀冷水・羅臼平と、ほぼ一定の間隔でポイントがあるためペースがつかみやすいところもいい。

7:03 オホーツク展望(555m, 28.0℃)

登山道
ヒグマ注意の看板が見えるとオホーツク展望は近い
「ヒグマ出没多発区間」の看板のところで、ずっと尾根の東側についていた道がいったん西側に出る。少しすると岩が剥き出しになった地点があり、タカネナデシコなどの花が咲いていた。そしてその岩のすぐ上がオホーツク展望だった。この地形も1/25,000図で簡単に読み取れる。この道は、歩きやすいだけでなく、読図の訓練にもいいかもしれない。
さてこのあたりから650m岩峰までは、好物のアリが多いために、ヒグマが多発する区間ということになっている。むっ、そういえば獣臭がするではないか。他にも休憩しているパーティがおり、声高に話しているから大丈夫だろうとは思うが、ちょっと緊張する。

8:04 弥三吉水(835m, 29.7℃)

弥三吉水
弥三吉水
次なる目標は弥三吉水だ。急登が続くがやはり歩きやすい。傾斜が緩んでだらーっとした感じになってしばらくしてから到着。登山道の脇にテントが3つくらい張れそうなスペースがあり、そこに水が湧いていた。
水を補給。冷たくてうんめぇ。湧き水なのでエキノコックスの心配はないだろう。山上の水場が心配だったので、ここで全ての水筒をマンタンにしていくつもりだったが、羅臼平の雪渓で汲めるという話だし、まだ登りが続くので、3リットル程度にとどめておいた。
それにしても蒸し蒸しする日で、水の消費がやたらと早かった。

8:39 極楽平

極楽平
極楽平から羅臼岳を見ると雲に包まれてしまった
弥三吉水を発ってもまだしばらくだらだら歩きが続く。このあたりが極楽平だ。平と名が付くと草原をイメージしがちだが、ここは傾斜が平らなだけで林の中の道である。その林の木が切れて明るくなっているところで登山者が写真を撮っていた。見上げると羅臼岳の岩峰が見えた。まだまだ遠いなあなどと思っていたらなんと見る見るうちに雲に覆われてしまった。明日は予報が良くないので今日のうちに羅臼岳に登っておきたい。展望があれば嬉しいのだが・・・

9:20 銀冷水着(1090m, 29.9℃)

銀冷水
銀冷水のテント場(右下が登山道と水場)
かわりばえのしない道をひたすら進み、銀冷水に到着。薄暗い谷間から流れ出ている水は、周りに虫が妙に多く、アンモニア臭も漂っており、飲む気がしなかった。日陰で休憩していると、白人のカップルがやってきた。この山行の間、他にも何組か外国人の登山者に遇った。海外でも知られた山なのだろうか。
ここまで来れば羅臼平まであと1時間ほど。ようやく気持ちが落ち着いた感じがする。

9:39 銀冷水発(1095m, 27.9℃)

9:53 大沢雪渓取り付き(1175m, 30.1℃)

大沢雪渓
大沢の雪渓を登る
銀冷水からほどなくして、大沢の取り付きに着いた。ここから雪渓歩きが始まる。再び太陽が出てきてぎらぎらと眩しい。サングラスを持ってこなかったことを後悔した。しかし雪渓わたりの風は涼しく、蒸れ蒸れの登りからやっとおさらばだ。
雪渓は途中で岩が露出して、2段になっている様相だった。下の段は傾斜が緩く、難なく歩けた。振り返ると雪渓がはるかオホーツク海まで続いているように見えた。雪解け跡の歩きにくい岩場をどうにか越えると上の段は急傾斜でちょっと神経を使う。しかし多くの登山者によってステップができており、忠実にたどれば問題はない。が、下りの人によってステップの間隔は大きくなっており、幕営装備の身にはこの大きく踏み出す1歩が堪えた。

10:37 雪渓終了(1345m, 27.5℃)

羅臼岳
雪渓を登り終えると羅臼岳が姿を現した
少々バテ気味ではあったがどうにか雪渓を通過できた。30分くらいかかった。結局、この日のために昨年買った6本爪アイゼンは使わなかった。
雪渓が終わるとすぐ右手に羅臼岳が姿を現した。カッコいい山だ。

10:46 羅臼平着(1390m, 31.0℃)

ゴーロの歩きにくい道を10分ばかりで羅臼平に到着した。
羅臼平は平らなのでその名が付くが、峠でもあるため太平洋側からの風の通りがよくなって、体感温度は格段に下がった。

11:01 羅臼平発(1390m, 30.5℃)

ザックを下ろし、軽食をとってから山頂へ向かい出発。かつりんはサブザックに水筒と食料を詰め、相棒は空荷となった。なんとか、展望のあるうちに登っておきたい。
相変わらず歩きにくい岩ゴロ道が続く。ちょっと登ったところで太平洋と国後島が見えた。国後島はまるで北海道につながっているように感じられた。有名な爺爺ちゃちゃ岳はどれだろう。

11:21 岩清水(1495m, 30.1℃)

岩清水
岩清水で水を汲む
これまでの登りで知らず知らずのうちにかなりバテていたらしく、軽装になってもなかなかペースがあがらない。やっとのことで岩清水に到着。岩の上にはしたたる水を受けようとコッヘルやらペットボトルやらがところ狭しと並んでいた。ここは苔むした岩から沁み出した水が垂れているだけなので、飲むほどの量を集めるのは時間がかかるのだ。我々も空いたスペースにペットボトルをひとつ置いてから山頂へ向かった。
すぐにチングルマやツガザクラの咲き乱れた花畑が現れ、そこから岩場の急登が始まった。相変わらずペースはあがらない。両手も使うほどの岩場だが、花が多いのが救いである。30分ばかり岩と格闘すると、ようやく上の方から歓声が聞こえてきた。おお、あと少しだ、と思ったその瞬間、突然、周囲は雲に包まれた。歓声は悲鳴に変わった。

11:58 羅臼岳登頂(1690m, 28.9℃)

羅臼岳山頂
羅臼岳山頂からこれから歩く縦走路を眺める
しかし雲の流れは速く、すぐにまた景色は見えるようになった。雲がかなり多く残ってすっきりしないが、360度の大展望を堪能できた。北にはウトロの中心街が見えた。オホーツクの潮目もはっきりとわかる。蛇がのたうつように、知床横断道路が森を蝕んでいる。さらに目を南に転ずると、「北の国から・遺言」で日本全国に一躍その名を轟かせた羅臼の町が見えた。そしてその向こうに国後島。五郎さんの「赤い線が書いてある」とかいう台詞を思い出して笑いそうになってしまった。
圧巻は知床半島の先に向かって伸びる連山の眺めだった。独特な形をした三ツ峰の凸凹の向こうにまろやかなサシルイ岳が立ち、はるか奥には目指す硫黄山がそのきりりとひきしまった頭に雲をまとっていた。右に太平洋、左にはオホーツク海が広がり、ここが半島の中央で、あの硫黄山の向こうはまさに地の果てなのだと実感させてくれる。

12:40 羅臼岳発(1690m, 28.3℃)

岩場
山頂直下の岩場を見上げる
みかんなどを食べて山頂をのんびり楽しんでいると、少し風が強くなって寒さを感じたので下山することにした。途中で見上げると、往きにはあまり意識しなかった岩塊の迫力がすごかった。
下山第1歩を踏み出したとき、左膝に痛みを感じた。平地を歩く分には痛くないのだが、階段を下りるような動作をすると膝の裏側に疼痛が響く。今は軽装なので問題ないが、重荷を背負っての縦走に耐えられるだろうか。
岩清水でペットボトルを回収したが、誰かに場所を変えられてしまっていて、水はちっとも溜まっていなかった(泣)。仕方ないので粘って一口分の水をかき集め、ぐびりと飲んだ。冷たくて美味かった。面倒になって口を直接差し出したら、顔がびしょ濡れになったうえ、とどめに喉奥に水滴が直撃して痛かった。

13:51 羅臼平着(1380m, 24.5℃)

羅臼平
羅臼平から三ツ峰を見上げる
岩清水で遊んでいるうち、いつの間にかあたりはガスに包まれていた。頂上で展望が得られたのは非常にラッキーだったと思った。
羅臼平に戻ってひとまず腰を下ろし、今日このあとどうしようかと考える。目標は三ツ峰のテント場まで行くことだったが、見ていると、幕営装備のパーティが次々と縦走路方面へと向かう。ひょっとするとテント場は満員なのではないかという不安が胸をよぎる。また、明日は雨が降る確率が高い。ここは水はけが良さそうだし、水の心配もないので、結局本日の行動は終了して、この羅臼平にテントを張ることにした。
場所は大岩の脇が良さそうだったが、日帰りの登山者が休憩していたので、彼らが下山してからテントを張った。

14:40 南の雪渓

テントを張り終え、相棒がテント内を整理している間、サブザックにありったけの水筒を詰め、熊除け鈴を持って一人で水汲みに出かけた。銀冷水で休憩したとき見かけた白人カップルが、大きなボトルに水をたっぷり詰めて歩いていたのを先ほど見かけた(その後彼らは縦走路を行ってしまった)。南側の雪渓で汲んできたのだろうと思った。雪渓は、羅臼岳に登ったときに確認できた。でっかい雪渓だったので、まあ間違いないだろうと思った。
雪渓は思ったよりはるかに近かった。しかし誤算だったことにここでようやく気づいた。ガスで視界がなく、雪渓に入れないのだ。踏み跡もわからない。どこかに汲めるところがあるには違いないが・・・ 下の方から水の音が聞こえるような気がする。行けるところまで行ってみることにする。こすりつけるように自分の足跡を付けながら恐る恐る雪渓を下る。10歩ほどして振り返ると、もう地面が見えなくなりそうだったので、びびって慌てて戻る。思い込みで視界ゼロの雪渓を下るのが危険なのは当たり前じゃないか。いったいオレは何をしているのだろう。
いろいろ考えた挙句、岩清水に行くことにした。あの水量から水をかき集めるのは、思いっきり非効率だが、一番現実的だろうと思った。

15:20 再び岩清水

いったんテントにもどって相棒に事情を説明し、張り綱などの補強を頼み(普段は補強はかつりんがやっている)、岩清水へ向かった。登りは20分、下りに10分かかるのは先ほど歩いたのでわかっていた。水汲みにどれだけ時間がかかるかわからないが、夕食は17時を過ぎてしまうだろうなあ・・・
心細いまま岩清水に着いてみるとなんと人がいた。やはり羅臼平にキャンプするという。そういえば、我々とは離れたところにテントがいくつか張られていたことを思い出した。いろいろ話を聞きながら水を汲む。この人は知床縦走も何度か経験していて、コースの状況・迷いやすい地点などの情報を得られたのは大きかった。
結局、40分かけて4リットル汲んで、テントに帰ったのは16:20を過ぎていた。弥三吉水の残りと合わせて5.3リットルほどになってまずは一安心。

食事

フードロッカー
フードロッカー
羅臼岳
羅臼岳が再び姿を見せてくれた
今宵の食事はパエリャ。ちゃんとエビとアサリも加えた。ちょっとしょっぱいのが疲れた体に効く。パエリャの素はスープ状なので、水は500ml使っただけですんだ。クマ対策として、テントに匂いがつかないよう、食事はテントの外で調理し、食べた。また、食べ物や生ゴミは、離れたところにあるフードロッカーに入れた。これは教科書どおりの行動だ。
17:30を過ぎてから10人くらいのパーティと単独行が来て、テントは全部で8張にもなった。羅臼岳が再び姿を見せてくれたので、眺めながら明日の朝食用の湯を沸かしていると、この10人パーティがフードロッカーを使ったかと尋ねてきた。使ったと答えると、自分たちは使わなくてもいいかと聞く。あんたらのせいでクマが来たらどうしてくれると言ったが、自分たちは煮炊きはしないから大丈夫と平然としている。去年来た時も使わなかったが平気だったとのこと。だったらいちいち聞くなよ、すぐそばにいい匂いのする食い物があると思っただけで不安になるじゃんよ。そういえばこの日はフードロッカーは誰も使っていないようだったし、やはり道内の登山者はクマに慣れているのだろうか。それに、こんな夕方遅くなってうろうろしているあたりも、クマをずいぶんと甘く見ているなあと思う。

そして雨が降る

夕食をすませ、テントに入ってラジオの天気予報を必死に聞く。携帯は通じないのでラジオが頼りだ。しかしこの日はAM電波の感度が極端に悪かった。FMは良好だが音楽番組をやっていたし、TV音源だと「道東地方はごらんのとおりです」という感じでさっぱりわからない。ようやく聞き取った予報によると、今晩は前線が通過するため雨が降る、ということだった。
もう縦走は不可能だろうなあと思いながら暗くなる前に眠った。そして21時頃、激しい雨の音で目が覚めた。天気予報が当たってしまった。しかし雨は強いが風がほとんどないので助かった。

7月18日 雨のち霧

3時にいったん起床。雨は降り続いていた。おまけに雷まで鳴っていた。テント内の温度は19℃もありとても暖かかったが、雷が止んでから少しして一気に14℃くらいまで冷えた。寒冷前線が通過したのだろう。いずれにしても雨では行動できないので、とりあえず停滞することに決めた。

停滞・朝

羅臼平
テントから悪天の羅臼平を眺める
明るくなってから外を見ると、ものすごいスピードで霧雨が真横に降っていた。いつの間にか西風が強くなっていたのだった。テントは弥三吉レリーフの大岩の東側に張ったので、防風の恩恵を受けているに違いない。
しかしこの雨風では水も汲みに行けない。それどころかトイレに行くのも億劫だ。というわけでまたまた眠る。こんな中をまわりのテントはみんな撤収を始め、8時過ぎには我々だけになってしまった。そして、こんな天気なのに登ってくる人がいるのだ!! 我々のテントに向かって「山はどこですか」と訊いてくる人もいた。人々の話し振りを聞いていると、ここまで来て登頂を断念する人も結構いたようだった。しかしそれは正解だと思った。途中の岩場は濡れて危険だし、この強風では吹きさらしの狭い山頂には3分といられないだろう。
それでもかなりの人数が登ってきた。「寒かったら言ってくださーい。ホントにそれで死んじゃう人もいますからねー」などと声を張り上げているのは登山ツアーだろう。そんな状況で登って何が楽しいのか。みんな大岩の陰で休むので騒々しいが、まあこれは仕方ない。しかしそのうち、岩の陰に入ろうとした人が我々のテントの張り綱を引っ掛けてしまい、固定用の石から外れてしまった。これがテントにとって死活問題であるということを知らないのだろう、直しもしないでどこかにいってしまい、ごめんなさいの一言もなかった。しかたなくカッパを着込んで外に出て張り直す。折からの霧雨でメガネがあっという間に水滴だらけになってしまう。全ての外周を点検し、濡れたついでに用を足した。ふう。

停滞・昼

10時過ぎに大パーティがやってきた。そしてなんとテントを張った。明日に勝負をかけるのだろうが、それにしても強風吹き荒ぶ中でのてきぱきとした行動が見事だった。ともかく、これで今夜はふたりぼっちということはなさそうで、少しほっとした。
風はさらに強くなっていた。熊除け鈴をテントの中に釣るし、これが鳴ったら強風警報とか言っていたら、ひっきりなしに鳴るようになった。風に反比例するように雨は止み、濃いガスがひたすら猛スピードで流れるだけになった。
こうなるともう飲み食いしか楽しみがないのだが、すると出るものも出るのでそれもはばかられた。それに貴重な水も減ってしまう。結局ひたすら寝ていたのだったが、とうとう腹が減って、14時ころ、昨日沸かした湯でスティックコーヒーを淹れ、ミニケーキでコーヒータイムとした。生き返った気がした。停滞の日のお茶のリフレッシュ効果はすごいなあ。

停滞・晩

結局一日中、霧・強風だった。それでも雨が止んだのは良い兆候なのだろうか。
2日目に羅臼平にいるということで、我々の足ではもはや縦走することは不可能になった。予備日を使って第一火口にもう1泊すれば縦走できるし、その分の食料もあるにはある。しかし予備日はあくまでも予備日であって、計算に入れるべきではない。明日はオッカバケ岳くらいまで往復して、岩尾別温泉に下ろう。いや、その前に、この天気は回復するのだろうか? もしガスっていたら行く意味はない。ということは、羅臼平に2泊して羅臼岳ピストンだけ、という結果もあり得るのか・・・
15時過ぎ、隣のパーティが夕食の準備に入ったようなので、我々もそれに習うことにした。夕食はあと2食分ストックがあるが、水の使用量が少ないスープビーフンにした。ビーフンを湯でもどしてレトルトのスープを入れるだけ。ちょっと足りない気がしたので、またもやコーヒーを淹れてミニマドレーヌをばくばく食った。結局、夕食に使った水は1リットルだけだった。まだたっぷり3リットルほど残っている。天気も悪いので食事はテントで済ませたが、クマのことはあまり気にならなかった。わずか1泊しただけで、我々も感覚が麻痺してしまったようだ。それでもいちおう食べ物と生ゴミはフードロッカーに入れた。
寝る前に、今日もほとんど雑音の天気予報を聞いたところ、明日は一時的に天気は回復し、晴れのち曇りで朝晩が霧ということだった。よし、午前中に行動して、午後一番で下りることにしよう。
結局テントは我々と隣の大パーティの合計4張だった。お隣さんは18時過ぎにはもう寝静まっていた。
ページ内を句点で改行する