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| 来たる新世界を担う才能ある若者たちを、性別、国家、財力を 問わず広く集め、総合的かつ高レヴェルの教育を行う。その趣旨 のもと、NW財団が創設したのが、NW学園である。地方都市並み の広大な敷地には、幼等部をはじめとするそれぞれの教育機関 は勿論、最高設備の研究施設、世界でも有数の蔵書量を誇る図 書館などの他、そこで働く職員や生徒のための居住スペースや娯 楽施設も整えられていた。学園の完成は数年後だが、現在、試験 的に大学部だけが開校、運営されていた。 |
Piece1 飲み会における男女の法則(4−1)
NW学園大学部は、広大な学園内のなかで最も大きな規模を誇る施設である。銀杏並木の大きな通りを抜けると、開放的でモダンな建造物が見えてくる。そこを中心に、それぞれの専門学部の建物が並び、大学部の校舎は、全部で50近くにもなる。その他に、事務センターやカフェテリア、千人を越える教授や講師のための部屋などを含めると、既にそれは大学ではなく、一つの大きな街と呼んでもいいくらいだ。実際、開校して二ヶ月を過ぎた現在の一番の苦情は、各棟の位置が解らない、迷ってしまう、というものである。現在、ほとんどの生徒が地図を片手に、オリエンテーリングさながら、移動していた。
「60、32、48と。どこも不作ねぇ」
教室の隅で、そう呟く一人の女がいた。胸まであるストレートの黒髪が印象的な美人だ。バランスの取れたしなやかな肢体を強調するような、大きく胸元が開いたカットソーとミニスカートを身に付けている。彼女は肩にかかる髪をはらうと、机の上のパネルに左手を置き、そのパネルの脇のスリットに学生証を通す。
NW学園内において、生徒の出欠管理や語手続き、買い物などの生活におけるあらゆるサービスのほとんどが、コンピュータによって制御、管理されている。学費や生活費のほとんどが、財団から支給されているため、学生の出欠管理は厳しく行われていた。各教室の机のそれぞれについているパネルで、学籍と指紋が照合され、出席が確認される。これにより、代返はほぼ不可能になった。とはいえ、それだけで単位がもらえるわけではないので、出席すればいいというものではないが。
「ティアナ、どうしてこんなところにいるのよ」
背後から自分の名を呼ぶ声に、女は振り返った。ノートを手にした男女二人連れが、ティアナの後ろの席に並んで腰を下ろした。
「びっくりしたぁ。単なる趣味と興味よ。桃ちゃんこそ」
「あたしは、こいつの付き合い」
明るい色の髪と、大きな瞳が印象的な女性だ。ティアナを深紅の薔薇にたとえるなら、彼女は太陽を象徴するひまわりであろう。健康的で、明るく屈託のない性格が、そのまま容姿に現れているかのようだった。パステルカラーのブラウスとロングスカート。その上に、淡いブルーのジャケットを羽織っている。
「あれ、じゃあ知らねぇの」
ふいにそう切り出したのは、女性の隣りに座っていた童顔の男だった。高校生といっても誰も疑わないだろう。いたずら小僧の面影が、まだ色濃く残っている。くせっ毛の髪は黒に近い紺で、白いシャツが良く映えた。
「なにが、よ。平成」
「ヒサトも、この講義、とってるのよ」
ティアナの問いに答えたのは、男の方ではなく、女−−−桃山冴子の方であった。一瞬の間の後、ティアナがその長く細い足を組み替え、大きなシルバーのイアリングを指で弾いた。
「最っ低。男のレヴェルは低いうえに、ヒサトまでいるなんて。プログラミングの講義なんて、取るもんじゃないわね」
「それ、オレも入ってるわけ」
「岩見平成、35点」
ティアナはにっこりと微笑むと、そう即答した。