ピコ通信/第143号
発行日2010年7月26日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. ブックレットを発行します/ナノテクとナノ物質 どのように使われているか?何が問題か?
  2. 寝屋川/廃プラ公害の解決へ・・・これまでを振り返り、今後の取り組みを考える/廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会 事務局長 長野 晃
  3. 環境省の農薬管理マニュアルが集合住宅の管理会社等へ周知されました/有害化学物質から健康と暮らしを守る会・千葉 木村優子
  4. 海外情報:EHN 2010年7月20日 電子廃棄物リサイクル現場近くの妊婦の化学物質汚染は高く、甲状腺ホルモンが低い
  5. 環境問題の動き
  6. お知らせ・編集後記


ブックレットを発行します
ナノテクとナノ物質
どのように使われているか?何が問題か?


 当研究会は、「ナノテクノロジーに関連する問題点と安全管理に関する調査研究」を2009年4月から2010年7月まで実施しました。
 この調査研究の主要な成果のひとつは、世界中のナノに関するEHS(環境・健康・安全)に関わる情報を収集し、日本語化し、整理して、19編の小論文にまとめた小論文集であり、「ナノテク研究プロジェクト」として当研究会のウェブサイトに掲載しました。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/nano_project_master.html

 さらに、このナノテク研究プロジェクトの成果を一般市民に分かりやすく、しかしナノEHSの広範な問題の概要を正確に伝えるため、ブックレット『ナノテクとナノ物質−どのように使われているか? 何が問題か?』を、7月30日に発行します。
 ・A5版 111頁
 ・600円 (送料別)
 ・著者 安間 武(化学物質問題市民研究会)
 ・編集・発行 化学物質問題市民研究会
 ・発行日 2010年7月30日
 ナノの安全性に関わる広範な問題を総合的に市民向けに解説した本は、日本では今まで出版されていません。
 皆さん、どうぞ注文してお読みください。

■ブックレットの目次

 はじめに
 第1章 ナノテク・ナノ物質とは? 何が問題か?
  1.ナノテクとナノ物質の概要
  2.どのようなナノ製品が市場に出ているか?
  3.ナノ物質/製品の安全テストと表示
  4.ナノ物質の有害性
  5.ナノ物質の生態系汚染

 第2章ナノテクの応用例
  1.ナノ日焼け止め
  2.ナノ銀による殺菌・抗菌効果
  3.ナノ食品とナノ農業
  4.ナノ環境修復
  5.ナノ医療
  6.ナノ人間強化

 第3章ナノ物質の管理
  1.世界のナノ物質規制の動向(1)既存か新規か
  2.世界のナノ物質規制の動向(2)データ収集
  3.日本政府のナノ安全管理対応と問題点
  4.ナノ物質管理政策への提言
  化学物質問題市民研究会について

■『ナノテクとナノ物質−どのように使われているか?何が問題か?』
 "はじめに"から


 1959年の米物理学会の講演でアメリカの量子理論物理学者ファインマン博士が物質を原子レベルで操作し制御するというナノテクノロジーの概念を初めて発表したと言われています。その後、1974年に日本の谷口紀男教授がナノテクノロジー という言葉を提唱し、1894年には炭素60個からなるサッカーボール状のフラーレンの発見、1991年には飯島澄男博士によるカーボンナノチューブの発見などが続き、ナノテクノロジー(ナノテク)は飛躍的に進歩しました。

 物質がナノサイズになると全く新たな特性を持つようになり、この新たな特性を持つナノ物質は新たな材料として期待されました。ナノテク/ナノ物質は、軍需や民間の産業にきわめて重要であるという認識を持った米国は、2000年に国家ナノテクノロジー・イニシアティブを立ち上げ、本格的にナノを推進し、各国もそれに続き、現在ではあらゆる産業分野に適用されるようになりました。

 一方、ナノ物質のこの新たな特性が、環境、ヒト健康、安全(EHS)に新たなリスクを及ぼすことが懸念されていましたが、実際に、例えば、カーボンナノチューブはマウスに中皮腫を起こす可能性がある、ナノ銀は生態系に有害影響を及ぼす可能性がある等、ナノ物質の有害性を示唆する様々な研究が発表されるようになりました。しかし、EHS研究への資金投入はまだまだ少なく、また技術的な課題も数多くあるために、ナノEHS分野の研究はまだまだ不十分です。

 現在、わが国を含むほとんどの国にはナノ物質を規制する法律がないので、安全性が確認されていない様々なナノ物質やナノ物質を含む製品が次から次へと市場に投入されています。

 90年代の欧州連合では安全性の確認されていない3万種を超える化学物質が市場に出ていたために、既存の化学物質および新たに市場に出される全ての化学物質の安全性データの登録が必要であると考えられ、その実現のために2007年に新たな化学物質規則REACHが制定されました。
 現在のナノ物質の状況は世界中でほぼ同様であり、データのない化学物質が市場にあふれてREACHを必要とした同じ状況が、ナノに関してもすでに再来しています。
 ナノ物質の管理に求められる理念は、化学物質の管理に求められるものと何ら変わるところはありません。REACHと同じく、予防原則、ノーデータ・ノーマーケット原則、立証責任の転換、代替原則、市民参加、及び情報公開に基づく、総合的なナノ物質管理が求められています。

 この冊子では、世界中のウェブ上で公開されているナノテクやナノ物質に関する膨大な情報、及び日本の省庁(厚労省、環境省、経産省)が発表した報告書/ガイドライン等を検討し、ナノテク/ナノ物質の定義、 さまざまな用途、有害性研究、倫理的な議論などをなるべく平易に、しかし正確に紹介しました。
 さらに、ナノEHS管理政策の世界の動向を検証して現状の問題点を明らかにするとともに、日本におけるナノ物質管理のための基本的な枠組みと管理の概要を提案しました。

 元米大統領ジョン F.ケネディは、1962年に消費者の4つの基本的な権利として、(1)安全が保証される権利、(2)情報が与えられる権利、(3)選択する権利、(4)意見が聞き届けられる権利−を挙げました。ナノについて、日本の消費者の権利は守られているでしょうか?
  1. ナノ製品はテストが行われ、安全が保証されているか?
  2. 製品にナノに関する情報が表示されており、安全情報は公開されているか?
  3. ナノを含まない製品を、情報に基づいて選択できるか?
  4. ナノ安全管理の検討・政策策定への市民参加や、パブリックコメントの実施が行われているか?
 本冊子が、新たに出現したナノテク/ナノ物質の基本的な問題の概要を理解し、読者自身がナノに対してどのように対処すべきかを考える一助になれば幸いです。ナノに関する消費者の権利が守られるよう、政府に働きかけていきましょう。

 「ナノテク研究プロジェクト」の実施およびブックレット制作費用の一部に、2009年度高木基金の支援をいただいたことを感謝します。
2010年7月
化学物質問題市民研究会


寝屋川/廃プラ公害の解決へ・・・
これまでを振り返り、今後の取り組みを考える

廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会
事務局長 長野 晃


 大阪府寝屋川市に二つの廃プラスチックリサイクル処理施設が計画され、住民は平成16年(2004年)から、発生・排出される有機化学物質による大気汚染、健康被害を危惧して、建設中止を訴えてきました。しかし、行政は住民の声を無視して建設を強行し、施設稼動後、多くの健康被害が発生してしまいました。「守る会」の長野事務局長に、取り組みの経緯と裁判、今後について、寄稿していただきました。(編集部)
 私たちは大阪府寝屋川市に住む住民です。住民運動6年。この間の取り組みについて報告し、皆様のご理解、ご支援をお願いいたします。
 なお、詳しくは、パンフレット『新しい公害 寝屋川廃プラ公害病とは』(300円 右写真)をぜひお読み下さい。(目次/注文情報紹介
(事務局 電話・fax 072-824-5963 メールアドレス inokan14960@nifty.com まで)

1. 6年間の住民運動を振り返る(一審判決まで)
<住民運動を立ち上げ、裁判に訴える>

1.1 2つの廃プラ処理施設計画を知り(平成16年3月)、学び、2度にわたる8万署名等の運動をし、市も府も聞く耳を持たないことから、「予防原則」(被害が起こる危険があるときには、そのことをしない)を掲げて、裁判を起こした(平成16年7月、大阪地裁 仮処分)。平成17年3月仮処分却下。同年8月3日、大阪地裁に提訴。

<2つの廃プラ施設が操業開始する>
1.2 イコール社 平成16年9月試験操業開始、平成17年4月部分操業開始、平成18年4月本格操業
1.3 北河内4市リサイクル施設組合操業開始 平成20年2月1日

<健康被害が発生>
1.4 平成16年秋、イコール社が試験操業を始めた直後から、住民からニオイの訴えがあった。
1.5 平成17年春以降、イコール社が部分操業を始めて以降、眼がかゆい、喉がいがらいなどの訴えが広く出始めた。
 平成17年秋、桜が丘自治会が自発的に健康アンケート調査を実施。眼、喉、皮膚などの不調を訴える人が多いことがわかり、「守る会」は、イコール社が操業を開始して6ヶ月後の平成17年10月から12月にかけ、シックハウス症候群や大気汚染公害に使われる健康アンケート調査の項目を参考にして、6自治会での健康アンケート調査を実施した。
 その結果、@イコール社操業前と操業半年後の調査時点での有訴率が、症状のほとんどの項目において周辺6自治会で増加していること、 A比較対照地域として選んだ石津東町より有訴率が大きい項目が多いこと、 Bイコール社に最も近い太秦東が丘地域での有訴率が高いことなど、イコール社の操業による空気汚染が原因としか考えられない健康増悪が明らかになった。

1.6 津田敏秀・岡山大学教授による疫学調査
 06年春、イコール社が24時間本格操業を開始以降、悪臭と健康不良を訴える住民が急増。
ニオイ調査を実施し、住民の健康状態をあきらかにするため、病気の因果関係を明らかにする疫学調査の専門家である、岡山大学の津田敏秀教授(環境疫学)に健康調査を依頼。
 同年7〜8月、約4,000名の健康調査が実施された結果、この地域では粘膜刺激症状を中心とした病状を示す人が比較地域である石津東町と比べ多く、廃プラ工場によるものであることが明らかにされた。
◎津田教授による報告書の結論・・・調査結果は、工場稼働と健康障害の因果関係を強く示している。
@ 工場に近い地域では、平成17年7月に比べ、平成18年7月の方が症状を有している割合が高かった。
A 平成18年7月の時点で、工場に近づくほど症状を発症しやすく、特に工場より700m以内に居住している住民が症状を発症しやすかった。
B 曝露(化学物質に汚染された空気に接したり、身体に取り入れること)が多いと考えられる昼間在宅している住民は、より症状を呈しやすく、粘膜症状以外にも様々な症状を発症しやすかった。 (注)粘膜症状・・・眼、喉、呼吸器などの症状。その他の症状・・・いらいら、疲れやすさ、腰の痛みなど。
C 関連があると思われる症状は、咽頭症状(のどが痛い、いがらっぽい)、呼吸器症状(咳、痰)、眼症状(眼がかゆい、眼の痛み、目やに)、皮膚症状(湿疹)である。
 その中でも、工場より700m以内に居住し、昼間在宅する対象者には、のどのいがらっぽさ・眼がかゆい・眼の痛み・目やに・湿疹は、2,800mの比較対照地域と比べて、約5倍以上も多発している。

1.7 裁判でも健康被害の解決を求める
 こうした中、「守る会」は、寝屋川市、保健所、大阪府に健康調査を求めたが、環境調査をした結果、基準以下だとして、未だに健康調査は実施されていない。寝屋川市議会に請願署名を提出したが、廃案になる。
 裁判では、「健康被害のおそれをなくす」から「健康被害をなくす」に訴えの内容を変更した。
 「守る会」は疫学調査とともに、シックハウス症候群の裁判で医師として証言をし、勝利和解した、真鍋 穣医師に診察を依頼。真鍋医師は診断結果を裁判所に提出、証言を行った。
 しかしながら、08年9月の1審判決は、津田教授の調査は、自治会が係わっているから信頼できない、真鍋医師の診察は、検査が無く診察時間が短いので採用できない、柳沢幸雄東大教授の環境調査は、他の施設からの化学物質かもわからないなど、被告側の言い分をすべて認めたうえ、「公益性、公共性のある事業だから、住民は忍従せよ」という驚くべき判決が出された。

2.6年間の住民運動を振り返る(控訴審のたたかい)

 「守る会」は、1審判決に「泣き寝入りはできない」として、平成20年10月3日控訴した。
控訴審では、@健康被害の事実、 A有害ガスの発生とその成分を明らかにする、 B有害ガスの住宅への到達をいっそう明らかにすること、及び、広く廃プラ公害の事実を知ってもらい、世論を広げることに力を入れてきた。
 疫学調査での津田敏秀・岡山大教授、医師の活動に加え、柳沢幸雄・東大教授による大気環境調査、西川榮一・神戸商船大名誉教授による煙の実験と温度測定による温度逆転層(接地逆転層)が頻繁に形成される地形、気象の特徴がさらに解明されてきた。

2.1 健康被害の事実を明らかにする努力
2.1.1真鍋医師、原田・小松病院院長らによる医師チームが結成され、平成21年1月〜5月、約2,000名の住民への問診票が配布され、600名ほどが問診票を提出した。眼、鼻、のど、呼吸器、皮膚、悪臭など「集団発生」と呼ばれるほど症状を訴える人がいることがわかり、三井団地、ダイヤパレスなどでも重症の人がいることがわかった。
 平成21年3月〜8月、医師による診察が行われ、診察結果が医師による意見書として裁判所に提出された。
 さらに、今年6月、医師による診察が実施された。
 また、シックハウス症候群、化学物質過敏症についての第一人者である宮田幹夫先生による東京での診察が実現した(検査結果は「受診者全員に中枢神経障害が認められる。症状がない人でも、この地域に住んでいる人は神経の障害がある可能性がある」というショッキングなものである)。
2.1.2 陳述書の作成、提出
 大阪高裁は、平成21年12月8日の公判において、柳沢教授の証言(証人尋問)を認めたが、医師及び健康被害を訴える住民の証人の採用をしなかった。
 本年1月、弁護団より、健康被害の体験事実を書いた陳述書を裁判所に提出する提案が行われた。
 2月27日、弁護団6名全員等による聞き取りと陳述書作成が行われ、その一部はすでに裁判所に提出された。さらに6月6日、弁護士による2度目の聞き取りが行われ、さらに陳述書作成、提出が準備されつつある。

▼健康被害の事実を陳述書として提出するため、弁護団による住民からの聞き取り
(体験の事実より)
  • 自己紹介
    25歳まで、太秦(地区)に健康に居住していました。イコール社から約1km位離れています。廃プラ工場ができて以来、身体に異変。2年前に身体が耐えられず、引越しをする。
  • 臭い(異臭)について
    はじめの頃は、プラスチックを溶かすような独特の臭いが漂う。夕方、夜、朝方に臭いを感じていた。甘ったるい芳香剤のような臭いを嗅いだこともある。
  • 気になる具体的な症状
    身体がイライラして、全てに関してイライラするようになり、車の運転をしているとき、ブレーキアクセルを踏む足の行動が足の神経をイイー(ママ)とするようになった。気がつけば、足や腕には青あざができている事が多かった。左半分だけがザワザワしたり、しびれたり、舌がまわりにくくなる。家の中でも鼻水が出て呼吸もしにくい。電車やバスに乗ると(閉じこめられた空間に入ると)不安に感じた。
  • 症状が廃プラ施設からの有害物質によると疑う、もしくは思われる理由
    廃プラの臭いがし始めると同時に鼻水が出て、たんがからむ。大阪市内や、寝屋川から離れると身体が楽になる。廃プラの臭いがする時間になると、犬が鳴く。
  • 健康被害と生活被害
    様々な化学物質に身体が反応するようになり、建物に入ったり、人とすれ違った時におう洗剤や香水、タバコ、シャンプーやリンス、建材(←これはごく一部)で身体がしびれる、しんどくなるなど本当にしたい仕事につけない。化学物質は目に見えないけど、すごく恐ろしい物質。
  • 裁判に対する思いと裁判所への要望
    自分の家というのは大切なもの。そこにただ私たちは住んでいただけです。不快な気持ちで住むなんてあり得ないです。廃プラ工場から化学物質が出ていないなんてことも、絶対ない話。もし本当にそう思うのであれば、この工場、もしくはこの周辺に住んでください。私は、大好きな家から引越しをせざるを得なかった。悔しくて仕方がない。どうしてこんなことにならなくてはいけないのか…。 判りません。
  • その他
    化学物質のこわさ。この世の中は人工のものを作り出しすぎている。それが人体に及ぼす影響は果てしないものだと思う。とにかくこの工場は、1日でも早く停止させるべきです。

2.1.3 津田先生による、第二回疫学調査(4〜5月)
 結果は、粘膜刺激症状、皮膚症状を中心に、廃プラ工場近くの住民は影響がないと考えられる地域の住民とくらべ「何度やっても同じ結果が得られる」高い発症率を示す。

3.結審、判決、これからの取り組み

3.1 7月23日(金)午前10時30分 大阪地裁大法廷 202号にて控訴審結審。
 住民原告から3名陳述。弁護士から新しく提出した証拠、書面について述べる。
3.2 判決は秋か? (編集注 1月25日に決定)
3.3 健康被害が裁判において認められない限り、解決はない。そのため、現在取り組んでいる操業停止の訴訟と並行して、健康被害を訴える原告による損害賠償をもとめる公害裁判を検討している。
3.4 世論を広げるための協力を個人・団体にいっそう訴えていく
*判決に向けて、裁判官への署名を広く行う。
*「廃プラウォッチングニュース」の配布をはじめ、健康被害の事実を中心に、多くの人、団体、マスコミ等に訴えを広げ、支援、協力する人を飛躍的に増やす(個人会員拡張など)。
*カンパ、寄付金等を募る。


環境省の農薬管理マニュアルが
集合住宅の管理会社等へ周知されました

有害化学物質から健康と暮らしを守る会・千葉 木村優子


■7省庁へ要望書提出の経緯
 昨年10月、化学物質過敏症が病名登録され、更なる進展を求めてシンポジウムが開催されました(ピコ通信135号参照)。私は、シンポジウムの実行委員および、要望書作成の世話人の一人として関わりました。
 シンポジウムには、全国各地から250人を超える発症者等が集まり、満場一致で宣言を採択しました。その後、今まで横のつながりがなかったシンポジウム参加者が呼びかけで集まり、「やったね!病名登録記念シンポジウム宣言の要望を実現する会」を結成し、宣言で要望した「化学物質過敏症の社会的認知の推進」「根本的な化学物質対策についての法律の制定」などに基づき、要望書を作成し省庁との交渉を行いました。
 省庁への橋渡しは川田龍平参議院議員にお願いし、6月9日に7省庁(厚労省、経産省、農水省、環境省、国交省、文科省、消費者庁)と、参議院議員会館にて交渉の場を持つことが出来ました。
 要望書の内容は多岐に渡りました。農薬に関する問題のひとつとして、通知「住宅地等における農薬使用について」の法律化と罰則化を求めましたが、期待したような回答は得られませんでした。しかし、その中でも周知に関しては各省庁から前向きな回答が得られましたので、報告させていただきます。

■機能していなかった通知やマニュアル
 反農薬東京グループとCS発症者との働きかけにより、H15年(2003年)農水省から通知「住宅地等における農薬使用について」が発出されました。要旨は「住宅地等では農薬の飛散リスクを減らすために定期的散布は控え、害虫駆除は剪定や補殺などを優先すること。物理的防除を行ったが手に負えずやむを得ない場合はじめて、最小限の範囲を散布する」です。環境省は本年5月31日、これまで暫定版だった「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」の正式版を公表し、住宅地通知の主旨を実現するための具体的な方法を紹介しています。また、「化学物質に敏感な人が散布場所近隣に居住している場合、事前に対応について相談する」との記載もあります。しかし現実には、通知もマニュアルも自治体や一般に、周知さえされていないのです。

■CS発症者の農薬をめぐる現状
 発症者は、農薬に曝露すると心臓発作、胸部圧迫感など、確実に健康被害を被ります。庭のバラや生垣への消毒、マンションや団地の共有緑地への散布など、住宅地でも頻繁に農薬散布は行われています。発症者は、散布を行っている近隣やマンション・団地の管理組合や管理会社に対して、住宅地通知やマニュアルをお伝えし「農薬散布を止めて下さい」と、必死に訴えてきました。しかし、食物の残留農薬ならばともかく、空気中に放出された農薬が、発症者に耐え難い苦しみをもたらすことの理解を得るのは非常に困難です。そのため、農薬散布のストップには至らず、悲しいかな、身近な近隣住民や管理組合等とのぎくしゃくした関係だけが残るという事態に、全国各地の発症者が追い込まれています。

■国交省から民間の管理会社へ周知が実現
 マンション管理会社は、登録制で国交省の管轄下にあります。今回の交渉で不動産業指導室が、管轄の社団法人高層住宅管理業協会を通じて、環境省のマニュアルを初めて民間のマンション管理会社に周知しました。なおかつ、私たちが「不適切な散布を続けるマンションの管理会社に対して指導していただきたい」と求めたところ、不動産業指導室からは「管理会社にちゃんと参考にして下さいと、周知するのはやぶさかではない」との回答も得ております。
 後日、不動産業指導室の管轄は分譲マンションの管理会社のみであり、その他は管轄外で関連団体も無いため周知不可能ということが分かりました。そこで、それぞれの住宅関連の団体を管轄するそれぞれの課を調べ、管轄下の団体に対してマニュアルの周知を求めました。以下、周知が実現した団体です。
(財)住宅管理協会、(財)日本賃貸住宅管理協会、(社)全国賃貸住宅経営協会、(財)マンション管理センター。UR(都市再生機構)は、既に周知済みでした。高層住宅管理業協会に未加入の管理会社が10%ありますので、そこへどのように周知していくのか課題として残ります。

■農水省は、農地でなくとも取り締まると
 交渉の場で発症者の居住している2つのマンションの、散布事前告知チラシを事例として見せました。2枚とも基準違反の高濃度希釈で、ディプテレックス750倍希釈(本来は樹木には1000倍以上)、トレボン1000倍希釈(本来は樹木には4000倍)です。すると、農薬対策室は、罰則がない住宅地においても、明らかな使用基準違反については、都道府県を通じてしっかり取り締まると明言しました。

■環境省は、マニュアルの出前講座します
 環境省農薬環境管理室は、6月に日本造園組合連合会の総会にて、製本したマニュアルを会員対象に4500部配布し、内容の説明をしました。自治体や防除業者の団体にも、同様の出前講座を行うと回答しています。

■今後の課題など
 マニュアルの周知を受けた管理会社やURなどが、確実に末端の支店などへマニュアルを下ろしているのか、管理組合まで伝えているのか、皆さんそれぞれで確認していただきたいと思います。また、交渉の場で発症者の生の声をぶつけたことで、省庁から得られたことをそれぞれが実践できればと願っています。居住する自治体に対して、マニュアルの周知徹底を確認する、自治体に環境省の出前講座の開催を要望する、農薬散布が基準の希釈であるか確認する等。
 発症者たちが要望したことで、各省庁が前向きに動き出し、散布を止めてと言いやすい環境へ変化しつつあると思います。しかし、散布による健康被害を無くすためには、住宅地通知に罰則を設けることが絶対に必要ですので今後も求めて行きます。



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