ピコ通信/第135号
発行日2009年11月24日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 化学物質過敏症が10/1病名登録される/やったね!病名登録記念シンポジウム〜今後の展望を探る〜10/31/報告
    第1部 基調講演(概要)
    T 化学物質過敏症の歴史・現状・将来 石川 哲先生(北里大学名誉教授)
    U 健康保険のこと、今後の課題 宮田幹夫先生(北里大学名誉教授)
    第2部 パネルディスカッション
  2. やったね!病名登録記念シンポジウム宣言
  3. ナノの話 (4) ナノ消費者製品と表示
  4. 環境問題の動き(09.10.23〜09.11.23)
  5. お知らせ・編集後記


化学物質過敏症が10/1病名登録される
やったね!病名登録記念シンポジウム
今後の展望を探る〜10/31/報告


 10月31日(土)、東京都豊島区"ECOとしま"に於いて、やったね!病名登録記念シンポジウムが開催されました(主催:同実行委員会)。 本シンポジウムは、10月1日に化学物質過敏症が病名登録されたのを記念して、今後の活動についてみんなで考えようという趣旨で企画されたものです。 当日は、実行委員会の予想をはるかに超える約250人もの人が参加されました。発症者、その家族、支援者、医療関係者、市民、メディアなど多様な人々が、北海道から九州まで全国から駆けつけてくれました。 第1部基調講演、第2部パネルディスカッションに続いて、最後にシンポジウム宣言を採択して閉会しました。今後、宣言を具体化した要望書を作成して、国に提出し、交渉の場を持つ予定です。 当会は、実行委員会に参加して他の実行委員と共に6月から計画を進めてきました。当日の内容の概要を報告します。 (文責:当研究会)



第1部 基調講演(概要) T
化学物質過敏症の歴史・現状・将来
石川 哲先生(北里大学名誉教授)

◆化学物質過敏症(以下CS)の海外各国での対応
 CSが世に出てきたのは1990年頃からなので、それから20年経ち、色々な国々で知識は蓄積されてきている。「CSが存在するのは納得する」ということが、最近になって先進国では認められるようになった。 政策課題として何が必要か、先進国で求められているものは何か(患者側から、医師側から、経営者側から、国から)。これが、これからやらなくてはならないことのキーワードではないか。

◆原因
 カレンは、「急性中毒相当量に触れた後に発症する生体の過剰反応である。多種Multiple Chemical Sensitivity」と言ったが、AAEM(米環境医学会)の見解では、多種は必要ない。また、彼の「一般の臨床検査で異常を示さない」という定義に対しては、全米で多くの学者が反対で、一般の臨床検査で異常を示すものが出てきている。ただし、全部の患者さんに当てはまる検査は未だない。
 我々の研究班(厚生労働省援助)は平成17年度に、低用量曝露高感受性症候群LESS: Low-dosage Exposure Sensitivity Syndromeという名前を提案した。 化学物質により、マイクログラム、ナノグラム量の曝露で見られ得る生体の過剰反応であると定義づけた(研究報告書はインターネット(注)で見ることができる)。
 我々は1998年当時、接着剤のホルムアルデヒド、車の排気ガス、シロアリ駆除、木々の殺虫剤、除草剤etcが原因で、シックハウス症候群が起きるのではないかと考えた。その頃、日本でCS問題を考える人は、我々以外にはいなかったと思う。

◆シックハウス症候群(以下SHS)とCSの世界での見かたについて
 両者を明確に線引きしてこれを分離し、定義、分類することは不可能である。これは2、3年前、外国の有名な先生Abou-Doniaらが論文に書いている。両者は重なり合い、互いに移行し合う症例がある。日本のみ、両者は異なるということを強調する珍しい意見を唱える者がいる。

 定義に関しては1999年の合意(1999 Consensus):これはとても大事である。
 1. 症状:再発と再燃
 2. この状態はしばらく続く
 3. 低用量曝露過敏反応
 4. 原因除去で症状改善
 5. 化学物質にあまり関係ない物質でも反応する
 6. 多臓器由来の症状を示す
(一部短縮 文責 石川哲、2009)

 症状がばらけるのが、この病気の特徴である。何かひとつ決め手になる症状があれば、診断は楽であるが、CSの場合はそういう事はない。その原因となる物質が多種類だから。このようなコンセンサスを中心にして診断することになる(例 カナダ)。
 Iris Bellは、次のようなことを提唱した。「化学物質によって一番最初に傷害されるのは神経系であって、神経系のつなぎ目シナプシスの伝達系に異常があって、過敏反応を起こす。背景には生物学的要因、物理学的要因、社会心理的背景があるが、化学物質が基本である」。

◆化学物質過敏症とはどのような健康障害か?
 1980年代から北里大学・石川グループに対して、米国ダラスのDr.Rea(元テキサス大学助教授心臓外科医。その後アメリカ環境健康センターをダラスにつくり、CS患者の治療を開始した)から、有機リン殺虫剤慢性毒性診断、治療技術取得のためと学術交流の希望があり開始した。若手医師1名、医療技術士1名を北里大学石川・宮田幹夫の元に派遣、学習し、その成果はUSA学会で発表。それ以後共同研究、医師交換、派遣は8年間継続した。
 当時CSの原因は、ホルムアルデヒド、有機リン、トルエン、H2S(硫化水素)、CO(一酸化炭素)、 Hg(水銀)、 Pb(鉛)、 Cd(カドミウム)などが主であると考えられていた。
 日米では30歳〜50歳代の女性患者が多く、患者数は日本では人口の0.7%くらい(内山巌雄氏らQEESI使用)。
 USAの患者推定数は、人口の大小で多少の違いが出てくるが、以下である。
  • National research council 1987年: 15.0%、4,500万人:化学物質に対して過敏反応を示す。
  • カリフォルニア州政府1999年: 15.9%、4,800万人: 6.3%は医師によりCS診断。
  • Georgia州アトランタ市 2003年: 11.2%、3,360万人: 2.5%は医師によりCS診断。
  • 「米国のCSは3.4%」(M.Pall): 2009年10月発表資料による
◆米国でのCSのまとめ
 2009年10月16日発刊の中毒の教科書「General and Applied Toxicology 3rd Edition」 J Wiley & Sons にMartin Pall(ワシントン州立大学 生化学、環境医学教授)が"Chemical Sensitivity: A disease caused by Toxic Chemicals"(化学物質過敏症:中毒性の化学物質によって起こされた病気)を書いている。その要点を紹介すると、
  1. CSは非常にありふれた病気だ。USAでは糖尿病よりも潜在患者は多いのでは? 現在9つの国の疫学研究があるが、米国では3.5%の患者が居る、と推定する。
  2. CSは有毒な環境化学物質で発症する。米国では多い順に殺虫剤、有機溶剤、関連VOC, Hg、Pb等の金属、一酸化炭素、硫化水素ガス(これら物質はCS発症の動物実験で証明すみ。主にUSAの大学研究にて)。病気の進展にはNMDA(編集注: グルタミン酸受容体の一種)が関係する。
  3. 遺伝子に関する研究: 高感度の生体反応惹起には現在6つの遺伝子が研究されている(主に米国、カナダ、ドイツ)。忘れてはならぬ事は、CS発症はprimaryには毒物に起因し起きてくる事実が先行する。
  4. 発症と病の進行には一酸化窒素、ペルオキシナイトライト(編集注: ONOO- 活性酸素の一種)が関連する。これらにより、Neural sensitisation, Neurologic inflamation(編集注: 神経過敏及び神経原生炎症)が発生しCSに移行する。
  5. 過去20年間、USAでは真剣に研究するCS研究者に対し、心因説主張者達が極めて根拠のうすいデータで、妨害、迫害を続けてきた。しかし、2005年のノーベル賞受賞者が、ある種の胃潰瘍は従来から心因性が有名であったが、それが原因ではなくバクテリア(Helicobacter pylori)であった事を証明した事実を思い起こして欲しい。
 今回の私(M.Pall)の主張の結論は: CSは精神心理学的異常ではなく、化学物質により惹起され、生理学的、病理学的にも立派に証明される疾患である。

◆北里での臨床検査
 北里では、以下のような臨床検査を実施して、SHS・CSの診断をしている。
 @採血、 A採尿、B心電図、C視覚空間周波数検査MTF、D瞳孔反応検査、E眼球運動検査、F重心動揺検査、G免疫系検査、H内分泌系検査、I質問・問診票(QEESI)。
 必要に応じて、ポジトロンCT、MRI検査を加える。我々は、現在、患者さんを早く発見すれば治せると自負している。
 1998年と2004年の北里のデータを見ると、SHSの数は減少しているが、CSは減少せず、精神疾患群・その他の群で患者数が増加している。日本では、CS、SHSは終わったという考えがある。しかし、CSの発生は今も変わっていないし、前よりも症状が複雑で難しくなっている。化学物質ですでに発症した患者、今後発症するであろう患者を早期に発見し、治療することが急務である。

◆日本でのCS研究 現在の問題点
 患者を診断・治療する医師数不足、周囲の医師の無関心、CS研究者に対する一部省庁の無視があり、第一線でフロントに立つ若手医師がジレンマに陥る事が多い。外来診察では、化学物質過敏症診断に一人最低新患で40分前後の時間が必要。北里臨床環境医学センターでは、医師1人1日8人が最高、それ以上は医療従事者の疲労で不可能。
 患者治療に必要な施設:ガス負荷試験、2重盲検法等を施行する清浄空気の、クリーンル−ムが必要、現在北里ではそれが費用過剰と採算がとれないとの理由で閉鎖されている。
 装置維持:フィルター交換、電気代、維持費用捻出のための予算が不足、1年間約1千万円近い赤字で診療費からの捻出は不可能。
 この様な理由で、経営困難から診療規模縮小を余儀なくされた。これは北里大だけの問題ではない。この状況は国立、公立、私立を問わない。
 診療・治療室の確保、医師、ナース、検査士雇用のための費用捻出が患者診断、治療に必須であるが、現在の各診療施設の医療収入のみでは、すべて、赤字だ。私立、一般開業医師ではさらに辛く、診察も不可能とし、CSを扱う医師がきわめて現れにくいのが現状である。しかし、北里の診察を学びにくる若手医師たちも多い。
 今後は大局的な立場から、改革が必要で、医師、パラメジカル(医師以外の医療従事者)、患者救済のための大幅な援助が必要で、保険が通った事だけで、浮かれていられない深刻な悩みが病院、医師側、医療従事者にある事を絶対に忘れないでほしい。

◆医師側から望むこと
 SHSについては、目途がつきつつある。CSについては、これを心因性として排除しようとする圧力がある。それは、当分続くであろう。USAでもデータがない、二重盲検検査が不明確、など低いレベルの議論の繰返しが当分の間、日本でも大合唱されるであろう。彼等の反論は日、米、欧州ともに"ケチ"をつけるだけ。詳しい症例提示(case control study)、長期にわたる経過観察データさえも欠如したままで反対している。

◆今後の医療問題
 患者治療に真剣に対応している医師達、看護士、検査士達も大変な苦労の下で、CS診療を行っている。精神的、肉体的、ストレスなど枚挙に暇がない。病院外来、検査室(クリーンルームルーム)の閉鎖、検査室スペースの縮小、人員縮小、若手医師補充不可能、その他多くの難題が各現場にあり、じわじわと見えない締め付けが感じられる。
 この際、抜本的な手を打つ必要がある。皆さんの結束が必要だ。

※注 厚生労働科学研究成果ベース http://mhlw-grants.niph.go.jp/index.html 「微量化学物質」で検索すると見られる。


第1部 基調講演(概要) U
健康保険のこと、今後の課題
宮田幹夫先生(北里大学名誉教授)

◆病名登録での利点
今回の病名登録の意義は、以下の点でひじょうに大きいと思う。
  • 公的活動がしやすくなる。
  • 診断書記載の抵抗感が減り、公的文書に使用しやすくなる。
  • 病名分類の精神疾患に入れられていない。中毒疾患に入れられたのは、ありがたい。
  • 医師の認知度が増える。正式病名になってはじめて医者が認識する。
  • 家族の認知度が増える。その結果、患者さんのストレスが減るのではないか。家族が病気を認めない場合にも、病名がここに書かれていると言える。
◆化学物質過敏症疾病登録後の問題点
  • 患者診察の収益性が非常に低い
  • 医師の理解が得られるか
  • 精神疾患との境界線のあいまいさをどうするか
  • 客観的な検査異常所見がもっと必要ー本物の化学物質過敏症を見つけるためにー
  • 治療がどこまで保健診療で認められるか。今までの保険診療で認められているのは、症状に合わせて使う治療。例えば、痛ければ鎮痛剤というように。基から養生するために使う薬については、保険で認められるものが少ない。
◆収益性がひじょうに低い
○保険診療収入 初診料:2700円 再診料:710円
検査料(機器の値段)
瞳孔検査30分: 1600円(1,500万円)、眼球運動20分: 2600円(400万円)、平衡機能: 2700円(100万円)、心電図30分: 900円(100万円)、スパイロ(呼吸機能)20分: 800円(100万円)、一般尿検査: 260円、血球検査: 220円、血液生化学検査: 280円
○出費
診察室の整備:新設費、検査機器維持費、空気清浄機、人件費

混合診療の必要性
 保険診療と自由診療の混合診療の必要性が今後出てくる。ある程度の負担を患者さんにお願いしなくてはならない時代がくる。北里でも保険診療でやっているが、診療報酬はひじょうに低い。また、保険診療の場合は検査がやりやすいが、自由診療の場合は患者さんの費用負担の点からやりにくい。

◆医師の理解が得られるか
 西洋医学では対症療法が多い中で、基から体調を整えるという治療に対して、即効性の薬に慣れている中で、医者の理解が得られるかどうか分からない。
 不定愁訴(たくさんの症状を訴える)に対して、適当な薬がない。精神科に行きなさいというのが一般的な対応である。というのは、今、病院の経営が厳しくて、内科医でも、1日30〜40名の診療(1人の診療には最長でも10分)をしている。
 また、発展途上の病気のために、教科書がない。例えば、アレルギーは有史以来ある病気なのに、科学的に証明されたのはつい最近のことであるように時間がかかる。
 化学物質過敏症では、結果として精神症状を伴いやすいが、原因として精神疾患に入れられてしまいやすい。それは、この病気の患者は時間がかかるということからも、起こりやすい。
 さらには、病院内で気分が悪くなる患者にどう対応するか。病院内の空気汚染の認識が、病院側にない。また、消毒薬などの危険性の認識がない。これは保健所が指導するので、置かざるをえないという面もある。

◆精神疾患との境界線のあいまいさをどうするか
 近縁疾患には、アレルギー(皮膚、呼吸器、食物)、慢性疲労症候群、線維筋痛症、上気道過敏、うつ、不安障害がある。うつ、不安障害との境界線があいまいである。
 一番問題なのは、不安障害=神経症で、ICD10(国際病名分類)では、神経性障害・ストレス関連障害・及び身体表現性障害の項目に分類されている。ここには、全身性不安障害、パニック障害、恐怖症性不安障害、強迫性障害、解離性障害、身体表現性障害、適応障害が入っている。
 化学物質過敏症の患者さんの症状だけで見ると、この分類に押し込めることができる。精神科の医師たちに化学物質過敏症を理解してもらうには、まだ時間がかかるだろう。

うつ病に多い症状10項目(多い順)(更井 俊介 精神神経学雑誌 1979年)
1.睡眠障害、2.疲労・倦怠感、3.食欲不振、4.頭重・頭痛、5.性欲減退、6.下痢・便秘、7.口渇、8.体重減少、9.めまい、10.月経異常

化学物質過敏症患者の症状(石川先生 平成10年):
 不眠・過眠、集中力低下、思考力低下、倦怠感、頭痛、肩凝り、興奮しやすい、筋肉痛、健忘、微熱、便秘・下痢・腹痛、興奮しやすい、うつ、視覚異常感

 この二つを比べると、大変似ている。だから、結果として出てくる症状だけを見て診断するのでは困る。
 大脳辺縁系(大脳皮質と脳幹部の中間の部分)がCSには一番関与しているのではないかと言われている。その中でも、特に海馬が一番大事ではないか。ところが、うつ病の場合も海馬がやられる。海馬の神経繊維のネットワークの育ちには、女性ホルモンが関与している。海馬は記憶と情緒と臭いの中枢であり、女性がそういう面に敏感であるというのは、説明できる。
 「うつ」をきたす主な疾患には、うつ病、気分変調症(軽度のうつが長期に続く、不満や他罰性が出てくる)、双極性障害、適応障害があり、こういうものとも混同されやすい。

◆治療がどこまで保健診療で認められるか
  • ビタミンCなどの大量点滴療法: 認められない。輸液チューブも特殊なもの(非塩ビ 高価)が必要である。
  • 酸素吸入療法−可塑剤が最低の吸入装置、自宅酸素療法: 認められない
  • 内服薬−ビタミンC、その他: 認められるかどうかは、保険請求してみなくては分からない。ダメな場合は、病院の負担となってしまう。
  • 診察室の特設、入院施設の特設、転居、代替医療、栄養療法などにもお金がかかる。:認められない。
◆今後の問題点(1)
  • 化学物質過敏症は多くの疾患が含まれている。一種の症候群である。
  • 精神症状が非常に多くの患者に認められる。人格的に変調をきたすことがある。人格障害とも取られることがある。
  • 周囲の無理解から、世間に背を向ける患者も出てくる。患者の攻撃性増加など、精神科医や心療内科医の協力が必要。
◆今後の問題点(2)
  • 電磁波に過敏性を示す患者がいる。電磁波過敏症をどのように診断できるかが、まだ不明である。
  • 患者の生活維持をどのように図るか。
  • 血液検査での異常検出を図る必要がある。それができれば、すべての医者が認知するだろう。
  • 国際的なICD10に化学物質過敏症の病名記載が必要。
  • 治療関与医師の増加。
  • 治療法を開発する必要。
 CSには、まだまだ問題が山積しているというのが現状だと思う。


第2部 パネルディスカッション
パネリスト(敬称略): 石川 哲、宮田幹夫、小沢祐子(発症者)、滝ヶ崎照子(発症者)、大島秀利(毎日新聞大阪本社編集委員)、槌田 博(化学物質アドバイザー)
コーディネーター: 村田知章(実行委員)

◆パネルディスカッションでの発言から

現状について

宮田 保険診療は県単位の保険審査委員会で認めるかどうかが審査される。検査やビタミンC、グルタチオン、葉酸などがどこまで認められるかはこれからのこと。

小沢 今年の3月に化学物質過敏症の小1の女子が交通事故に遭った際、医師が造影剤での検査を主張したのに対して、母親がCSだからエコー検査で問題がなければやめてほしいと伝えたところ、急に怒り出した。結局、連れて帰るように言われ、自宅で療養。38日後、別の病院のMRI検査で脳挫傷等の診断。最近になってやっと、学校に通えるようになった。この間、2公立病院、3私立医療機関を受診したが、いずれの医師もCSを認識していなかった。現在、CS患者が不適切な対応を受けないよう、病院側との話し合いを模索している。
 今夏、家族のために賃貸マンションを探した。居住者が退去すると壁紙、クッションフロア張替え、薬剤による清掃、殺虫剤散布をする。古い建物でも、建築基準法改正後の建物でも、かなりの臭気があった。40数室見て、やっとなんとか入居できる物件が見つかった。ところが、その頃からしばらく鼻血が止まらなくなった。香料への過敏性も増し、理解力が衰えた。部屋探しが原因であると思っている。
 多くの若者が、このような有害ガスの充満した賃貸マンションで眠っている。若者の健康を蝕み、学習・労働効率に影響しているのではないかと心配だ。

滝ヶ崎 私自身、約10年前に発症。長女が3年前に学校で発症。学校、教育委員会、市など関連機関に対応をお願いしてきた。校庭に撒かれる農薬は、セルコートに替えてもらった。ワックスもシックスクール対応のものにも反応するので、ワックスを使わないようにしてもらっている。宿泊学習や修学旅行にも、普通に学習活動が送れるようにと、さまざまな交渉や努力を重ねてきた。市の宿泊施設のトイレボールは除去してもらったが、現在進行中の学校の耐震工事に関する交渉で苦労している。行政は文科省のパンフレット「健康的な学習環境を確保するために」も知らないし、化学物質についてあまりにも知らない。少なくとも、このパンフレットの内容をきちんと守れば、学校環境はずいぶん改善されると思う。

大島 7、8年前からこの問題を書いている。その後、建築基準法の改正などがあり、2003年頃これで解決の道筋がついたかなと思っていた。ところが、この数年間で、以前記事に書いたことが再び起きている。例えば、市の職員数人が一度にシックハウス症候群、CSになった。公務災害申請をしたが、却下されて訴訟に至ることになった。最近、労災、公務災害の壁がとても厚い。
 大阪府内の保健所の3割が「住宅地等における農薬使用について」通知に反して、害虫の生息調査を行わずに農薬散布、周囲への事前通知も4割以上がしていなかった。このことがわかってから、大阪府等が研修や文書を出すなどの動きが出てきた。
 一番身近な所から取り組むのが大切。健康被害が出ないシステムが出来ていない現時点では、繰り返してやっていくしかないし、そこから動く可能性があると思う。労災認定において、シックハウス症候群はある程度認定されるが、CSになり深刻な状態に陥ると認定されないという逆転現象が起きている。今回の病名登録は、その突破口になるかもしれない。

槌田 20年ほど前、大学院で農薬空中散布後の大気汚染調査をしていた。風下では風邪に似た症状の人々が出ていて、風上には出ていないことも分かった。CSの人は人口の3%近くいるとすると、地域のアンケート調査などを丹念にやれば、沢山の人が苦しんでいる実態が明らかになると思う。今回の病名登録はCSという名前をもっと使えるようになると嬉しく思う。
 体に入る量は、食べ物は水を含み1日2キロくらい。空気は安静時で14キロ、活動時は20キロ〜30キロにもなる。化学物質は食べ物から摂取する量よりも、空気からのほうがよほど多い。また、食べ物での摂取は腸で吸収した後、肝臓で解毒されて血液に入る。肺からの摂取は直接血液に入って全身に回る。空気中の汚染をどうやって減らしていくかということは、ひじょうに大事なことだ。そのために、CSをもっと知ってもらうことが必要だと思う。

CS解決に向けての今後の課題

石川 一番大事なのは医師教育だと思う。基礎医学の中では、農薬や除草剤のことは一切出てこない。臨床医学では、中毒の中で教授が興味があればサリン、パラチオンに触れることはあるが、その程度で終わる。私が北里大学医学部長をやった時に、微量毒性、慢性毒性について法医学のプログラムに入れた。一般には習わないで医者になる。しかし最近、医学部入試にCSが3校で出たし、予備校でも取り上げられ始めている。興味を持つ大学の先生も増えてきている。新しいものを積極的に入れていく姿勢が、医学部に必要だと思う。

宮田 現在の保険制度では、一人の医者が日によって保険診療、自由診療を選ぶということはできない。もし、混合診療が可能になれば、普通の内科の医者でも、この時間帯はCSの患者を自由診療で診てあげようかということができる。一律均等だと、内科の医者は3分診療にならざるを得ないので、難しい。患者さんが経済的に逼迫しているのは十分理解しているが、時間・手間のかかる病気なので、ある程度は患者さんに自己負担してもらうしか方法がないのではないかと思う。

小沢 病院はCS患者を拒否する傾向がある。過敏な人たちを受け入れる体制をつくっていく必要がある。現在、約10万種の化学物質が使われている。化学物質の問題は過敏な人たちだけではなく、すべての人の問題。私たちはあらゆる化学物質の混合物に曝されている。単一の物質毎の基準値を決めただけでは人を守ることはできない。混合物の影響の研究と予防措置が求められている。米国では、農薬の不活性成分に注意が払われ始めている。幅広い物質の毒性評価と規制が必要だ。

滝ヶ崎 娘の学校の保護者に娘の話をすると、大変ね、かわいそうねという言葉が返ってくる。その言葉の裏には、うちはそんな特別な病気にならないから大丈夫という考えを感じる。うちも気をつけたほうがいいかな、と思ってくれる人はほとんどいない。しかし、度々学校を訪問して子どもたちの様子を見ていると、危険な状況に来ているのではないかなと思う。
 ホームセンターで鼻水が止まらなくなる子、家具屋で頭が痛くなって外に出る子、新車にしたら窓を開けないと乗れない子、油性ペンで気分が悪くなる子、プールの塩素消毒施設の傍を通ると咳き込む子(全部別の子)が私の知っているだけでも、学年50名くらいの中で、これだけいる。これらの症状はすべて、発症者が思い当たる症状だ。
 今では化学物質過敏症という言葉は知らない人はいないくらい浸透してきた、しかし、特別な、稀な病気と考えている人がほとんどなので、わが子の症状と結びつかない。そして、有害なものを使い続けているという状況がある。30年前は花粉症の子どもはいなかったが、今は大変多い。発症者が増えてから認知されるのでは、遅過ぎる、重症者が増える前に、みんなが気をつけて有害なものを排除できるように、CSに関する正しい知識を広めることが大事だ。

大島 ある近畿の行政にCSの相談窓口がないかと聞くと無いとの答え。シックハウス症候群はあると言う。重なり合っているし、よく似た病気だと言っても理解しない。なぜCSは無いのかと聞くと、医学界が認めていないからだと。病名が認められた後も、同じ対応である。ここをクリアしないといけないと思う。
 そのためには、患者さんの存在そのものを見せていくことだと思う。目の前に困っている患者さんがいるという事実から、医師もジャーナリストも出発しなくてはいけない。行政に対して、ここに患者という存在がある、何もしなくてもいいのかとつき付けていくということが大切。シックスクールで、一人一人が同じようなことを繰り返している。経験・蓄積を共有すること、行政が経験・蓄積のある人をアドバイザーとして生かすよう求める運動も必要ではないか。

槌田 化学物質アドバイザー制度はPRTR制度ができてつくられた。工場と住民の間の橋渡し役である。CSに対してまだ具体的な活動はできていないが、そういう役割の人間が必要であると感じた。患者さんは症状を訴えるだけで疲れてしまうが、その時に客観的に説明して相手が理解できるようにする人間(化学物質アドバイザー)が傍にいるといいと思う。理解されない苦しみは症状による苦しみに加えて増幅すると思うが、理解を助ける役割が担えればと思う。

質疑応答:省略

(まとめ 安間節子)

※当日参加されて、資料を受け取れなかった方には、後日お送りしていますが、まだ届いていない方は当会までご連絡ください。


やったね!病名登録記念シンポジウム宣言


<はじめに>

 化学物質には生活を便利にする反面、健康被害や環境汚染などのリスクがあります。そのリスクのひとつとして化学物質過敏症があります。化学物質過敏症の発症者にとって、現在の化学物質であふれた社会で生活することは、苦しく困難な状況です。ひとたび発症すると、農薬や有機溶剤、合成洗剤、食品添加物、タバコなど、多くの化学物質にごく微量でも反応し、普通の生活が困難になります。しかし、この病気への社会的認知が低いことから、身近な家族にさえ理解と配慮を得られない事もあり、人間関係の軋轢を生じる場合も多くあります。また、多くの発症者が職を失い住める場所も無くなるという事態に追い込まれています。
 ここに来て、多くの方々の長きに渡る働きかけが実り、2009年10月1日より、化学物質過敏症はICD-10コードのT65.9に分類され、「詳細不明の物質の毒作用」によるものとして正式な病名に認められました。精神的な疾病ではなく、身体的な疾病であるとされました。これはドイツ、オーストリアに続くものです。今回の病名登録は、化学物質過敏症の問題解決に向けた第一歩だと考えます。
 もうこれからは、新たな発症者を生み出さない、次世代のこども達が化学物質による健康被害を受けることの無い社会であるべきです。そして、化学物質への依存を最小限とする社会を実現することが急務です。

よって次のことを宣言し、国と社会に要望します。

<宣言>

 私たち誰もが、有害な化学物質にさらされない権利を認め合います。発症者は、化物質過敏症であることを表明し、周囲の人々はこれを理解し配慮していきます。化学物質による汚染は、目には見えなくても人体や生態系に有害な影響を与えていることを社会のすべての人の共通の認識とします。化学物質過敏症は、環境汚染が広がっていることを人々に知らせる赤信号であるという認識の下、社会制度や法律を含めた環境改善を行います。私たち誰もが、あたり前にどこにでも住み、自由に行きたい所に行き、学校や職場に行く事が可能な社会を築くことをここに宣言します。

<要望>
  1. 化学物質過敏症の社会的認知の推進を求めます。
  2. 化学物質過敏症の医療の充実、転地施設の設置、経済的支援、社会保障など、発症者の救済体制の整備を求めます。
  3. 予防原則を基本にし、より安全な物質への代替を求めます。
  4. 以上を踏まえた、根本的な化学物質対策についての法律の制定を求めます。
2009年10月31日
やったね!病名登録記念シンポジウム参加者一同



化学物質問題市民研究会
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