ピコ通信/第67号
発行日2004年3月22日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 自閉症の原因と疑われるワクチンの水銀添加
    予防原則を適用してやめるべき
  2. 海外情報
    圧力処理木材からの遅れた教訓 (CCAヒ素防腐処理木材の問題)
  3. 子どもの化学物質対策 自治体アンケート調査結果
    アンケート調査の方法と内容
    子どもの環境健康 自治体回答・個別評価一覧
  4. 徹底討論会 『ダイオキシン神話の終焉』をめぐって
    ダイオキシンは安全か/藤原寿和
  5. 化学物質問題の動き(04.02.21〜04.03.20)
  6. お知らせ/編集後記


自閉症の原因と疑われるワクチンの水銀添加
予防原則を適用してやめるべき


 3月7日(日)、TBSの"報道特集"で「自閉症は水銀? 新療法」が放映されました。自閉症の治療法として今注目されているキレート療法を紹介したものです。
 番組では、自閉症の原因として水銀が疑われていること、水銀を除去するキレート療法(注)によって症状が改善したアメリカと日本の例が紹介されました。

■自閉症と水銀の関係は?

 自閉症と水銀との関係については、本紙59号(03年7月発行)でも、佐藤章夫・栄養医学研究所長の寄稿文を掲載しました。その中で佐藤所長は、
 「当研究所では爪を用いた体内重金属の分析を行っているが、平成13年10月から平成15年4月末までに1,500名強の日本人の分析を行った。内75名の小児自閉症の98%で、水銀濃度が許容範囲を上回る結果が出ている。これら水銀中毒症例をもつ小児の多くは、生後の早い段階から水銀の暴露を受けていた。その背景には、小児を対象に接種するワクチンに含まれるチメロサールという有機水銀を含んだ防腐剤が存在している」と書いています。

 横浜衛生研究所のホームページ (http://www.eiken.city.yokohama.jp/infection_inf/thimerosal1.htm) 資料によると、米国科学アカデミーの医学協議会(Institution Of Medicine : IOM)は、予防接種安全性検討委員会で、「チメロサールを含むワクチンと神経発達障害」について検討し、おおよそ、次のような結論を2001年10月に示しました。

 ”チメロサールを含むワクチンの接種を受けることと神経発達障害とが関係しているとの仮説は、立証されてはいないが、生物学的にはもっともらしく思われる。また、チメロサールを含むワクチンの接種を受けることと自閉症・注意欠陥多動性障害(ADHD:Attention Deficit / Hyperactivity Disorder) 言語発達障害などの神経発達障害との間の因果関係については、肯定するにも否定するにも十分な証拠がない。”

 以上のような結論を踏まえ、米国の医学協議会(Institution Of Medicine : IOM)の予防接種安全性検討委員会は、チメロサールを含まないワクチンの使用を勧告しました。

 厚労省は「十分なデータがない」と禁止 していませんが、番組では自閉症と水銀の関係が疑われるとして、主要な水銀曝露の原因として予防接種ワクチンに防腐剤として含まれる水銀(チメロサール)を取り上げました。
 この問題は以前から問題とされ、厚労省では1999年にワクチンメーカーに対して水銀の含有量を減らすように指導し、メーカーは10分の1に減らしました。
 ところが、メーカーの一つである北里研究所では、水銀を使わないワクチンに既に切替えて生産しているというのです。
 厚労省の医薬食品局安全対策課の平山佳伸課長は、なぜメーカーに対して水銀を使わないように指導しないのかとの取材記者の質問に対して、以下のように答えています。
 「データを見ても、水銀と自閉症の関係を実証するには十分ではない。(水銀と自閉症の間に関係があるかどうかは)どちらとも言えない」

■予防原則を適用すべき

 予防原則では次のように述べています。
  • ある行為が人間の健康あるいは環境に危害を与える恐れがある場合には、原因と結果の関連が科学的に完全には証明されていなくても、予防的措置がとられなくてはならない
  • 潜在的に有害な行為や物の代替を探し、より害の少ないものを使用すること
 自閉症の疑われる水銀添加ワクチンを、水銀を使わないワクチンに切り替えた北里研究所のアプローチがまさに 「予防原則」 であり、一方、「十分なデータがない」として水銀の使用を禁止しない厚労省の対応は 「予防原則」 をまったく無視しているものです。
 たとえ、自閉症との関係が将来否定されることがあっても、水銀の神経毒性はもう十分に証明されているのですから、なぜ水銀を使わないようにと指導しないのでしょうか。

 この発言を聞いてすぐに薬害エイズのことを連想しました。非加熱製剤とHIVとの因果関係を知りながら、未だ生産体制が整っていない製剤メーカーのために禁止するのを故意に遅らせたという犯罪行為をです。
 ワクチンメーカーとの癒着は厚労省にはないと断言できるのでしょうか。ことは、子どもと家族の一生、さらには次の世代にも影響のある問題なのです。
 予防原則に則り、ワクチンへの水銀添加はすぐにも禁止すべきことだと思います。
(安間 節子)

注: キレート(Chelation)療法は、体内から有害重金属や老廃物を取り除く方法の一種。キレートの語源はカニのハサミ。キレート剤は、カニがハサミでものをはさむような形で重金属と錯結合する薬剤である。



徹底討論会『ダイオキシン 神話の終焉』をめぐって
ダイオキシンは安全か

学物質問題市民研究会代表 藤原寿和

■はじめに

 昨年1月、日本評論社から『ダイオキシン 神話の終焉』という本が出版されました。著者は、東京大学生産技術研究所の渡辺正教授と目白大学人間社会学部の林俊郎教授です。

 この本は、"神話の終焉(おわり)"と副題が付けられているように、ダイオキシンが猛毒物質であるというのは一部の学者とマスコミが創り出した"神話"であり、「ダイオキシンで人は死んでいない」し、人体汚染の真の原因は農薬であるにもかかわらず、「ダイオキシン特措法」によってごみ焼却炉を規制するのは "魔女狩り" 以外の何物でもなく、この国を滅ぼす悪法は即刻廃止にしなければならない、などといった趣旨の過激な主張が繰り返されていることで、発売以降、センセーショナルな話題を提供してきました。

 この本に対する評価をめぐって、これまで「ダイオキシン猛毒説」を根拠に、ごみ焼却などのダイオキシン類の発生源に対して抜本的な規制を行うよう、法制定などの運動を進めてきた市民団体や専門家の間では、「きちんと反論すべき」、「いや、出版社を儲けさせるだけだから無視すべき」など、諸説紛々でした。
 これに対して私は当初から「反論すべき」という立場に立って、マスコミへのコメントや雑誌への投稿、出版社及び著者らへの公開討論会の要請などを行ってきました。本誌でも、第58号の巻頭に反論文を掲載しました。

 しかし、その後この本の広がりと影響は予想外に大きく、ダイオキシン特措法によって小型焼却炉の規制を受けた一部の業界が法規制の緩和を環境省に要請したり、あるいは、不法投棄された焼却灰の撤去を求める住民の運動を沈静化させるため、行政職員や保守系議員がこの本を「読め」と圧力を加えたり、また、ごみ焼却炉や最終処分場の建設をめぐる裁判で、被告の行政側がこの本を書証として裁判所に提出するなど、到底無視でき得ない事態になってきておりました。

■公開討論会が実現!

 この本の発売から1年近く経った本年2月14日、これまで10年近くにわたってダイオキシン問題に取り組んできた「止めよう!ダイオキシン汚染・関西ネットワーク」(以下「関西ネット)の主催で、著者のお二人と、この本の中で名指しで批判された専門家としての宮田秀明教授(摂南大学)と、法制定をはじめダイオキシン規制を求めてきた NGO 市民側として私(止めよう!ダイオキシン汚染・関東ネットワーク所属)がパネリストとして招かれ、初の公開討論会が開催されました。
 マスコミをはじめ市民の間でもダイオキシン問題はもうすっかり下火になっておりましたが、この討論会にはなんと200名の会場に300名を超える参加者があり、あらためてこの本をめぐる関心の大きさを実感させられました。参加者の中には、明らかに著者らが声を掛けたと思われる業界関係者の方々が多数見受けられました。

■鮮明になった著者らの政治的主張

 冒頭に主催者の関西ネット代表の山崎清さんから開会の挨拶があった後、まずパネリストから渡辺正、宮田秀明、林俊郎、藤原寿和の順にそれぞれ25分ずつ基調の話があり、その後、パネリスト間で、とくに藤原−林間でエキサイティングなやり取りがなされました。

 渡辺氏は、@ダイオキシンの環境汚染は農薬が主因、Aダイオキシンはアルコール、自動車排ガス、天然物の猛毒物質より毒性が弱く、現在の摂取レベルは安全なレベル、Bダイオキシン特措法により膨大な資金と労力を投入してまで減らさなければならない健康リスクはない、C国情が違うのだから外国に習う必要がない、などの点を力説。

 これに対して宮田氏は、@POPs条約などにみられるように、微量環境汚染物質に対する世界的な取り組みが行われている、A近年、ダイオキシンの毒性は胎児や児童に対する影響など、より強く評価されている、B環境汚染物質の母乳経由摂取量は食事経由摂取量よりもはるかに多い、CEUは食品と飼料にダイオキシン規制を導入、D塩素系プラスチックはダイオキシン発生量が多い、E焼却による燃焼生成物の種類は超膨大で、ダイオキシン発生抑制はそれらの発生抑制にもなる、Fダイオキシンの主な発生源が農薬という説は、その根拠となるデータ等に誤りがあるといったもの。

 もう一人の著者の林氏は、@ダイオキシン特措法が誕生したのは、毒性の知見ではなく、騒動で生み出された市民の不安、Aダイオキシン特措法は産・官・学・マスコミの共闘でできた、B70年代にダイオキシンの毒性はあらかたわかっていた、Cダイオキシンを今以上に減らす必要はない、減らしても摂取量には全く影響しない、Dダイオキシン特措法は焼却炉に特化した規制で、施設建て替えによる地方自治体の財政破綻や、木材業界への圧迫など社会的影響が大、などというもの。

 最後に私からは、@ダイオキシンの毒性と人体被害について、最新の科学的知見(特に胎児毒性や脳神経系への影響)を紹介、Aダイオキシンに対する国際的な規制の動向について、EUのTDW(耐容週間摂取量)や食品・飼料中のダイオキシンの規制指針値の設定、米科学アカデミーが母乳中のダイオキシン削減のための食事制限を政府に勧告、Bダイオキシン特措法は「亡国の法」との著者らの主張に反論、C過去の農薬蓄積説も事実に相違ないが、「焼却原因説」を否定はできない、焼却によって地球規模のダイオキシン汚染が生じている、D塩ビ等の焼却とダイオキシン発生の因果関係をめぐっては、著者らは無関係との説を誘導するために都合の悪いデータ等を無視している、Eカネミ油症問題については、一部の疾病(肝がん)の多発について「不適切な検査や医療の生んだ医原病」であるとの決めつけを行っているが、台湾油症をはじめ昨今の医学的知見の成果を無視している、との反論を展開しました。

 その後、主催者の方で予め予定された4名の方(塩ビ工業・環境協会、産婦人科医師、関西ネットメンバー2名)から5分ずつ意見表明がなされ、また、会場からも一人2分以内という厳しい制限条件つきで10人の発言がありました。

■はしなくも本音が露呈

 今回の討論会で鮮明になったことは、林氏は統計学的な知識も持ち合わせていないことと、事実関係の裏付けもなしに推測で決めつけを行っていること。また渡辺氏は、ダイオキシンの基準値(TDI)や規制値をEUや欧米各国のように厳しくしたら、焼却もできないし、魚をはじめ何も食べられなくなるといった、科学的判断よりも政治的判断を優先させた考えが根底にあることでした。このことがわかっただけでも、私にとっては一つの成果でした。


化学物質問題市民研究会
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