ピコ通信/第61号
発行日2003年9月20日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. REACH / EU の新化学物質規制 日本政府は産業界寄りの懸念表明
  2. 連続講座「化学物質から子どもを守るために」 2003年8月9日開催
    第1回「化学物質の毒性と子どもへの影響」
    北條 祥子さん(尚絅学院大学教授)
  3. 海外情報/多種化学物質過敏症(MCS)2段階の集団調査(上)
  4. 化学物質問題の動き(03.08.16〜03.09.19)
  5. お知らせ/編集後記


1.  REACH / EU の新化学物質規制
  日本政府は産業界寄りの懸念表明


 前号で中下裕子さんに報告していただいたEUの新しい化学物質規制案・REACHに対するその後の動き等について報告します。

REACHとは?

 もう一度、REACHとは何なのかについて見てみましょう。
  • REACHは Registration, Evaluation, and Authorization of Chemicals(化学物質の登録、評価、及び認定)の略称である。

  • 登録(Registration)は、企業に対しその製品の毒性及び人間や環境がそれらにどのように暴露するかについての情報を含むデータを用意することを求めるもの。企業の製品に関するこの情報についての責任と発生するコストは企業側に求められる。

  • 大量に製造される化学物質、あるいは特に有毒な化学物質は評価(Evaluation)が要求される。評価の結果、使用が禁止される化学物質もある。

  • 最も有毒な化学物質は認可(Authorization)が要求される。これらの化学物質の中には、発がん性物質、突然変異誘発性物質、生殖毒性物質、および難分解性で環境中に蓄積する化学物質が含まれる。認可対象の化学物質は、原則、上市禁止。特定用途向けの販売や使用を行うためには、リスクが極めて小さいこと、社会的経済的必要性が高く代替物質がないこと等を欧州委員会に証明することが求められる。

  • REACH の最大の特徴は、新たに開発される化学物質(新規物質)と既存物質の取扱いを同一にすることである。

  • REACH の根底をなすものは予防原則である。この原則は、化学物質が人間の健康と環境に脅威を及ぼす可能性がある時には、原因と結果についての完全な科学的証明を待つより、予防措置をとることである。これにより新たな情報が得られるまでに発生するかもしれないダメージを防ぐことができる。
日本政府は産業界寄りの意見を提出

 EUでは、7月10日を期限として、内外からパブリックコメントを求めていました。 7 月10日に、日本政府は以下のような意見を提出しています。EUでは、パブリックコメントを考慮しながら正式な案を10 月末までに採択したいとしています。

日本政府コメントのポイント
  1. 規制の目的に照らして過剰な義務を事業者に課すことは避けるべき。
    例えば、1t未満の少量の物質を含む全ての化学品に対して広範な情報の提供を求めており、産業界に過剰な負担を負わせるもの。既存の安全データシート(SDS )制度記載事項の見直し等で対応すべき。

  2. 内外の産品・企業への非差別を確保すべき。
    特に、成形品の中に含まれる物質に対する規制については、一般的、抽象的表現が多く、運用次第では必要以上に貿易制限的な効果を持つおそれがある。WTO協定上の義務との整合性は完全に確保すべき。
    条文中の登録条件が曖昧であるので、製品の対象をポジティブリストに示すとともに、ガイダンスを正式な規制案の作成時までに作成し、コメントを求めることを要請。

  3. OECD等で進められてきた規制制度の国際調和の動きとの整合性を確保すべき。
    特に、国際的に科学的知見の集積が進められている段階である内分泌かく乱作用が疑われる化学物質ついては、現時点で、特定の化学物質の製造・使用を制限するのは時期尚早。

  4. EU 加盟国内で規則案の適用の統一性、透明性、公平性を確保すべき。
    例えば物質の「評価」について、EU 当局として、加盟国の評価の統一性を維持する仕組みを整備すべき。

 なお、世界各国の政府、産業界、NGO から、約7,000のコメントが提出されたということです。産業界は幅広い業種から多くのコメントがあり、ACC(米国化学産業界)、CEFIC (欧州化学産業界)は大部のコメントを提出。

コメントを提出した日本の産業団体:

日本化学工業協会、日本石鹸洗剤工業会、日本ビニル工業会、日本化学工業品輸入協会・日本化学工業品輸出組合、日本自動車工業界、情報5団体共同(電子情報技術産業協会、日本電機工業会、ビジネス機械・情報システム産業協会、家電製品協会)、電子情報技術産業協会半導体環境・安全委員会、ビジネス機械・情報システム産業協会、在欧州日系ビジネス協議会(JBCE )等

 日本も加盟するAPEC(アジア太平洋経済協力会議・注)は、8月18日、REACHが中小事業者に課するコスト増、発展途上国及び輸出品が経済成長に重要な役割を果たしている国・地域に重大な影響を与えること、製品中に含まれる化学品への規制によって自動車、電子機器、その他消費製品などの川下産業に影響を与えるとの懸念を強調する企業寄りのプレスリリースを発表しています。

米国のREACHへの干渉発覚

 そうした中、9月に「アメリカのEU化学物質政策(REACH)への干渉 US Intervention in EU Chemical Policy」という報告書が発表されました。クリーン・プロダクション・アクションとグリーンピースが情報公開法に基づいて入手した資料と匿名の協力者からの資料からなる膨大な資料を Environmental Health Fund の Joseph DiGangi が分析した報告書です。(日本語訳:当研究会
 報告書には、ブッシュ政権下の米政府の環境保護局(EPA)、国務省、商務省、および米通商代表部が化学産業界とともにくり広げた REACH を弱体化するための大がかりで広範囲なキャンペーンの様子が描き出されています。以下に項目だけを挙げます。

 01年2月 政府チームの召集
 6月14日 産業界との調整
 9月 産業界の不満、政府の対応 アメリカ政府の無記名文書 (REACH批判)
 02年3月21日 パウウェル国務長官、行動を起す
 3月22日 国務省、EPA と産業界とともにドイツへ働きかけ
 4月9日 商務委員会の非公開会議
 5月21日 アメリカ大使の発言(産業界のREACHへのロビー活動を支援)
 5月28日 エバンス商務長官、デュポン社へ手紙を書く
 7月25日 アメリカ大使の警告(REACH への懸念)
 8月 ボッドマン商務副長官の発言(REACH批判)
 9月 国務省、EPA とともにロビー活動のためにブリュッセルへ
 10月 産業界の謝意
 03年3月 シュネーブル米大使、アメリカ関係者の参画をEUに要求
 4月29日 パウエル国務長官、REACH 発表前にロビー活動
 5月6日 国務省、産業貿易グループを支援
 5月12日 シュネーブル米大使、米の攻撃を否定、産業界参加を督励

日本政府も産業界の代弁者?

 予想はされていたことですが、EU内でも反対が多いようで、この先すんなりとは実現しない情勢のようです。
 日本政府が出したコメントや経産省のスタンスを見ると、産業界の負担が大き過ぎる、新たな化学品規制については、科学的根拠に基づくリスク評価・管理を基本とすべきで、内分泌かく乱物質については評価が定まっていないのに尚早だ、等が主張のようです。
 まるで、この規制によって影響を受けるのは産業界だけのような姿勢には、毎度のことながらがっかりします。私たち一般市民のことはいったいどこへ忘れ去られたのでしょうか。
 REACHは、安全性の立証責任が行政から製造・輸入業者へ移ること、既存物質・製品(成型品)中の化学物質についても義務づけられること、ユーザー産業にも安全性評価の義務を課すこと、基本にあるのは予防原則など、まさに画期的な内容と言えると思います。
 私たち市民は政府や産業界に対して、REACH成立の邪魔をしないよう監視していかなくてはなりません。そして、REACH同様、真に人の健康・環境を守る化学物質規制をつくることをめざしていきましょう。
(安間 節子)

(注) APEC加盟国・地域:豪 、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレイシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シ ンガポール、チャイニーズタイペイ、タイ、米、ベトナム


2. 連続講座「化学物質から子どもを守るために」 2003年8月9日開催
 第1回 「化学物質の毒性と子どもへの影響」
 北條 祥子さん(尚絅学院大学教授)


はじめに
 「子どもは小さな大人ではない。子どもの健康を何よりも優先する社会にしたい」というのが、私の持論です。12月に娘のところに孫が生まれ、ますますその思いを強めています。
 WHOは1947年に、「健康とは肉体的精神的ならびに社会的に完全に良好な状態であって、単に疾病や虚弱ではないという状態ではない」と定義しています。現在、わが国の国民の中で、このWHOの定義に当てはめて、健康だと言いきれる人はどのくらいいるでしょうか?
 健康な状態とは、恒常性(ホメオスタシス)が維持された状態のことです。私たちの身体の恒常性はホルモン系、自律神経系、免疫系が密接に連絡を取り合って維持してくれます。
 近年、健康を守るために重要な働きをしている、この"3大ネットワーク"が微量な化学物質により予期しないような影響を受けることがわかってきました。その代表例は、内分泌撹乱物質(環境ホルモン)による生殖異常(精子の減少、子宮内膜症、不妊症など)でしょう。環境ホルモンに関する研究が進むにつれて、微量な化学物質はホルモン系ばかりでなく、神経系や免疫系にも深刻な影響を及ぼす事例が多数報告されてきました。すなわち、化学物質過敏症、シックハウス、多動症、自閉症、アレルギー、自己免疫疾患(リ ュウマチ、川崎病、膠原病)などの要因の一つに、微量な化学物質の影響が指摘され始めたのです。

近年のアレルギー疾患の急増には環境要因が大きい
 現在、わが国では、この10年でアレルギー患者が急増し、国民の3人に1人は何らかのアレルギー性疾患を有していると言われています。遺伝子がたった10年で急激に変異することはありませんので、この10年の免疫異常(アレルギーや自己免疫疾患)の急増には、環境要因(大気汚染、農薬空散、地球温暖化、室内の空気汚染、室内の滞在時間が長くなったこと、動物性脂肪の多い食事、食品添加物、ストレスの増加)の影響が大きいと考えられます。
 しかし、実際にどのような環境要因が、どのようなメカニズムでアレルギーを増やすのかはまだよくわかっていません。アレルギーを増加させるような環境要因を科学的に明らかにして、危険要因を一つ一つ取り除くことが、アレルギーを減らすために大事だと思われます。

化学物質過敏症とは?
 化学物質過敏症(Chemical Sensitivity、CS)の定義や診断基準は、まだ、国際的には定まっていません。
 一般的には"化学物質に曝露されていったん過敏症を獲得すると、その後、極めて微量の化学物質で種々の不快な症状が出現してくる状態"と定義されています。一般的に認められる症状は、@眼の不快感、A咽頭痛、B頭痛、C筋肉・関節痛、D嗅覚過敏、E倦怠感、F集中力・思考力低下、G抑うつ・興奮・睡眠障害、Hめまい・吐き気、I便通異常、J湿疹皮膚症状、K月経異常・月経前緊張症・・・と実に多彩です。
 CSを最初に提唱したのは、シカゴ大学のアレルギーの専門医のRandolph博士であり、1956年のことです。彼は、この疾患の原因を"20世紀に合成された化学物質に対する生体の不適応である"と提唱しました。しかし、彼の提唱は、当時のアレルギー学会では全く認められず、Randolphはアレルギー学会を除名され、大学を追われ一開業医として終わっています。彼の著書は日本語訳されているので、興味のある方は読んでください。
 その後、1989年になって、エール大学のCullen教授が、多種類化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity、MCS)の概念を導入しました。MCSは"過去に一度に大量の化学物質に接触し急性毒性を発現した後か、または微量な有害物質に長期にわたり接触した場合、次の機会にごく微量で過敏な反応を示すだけではなく、多種類の化学物質に対して敏感な反応を示すようになってしまった状態"と定義されました。

シックハウス症候群、シックスクール症候群とは
 いうまでもなく、"Sick"は病気、"House"は家です。シックハウス症候群(Sick House Syndrome、SHS)とは、家の中の空気汚染物質やカビ・ダニなどが原因で起こるアレルギー性疾患も含めた一連の健康障害を総称した呼び名で、欧米の"Sick Building"に対応させた日本独特の造語です。現段階では、シックハウス症候群の定義や診断基準は研究者によって様々に異なり、まだ定まっていません。
 日本でシックハウス症候群が社会問題になりはじめたのは、1970年代に、省エネ政策として高気密・高断熱を最優先した住宅が建設されはじめた以降のことです。高気密高断熱自体は悪いことではないのですが、換気が不十分なまま生活すると、狭い室内空間に有害物質が高濃度で滞留し、発症者が急増したと推測されています。
 シックスクール症候群(Sick School Syndrome)とは、シックハウス症候群に対して、自宅でなく、学校の新築、改築、床ワックス、教材、防虫剤などが原因で起こる児童の健康障害のことをいい、このような健康障害を起こす学校のことを、マスコミ等では"シックスクール(Sick School)"と呼ぶことが多いです。

 ◆室内空気中の有害物質は健康影響が大きい
人が体に取り込むものの中で重量的にも容量的にも一番多いのは空気です。しかも空気は肺から直接、肝臓のような解毒機構を通さずに体内に入ります。したがって、もし、空気中に有害物質が含まれていると健康影響が大きいのです。そこで、昔から大気汚染物質の健康影響に関しては研究されてきました。最近では、大気汚染より室内空気中の有害物質の方が健康影響が大きいことが指摘され始めました。
 なぜなら、私たちは一生の90%以上の時間を室内で過ごしますので、私たちが吸い込む空気の約60%は室内空気だからです。しかも、東大の村上教授と加藤教授の研究では、人は室内空気でも床付近の空気を多く吸い込むそうです。村上教授の試算では、立っている時は53%、寝ている時は73%、床付近の空気を吸い込みます。
 背丈が低い子どものことを考えると、室内にはなるべく、有害化学物質を含むものは持ち込まない、ことに床付近には有害物質の発生源となりそうなものを置かないことや、子どもをベッドで寝かせるなどの自衛手段が大事かもしれません。

化学物質過敏症はどんな人がなりやすいか?
 米国・ダラスの環境医学センターと日本の北里研究所病院の化学物質過敏症専門外来を訪れた患者の特性をみると、次のような特徴が共通にみられます。
  1. 患者の70%以上は女性である。MCSが男性より女性に多い疾患であることは、世界的に共通に見られる現象です。その理由に関しては、女性ホルモンとの関係、女性が家庭内の在時間が長く、室内空気汚染物質の影響を受けやすいことなどがあげられています。
  2. MCS患者の約90%は何らかのアレルギー疾患を有する。アレルギーとMCSは非常に密接な関係のあることは確かですが、そのメカニズムなどの詳細はまだわかっていません。
  3. もう一つMCSの大きな特徴の一つは、"子どもと大人の症状のちがい"ばかりでなく、"大人の間の症状発現の個体差"が大きいことです。例えば、同じ新築やリフォームの家に入居しても、子どもはアレルギーが悪化することが多いが、大人では症状はさまざまで、全く症状が発現しない人、精神症状が強く出る人、頭痛が主として発現する人、アレルギーが悪化する人など、その人の体質により、大きな個体差が認められています。
一般に、化学物質により激しい症状を示す人を"化学物質に対する高感受性群"と呼びます。

子どもは小さな大人ではない
 化学物質に対する高感受性の代表は子ども(胎児、乳児、幼児)です。近年、欧米の先進国では、生理的な脆弱性の代表である子どもを基準にして、化学物質の安全評価を行うべきだという考えが強調され始めました。例えば、97年に米国のマイアミで開催されたG8(先進8カ国)環境大臣会議に提出された「子供の健康に関するG8環境大臣宣言(通称マイアミ宣言)」の中には、"環境中に存在する化学物質のリスク評価を検討するときには、子どもの健康保全を最優先しなければいけない"と明記されました。
 そして、その精神は、02年の「ヨハネスブルグ・サミットに向けたG8閣僚宣言」の中にも盛り込まれています。米国環境保健局(EPA)やG8環境大臣会合では、化学物質の高感受性群の毒性に関して、子どもと成人の間に以下のような量的および質的な違いがあることが強調されています。
  1. 子どもは大人と比べ、体重1キログラム当たりの水分、食物、空気の摂取量が多い。アメリカの調査では、1〜5才の子どもは成人の3〜4倍の食物を摂取することや幼児は大人の2倍の空気を吸い込むことが報告されている。また、実際に食品中の残留農薬量を実測し、そのデータを子どもが多く摂取する食品に当てはめて試算すると、子どもは大人よりかなり多くの農薬類を摂取する可能性が高いと報告している。

  2. 子どもの生活・行動は環境中の汚染物質を取り込みやすい。例えば、子どもは手から直接口にもっていく習性があるため、土壌や水質中の環境汚染物質の影響を受けやすい。

  3. 子どもの代謝系や解毒機構は成長途上にあるため、大人より有害物質の解毒や排出がうまくいかない。子どもは大人より急性毒性を示しやすい。また、子どもの成長や発達は急速であり、成長の盛んな時期に有害物質を取り込むと、その影響が大きい。

  4. 子どもの神経系、免疫系、生殖系の発達には臨界期がある。臨界期に受けた影響は一生涯残る。ことに胎児期、乳幼児期の神経系の発達段階では、脳の保護機構である血液脳関門が形成されていない。そのため有害物質(鉛、水銀、農薬類)に曝露されると、それらはすべて脳まで達してしまうため、脳の構造異常、また、神経系のネットワーク形成障害による行動異常などの原因となる可能性が高い。

  5. 子どもは大人より長生きする。早い時期に環境中の有害物質に曝露されたことが引き金になって起こるような慢性疾患は、時間をかけて重症化する可能性がある。例えば、ベンゼンで誘発される白血病、DDT で誘発される乳がん、農薬類で誘発される可能性があるパーキンソン様疾患などの慢性疾患などではそのことが指摘されています。 これらの病気の多くは、ごく初期の有害物質曝露が引き金になるが、実際の兆
    候を現すまでには長い年月を要すると考えられています。結果として、人生の初期に受けたある種の発ガン物質や毒性物質曝露の方がある年齢以降に曝露された有害物質の影響より大きいと考えられます。

 この5つの他に前述したように、シックハウス症候群でも、子どもは背丈が低いので床付近の有害物質の影響を受けやすいことも考慮すべきでしょう。

人の顔が違うように解毒にも個人差
 昔から、薬が早く分解する人とそうでない人がいることから、薬物の解毒作用には個人差があることが知られていました。薬物の解毒をする酵素を薬物代謝酵素と言います。薬物代謝酵素活性には遺伝的差があることを、遺伝子多型を示すといいます。例えば、昔から酒に強い人と弱い人がいますが、それはエタノールが体内で変化してできるアセトアルデヒド(有害物質)を分解するアルデヒド脱水素酵素の遺伝子多型に由来しています。
 シックハウス症候群の主要な原因物質であるホルムアルデヒドもアルデヒドですので、アルデヒド分解酵素の遺伝子多型で影響を受ける可能性があると考えられ、いろいろと研究されつつあります。薬は化学物質ですから、化学物質の解毒にも遺伝子多型による個人差が関与している可能性があり、この点について研究は開始されておりますので、そのうちいろいろと明らかになってくるでしょう。

シックハウス症候群や化学物質過敏症にならないためには?
社会的対策
 化学物質過敏症は特殊な人がなる病気ではなく、現代人なら、誰がいつ発症してもおかしくない病気です。したがって、この問題は個人的な努力では決して解決しません。社会全体でこの問題を自分自身の問題として考え、薬をはじめとする化学物質の乱用を防ぐような抜本的な対策を、皆で知恵を出し合って考えることが大事です。
 "子どもの健康を守る"ことに反対する人はひとりもいないでしょう。この誰でも一致できることを最優先で考え、経済性や利便性は二の次にして欲しいのです。予防原則を重視した対策を早急に検討していく必要があるのではないでしょうか?
 "Think Future Act Now!"私はこの言葉を最後に皆さんに贈りたいと思います。
 そうは言っても、それまでは自衛する必要があります。

自衛手段としては
  1. 日ごろから規則正しい生活、バランスのよい食事、適度な運動を行い、免疫力を高めておきましょう。免疫力がきちんと保たれていると簡単には病気にならないものです。
  2. 殺虫剤、防虫剤、芳香剤も化学物質です。使いすぎないようにしましょう。
  3. 薬は程度の差はありますが、どんな薬にも必ず身体によくない作用がありますので、医師の指示にしたがって飲みましょう。日本人は薬好きと言われます。自己診断して安易に売薬を購入して飲むことはさけましょう。
  4. 食べ物はなるべく農薬使用や添加物の少ない食物を、食器はなるべく有害物質を含まないものを選びましょう。見栄えより安全性を重視しましょう。
  5. 身体に入ってしまった有害物質は早く身体から出しましょう。呼吸で入ってきたものは、汗と一緒に排出されます。運動や入浴により、汗と一緒に有害物質を早く出しましょう。また、食品から身体に入るダイオキシンなどの水に溶けにくい物質は繊維性のものをたくさんとって、繊維に吸着させて便と一緒に有害物質を排出しましょう。
  6. 室内の換気をよくしましょう。ことに高気密高断熱住宅では、小まめに換気をしましょう。また、活性炭、御茶殻、使用済みの紅茶パック、観葉植物には有害物質を吸着する作用がありますので、それらを利用して室内の有害物質濃度を減少させましょう。


化学物質問題市民研究会
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