ピコ通信/第61号
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1. REACH / EU の新化学物質規制 日本政府は産業界寄りの懸念表明 前号で中下裕子さんに報告していただいたEUの新しい化学物質規制案・REACHに対するその後の動き等について報告します。 REACHとは? もう一度、REACHとは何なのかについて見てみましょう。
EUでは、7月10日を期限として、内外からパブリックコメントを求めていました。 7 月10日に、日本政府は以下のような意見を提出しています。EUでは、パブリックコメントを考慮しながら正式な案を10 月末までに採択したいとしています。 日本政府コメントのポイント
コメントを提出した日本の産業団体: 日本化学工業協会、日本石鹸洗剤工業会、日本ビニル工業会、日本化学工業品輸入協会・日本化学工業品輸出組合、日本自動車工業界、情報5団体共同(電子情報技術産業協会、日本電機工業会、ビジネス機械・情報システム産業協会、家電製品協会)、電子情報技術産業協会半導体環境・安全委員会、ビジネス機械・情報システム産業協会、在欧州日系ビジネス協議会(JBCE )等 日本も加盟するAPEC(アジア太平洋経済協力会議・注)は、8月18日、REACHが中小事業者に課するコスト増、発展途上国及び輸出品が経済成長に重要な役割を果たしている国・地域に重大な影響を与えること、製品中に含まれる化学品への規制によって自動車、電子機器、その他消費製品などの川下産業に影響を与えるとの懸念を強調する企業寄りのプレスリリースを発表しています。 米国のREACHへの干渉発覚 そうした中、9月に「アメリカのEU化学物質政策(REACH)への干渉 US Intervention in EU Chemical Policy」という報告書が発表されました。クリーン・プロダクション・アクションとグリーンピースが情報公開法に基づいて入手した資料と匿名の協力者からの資料からなる膨大な資料を Environmental Health Fund の Joseph DiGangi が分析した報告書です。(日本語訳:当研究会) 報告書には、ブッシュ政権下の米政府の環境保護局(EPA)、国務省、商務省、および米通商代表部が化学産業界とともにくり広げた REACH を弱体化するための大がかりで広範囲なキャンペーンの様子が描き出されています。以下に項目だけを挙げます。 01年2月 政府チームの召集 6月14日 産業界との調整 9月 産業界の不満、政府の対応 アメリカ政府の無記名文書 (REACH批判) 02年3月21日 パウウェル国務長官、行動を起す 3月22日 国務省、EPA と産業界とともにドイツへ働きかけ 4月9日 商務委員会の非公開会議 5月21日 アメリカ大使の発言(産業界のREACHへのロビー活動を支援) 5月28日 エバンス商務長官、デュポン社へ手紙を書く 7月25日 アメリカ大使の警告(REACH への懸念) 8月 ボッドマン商務副長官の発言(REACH批判) 9月 国務省、EPA とともにロビー活動のためにブリュッセルへ 10月 産業界の謝意 03年3月 シュネーブル米大使、アメリカ関係者の参画をEUに要求 4月29日 パウエル国務長官、REACH 発表前にロビー活動 5月6日 国務省、産業貿易グループを支援 5月12日 シュネーブル米大使、米の攻撃を否定、産業界参加を督励 日本政府も産業界の代弁者? 予想はされていたことですが、EU内でも反対が多いようで、この先すんなりとは実現しない情勢のようです。 日本政府が出したコメントや経産省のスタンスを見ると、産業界の負担が大き過ぎる、新たな化学品規制については、科学的根拠に基づくリスク評価・管理を基本とすべきで、内分泌かく乱物質については評価が定まっていないのに尚早だ、等が主張のようです。 まるで、この規制によって影響を受けるのは産業界だけのような姿勢には、毎度のことながらがっかりします。私たち一般市民のことはいったいどこへ忘れ去られたのでしょうか。 REACHは、安全性の立証責任が行政から製造・輸入業者へ移ること、既存物質・製品(成型品)中の化学物質についても義務づけられること、ユーザー産業にも安全性評価の義務を課すこと、基本にあるのは予防原則など、まさに画期的な内容と言えると思います。 私たち市民は政府や産業界に対して、REACH成立の邪魔をしないよう監視していかなくてはなりません。そして、REACH同様、真に人の健康・環境を守る化学物質規制をつくることをめざしていきましょう。 (安間 節子) (注) APEC加盟国・地域:豪 、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレイシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シ ンガポール、チャイニーズタイペイ、タイ、米、ベトナム |