ピコ通信/第48号
発行日2002年8月16日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. シックスクール対策・文部科学省交渉
    化学物質のために学校へ行けない子どもたちへの早急の対策を!
  2. 有害化学物質削減ネットワーク連続学習会第2回
    「PRTR制度の最新動向−経済産業省に聞く」
  3. 第33回 日本職業・環境アレルギー学会学術大会での発表から 【その1】
  4. 海外情報:
    ・子どもの健康に対する環境の脅威−2002年3月バンコク国際会議の紹介
    ・ベトナムの枯葉剤/エージェント・オレンジの被害者に早急の援助が必要
    ・パルプ工場の廃液でオスが増大−魚の性比率が歪む−
  5. 化学物質問題の動き(2002年7月18日〜8月8日)
  6. お知らせ/編集後記


1.シックスクール対策・文部科学省交渉
 化学物質のために学校へ行けない子どもたちへの早急の対策を!


 文部科学省は、化学物質過敏症患者団体などの働きかけの結果、ようやく重い腰を上げてシックスクール対策に取り組む姿勢を見せ始めました。
 7月24日、市民がつくる政策調査会の主催で「シックスクール対策に関する取り組み」について参議院議員会館で文部科学省交渉が行われました。集会では、化学物質過敏症患者団体を中心に約40人の参加者がシックスクール問題への対策について文部科学省と話し合いました。

質問状への文部科学省の回答
 交渉に先立って文部科学省へ質問状が出され、当日それに対する回答が示されました。
 以下に概要を紹介します。

【質問1】現在、化学物質過敏症(以下CS)の発症者数の把握もされておらず、不登校児童約13万人の中にはCSを原因として学校へ通学できない児童がたくさんいると思われる。文部科学省が実施するCSの児童生徒の実態調査の目的や進捗状況等は?
【回答1】本年度、学識経験者等の協力を得て、現在の学校における化学物質の室内濃度や過敏症としてのシックハウス症候群の児童生徒の現状等について調査を行い、その調査結果について分析・研究を行う。

【質問2】現在、大阪市ではCS児童生徒を対象にした教室の改築事業を、市民団体等との協力のもとに実施している。このような事業について、その費用の補助等を国が行う考えはあるか。
【回答2】子ども達が安心して学校教育を受けることができるような環境づくりを進めることは、学校の設置者である自治体の責務である。校舎等の建設及び改造を行う際に、室内空気を汚染する化学物質の発生のない、若しくは少ない建材の採用及び換気設備の設置等については国庫補助の対象とすることができる。設置者において、それぞれの実状に応じて適切に対応するよう、指導していきたい。

【質問3】CS児童生徒が学校へ行けない理由として、校舎等の建材・塗料なども原因だが、その他メンテナンス等のためのワックス、教材、防虫駆除のための農薬散布など、その原因は多くある。現状の認識とその対策についての考え、今後の施策等は?
【回答3】過敏症の児童生徒については、その原因となる物質や量、当該児童生徒の症状などが多種多様であることから、各学校において、養護教諭を含む教職員、学校医等が連携しつつ、個々の児童生徒の実態を把握し、支障なく学絞生活を送ることができるよう配慮して教育を行ったり、必要に応じて就学指定の変更を行うなど個別の配慮を行うよう、平成13年1月(本紙33号参照)、8月及び平成14年4月に各都道府県教育委員会等関係機関に対して通知を出すとともに、各種会議や研修会等の場において指導している。
 今後も、引き続き、過敏症の児童生徒への配慮について指導するとともに、「シックハウス症候群に関する調査研究」の中で、過敏症としてのシックハウス症候群の児童生徒の現状等について調査を行い、その調査結果について分析・研究を行いたい。

【質問4】本年2月「学校環境衛生の基準」が改訂され、身体に影響がある化学物質に対する濃度測定・換気等の規定が追加されたことは、大変評価できる。換気設備のない教室等についての整備の促進についての考えは?
 また、これまでに実施された濃度測定の結果等について示してほしい。
【回答4】「シックハウス症候群」に関し、厚生労働省からその原因となる化学物質の室内濃度指針値が示されていることを踏まえ、学校における化学物質の室内空気濃度の実態を把握することにより、今後のシックハウス対策の参考にするために調査を行い、昨年12月にホルムアルデヒドを含む4物質の調査結果について公表した(本紙42号参照)。
 この調査結果も踏まえ、本年2月に、学校環境を衛生的に維持するためのガイドラインである「学校環境衛生の基準」の改訂(注)を行い、新たにホルムアルデヒドを含む4物質の室内濃度について、検査回数、検査事項、検査方法、判定基準、事後措置等について盛り込んだ。
 なお、換気設備等の設置とともに、室内空気を汚染する化学物質の発生のない、若しくは少ない建材に大規模に改修する場合の工事については、国庫補助の対象とすることができる。小規模な改修工事の場合には、設置者が行うものであり、建物の維持修繕の経費として所要の地方交付税措置がなされている。

質疑応答から

◆学校現場はCSについて全く無知
 化学物質過敏症(CS)の実態調査を行うためには、まずCSの定義をしなくてはならないが、どう考えているか。
 CSについては明確な診断基準が未だない。現在、厚生労働省で厚生科学研究の研究班でシックハウス症候群の診断基準の研究が進んでいる状況。どういった考え方・調査内容で調査をすればいのかという所から専門家の知恵を借りて検討していきたい。

 専門家に任せるのではなくて、養護の先生にチェックを任せれば済むことではないか。新築・改築してアレルギーの子どもは増えたか等はすぐに調査できる。
 講習会、研修会を通じてCSについて話をしている。学校建築、学校で使っている何で発症したかは追求していかなくてはならない。学校に登校できない子どもの原因も多種多様で、その中で化学物質が原因のケースを見分けるのには専門家の手助けが必要。

 現場の養護の先生などはCSのことを知らないために、CSの子どもたちはひどい対応を受けている場合が多い。通達だけではなくて、報告をする義務を課すなどしなければ、問題点は文部科学省まで上ってこない。
 通達だけではなくて、県・制令都市の担当者を対象に事ある毎に講習会・研修会を通して周知徹底している。学校現場まで届くにはある程度時間がかかる。

◆すぐにできることは沢山ある
 調べる時は、難しく考えなくとも、ペンキを塗った所は苦しいとか、学校の理科室、コンピュータ室、図工室などに入ると苦しいなど、それぞれの学校現場の状況毎に答えてもらえばそれで済む。手遅れにならないように早くやってほしい。

未晒し蜜蝋ワックスを開発して、CS患者や敏感な人に使ってもらっている。いくつかの学校でも保護者が自費で買って使ってもらっている。保護者、建築業者、施設関係者にアンケート調査もしている。
 化学物質の濃度調査をするのもいいが、合成ワックス、合成洗剤、農薬散布をやめる、換気扇を取り付ける、溶剤の入った文具を使う時は窓を開けるなどの対応で学校へ通えるようになる。大規模な改修などだけではなく、小さな対策にも対応してほしい。

 現在のことも調べないといけないが、私の調査では、校舎の改築等から何年も経ってから症状が出る子どもも多くいる。そのことを頭に入れておいてほしい。

 保育園で看護婦をしていて自身がCSを発症した。園では、喘息と診断されている子どもが全国データからみて多かった。しかし、喘息とCSによる症状は明らかに違い、私は子どもたちの咳はCSによるものだと判断していた。アレルギー医も知らないのだ。
 次男が通う小学校のクラスは学級崩壊状態だが、子どもたちはいつもの年よりも厚着をしたり、窓を閉めると頭痛を訴え、鼻血が出たりとCSを知っている者が見れば明らかにシックスクール状態。しかし、知識が無い者が見ると分からない。単に咳や鼻水が出るとかではなくて、神経をやられてしまうので怖いし、次世代への影響も大きい。

 大阪でCS児童が通えるように学校の改修工事を担当している建築家。先生方、養護の先生方、PTAなどに勉強会を開催しているが、「シックハウス、シックスクールというものがあるらしい」という知識程度。学校現場ではCSはほとんど理解されていない。
 あるCSの子どもは、化学物質濃度の数値が非常に低い所から高い所へ行くと、急に走り出したり高い所へ上ったりする。CSの知識がないと単に「変な子」と見られてしまう。

◆研究会のメンバーに患者を!
Q(議員)厚生労働省の研究でアンケート調査の中身の検討に時間がかかるということを聞いたが、患者団体などが既にやっているものを活用したり、提案してもらってそれを審議会にかけてはどうか。
 厚生労働省のシックハウス症候群の実態調査研究班の班長である飯倉先生がなぜ調査研究会のメンバーに入らないのか。
 メンバーになぜ私たち患者や保護者が入っていないのか。少なくとも参考人として意見を聞いてほしい。それなくしてはちゃんとした調査はできないし、本当の実態は分からない。
Q(議員)オブザーバーに患者さんを入れて、常時意見が聞けるようにしてほしい。


 文部科学省は、「こんなにやっているし、やろうとしている」と胸を張るのですが、本気でやるつもりなのかどうか疑問を抱くような答弁でした。また、「専門家の先生方にお願いしている」と何度も答えているのですが、学問的にも途上にあるCSの本当の専門家は患者自身あるいは保護者であるはずです。ともかく調査研究会が立ち上がるとのことですから、みんなで傍聴して意見を言っていきましょう。
 8月27日には化学物質過敏症患者会主催の厚生労働省交渉が予定され、当会も参加しますので、次号で報告します。(安間)
(注) http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/02/020202.htm に掲載


化学物質問題市民研究会
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