
3.第3期・連続講座 第2回 報告「おもちゃと化学物質」
10月21日(土)に行われた深澤三穂子さん
(「見直そう!こどものおもちゃ」実行委員会所属)の講演より(文責 当研究会)
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| | 深澤三穂子さん |
おもちゃは、赤ちゃんが安心して、お母さんのおっばいを飲む、その延長線上にあるものだと思います。安心して子どもたちに与えられるものを供給して欲しいと思うのですが、市場に出回っているものは、そうしたものとはかけ離れたものばかりです。
私は子育てを始めて16年になりますが、おもちゃをあまり買わないで来ました。化学物質の知識があったからではなく、乳幼児に与えるのに、どうしてこんなにどぎつい色の、冷たい、固いものしかないのか、と思ったからです。情緒的な面や感性を育てるのにふさわしくないという思いから、おもちゃのことを調べ始めました。
おもちゃの9割はプラスチック
1993年度
日本プラスチック玩具工業協同組合事業報告(プラスチック資材の消費割合の推定)*以後の統計なし
原材料名 |
使用量比% |
ポリスチレン |
50.7 |
塩化ビニル樹脂 |
22.0 |
ポリプロピレン |
16.9 |
ポリエチレン |
6.4 |
ポリアミド系樹脂 |
1.5 |
メラミン樹脂 |
1.3 |
ポリカーボネート |
0.6 |
メタクリル樹脂 |
0.3 |
その他樹脂 |
0.3 |
おもちゃの9割の材質はプラスチックで占められているので、プラスチックの問題を中心にお話していきます。材質でいうと、日本プラスチック玩具工業協同組合の93年の調査では、一番がスチレンで50.7%、次いで塩ビ22%、ポリプロピレン16.9%の順で使われています。製品中に残るモノマー、オリゴマー、触媒、成型時の熱分解物、添加剤、着色剤の問題などがあります。廃棄したあとも、焼却や埋立てた後にどんなものが出てくるか、ほんの一部しか研究されていません。法的規制も食品衛生法で一部行なわれているだけで、業界の自主基準任せ、情報公開も全くといっていいほどありません。
厚生省は「食品包装等関連化学物質の安全性に関する調査」というものを行なっていますが、アンケート調査による不正確なデータをもとにして、さらにデータを改ざんしているというものです。現状を見ると、そんなことを税金を使ってやっている場合ではないと思います。
塩ビと可塑剤
一番問題なのは塩ビです。モノマーの発がん性と可塑剤の問題があります。98年の大阪市消費者センターの調査では、おもちゃを含むプラスチックの日用品の中から、フタル酸ジエチルヘキシルDEHP、フタル酸ジプロピルDPRP、フタル酸ジブチルDBP等が溶出しています。さらにビスフェノールAも出ています。
同センターでは、これをもとに、消費者に注意を促すとともに、業界にも安全性の確保と表示を行なうよう要望書を出しています。この調査結果が、今年の厚生省による食品業界での塩ビ手袋使用自粛指導にもつながっているということです。
厚生省でも、塩ビのおもちゃ、食器からのフタル酸エステル類の溶出調査をしています。口に入れてどれくらい可塑剤が出てくるかを大人で調べるとともに、赤ちゃんがそういうものを口に入れている時間がどれくらいか等を調べています。これによると、赤ちゃんが口に入れている時間は平均73.9分、溶出量の平均は95.5マイクログラムです。
DEHPについては、環境ホルモン作用や発がん性はあまりないという方向になっています。IARCの発がん性評価で、DEHPが2B(可能性がある)から3(分類できない)へ格下げになったのは、ネズミの肝がん誘発のメカニズムが、霊長類にはあてはまらないからということです。それでも、生殖毒性があることははっきりしています。他のフタル酸エステル類も環境ホルモンの疑いがありますし、環境ホルモン対策商品として売られているものに使われている可塑剤も、アジピン酸ジエチルヘキシルDEHAなども環境ホルモンの疑いがもたれています。リン酸トリスイソプロピルフェニルからはフェノールが溶出してきます。
安定剤としては、鉛系、カドミ系、有機スズ系が使われていますが、どれも毒性があります。環境ホルモンのノニルフェノールは、リン酸系の酸化防止剤のトリスノニルフェノルホスファイトの中に含まれていて、それが溶出します。
他のプラスチックも危険
おもちゃにはABS、AS、BS等のスチレン系が一番使われています。ABS樹脂の原料のアクルロニトリル、ブタジエン、スチレンは、どれも発がん性があります。スチレンは海外の文献では環境ホルモンの疑いが持たれています。製造する時に使うベンゼン等も不純物として残留しますが、発がん性があります。私の経験で、子どもがスチレン系のおもちゃを入れていたのに気づかずにトースターのスイッチを入れて、すごい煙と臭いを出してしまったことがあります。あとから村田徳治先生にきいたら、シアン化水素(青酸ガス)、アミン、スチレンモノマー、各種のシアン化化合物などが出ていた可能性があると言われ、今から考えても恐ろしい経験をしました。
ビスフェノールAは胎盤や臍の緒等からも検出されています。受精して3週から9週目位までに環境ホルモンや薬物、毒物に曝されると、不可逆的な影響を受ける可能性があると言われています。生まれてから気をつけても遅いのです。ポリカーボネートの原材料はビスフェノールAですし、製造過程でホスゲンガスという毒ガスを使用します。問いあわせたら、分解して製品には残らないと言われましたが、私たちが日常使う製品の原料として使っていいものなのかは別の問題としてあります。エポキシ樹脂の原料はビスフェノールAと発がん性のあるエピクロロヒドリンです。
市民運動をしている団体や学者でも、ポリプロピレンは使っていいプラスチックであると言われています。私個人としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、どれも使っていいとは思えません。
国立医薬品食品衛生研究所の河村葉子さんがポリプロピレンの添加剤を調べた試験では、DEHP、フタル酸ブチルベンジルBBP等が検出されています。触媒を調合する時に可塑剤を入れるためということです。酸化防止剤としてフェノール系やイルガノクス1010等が出ています。これも将来問題になる可能性もあります。リン系のトリスノニルホスファイトも出ています。紫外線吸収剤には、環境ホルモンの疑いのあるベンゾフェノン系が使われています。着色剤としては、鉛、カドミ系が使われています。
メラミン樹脂やユリア樹脂、フェノール樹脂も、製造時にホルマリンを使います。フェノールも毒性があり、国立環境研究所の調査で、廃棄物処分場の浸出水から多く検出されています。ポリエチレンには低密度と高密度のものがあり、高密度の方は、触媒や添加剤の問題があって製造法を見た限り、使っていいプラスチックとは思えません。低密度もすぐ破れて、使い捨てにしかならないので、これも問題です。
ミニカーの問題点
ミニカーは材質、塗料、接着剤の3つが問題となります。日本のメーカーに問いあわせて調べました。材質では、トミーは一部亜鉛ダイキャストで、スチレン系プラスチックに換えてきています。エポックはABS樹脂のものもありますが、亜鉛ダイキャストのものをやめるつもりはないとのことです。セガエンタープライズはABS樹脂、アガツマは、アルミダイキャストで、窓等はスチレン系のものを使っています。
中国や東南アジア産のメーカー名のないものもたくさん売られています。マイストーという名古屋の会社が輸入して全国へ卸しています。現地では作業環境も悪く、労働者の健康被害がかなり出ているということです。一度現地を見て来たいと思っていますが、なかなか実現しません。
使う立場だけではなく、作る人のことまで遡っておもちゃのことは考えなければなりません。亜鉛は使う側からいうと、カドミ等の重金属類が不純物として付着している恐れもあるという問題があり、製造時中に労働者が蒸気で中毒することもあります。私たちは、働く人がそんな目にあうまでして、おもちゃを供給してもらいたくありません。
接着剤には、エポキシ系、シアノアクリレート系、ニトリルゴム系、酢酸ビニルエマルジョン、セルロース系、スチレン系、シリコン系等があります。溶剤のシンナーや可塑剤、有機スズ等問題の多いものが使われています。塗料にも同じような問題があります。
業界や行政の対応
おもちゃにはおもちゃデザイナーという人たちがいて、プラスチックの材質等をこの人たちが決めています。私の近くに、素敵な木のおもちゃを作っているデザイナーがいます。生業としては大手のおもちゃのデザインをしていて、塩ビはやめても、安全なプラスチックだったらいいんじやないかと言って、話が噛み合いませんでした。そういう人たちの認識をどうやって変えさせていくか、悩んでいるところです。使う側、供給する側が協同の場を設けて、安易にプラスチックを使わない方向を目指したいものです。
おもちゃの安全を管轄しているのは食品街生法ですが、1947年にできた法律で、おもちゃに限らず、現在の状況に適応できなくなっています。おもちゃの規格基準一覧表を見ても、何十年も前のおもちゃしか載っていません。指定おもちゃにホオズキとありますが、これは私も最初、こういうおもちゃがあると思ったのですが、植物のホオズキのことでした。しかもここに書いてあるものですら、検査を受ける義務はありません。
日本玩具工業協会も、重金属については1998年からISOと合致した国際規準をとりいれており、ST(セイフティー・トイ)マークというのを設定していますが、安全性は食品衛生法の範囲内のことしか見ていません。協会には約600社が加盟していますが、その下に2000〜3000の下請け、孫受け、孫下請けがいて、ほとんどが零細企業です。STマークをつけるのにも検査にお金がいるので、小さいところには無理な話です。
おもちゃの宿命的問題というのがあって、使用する材料の量が少ないため、きちんと管理されていない、何が入れられているか分からないような材料を使わざるを得ないというのです。協会で添加剤の調査をしようとしても、メーカーも実の所はわからないということで、調べようがないというのが実態です。メーカーの人も体をこわしたら、すぐ化学物質のせいではないかと疑うような状況です。
MSDS(化学物質安全性データシート)も大企業の話で、零細企業にとっては雲の上の話、PRTRも、むしろこういう下から網をかけていくべきではないか、というのが協会の事務局長の話でした。
子どもの水遊びに使う空気入りビニールは、他の塩ビのおもちゃはいらないとしても、必要なものでしょう。メーカーも、他の材料への代替化を試みてはいるけれども、商品になるようなものは未だできていないということです。
100円ショップの罪
100円ショップの大創という店に、「安全性が気になる人は他で買って下さい」という注意書きがしていました。質問したら、発注する量が多いので、不良品が混じる確率が高いからだという答えでした。安全性と不良品とは違う問題ではないかと思うんですが。
新商品を次から次へと並べて、買ったものも使い捨てられてどんどんごみになっていることを考えると、100円ショップの存在は、安全の面、ごみ発生の面からも、非常に問題だと思います。生活良品館というところでは、生産国名しか書いていなくて、どこのメーカーが外国で作らせて輸入しているか表示がされていません。問いあわせたところ、事故品でもない限り、発注元は教えてはいけないということでした。こういう、売る側が責任を問われない売り方をしていることも非常に問題です。
STマークがついているものも売っていますし、CEマークがついているもの、メーカーが全くわからないものなどもあります。こんなものが100円でできるはずはないし、チェックも不十分ですからあてになりません。100円で買えるから、親は気にせずに、どんどん新しいものを買い与えていく。子どもが飽きたり、壊れたりすればどんどん捨てていく。ごみ問題解決に全く逆行しています。
電磁波と化学物質
イギリスで今年、周波数の低い電磁波によって有害空中浮遊物質が帯電し、それをすいこむことで肺がんが増えているのではないか、という説が発表されました。有害化学物質と電磁波の相乗作用、促進作用もあります。
赤ちゃんを、コンセント、スイッチ、エアコン、ドライヤーのような家の中の電磁波発生源からできるだけ離すようにして下さい。私の子どもが小さい時、掃除機に乗るのが好きだったのですが、それが今ひどいアトピーになっている原因だったのかもしれません。面倒でも、そういうところから引き離す努力をして、子どもさんを守って欲しいと思います。