ピコ通信/第23号
発行日2000年7月18日
発行化学物質問題市民研究会
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目次

  1. シックハウス原因物質、総量規制へ
  2. EPA(米国環境保護局)、ダイオキシンをガンと結びつける
  3. 第9回日本臨床環境医学総会・抄録集より/続き
  4. 知られざる「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」
  5. 海外情報/脳の発達と子どもたちが曝される環境との関係について(1)
    (EHP「環境健康展望」6月増刊号より)
  6. 化学物質問題の動き(2000年6月)
  7. 新連続講座案内(第1回)/編集後記

1.シックハウス原因物質、総量規制へ
  ただし、低濃度曝露で起こる化学物質過敏症等には無力のおそれ

 6月26日、「第3回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」が開かれ、前々号でお知らせした「室内空気汚染に係るガイドライン(案)」に対するパブリックコメントに関する検討と中間報告書案の検討が行われました。当研究会でもパブリックコメントを出しましたので、検討会を傍聴しました。検討会では、次にガイドライン値を設定する4物質が決まり、今後総量規制について検討していくことも決まりました。

パブリックコメントと厚生省の回答
 意見提出者数は、36(企業:14、事業者団体:5、NGO:5、個人:12)で、のべ意見数は207件でした。
 では、主な意見とそれに対する厚生省の対応・考え方について見ていきます。なお、(☆)は、当研究会が出した意見です。

1.個々の物質単独の指針値だけではなく、TVOC(総揮発性有機化合物)について規制すべき。(4件 ☆)
:今後、TVOCの指針値を策定する予定。

2.指針のない他物質への移行が懸念されるので、類似の物質についても注意を促す説明が必要。(1件)
:TVOC指針値の策定方法に関する検討事項の一つに加える。

3.複合毒性を考慮すべき。(3件)
:2.に同じ

4.10年前にWHOでTVOC300μg/m3とのガイドラインがあり、さらに芳香族炭化水素で言えば50μgとのことだが、今回の指針値では3物質だけで1370μgになるから多いのではないか。(1件)
:直近のWHO空気質ガイドラインでは、指摘のTVOCや芳香族炭化水素類に関する指針値は確認できなかった。指摘の点は、1990年の第5回空気質と気候に関する国際会議で提示された文書によるもの。しかしそこでは数値の説明として、明確な毒性評価に基づいたものではない旨記載されている。

5.指針値がWHOに比べても高すぎる。個人差があるはずであるし、低濃度長期暴露が問題になる場合は当てはまらない。(1件)
:トルエン及びキシレンの指針値は、直近のWHO空気質ガイドラインで示されている数値と同じ数値。また指針値の算出においては、ヒトの個体差を考慮し、不確実係数10で除すことにより、補正を行っている。
 一方、パラジクロロベンゼンの指針値は、より直近の評価可能な知見として、WHOが採用したデータとは異なる、ビーグル犬を用いた経口投与実験のデータから算出した。得られた指針値240μg/m3は、WHO空気質ガイドラインに示されている134μg/m3よりも高いが、後者については、算出の過程に不明確な部分があったことから、算出過程が明確に示される前者を指針値として採用した。

6.シックハウス対策のための指針値設定であるのだから、アレルギーや化学物質過敏症への対策を基本にすべき。今すぐには無理ということであれば、少なくとも将来的な削減計画と目標値を設定するべき。(1件 ☆)
:今般の指針値策定は、既存の毒性知見をもとに、耐容1日摂取濃度(TDI)を算出し、個体差等の不確実係数で補正し、より影響を受けやすい方々をも考慮した。これによって室内汚染レベルの低減化が促進されるものと期待する。なお、アレルギーや化学物質過敏症を考慮した指針値策定では、極めて低濃度での汚染が問題となり、個体差も非常に大きいことから、現時点で定量的なリスク評価は困難であり、むしろ慢性暴露による中毒量を指標とした指針値を策定して、その普及に努めることで、いっそうの室内汚染の低減が図れればと思っている。

7.目的と対象選択基準を書くべきである。(1件 ☆)
:指針値を設定することにより、室内汚染の低減化を促進し、快適で健康な居住空間を確保することが目的であり、対象物質は、実態調査の結果、一部の家屋で非常に高い汚染が認められた3物質をまず選んで、指針値策定を試みたところである。その旨報告書に記載する。

8.今回の3物質を選択した理由を記載すべき。他にも危険な物質があるがなぜこの3種だけなのか。(2件 ☆)
:先に行われた「居住環境中の揮発性有機化合物の全国実態調査」の結果、一部の家屋における室内空気汚染が高かったトルエン、キシレン及びパラジクロロベンゼンの3物質について、まず、室内濃度指針値の設定を試みているところ。今後は、実態調査の結果も踏まえ、これら3物質以外のVOCについても、指針値を策定していく。

9.指針値の対象物質としてベンゼンも加えるべきだと思う。ベンゼンは揮発性が高く、発がん性の疑いがあり、新築住宅でも確認されたとの資料があるからである。(1件)
:今後順次室内濃度指針値の策定を検討していく物質にベンゼンも含まれる。

10.クロロホルムについてもWHO空気質ガイドラインを超えた事例が2〜3割あることを考えると、今回の規制対象に入れるべき。(1件 ☆)
:8と同様

11.シロアリ駆除剤や殺虫剤等の薬剤についても、緊急に調査し基準値を設定すべき。(1件 ☆)
:それらの薬剤についても、室内濃度指針値の策定を検討したい。

12.指針値を強制力のある規制値とすべきと考えるがどうか。(2件 ☆)
:指針値の策定によって、住宅施工者による、VOCの室内濃度の低減化のための、自主的な住宅構造や仕様等の改善の取組みが期待できると考えている。なお指針値策定以後も、汚染実態に改善がみられないことが明らかになった場合は、法的な裏付けのある規制値の設定について検討する必要があると考えている。

13.個体差に関する安全係数を一律に10としているが、子供や老人、過敏症の人たちなど、より強い影響を受ける可能性がある人たちのことを考え、更に厳しくするべき。(1件)
:個体差に関する不確実係数は、「10」が一般的に広く認められており、これによって、より強い影響を受ける可能性がある場合も考慮した補正が行われる。しかし用量−反応曲線が急勾配である場合や安全域が狭い場合等、物質の性状や個体の特殊な罹患状のために慎重な検討が求められる場合については、係数の必要な調整を行い、より厳しい評価が行われる。

14.パラジクロロベンゼンの指針値は、WHOのガイドライン134μg/m3と比較しても2倍と高い。日本は血中濃度も高いのだから、少なくともWHOガイドライン以下にすべき。(1件 ☆)
:WHO空気質ガイドラインに示されている数値については、その算出過程に不明確な部分があることから、より直近で算出根拠を明らかにできるビーグル犬の実験データを用いた。

15.パラジクロロベンゼンについては3.2ppbでモルモットのアレルギー性結膜炎をひどくした実験があり、さらにマウスで発ガン性が確認されていることを考えて、ガイドライン案の2000分の1のレベルに変更すべきである。(2件 ☆)
:指摘のモルモットを用いた実験では、32ppbよりも高濃度になると逆に増悪効果が弱くなることが観察されており、本実験の結果を指針値策定の根拠とするには、TDIの算出とは異なる方法論が必要になると思われる。 また、「マウスで発がん性が確認されていること」に関しては、「マウスの種特異的な高感受性の結果によるものであり、ヒトへのリスク評価に反映させることは困難」とされており、指針値策定の根拠にはならないと考える。

16.パラジクロロベンゼンの汚染源はトイレタリーと防虫剤の二つであることを考えると、両者の製造・販売を禁止することが最も有効であると考えられるがどうか。(4件 ☆)
:現時点では、策定した指針値をもって、安全性は確保できるものと考えている。今後の汚染実態の推移や新たな知見の集積により、必要な見直しを検討していきたいと思っている。

17.室内空気汚染の削減効果を得るためには、単に指針値を決めるのではなく、化学物質による室内汚染対策全体の中に位置づけるべきである。(1件 ☆)
:今後の方針参照のこと。

18.健康被害実態調査も併せて実施するよう要望する。(1件 ☆)
:今後の検討課題と考える。

ガイドラインはシックハウス病対策ではなかった
 意見で多かったのが、TVOCの規制をすべき、複合汚染への対応の必要性、指針値が高過ぎる、子どもや化学物質過敏症などの人への考慮が足りない、パラジクロロベンゼンの製造・販売を禁止すべきなどです(測定法については省略)。
 これに対して、TVOCについては今後取り組む、他のVOCについても順次指針値を決めていくという対応が了承されました。
 当会でも出し、意見が多かった化学物質過敏症やアレルギーへの対応については、きわめて低濃度のレベルの問題であり、個人差も大きく現時点ではリスク評価が困難という理由で、今回の指針値の対象外とされました。
 つまり、今回の指針値はシックハウスで深刻な問題になっているこれらの疾病にはほとんど無力であるということです。なぜ、指針値を設けるのかについて、「室内空気汚染実態調査の結果、一部の家屋で室内空気汚染が高かったトルエン、キシレン及びパラジクロロベンゼンの3物質について、まず、室内濃度指針値の設定を試みた」としていることから、シックハウス症候群を未然に防ぐための指針値ではないということがわかりました。
 指針値の根拠になっている毒性評価方法は、中毒量に基づく従来の方法です。中毒症状はミリグラム、アレルギーはppm、化学物質過敏症はppb〜pptのレベルで起こるとされていますから、これではシックハウス症候群は防げません。

日本の家屋の高濃度レベルを下げるのが目的
 検討会で委員たちから出された意見を紹介しましょう。

◎指針値を下回っていても、シックハウス症候群になった場合は、どのような対応をするのか。
厚生省:化学物質過敏症については、今後の研究課題。指導方法も含めて、今後のガイドラインに反映していくことも可能。

◎上記の場合、測定費用返還訴訟を起こされないか。
厚生省:計測した物以外に原因があるのかもしれないし、TVOCについては今後の検討課題。

◎「シックハウス」というタイトルはどうか。一般の人はシックハウスをクリアしていると取るだろう。
座長:我々はシックハウス症候群対策について検討しているわけではない。今の日本の家屋のVOCは高いレベルにあるから、何とかしたいというのが検討会の目的である。

◎個体差係数の「10」の中には、病的な人たちのことは含まれるのか。
委員:病的な場合は個々に考えていくべき。

◎検討会まとめの中の「指針値は、健康影響を受けないであろうという値を意味する」という表現は、低濃度レベルについても有効と誤解される。
厚生省:きわめて低い曝露量で起きる場合については、対象としていない。

◎次に取り上げる物質にクロルピリホスが含まれているが、防蟻剤としてピレスロイド系に塩素をつけた物が使われてきているという情報もある。その辺の情報も集めてほしい。

今後の動きに注目
 検討会では今後の方針として、個別のVOCについては引き続き指針値の策定を進めること、TVOCの指針値策定の方法についても検討していくこと等が決まりました。次の指針値策定の対象は、エチルベンゼン、スチレン、フタル酸エステル、クロルピリホスの4物質です。次回検討会は9月末です。
 今回、シックハウスに係わる室内濃度指針値の設定ということで、私たちは大いに期待したわけですが、よちよち歩きの第1歩という段階のようです。これから、しっかり歩くように口も出し、厳しく見守って(見張って)、育てていきましょう。(安間)


4.知られざる「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」

■複雑な化学物質関連法
 日本の化学物質関連法は、縦割り行政とあいまって、複雑すぎて、なかなかその全貌を理解することができません。関連法は100以上あると言われ、主要なものとしては、「化学物質の審査及び製造の規制に関する法律(化審法)」、「毒物及び劇物取締法(毒劇法)」、「薬事法」、「食品衛生法」、「農薬取締法」、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」があります。さらに産業関連、公害関連、廃棄物関連、労働衛生関連、医療衛生関連等の法律があります。
 ここでは、薬事法、食品衛生法と並ぶ、私たちの生活に直結した法律でありながら、あまり知られていない「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」の内容について見ていきたいと思います。この法律は1973年10月12日に厚生省所管の法律として制定されました。前後して化審法と、通産省所管の「消費生活用製品安全法」が制定されました。

■知られていない法律
 この法律の目的は、「有害物質を含有する家庭用品について保健衛生上の見地から必要な規制を行なうことにより、国民の健康の保護に資する」となっています。施行時の厚生省通知では「この法律は、近年、化学工業の発展等により各種の化学物質が、家庭用品として使用されたり、処理剤、加工剤等として繊維製品、洗剤、塗料等の家庭用品に使用され、防縮性、防かび性等の品質向上に資する反面、これによる健康被害が生じているところから、保健衛生の見地からこれらの規制を行い、食品、医療品等を除いて従来規制が及んでいなかった家庭用品一般の衛生の確保を図り、もって国民の健康の保護に資することを目的として制定されたものであること」とあります。
 この法律でいう「家庭用品」とは、「主として一般消費者の生活の用に供される製品」と広い範囲のもので、すでに安全性規制法のあるものは除かれます。「有害物質」とは、「家庭用品に含有される物質のうち、水銀化合物その他の人の健康に係る被害を生ずるおそれのある物質として政令で定める物質をいう」となっています。
 規制手段としては、基準の設定、販売等の禁止、回収命令、またこの法律の職務遂行のために、家庭用品衛生監視員が置かれています。

■指定有害物質と対象家庭用品
 有害物質と対象の家庭用品は政令で定められます。施行時には、5物質が指定されました。塩化水素・硫酸(液体状の住宅用洗浄剤)、塩化ビニルモ ノマー(家庭用エアゾル製品)、有機水銀化合物(下着、手袋、おむつなどの繊維製品、家庭用の塗料、接着剤、ワックス等)、ホルムアルデヒド(下着等肌に直接触れる繊維製品、乳幼児用繊維製品、つけまつげ、かつら等)です。それが現在では16種に増えています。
【77年9月24日追加】
トリスホスフィンオキシド(寝具・カーテン等の繊維製品の防炎加工剤)、ヘキサクロルエポキシオクタヒドロエンドエキソジメタノナフタリン(別名デイルドリン)(下着類、寝具、外衣等の繊維製品の防虫加工剤)で、両者使用禁止。
【78年9月27日追加】
トリスホスフェイト(繊維製品の防炎加工剤)、トリフェニル錫化合物(下着、手袋、おむつ等の繊維製品、家庭用塗料等の防菌・防かび加工剤)で、両者使用禁止。
【79年12月18日追加】
トリブチル錫化合物(繊維製品、家庭用塗料等の防菌・防かび剤)が使用禁止、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム(家庭用の洗浄剤)は含有量と容器強度の規制。
【81年7月27日追加】
4・6-ジクロル-7-(2・4・5-トリクロルフエノキシ)-2-トリフルオルメチルベンズイミダゾール(防虫加工剤:同法では塩ビと合わせて一種類とみなす)、ビス(2・3-ジブロムプロピル)ホスフエイト化合物(防炎加工剤)が使用禁止。メタノール(溶剤)が含有量規制。
【83年5月27日追加】
テトラクロロエチレン(家庭用エアゾール)、トリクロロエチレン(家庭用エアゾール)が使用禁止。

■事故防止・安全策の指導
 83年のあとは有害物質の指定はありません。替わりに出てくるのが、事故防止・安全策の指導と、業界による自主基準作りの指導です。以下、年月日は関連の通知の出された日です。
【88年1月12日】
「家庭用洗浄剤の適正使用の徹底について」(次亜塩素酸塩を含有する塩素ガス死亡事故から)
【89年2月8日】
「家庭用洗浄剤等による事故発生防止対策について」
【88年10月29日】
「黄色綿セーター等による事故発生の防止策について」(黄色色素と次亜塩素酸ナトリウムの反応による皮膚炎の発生から)
【93年1月28日と12月20日】
「防水スプレーによる事故防止策の通知」(スキーウエア等での事故)

■業界への自主基準作りの指導
 業界団体による自主基準作りの指導の成果は、以下のとおりです。
【86年8月25日】
「ウエットワイパー類の安全衛生自主基準」(日本清浄紙綿類工業会によるぬれティッシュ等の基準)
【88年11月10日】
「家庭用カビ取り剤の自主基準」(家庭用カビ取り・防カビ等協議会による)
【89年3月1日】
「家庭用不快害虫用殺虫剤の自主基準」(不快害虫用殺虫剤協議会による)
【89年7月14日】
「酸性又はアルカリ性洗浄剤等の安全確保のための具体的方策について」(日本家庭用洗浄剤工業会による自主基準)
【90年3月15日通知】
「一般消費者用芳香・消臭・脱臭剤の自主基準」(芳香消臭脱臭剤協議会による)

■ちゃんと機能しているのか?
 指定有害物質の数を見ると、法の対象のはばが広い割に、また無数にある家庭用品中の有害物質に比べて、あまりにも適用が少な過ぎるという印象を受けます。法自体がきちんと機能していないのではないでしょうか。特定の物質への適用を国民が要求する制度的なものもありません。この法律をどのようにすれば、もっと使えるようになるか検討していきたいと思います。(花岡)

化学物質問題市民研究会
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