2009年11月
エバ・カバリエ(EVA CABALLE)とのインタビュー
化学物質過敏症と彼女が出版した本について


情報源:Eva Caballe's Blog, NO FUN
Interview with Eva Caballe about her new book
on Multiple Chemical Sensitivity
http://nofun-eva.blogspot.com:80/2009/11/interview-eva-caballe-about-multiple.html

訳:玉腰了三
Translated by Ryozo Tamakoshi, November 24, 2009
掲載日:2009年11月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/cs_kaigai/ngo/Interview_Eva_jp.html
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エバ・カバリエは、最近スペインで出版された本の著者です。本の題名は「失踪 化学物質過敏症よって破壊された人生」(Desaparecida. Una vida rota por la sensibilidad quimica multiple )/(Missing. A life broken by Multiple Chemical Sensitivities)で、スペインのバルセロナのエル・ビエホ・トポ( El Viejo Topo)から2009年に出版されました。

サルバドール・ロペス・アーナルによるインタビュー、2009年11月

 「そうです。この沈黙の中に何かが隠されている。それは、自社製品が化学物質過敏症(MCS)のような新たな恐ろしい病気を引き起こしていることを人々には知られまいとする化学および製薬企業の利害感情です。実際に、最近では、化学物質過敏症は心理的な病気ではないこと、またそのように主張していた古い研究は、化学および製薬産業界の利益を守るために作り上げられものであることも実証されています。」
エバ・カバリエ

 エバ・カバリエは、化学物質過敏症で37歳のバルセロナのエコノミストです。彼女は一銀行員でした。ロックグループ「左利き」(Lefthanded)の一メンバーでした。その彼女が今では、Libros de El Viejo Topoという出版社から最近リリースされた本(スペイン語)の著者となりました。本の題名は「失踪:化学物質過敏症よって破壊された人生」(Desaparecida:Una vida rota por la sensibilidad quimica multiple)(Missing:.A life broken by Multiple Chemical Sensitivities) で、その本の紹介で、クララ・バルベルデ(Clara Valverde)は、次のように述べています。「・・・しかし、エバは決して変人などではありません。現在では、人口の0.75%が重度の化学物質過敏症の患者であり、12%に及ぶ人々が軽度あるいは中程度の化学物質過敏症であることが知られています。匂いに悩まされているすべての人たちはその12%の一部に含まれています。ところが、ほとんどの医師や社会の大半の人々はそれに気づいていないのです。そのため、エバが正しい診断をうけるまでに非常に長い年月を要しました。自分の身近な家族の援助しか受けられませんでした。これに抗議するデモも通りで見られませんでした。彼女の症例が新聞の一面に掲載されることもありませんでした。」

 エバ・カバリエは, またブログ「NO FUN」(「何の楽しみもない」)の著者でもあります。彼女は言っています。「NO FUNは化学物質過敏症、慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)/筋痛性脳脊髄炎(原文「Myalgic Encephelitis」、通常は「Myalgic Encephalomyelitis / Myalgic Encephalopathy 訳者)、線維筋痛症(Fibromyalgia)についてのブログであり、病気の人々や有害物質のないより健康な生活を送りたいと思っている人々のために、情報とアドバイスが掲載されています。」

ロペス・アーナル(Lopez-Arnal、以後LA):定義から始めましょう。化学物質過敏症とはどのような病気なのですか?

エバ カバリエ(Eva Caballe、以後EC):化学物質過敏症は後天的で慢性的な病気です。心理学的な病気ではありません。化学物質過敏症は、ほんのわずかな化学製品への接触反応として全身に多くの症状が現れます。ここでいう化学製品とは、毎日人々が接しているものですが、不必要なもの、例えば香水とか芳香剤とか洗濯用柔軟剤のようなものです。症状は、慢性的ですが、危険な状態では急性的なものもあります。症状には疲労や呼吸器、循環器、消化器、皮膚や神経系などの問題が含まれています。化学物質過敏症は三つの重症度をもつ症候群のため、私たち全員が、同じように不利な状況や孤立で苦しむというわけではありません。これは1950年代から知られている病気ですが、まだ世界保健機関(WHO)によって認められていません。100以上の研究論文が、化学物質過敏症の器質的根拠を支持し、この病気に冒された人の数が急速に若い年齢層で増え、欧州議会が環境要因に関連して増加している病気の中に化学物質過敏症を含めているにもかかわらず、認められていないのです。

LA:あなたは、この病気の器質的根拠を支持する科学的論文の数にもかかわらず、WHOによって化学物質過敏症は認められていないと言いましたが、WHOがそんなに懐疑的かつ慎重になっているのは何故だと思いますか?

EC:私たちはWHOが何年間も化学物質過敏症問題を議論しているのを知っています。この病気を認めるプロセスは、化学および製薬産業界がこの病気に対して直接責任があることを知ってほしくないので、彼らがWHOに圧力をかけているために、いつもより長くなっています。議論が前進しない中で、ドイツでは、−この国では化学物質過敏症を病気として認めていますが − 産業界は、ウィキペディア(Wikipedia)のような手段を使って、自分たちの統制を及ぼし続けています。このことは、CSN協会(Chemical Sensitivity Network、訳者)の記事によって非難されました。私はその記事を翻訳しブログに掲載しました。ドイツ語の化学物質過敏症についてのウィキペディアの記事は、毎日、時には数分ごとに編集されます。なぜならば、ウィキぺディアの管理者たちは、化学・製薬産業と利害関係を持っており、化学物質過敏症が人々に知られないか、もし知られたとしても、心身症として扱われることにしようと正しい情報を拒否しているのです。

LA:また、あなたは、化学物質過敏症の人々の数が急速に増えていると言っています。それが分かるデータを私たちに示してくれませんか。

EC:バルセロナのホスピタル・クリニック(Hospital Clinic in Sarceloba)の内科専門医であるフェルナンデス・ソラ(Dr J Fernandez-Sola)の話を引用します。彼は、今年の初めにスペイン語の雑誌「Interviu」の化学物質過敏症の記事について行われたインタビューで、この病気のため医療支援を求めている患者の総数が急速に増えていると述べていました。彼の病院では、毎年、50〜60人の新しい患者を受け入れています。つまり1週間に1人の新患者、ということです。

LA:どんな症状で、この病気にかかっていると判断するのですか。

EC:おそらく、最も一般的な症状は、以前は気づかなかった匂いに耐え難くなるということです。清掃用品、香水、タバコの煙、車の排気ガスなどのような様々な化学物質に耐えられなくなります。 もしあなたが化学物質過敏症であるならば、これらの化学物質に曝露すると、一連の症状(窒息感、気道炎症、頻脈、頭痛、精神錯乱、めまい、吐き気、下痢、極度の疲労および/または痛み)が自動的に出てきます。これらの症状は、症状の原因となっている化学物質に曝されるのを止めない限り改善されません。また、通常、アルコール、乳製品またはグルテンに耐えられなくなります。各種食物と薬物治療への不耐性も進みます。しばしば、他の環境的なものに耐えられなくなることもあります。暑さ 、寒さ、騒音、直射日光そして電磁場(コンピュータ、高速電力線、電話、携帯電話のアンテナ、電子レンジなど)です。

LA:化学物質過敏症と線維筋痛症(Fibromyalgia)にはどんな違いがあるのですか。

EC:化学物質過敏症、慢性疲労症候群/ 筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)、線維筋痛症(FMS)は、同じ一群の病気です。事実、化学物質過敏症の多く人は、実際はその三つの病気をかかえており、CFS/MEやFMSにかかっている人の多くは、数年で、またMCSになってきます。私たちはたくさん同じ症状を持っています。しかし、最大の違いは化学物質過敏症の人たちは最小限の化学物質の曝露にさえ耐えられないことです。そのため、私たちは厳しく環境をコントロールし続けなければなりません。外出時には、環境有害物質を取り除くために、炭素フィルターマスクを必ず着用します。

LA:化学物質過敏症の人たちはスペインの医療制度のもとでどのように扱われていますか。それは適切であると思いますか。また公正であると思いますか?

EC:スペインでは、化学物質過敏症が病気として認められていないので、医療従事者と一般市民はこの深刻な病理を認識していません。ドイツ、最近のオーストリア、および日本では、化学物質過敏症を病気として認めました。そして他の国々も認めようとする途上にあって、化学物質過敏症の人々への医療サービスを提供したり、予防のための実施要綱を確立しようとしています。スペインでは、公的医療制度のもとでこの病気を診断できる医師はほとんどいません。それに診断を受けることもきわめて困難であり、治療をうけることはもっと困難です。この国には診断されずにいる化学物質過敏症の患者がたくさんいます。彼らの多くが最終的には医師たちの知識不足のため、精神科医に任せられていることは確かだと思います。また病院や公共施設のための「無香料地帯策」(free of fragrances)計画や政策も全くありません。だから、私たちが病院に行くことは病人になるようなものです。スペインでは、化学物質過敏症の人は医療サービスが受けられないのです。また、不利な状況に対応するために必要な経済的援助を求める権利も認められていません。さらに働くことができない時、年金を受ける権利もありません。私はこの状況は不当であるとみていますが、それ以上に、私たちの扱われ方は、憲法上の権利侵害であると思っています。

LA:しかし、欧州議会が化学物質過敏症を環境病と考え、スペインの中央政府と地方行政が別の見方をしていると、矛盾が生じませんか。

EC:もちろん、そうです! WHOが化学物質過敏症をまだ病気として認めていないことをすべての言い訳にしています。これは矛盾がないということではありません。官僚レベルの決定でわしたち患者を魔法の力で消し去ることはできないのです。彼らは、矛盾が現実の利害の対立となって表面化すると、病気を信憑性のないものとするために、この論議を利用します。また、彼らは化学物質過敏症患者の明確な生物学的指標(訳註:biomarker:生体内の生物学的変化を定量的に把握するため、生体情報を数値化・定量化した指標) は何もないと言いますが、それは認知されている他の病気も同じです。

LA:今、人口の何パーセントがこの病気にかかっていると考えられますか。

EC:バルセロナのホスピタル・クリニックの医師、J.フェルナンデス−ソラ(J Fernandez-Sola)(内科)とS. ノーグエ・ザラウ(Nogue Xarau)(毒物学者)が2007年に発表した論文によれば、人口の5%が化学物質過敏症の患者です。彼らはさらに詳しく次のように述べています。「一般住民の15%以上は、化学的あるいは環境的刺激に直面した時、過剰反応のメカニズムが現れます。5%で、これらの過程が明らかに病理学的で、生体の適応能力を超えています。その結果として、皮膚、呼吸器、消化器さらに神経心理に、しばしば、慢性的で永続的な影響が現れます。そうならば、もし化学物質過敏症が人口の5%に影響を及ぼしているとすれば、化学物質過敏症はまれな疾患(rare disease)とは考えられません。まれな疾患とは、人口の0.0005%未満の場合を指すのです。

LA:あなたは、スペインの人口はについて話しているのですか、それともヨーロッパや世界を基準として考えているのですか。

EC:私は世界的な話をしています。化学物質過敏症は、先進国の病気と見なされています。この病気についての統計情報が存在する国々では、例えばカナダにおいては、化学物質過敏症の患者の総数は少なくありません。ケベック環境保健協会(Environmental Health Association of Quebec)によれば、カナダには化学物質過敏症の患者が400万人いるとしています。

LA:原因は分かりますか。あなたが言ったように、化学物質過敏症は環境的要因に関連している。それは正確にはどういう意味ですか。

EC:研究では、原因は私たちが曝されている環境内の有害物質であると言っています。化学物質過敏症には、二つの発症の仕方があります。ただ一回の大量の有害物質の曝露によるものと、長年にわたる少量の有害物質への幾度かの曝露によるものです。私たちが呼吸する空気の中に、私たちが飲む水の中に、(もしボトル入りの水を飲むならば、そのプラスチックの中に)、私たちが着る衣服の中に(ホロムアルデヒド、染料、残留農薬)、洗浄剤の中に、私たちの美容製品の中に、私たちが食べる食物の中に(殺虫剤、添加物、癌の原因となるとして何年間もアメリカで禁止されている人工顔料)、または、例えば、銀歯の詰め物の中に(水銀が入っている)、有害な物質が 存在しているのです。長年の間に、私たちの身体は何のコントロールもなしに環境で循環するこれらすべての化学物質を蓄積します。私たちはそれらの化学物質をそれほど使用していないのに、長年にわたって使用してきたことを忘れてはなりません。こうして、有害物質の負荷に耐えられなくなると、私たちは病気になります。その病気は、私たちの遺伝的要因(genetic make-up)によって、最終的には化学物質過敏症になるのかもしれません。しかし、他の人たちも苦しみからのがれることはできないのです。彼らも最後は癌、喘息、アレルギー、自己免疫性疾患や環境的原因の他の病気になるのです。医師でさえ化学物質過敏症を研究する資金はどこにもない、誰も化学物質過敏症の研究に資金を出したがらないと訴えています。なぜならば、通常、研究は、薬物治療を開発できるように、すなわち、自分たち自身の利益のために、製薬会社によって資金が提供されているからです。しかし、化学物質過敏症の患者たちはどのような薬物治療にも耐えられないので、それらのことについて何の関心も持っていません。

LA:しかし、これらのすべてを知っていても、何の対策も講じなければ、何の意味があるのですか。これらの生産物の使用に伴う有害性と高い危険性を知りながら、私たちはなぜそれらを使い続けるのですか。あなたが描いている状況は、あまりよくありません。なぜ私たちは、この有害性をめぐる混乱状態に、秩序を打ち立てようとしないのですか。

EC:それはいい質問ですね。どんな対策も取らないこと、これらの製品を使用し続けることは、意味がないことではありません。もし、保健当局が何もしないならば、残された選択肢は、これらの有害な製品を使うのをやめて、そのあとの責任は私たちが引き受けるのです。柔軟仕上げ剤、美容製品、香水または芳香剤のラベルには、次のようなことは書いてありません。「警告。この製品は有害です。あなたが化学物質過敏症を引き起こすまで、あなたの身体の中に有害物質は蓄積し続けるでしょう。」誰も私に警告しませんでした。これが、私が4年前に病気になって以来、学んだすべてのことを共有しようとする理由です。人々に、私たちは何を言われていないかを知ってほしいのです。例えば、もしタバコを規制することが非常に難しいとすれば、これらすべてのことは、なお一層難しいでしょう。なぜなら、私たちは、一つの製品について議論しているわけではありませんから。問題はもっと大きいのです。1960年代に、医学報告書が隠されたか、書き変えられたということを覚えていますか。その報告書とは、タバコが癌を引き起すことを明らかにしたものです。現在起こっていることは、何も新しいことではありません。権力は政治家の手中にはありません。それは多国籍企業の手中にあるのです。

LA:簡潔に、化学物質過敏症の人の生活を説明してください。どのような措置を取る必要がありますか。どのような治療を受ける必要がありますか。

EC:対応策は、基本的な一つのコンセプトで言えば、環境コントロールです。環境コントロールの基本は、有害物質または化学物質一般のどんな曝露もできるだけ避けることです。そして基本事項は、以下のようなことです。

  • 有機的、非加工食品を食べて下さい(通常、乳製品とグルテンを避けることが勧められています)。
  • 水、飲料水、および料理やシャワー用の水もフィルターにかけて下さい。
  • すべての美容製品と洗浄製品を、環境にやさしいもの、香料が入っていないものに変えて下さい。必然的に、オーデコロン、芳香剤、洗濯用柔軟剤などの使用を止めなければなりません。
  • 染料や有害物質が入っていない環境にやさしい衣類を使用してください。
  • エアフィルターを手に入れて下さい。
  • 化学物質で処理されていない、環境にやさしい材料で作られた家具やマットレスを購入して下さい。また、家を塗装する時は、環境にやさしい塗料でなければなりません。
  • 電磁場に身をさらすのを避けるか、または最小にしてください。
  • 外出する時や有害物質が高い濃度の状況下に置かれる時は、炭素フィルターマスクを使用して下さい。
  • できるだけ最も汚染されていない地域に住むようにし、また人に害を与えない材料で作られた家に住むようにして下さい。
 お分かりのように、環境コントロールには高い財政的コストが伴います。私たちにはそのための何の支援もありません。最後のポイントは、上に挙げたようなことを遂行するのは、ほとんど不可能だということです。さらに、環境コントロールは、健康な人のために有益であるとともに、個別化された対応策も含んでいます。これらには栄養サプリメント、サウナ、酸素療法などがあります。化学物質過敏症の人は、各人症状が違いますし、ある人たちは他の病気を併発しています。ですから、それぞれの状況に何が最善であるかを決めるためには、多くの検査をしてももらう必要があります。スペインではこのうちのどれ一つも公共医療制度では行っていません。重症の化学物質過敏症の人たちはほとんど家を出ることができません。生活の場は自分の家にせばめられます。それは、自分たちの刑務所になるのです。家の中でもその人たちの大部分は家事さえできません。また、ある場合、1日の大半をベッドで過ごし、ほとんどのことで家族を頼りとしています。外部の世界との接触も、(そうするエネルギーをもっている人にかぎられますが)、電話での話しに制限されてきます。有害物質をもちこまないように、洗濯や掃除のこれまでの自分たちのやり方を進んで変えてくれる人たちの訪問。重い認知問題や電磁波問題をもっていない人たちのためのインターネット。外部との接触は大きく制限されてくるのです。

LA:化学物質過敏症の人たちは、政府からどのような支援を受けているのですか。そういう病気の人が仕事に行くことが可能だとはとても思えません。もし家族が利用できる時間がないときは、あなたは家庭生活のやりくりをどのようにしますか。

EC:化学物質過敏症にかかっても、私たちは何の援助も得られません。それなしでは生きていけないマスクでさえも、私たちは自分たちで支払わなければなりません。これはこの病気とともに進行する経済的シナリオです。重症の化学物質過敏症の人は、働くことができません。しかし、たとえ軽度の化学物質過敏症の人であっても、働くことはできません。なぜなら、化学物質過敏症の人が働き続けられるように、すすんで職場を改造するような雇用者は一人もいないからです。ある場合には、障害を認定される人もいます。しかし、その場合でも、通常は裁判所に訴えることになるのです。私たちは、年金への権利が得られるほど長く働いていないのに、病気になる若い人たちがいることも忘れてはいけません。彼らの未来はどうなるのでしょう。
 化学物質過敏症の人たちの中に大きな落ち込みがないことに驚いている、と私はいつも言っています。このような状況のもとで、一体誰が落ち込まないのでしょう。ある人は障害の認定を受けようと努力するかもしれません。しかし、その人が受けとる金額の総計は非常に少ないうえに、それは認定された障害の重症度しだいなのです。私の場合、大変厳しい状態で家の中でも自分ひとりでは何も、料理さえもできませんでしたので、夫と母の援助があったのは幸運でした。家に援助に来てくれる人を雇うお金を、たとえ私が持っていたとしても、それは不可能でしょう。母がここに来ることだけでも、母は、来る前のシャワーはもちろん、掃除・洗濯のこれまでのやり方を全部変えなければなりませんでした。

LA:なぜ私たちは、化学物質過敏症についてほとんど耳にしないのでしょうか。 このすべての背後に何があるのです。 この沈黙の背後に何があるのですか。

EC:そうです、この沈黙の背後には何かが隠されているのです。それは、自社製品が化学物質過敏症(MCS)のような新たな恐ろしい病気を引き起こしていることを人々に知らせまいとする化学および製薬企業の利害感情です。最近では、化学物質過敏症は心理的な病気ではないことが証明されています。そして化学物質過敏症は心理学的なものであるという過去に行われた研究は、化学および製薬産業界の利益を守るために巧みに世論を操作しようとしたものであることも証明されています。不幸にも、政府が私たちを無視することは簡単なことです。私たちの大部分は軟禁生活を送っているので、組織をつくる力がありません。政府のやり方は明らかに権力の乱用です。私たちの家族、友だち、近所の人たちだけが、私たちの存在と毎日の生活がいかに大変かを知っています。しかし、状況の深刻さにもかかわらず、私たちは、毎日ずっと、家からインターネットを通して、自分たちの権利のために闘っているのです。化学物質過敏症が誰の目にも見えるように努力しているのです。また、政府が私たちを助けないので、お互いに助け合うために情報を共有しあっているのです。

LA:あなたは、大企業の利益を守るために、化学物質過敏症は心理学的な病気であることを、巧みに「証明した」研究について話しました。彼らはお金の輝きに目がくらんだのですか。その一例について説明してくれませんか。

EC:2008年9月に「ジャーナル、栄養と環境医学」(Journal of Nutritional & Environmental Medicine)という雑誌が、ハウトスミット(Goudsmit)とハウズ(Howes)による、「化学物質過敏症は学習反応であるのか。挑発的研究に対する批判的評価。」という題名の論文を公表しました。この論文は、化学物質過敏症は心理学的な病気ではなく、その原因は化学物質に関連付けられていることを明らかにしました。私は、「化学物質過敏症アメリカ」(MCS America)が、その論文を高く評価する記事をスペイン語に翻訳しました。
 「過去に、ぞんざいに立案された少数の論文は、化学物質過敏症は、以前から存在している予期や思い込みにもとづく心理学的な病気であると提唱した。製薬・化学産業界は人々にこの宣告を信じ込ませようと努力した。この方法によって彼らの化学製品はもはや責任のあるものではなくなり、よりもうけのある精神医学的な薬の投入が、環境汚染による精神的影響を和らげるが薬がないという理由で、促進された。ほとんどの化学および製薬会社は、同じ所有者であるという事実を考えると、この姿勢は産業自身によって統制された刊行物を通して、エネルギッシュに非常に狡猾に促進された。幸いなことに、これらの操作された研究はハウトスミットとハウズらによって、科学的に一般的に受け入れた追加基準を用いて検討された。こうして、化学物質過敏症の心理的学根拠についてふれた研究は非常に多くの欠陥や方法論の誤りのために誤解を招くことが証明された。化学物質過敏症は、不安や精神状態、うつよりもむしろ化学物質への曝露に関係していることが決定的となった。」

LA:あなたの「私たちは裸で生まれた」という一つの記事は化学物質過敏症の人々やトピックに興味を持つ人々の間で大きな反響を呼びました。なぜ、ああいう記事を? また、あの記事はどういった内容のも のでしたか?

EC:私はオンライン(インターネット)文化の雑誌デリリオ(Delirio)のためにあの記事を書きました。あの記事は、化学物質過敏症の私たちが苦しんでいるスペインの状況を詳細に明らかにしながら、ためらうことなく、政府と社会の私たちに対する完全な無視と放棄をあらわにしました。「私たちは裸で生まれた」は、また、マスクをつけた裸の私の写真が2枚掲載されています。それが他国の化学物質過敏症の団体の注目を受け、最終的には9ヶ国語で翻訳されています(訳注1)。このように大きく話題となった理由は世界中の化学物質過敏症の人たちが、スペインで生活している私たちの状況と、自分たちの置かれている状況が全体的に同じであると感じたからでしょう。不幸にも、MCSが認定されている国の中でさえ、この病気にかかった人たちは、健康よりも経済的利益を優先しているがために、見捨てられ、沈黙させられています。次回のデリリオは、沈黙というテーマで化学物質過敏症の別の記事が準備されています。「私たちは裸で生まれた」が、なぜ多くの人たちに受け入れられたか、それを説明するように依頼してきましたからです。私たちは「鉱山のカナリア」です。私たちはやがてやってくる災害に警告を発しているのです。私たちは現在のモデルの社会が行き詰っていることの証明なのです。しかし、誰もそのことを認めようとしないし、注意を払おうともしない、さらに何もしようとしないのです。それなのに、すべてのことで彼らは私たちに沈黙を強要しているのです。

LA:訪れようとしている災害?どういう災害ですか。現在のモデルの私たちの社会はどうして行き詰ったのですか。病気が社会を行き詰まらせてしまったということですか?より人道的なモデルについて説明してくれませんか。

EC:化学物質過敏症の患者は急速にますます若い人たちの間で増加しています。毎日、アレルギー、喘息、グルテン不耐症などの子どもが増加しています。癌の症例も、増えていて、癌の病歴のない家族にも現れています。化学物質や電磁放射線と、ある癌もしくはアレルギーの増加との関係を明らかにする新しい研究もどんどん出てきています。もし、何かがなされなければ、私たちを待ち受けている未来は、健康な社会ではありません。化学物質過敏症の他の人々が、この社会の行き詰った証明であるように、私もその証明の一人です。私が小さかった時、政府は私たちの世話を見てくれ、もし、何か売られているとしたら、それは安全なものだからだといつも思っていました。その通りだったら、私はそんなに間違いをおかさなかっただろうに。バルセロナやマドリードのような都市の大気の状態は恥ずべきです。 私たちの食物には農薬やすべての種類の添加物がいっぱい含まれており、さらに政府は遺伝子組み換え食品の使用を許可しています。彼らは私たちを病気にし、そして何の援助も、何の医療保障もしないで見捨てます。私の時と同じように。勉強して学位を取ります、いい職歴を手に入れます、しかし、あなたの人生が楽しみになってきた時、そこですべてが終わります。これが福祉国家ですか。健康より経済的利益を優先させる政策を止めさせなければなりません。化学物資と電磁放射線 は禁止され、規制されるべきです。遺伝子組み換えで変えられた食品は禁止されるべきです。有機農法も代替エネルギーと同様に奨励されるべきです。無数のとるべき対策がありますが、重要なことは、今のうちにその方向を変えて動き始めることです。

LA:あなたは一冊の、失踪(Missing)と題する、素晴らしい本を書きました。 なぜ失踪なのですか。あなたはどこから姿を消したのですか。

EC:私の本を賞賛していただきありがとうございます。新しい作家として名誉です。

LA: エバさん、名誉は、読者の名誉にもなるでしょう。私がそれを保証します。

EC:私は、クララ・バルベルデ(Clara Valverde、彼女は作家でありLiga SFC- CFS という団体の会長であり、しかも彼女自身が慢性疲労症候群)が書いた私の本へのすばらしい序文を読んだとき、題名を思いついたのです。多くの人は、私が地上から姿を消した、と考えるかもしれない、と思ったのはその時でした。私は、一人の人間として、銀行でたくさんの責任をもって仕事をしていた、毎日ジムに通っていた、ロックコンサートに行っていた、友だちと出かけていた、そして家族と休日をともにしていた、そういう生活を送っていた人間から、生きのびるために自分の家に閉じ込められる人間になってしまいました。外部の親しい人たちから見ると、私はいるべきところにいなくなり、化学物質過敏症に誘拐されてしまったことになります。外界は毒でおおわれています。それは、化学物質過敏症の私たちには、有害な化学物質から身を守るために炭素フィルターマスクなしでは外出できないことをまさに意味しています。重症の場合、マスクをつけても外出できないのです。私たちは四方を壁に囲まれた生活を宣告されます。なぜなら、政府は有害化学物質を禁止する対策をとっていないからです。有害化学物質は、私の中に危機を引き起こし、他の人たちの中に環境病を進行させるのです。毎日癌による死を聞いていることが当たり前になっています。この社会の病理が毎日進行していること、この社会が持続可能な社会でないことを気にかけている人はいますか。

LA:最後に、社会や医療サービスはこれらの新しい病気に関してどのような役割を務めるべきでしょうか。それらの病気は本当に新しいものなのですか。何か基本的な考えを提案していただけませんか。

EC:以前、私が言っていましたように、化学物質過敏症は実際には新しいものではありません。最初の症例は1950年代に報告されています。2009年に、何もなされてこなかったのを正当化する言い訳として、化学物質過敏症は新しい病気だとは言えません。国際的なレベルでは、まずWHOがきっぱりと化学物質過敏症を病気として認めるべきです。しかし、それまでに私たちの国が、他のEU諸国がそれに続く前例となるように、化学物質過敏症を認めるべきです。また、政府は医師を養成して、公共医療が化学物質過敏症に対応できるようにすべきです。このすべては、私たちが、障害年金やこの病気への適切な支援を入手・利用できるようにすることにもつながるのです。今、もし化学物質過敏症の患者の症状が、化学物質過敏症もしくは私たちもかかるかもしれない他の病気のために進行しても、私たちのために準備が整っている病院はどこにもないし、また病院職員は私たちの病理を知らないために、どこに行くこともできません。これは私たちの状況の深刻さを示しています。また病院や公共施設が、例えば「無香料地帯策」のような予防策を導入することが必要です。ある物質を規制したり、禁止することも必要です。このすべては、私たちのためだけでなく、すべての市民の健康と幸福のためになるでしょう。そして、私たちの不利な状況を知ることができるように、明らかに公教育でのキャンペーンを取り入れるべきです。マスクをつけて通りに出た時、いろんなあざ笑いや悪口をそのままにしていますが、これを容認しないことです。化学物質過敏症が病気として認められていないがゆえに、友だちや家族から何の援助さえも受けられない病人もいます。私たちは特別な扱いを求めているのではなく、この病気から派生する諸問題への適切な扱いを求めているのです。

LA:あなたが話され、求めているものは実に道理に合ったことです。 お話、ありがとうございます。他に何かつけ加えたいことはありませんか。

EC:はい。私は、現在はブログで、さらに今度は本を通して、自分の状況を公にすることが、まだ健康な人たちへの警告として役に立ってほしいと思っています。多分、彼らは、自分は化学物質過敏症の遺伝的要因を持っていないので、安全であり、私がかかったような病気になることはないと思うでしょう。しかし、そうではありません。あなたに言いましたように、化学物質過敏症を引き起こす化学物質は、多くのほかの病気を引き起こしているのです。また、私たちは、多くの化学製品なしで、今とは違ったやり方で生活することができるし、そうすべきです。その方が私たちの健康にも、環境にもいいのです。私たちは手遅れになる前に変えなければならない、変革は、自分たちが思っている以上にたくさんの力を持っている消費者である私たち一人ひとりから始まります。もし需要がなければ、そこには供給もありません。インタビューの最後に、私の記事の一節を述べたいと思います。「私たちは裸で生まれた」「化学物質過敏症の人々は、この病気が認められることを望んでいます。私たちは、他の慢性病の人々と同じ権利を持つことを望んでいます。私たちは、他の人々もまたリスクに曝されているということを社会に知ってほしいのです。私たちは、政府が市民を守り、彼らに負担をかけずに彼らが病気になることを防いでほしいのです。私たちは、化学物質過敏症になって再び裸にならなくてはならないことが誰にも起こらないことを望みます」

原注:

(更新 2009年11月15日) 訳:玉腰了三
訳注1 スペインのMCS患者の魂の叫び 多種化学物質過敏症についての裸の真実 エバ・カバリエ(Eva Caballe)



化学物質問題市民研究会
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