ASQUIFYDE 2011年6月4日発表
2ジュネーブで開催された
WHO とMCS/EHS患者・支援者団体との会議概要


情報源:ASQUIFYDE June 6, 2011
Summary of the meeting held on May 13th 2011 at the WHO headquarters in Geneva. http://www.asquifyde.es:80/noticia-detalle.aspx?noticia=1330

訳::安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2011年6月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/cs_kaigai/WHO/110513_Summary_Meeting_WHO.html



クリックで拡大
出席者:

マリア・ネイラ博士:WHO 公衆衛生環境部門ディレクター
(Dr. Maria Neira. Director of Public Health and Environment Department)

アンネ・プルス−ウスツン博士:WHO 公衆衛生・環境部門チームリーダ
(Dr. Annette Pruss-Ustun. Team Leader of Public Health and Environment Department)

イワン D. イワノフ博士:WHO 労働衛生、公衆衛生・環境部門
(Dr. Ivan D. Ivanov. Occupational Health, Public Health and Environment Department)

T. ベディルハン・ウスツン博士:WHO コーディネータ:分類・用語・標準、健康統計・情報部門
(Dr. T. Bedirhan Ustun. Coordinator: Classifications, Terminology and Standards, Department of Health Statistics and Information)

ナダ・オセイラン氏:コミュニケーション担当、公衆衛生・環境部門
(Ms. Nada Osseiran. Communications Officer, Public Health and Environment Department)



アヌンシアシオン・ラフェンテ博士:ビゴ大学教授、スペイン毒性協会(AETOX)副会長
(Dr. Anunciacion Lafuente. Professor of toxicology at the University of Vigo and Vice-President of the Spanish Association of Toxicology (AETOX))

ジュリアン・マルケス博士:多種化学物質過敏症患者及び電磁波過敏症患者を専門とする臨床神経学者/神経生理学者
(Dr. Julian Marquez. Clinical neurologist and neurophysiologist specializing in Multiple Chemical Sensitivity patients and Electrohipersensitivity patients)

イサベル・ダニエル氏:看護師、神経生理学専門
(Mrs. Isabel Daniel. Nurse specializing in neurophysiology)

ジャウメ・コルテス氏:ロンダ弁護士会メンバー、労働法及び環境病(MCS and EHS)専門の弁護士、スペイン全国多種化学物質過敏症認知委員会メンバー (Mr. Jaume Cortes. Member of the Ronda Lawyers Group. A lawyer specializing in labor law and environmental illnesses (MCS and EHS) and member of the (Spain’s) National Committee for the Recognition of Multiple Chemical Sensitivity Syndrome)

ソニア・オルテガ氏:環境専門の弁護士
(Ms. Sonia Ortiga. Lawyer specialized in environment)

フランシスカ R. オリアンド氏:イダリアの連合組織 AMICA 副代表
(Ms. Francesca R. Orlando. Vice-President of the Italian association AMICA)

フランシスカ・グティエレス氏:スペインの連合組織 ASQUIFYDE 代表、スペイン全国多種化学物質過敏症認知委員会メンバー
(Mrs. Francisca Gutierrez. President of the Spanish association ASQUIFYDE and member of the (Spain’s) National Committee for the Recognition of Multiple Chemical Sensitivity Syndrome)



 ジャウメ・コルテス氏が多種化学物質過敏症(MCS)及び電磁波過敏症(EHS)に関するいくつかの基本的な問題点を提起することにより発言の口火を切った。

  • MCS と EHS は現実の健康問題である。
  • このことを確認する証拠がある。
    • 医学的診断。
    • 曝露と疾病の因果関係を明確にする検査記録。
    • その存在を確認する科学的研究がある。
    • これらの疾病についての欧州議会による認知と本日提出された文書一式中の証拠文書がある。
    • この証拠を支持するスペインにおける200の判例がある。
    • スペインで患者のための(経済的)補償を得ている。
  • 私たちは、これらの疾病をWHO 国際疾病分類(ICD)に含める必要がある。それは、WHO 国際疾病分類(ICD)にこの疾病についてのコードがないために、この疾病の法的認知を難しくしているからである。
 続いてジュリアン・マルケス博士が発言し、患者が直面している問題のひとつは、これらの病理について、ほとんど、あるいは全く知られていないために、医療関係者の理解が不足していることであると説明した。

 MCSについては、発症の原因は、多くの場合に有機リン農薬である。ほとんどの患者は中毒症状がないので、中毒ではない。臨床的症状は曝露によって現れ、患者がその毒性源を回避すれば、症状は消える。

 MCSは、複数の器官(系)の疾病であり、約90%のケースで神経系に影響を与える。頭痛、まひ、筋力低下、めまいのような症状のある重要な認知神経科学的な疾病があり、全ては、気管支系、心臓血管系、ホルモン系など複数器官疾病である。女性には一般的に生理周期の異常があり、かなりの割合で性欲の減退がある。

 マルケス博士は、低用量の物質であっても、それは単にうっとうしいというだけでなく、炎症、ほてり、頭痛などの臨床学的問題を引き起こすと述べて、環境不耐症(Environmental Intolerance)がWHO 自身によって認知されていることを想起させる。

 化学物質又は電磁界放射への有害な反応は、それぞれの患者によって期間が多様であり、症状もまた異なる。患者が再び曝露すると、通常、症状は悪化し、新たな症状を示す結果となる。

 MCS 及び EHS のどちらの診断も臨床的である。MCS の場合には臨床医に役立つテストである QEESI 問診票(訳注1)が使用できる。このテストを通じて患者の症状を客観化することができる。

 しかし、これらの診断は予行(試運転)を要する手順書、完全な中枢及び末梢神経試験、神経生理学的な試験(脳波(EEG)、視覚誘発電位(Visual Evoked Potentials)、聴覚脳幹誘発電位(Acoustic Evoked Potentials of the brainstem)、体知覚電位(Somesthetic Potentials)、認識電位 P300(Cognitive Potential P.300)、神経画像(特に頭蓋及び脳下垂体 MRI 及び SPECT))、特定の分析研究、ホルモン研究などが必要である。また、神経心理学的障害や前頭葉機能障害、前頭側頭葉などについての専門家による神経心理学的な研究を実施することにも大いに関心がある。

 これらの疾病(MCS と EHS)のプロセスは慢性的であり、もし患者らがタラゴナ(スペイン北東部)石油化学工業地域近辺のような有毒環境に住めば、あるいは携帯電話アンテナなどのあるところに住んで電磁界放射に曝されれば、彼らの状況は悪化する。患者らは曝露を避けなくてはならない。

 患者らが、疑いを解き、相談及び社会的職業的支援を受け、タイムリーに診療報告書を受け取れる臨床的診断センターを持つことが極めて重要である。

 ネイラ博士は、時間的制約のためマルケス博士の話はここまでとし、次にWHO 統計部門のICDコーディネータであるウスツン博士に発言をさせた。

 ウスツン博士:1948年以来、WHOは国際疾病分類に責任があり10年毎に分類の見直しを行なってきた。現在、WHOは2015年までに完成すべく次のレビュー作業を行なっている。

 WHOは、ある疾病と環境問題との間に存在する関連いついて承知している。現在、ある疾病について含めるか/含めないかに関する激しい議論があり、WHOは現在起きている論争を認識している。

 2010年版は、ある専門家グループによって作成された。2001〜2009年の年次レビューは締約国の保健省の出席の下に専門家グループによって行なわれた。このモデルは、国の代表だけが参加することができ、その提案は実際の必要に対応していないと言われ、広く批判された。我々は作業の方法論を見直し、一方、必要性を尊重し、仮想のプラットフォームを通じて公衆の参加を許した。

 ICDは、科学的証拠の文書であり、発表された科学的研究について、非常に明確な方法論に従って検証している。いくつかの要件は、因果関係、病因論、診断テストなどである。

 ネイラ博士(WHO)が発言して、代表委員会(我々の代表)によって提供される文書はこの方法論に従うべきであると説明した。

 ラフェンテ博士は、基本的科学における彼の経験から、両方の疾病(MCS と EHS)が認知され、ICDに含まれるべきとすることの妥当性を指示する科学的論文があることを示した。

 ウスツン博士は、改訂版は科学審査委員のグループによって行なわれていると説明した。第一に、どれが環境病であり、それらが職業病であるかどうか知らなくてはならない。そして二番目に発症のレベルを数値で示さなくてはならないとした。

 フランシスカ・グティエレス氏は、ウスツン博士に、ドイツ、日本(訳注2)、オーストリア、ルクセンブルグが自国の ICD で MCS を認知したのに、残りの国は認知していないのはどういうわけかと尋ねたた。このことは、国によって、また患者の間に不公平な状況を作り出す。

 ウスツン博士は、ICDは世界レベルのものであるが、それでも全ての国は自主権の実施に基づき、必要な変更をどのようにしてもよいと説明した。

 ウスツン博士の言葉の中で、2011年5月16日に、このレビューにおける非常に包括的な最初のドラフトが完成し、2012年5月までにもっと詳細なドラフトが作成されるであろうということが述べられた。2015年、世界保健機関総会で結果が発表されるであろう。

 作業の過程で、これらの疾病をどこに配置するかについて科学的な議論が行なわれるであろう。医学的専門性に関して、特に MCS と EHS の場合、複数器官の疾病なので具体的な病因をどこに分類するかについて合意がなく、これは複雑な問題である。

 ドラフト分類はオープンで透明性があり、情報はWHOのウェブサイトから入手可能である。

 ネイラ博士は、これらの疾病(MCS 及び EHS)の団体が、REACH(EUの新たな化学物質規則)などに取り組む他の団体と連携することは興味深いことであると信じている。REACH は2007年6月1日に発効した。それは EU における以前の化学物質に関する枠組みを合理化し改善するものである。

 フランシスカ・グティエレス氏フランシスカ R. オリアンド氏は、ネイラ博士に対して、科学的証拠から、これらの病理が器官由来であり後天的であることが示されており、この証拠からのみ適切な解決が見出され、またこれらは予防可能な疾病なので予防への活動に有用であるとすることに、彼らは完全に合意するということを明確に述べた。

 フランシスカ・グティエレス氏は、子どもや、学校の問題含んで、影響を受ける若い人々が増えているという患者団体の懸念をネイラ博士に伝えた。グティエレス氏は、この問題はこれらの疾病の発症の性差、女性の生殖機能と母親が特に妊娠中と授乳中に曝露した有毒物質を子どもに伝達することに関連していると説明した。

 フランシスカ R. オリアンド氏は、WHOの担当官らにMCSに関するWHOのポジション・ペーパーがあるかどうか尋ねた。ネイラ博士とウスツン博士は、彼らが知る限り、彼らの関連部局にはそのような文書はないと答えた。

 このことは、MCSの認知が、1998年のベルリンでのワークショップで出現した”突発性環境不耐性(IEI)の定義の採択に関する”推測される”IPCS-WHO の MCS ポジションの引用によって停止した国々にとって、極めて重要である。

 ネイラ博士は、関連団体は ICD 11 に取り組んでいる世界中のWHOの様々な作業部会との連絡を是非確立するよう提案した。

 ラフェンテ博士は、MCSとEHSの患者は、ほとんどの人々は反応しないような非常に低用量の生体異物(xenobiotics)に反応する過敏な人々であるということを、WHO の代表に確認した。

 フランシスカ・グティエレス氏はネイラ博士に対して、ラフェンテ博士の説明は影響を受ける人々が小人数であるということを意味するのではなく、まったくその反対であると説明した。我々は、すでに診断を受けた人々の数の多さに直面しており、人口の12%〜15%の人々が化学物質の存在に何らかの被害を受けている。EHSでは、影響を受けている人々の数は、人口の3〜6%であるが、これらの数も増加している。

 マリア・ネイラ博士は、常に非常に親切であり、我々が予期していた以上の時間を割き、彼女が次の会議に参加しなくてはならないときに、建物の外まで我々を見送ってくれた。彼女は、我々の提案をしっかり受け止めると述べた。

 代表委員会はネイラ博士と彼女のチームに対し、重要な議題に向けられた彼らの親切と関心に感謝している。

代表委員会のいくつかの所見

  1. ICDを更新するためのルールが変更になった。以前は国家の保健関連代表だけが参加できた。現在は、新たなコードを開発するための参加に関して、有益な仮想的プラットフォームを通じて、もっとオープンになった。”WHOキャンペーン2011”から、両方の疾病について、調整され、合意された基準の下に、世界中のワーキング・グループが参加をすることができる。

  2. 我々は、 MCS と EHS の存在を示す十分な科学的証拠があり、すでにICDで認知されている他の諸国と同様に、アクセスコード(ICD)を持つことは特に大きな問題とはならないと信じる。肯定的に評価させるために、WHO手法に従って情報を系統化しなくてはならない。

  3. 我々は神経系症状が最も重要であるということを忘れてはならないが、恐らく、最も微妙な部分は、MCSとEHSはともに複数の器官(系)の疾病であり、分類上、異なる分野(医学的特殊性)に配置される可能性がある。我々は、ICDにおける分類を含んで、これらの新たに出現している疾病に対するいくつかの疑問に答える新たな医学的パラダイムを確立する必要がある。

  4. WHOは、これらの症状が存在することを知っている。

  5. WHOの中で、これらの疾病の緊急性は論争を引き起こしたが、2015年のためのICDの開発のための手法が変化したという説明、及びワーキング・グループへの参加の可能性は、認知のために新たな可能性を開くものである。

  6. 各国は、WHOとは独立に、これらの疾病を認知し、それらを自国のICDに含めることができる。WHOによれば、各国はこの問題に対して自主権を持つからである。

訳注1: QEESI 問診票
Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory (QEESI) / Claudia S Miller, MD, MS

日本語版
  QEESI 問診票
  QEESI 結果の判断基準

訳注2:日本のICD
  • 日本では2009年10月1日付けで、標準病名マスターに化学物質過敏症が加えられた。
    ICD-10 の分類コードは、T65.9(その他及び詳細不明の物質の毒作用,詳細不明の物質の毒作用)である。(交換用コード:QV58、ICD-10:T659、レセ電算コード:8845221)
  • ICD10 国際疾病分類第10版(2003年改訂)
訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る