ケミカル・センシティビティ・ネットワーク(CSN) 2009年12月
チューリッヒ市 ヨーロッパ初の
MCS住宅プロジェクトに向けて
建設の準備を開始


情報源:CSN Environmental Medicine Matters
Zurich targets first MCS Housing Project in Europe and issues an invitation to tender
Author: Silvia K. Muller, CSN - Chemical Sensitivity Network, November 2009.
Translation: BrunO
http://www.csn-deutschland.de/blog/en/
zurich-targets-first-mcs-housing-project-in-europe-and-issues-an-invitation-to-tender/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma
Citizens Against Chemicals Pollution (CACP)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年12月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/cs_kaigai/Germany/CSN_MCS_Housing_Project.html



 スイスのチューリッヒ市はMCS住宅プロジェクトの入札を実施中です。MCS(多種化学物質過敏症)とも呼ばれる化学物質過敏症をもった人々は、自然住宅(a building biology home)を手に入れるようになるでしょう。彼らが標準的なアパートに住むことはほとんど不可能です。健康な人なら問題ない濃度の建材からの化学物質が彼らに耐えられない症状をもたらすのです。安全で症状が出ないようにするためには有害物質のない居住環境が必要なのです。

 現在、環境病の人々のための公的に支援されたそのようなプロジェクトはアメリカと日本にしかありません。チューリッヒ市はこの問題の困難さに責任と共感をもって取り組もうとしています。彼らはまた、もっと多くの人々の役に立つであろう、もっと多くの公の住宅プロジェクトのための革新的な構想を得たいと希望しています。実際には完成までにもっと時間がかかるでしょうが、このプロジェクトは多くの専門家によって積極的に支援されているので期待が持てます。

 このプロジェクトのための適切な土地探しが数ヶ月間、続きました。住宅の場所はいくつかの基準を満たさなくてはなりませんでした。住宅協同組合”健康な居住(HEALTHY HABITATION)”の代表クリスチャン・シッフェルレは専門家と共に何度も何度も建設場所を調べるために出かけました。そしてついに場所が見つかりました。まさにひとつの夢がこのスイス人にかなえられたのです。住宅プロジェクトはどのように実現するでしょうか。


 11月の初めに、チューリッヒ市はこのプロジェクトについての詳細な情報に関して記者発表をしました。ケミカル・センシティビティ・ネットワーク(CSN)はその成功を心から願っています。

 同市の住宅当局は環境病の症状がひどい人々のための住居を推進しています。チューリッヒ・ ラインバッハのレベンウェグ(Rebenweg)での新しい建物の建設は、選定対象を専門業者に限定するスイス特定仕様にしたがって入札が行われました。最も高い自然住宅基準を満たすMCS対応の10〜12家族用の小さな集合住宅のための画期的なプロジェクトが期待されます。建築家又は設計家のチームは11月末までに住宅当局に見積もり書を提出しなくてはなりませんでした。委員会が応募のあった中から5チームを選定し、彼らは2010年4月15日までにプロジェクトの概略設計を提出しなくてはなりません。決定は5月中に行われます。

 チューリッヒ市は、スイス全土で重症のMCS患者が5,000人くらいいると推定しています。彼らがは住むことの出来る適切な住居を探すことは不可能です。化学物質のほんのわずかな濃度でも、めまい、頭痛、手足の痛み、皮膚異常、呼吸障害、慢性疲労などの症状が出ます。同市の記者発表によれば、ひどい症状の人は働くことが出来ず、社会から隔絶されていくようになります。

 この自然住宅仕様の先駆的住宅プロジェクトにより、住宅協同組合”健康な居住(HEALTHY HABITATION)”はチューリッヒに設立されましたが、チューリッヒ市はMCS対応の住居と生活圏を提供することを望んでいたのです。1214平方メートルのレベンウェグの現場は徹底的に評価が行われ、チューリッヒの大気環境も良好です。

 新たに設立された住宅協同組合は適切な資金が足りなかったので、市はこのプロジェクト入札に15万スイスフラン(約1,300万円)を準備金として用意しました。このプロジェクトの実現には500万フラン(約4億3,000万円)が見積もられています。支払い可能な家賃とするために組合は基金を募って150万フラン(1億3,000万円)をカバーすることを目標としています。

シルビア K. ミューラーとクリスチャン・シッフェルレのインタビュー

 クリスチャン・シッフェルレは、CSNのシルビア K. ミューラーのインタビューを受けました。彼は、どうしてスイスにMCS住宅プロジェクトを立ち上げることにしたのか、そして現在どのような困難があるのか、しかし、どのように多くの支援を既に受けているかを話してくれました。

シルビア K. ミューラー(SKM):クリスチャン、私たちは皆、あなたのことをとても誇りに思い、スイスで順調に進み始めたMCS住宅プロジェクトについて非常に満足しています。あなたがこのプロジェクトについてのアイディアを最初に持ってからどのくらい経ちましたか? 動機は何でしたか?

クリスチャン・シッフェルレ(CS):私はこの環境病に子ども時代以来50年近く罹っていますが、20年前に初めてチューリッヒ市政府にMCS患者のための収容施設を要請しました。そしていくつかの企画と粘り強さが必要でした。私はシンナーとラッカーに反応し、病気でしたが、周囲の人々は誰も私のことを真面目には考えてくれず、仮病扱いをされました。

SKM:あなたは社会から受け入れられず、そのことの被害も受けたのですね?

CS:そうです。まったく最初から、私は生き残るために孤独の戦いをしてきました。社会から受け入れられなかったことが私を、精神的ではあるが何事かを実現するための真の活動は何であるかを考える市民MCS活動家にしました。そして私はスイスMCSリーグ(MCS-Liga Schweiz)を10年前に設立しました。私は子どのときからこの病気に罹っているのですからMCSは私の宿命であり、私の生涯の仕事であるように思います。

SKM:チューリッヒ市はこの革新的なプロジェクトのために何を準備してくれたと思いますか? 他の住宅プロジェクトに役に立つでしょうか? 健康な住居は単に流行であるというだけでなく、人間を健康で強くします。この考えはチューリッヒ市にとっても明白であったのでしょうか?

CS:私はチューリッヒ市庁舎の前でビラ配りをし、よく知られた地方及び全国のメディアに投稿しました。このことが、他のMCS患者が同じように当局と話し合うきっかけとなりました。今では市は、私達のことを真面目に扱い、どのようにしてより健康な家を作るかについてMCS住宅プロジェクトから学ぶことに関心を持ちました。そして今後、私たちはこのことを公共のメディアにもっと多く伝えようと思います。あなたがドイツCSNとして私たちMCS患者のためにしてくれていることは本当に素晴らしいことです。私の最も大事なMCS組合はこの住宅プロジェクトの力によって実現したのです。

SKM:あなたはチューリッヒ市の人々があなたのことに耳を傾けるようにするために、それはMCS患者にとって夢が実現したように見えるのですが、どのようなことをしのですか?

CS:それは長い間、メディアへの投稿記事により圧力をかけたからです。今、チューリッヒ市がしていることはすばらしいことです。この先駆的なプロジェクトについて、特に感謝しなくてはなりません。幸いなことに時が変わりました。私たちは今日、住宅協同組合”健康な居住(HEALTHY HABITATION)”にたどり着きました。私たち環境病の患者はこれを前例として有効に利用しなくてはなりません。環境病の患者にとって健康な家は、他の人たちが環境病についてよりよく理解することに役立ち、それを受け入れることにつながります。

SKM:あなたのプロジェクトの最大の支援者は誰であったのか、そして現在は誰なのでしょうか?

CS: 最初は約330ユーロ(約46,000円)で現在はもっと高い株を1株又は数株、購入してくれた約45人の組合員です。私たちは合計20,000ユーロ(約280万円)近くの資金で幸先のよいスタートをきりました。私達は、初期から私達を支援して下さり、現在も実行委員である二人の医師、ローマン・リエサ博士とクラウス・テレー博士を特筆しなくてはなりません。

SKM:ドイツではこの数ヶ月間に非常に深刻な事件があり(訳注1)、私たちは、最も重症で生き延びるための家がないMCS患者のための避難施設をどうしても求めなくてはなりません。あなたは避難施設を提供できますか?

CS:はい。環境病に罹った他の人々の住宅がないということは私にとって重大な問題です。もちろん、私たちは避難住宅を提供するつもりです。私が古い移動住宅トレーラーの置き場所を探したとき、私が経験したことを本当に思い出します。私が森の中で数え切れないくらいの夜を過ごし、キャンバス・チェアーの上で眠ったことを決して忘れないでしょう。ですから、私は環境病の人々のための避難用アパートと香料のない共同部屋を考えています。その家の仕様は厳格にMCS対応のものになるでしょう。

SKM:私たちは、あなたの放浪の生活を終わらせるために、このMCS住宅プロジェクトが早く、トラブルなしに完成すること切に願っています。あなたはMCS対応の家が出来たら、山に置いてある移動住宅トレーラーはどうするのですか?

CS:私は熱にも過敏であり、低地帯の高い気温に苦しむので、移動住宅トレーラーはそのまま置いておきます。多くのMCS患者は熱に過敏なので、私たちはまた、MCS対応及び休日用アパートを山に作ろうと考えています。長期的には、私たちは休日用集合住宅を作ることを考えています。それはMCS患者は休暇用の家を見つけることが非常に困難だからです。そのようなアパートを海岸に建てるのもすばらしいでしょう。チューリッヒのMCS住宅プロジェクトは全てのMCS収容施設の必要に対応することはできませんが、他の多くのMCS住宅プロジェクトを立ち上げるための先駆的推進力となるでしょう。

著者:Silvia K. Muller, CSN - Chemical Sensitivity Network, November 2009.
英訳: BrunO


訳注1
CSN 2009年11月 化学物質過敏症患者アンジェリカ−最後の数ヶ月の生活



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