Our Stolen Future (OSF)による解説 2007年1月12日
マウス胎児期のビスフェノールA暴露は
初期卵子形成をかく乱する

Reproductive Toxicology, in press の掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science, 12 January, 2007
Bisphenol A exposure in utero disrupts early oogenesis in the mouse
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/bisphenola/2007/2007-0112Susiarjoetal.html

オリジナル論文:Bisphenol A Exposure In Utero Disrupts Early Oogenesis in the Mouse
Martha Susiarjo, Terry J. Hassold, Edward Freeman, Patricia A. Hunt
http://genetics.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pgen.0030005

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年1月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/07_01_osf_BPA_eggs_mice.html


 人が普通に暴露するレベルの範囲内でビスフェノールA(BPA)に暴露した妊娠中のマウスは、その孫に染色体異常を引き起こすことを実験が示した。

 この影響は、マウスやヒトを含むメスの哺乳類はまだ母親の胎内にいる間に卵子を形成するので、起こり得ることである。このように”祖母”マウスがビスフェノールAに暴露すると、直接の子どもだけでなく、孫になる卵にも影響がある。

 妊娠中にビスフェノールAに暴露するとメスの胎児の卵の発達をかく乱する。これらの胎児が成マウスになると卵子と胚の染色体異常という逸脱が観察される。染色体異常は知られているヒトの自然流産の最大の原因である。

 これらの発見は、染色体に及ぼす低レベルBPAのもうひとつの主要な影響を明らかにするものである。以前の研究で、卵子発達の後半の段階でのBPA暴露は染色体の分配に異常をもたらし、異数倍数体(aneuploidy)と呼ばれる結果−を引き起こすことが示されていた。この新たな研究は卵子が胎児の体内で形成される非常に初期の段階でも卵子形成は非常に脆弱であることを示している。

 スシアルジョらがらのこの論文と一緒に発表された(プラスチック・ボトル中で卵をかき混ぜる)という評論の中で、この分野の二人の科学者は、”これらの観察は、環境暴露が哺乳類の減数分裂プロセスに影響を与えるかもしれないということを今日までに最も説得力をもって実証している”と結論付けている。

何をしたか?

 スシアルジョらは、まず最初に胎内でBPAに暴露するマウスの染色体に対する影響を特性付け、その後彼らが観察したダメージを引き起こしているに違いない分子メカニズムを詳しく調べるために、一連の実験を行った。

 彼らは妊娠したマウスに一日当たり400ナノグラムのBPAを出すよう設計された小丸薬をマウスの体内に埋め込むことによりBPAに暴露させることから始めた。これは一日に体重当たり20ppbに相当し、これは多くの人々が経験する暴露の範囲である。

 1980年代収集されたデータに基づくEPAとFDAの安全閾値は1日当たり50ppbであるとしている。

 彼らは次に、胎内で暴露したメスの卵子及び胎内で暴露したメスの胚の発達段階に応じた染色体への暴露影響を検証した。その胚は妊娠中に暴露したメスのマウスの孫娘である。

 上記の実験で、スシアルジョらはa full complementのエストロゲン受容体をもったマウスを使用した。別の実験で、彼らは二つの遺伝的異型のマウスを使用したが、そのひとつはエストロゲン受容体αか、又はエストロゲン受容体Βのどちらかを製造する遺伝子を転写する機能がないマウスである。エストロゲン化合物は通常、エストロゲンに敏感な遺伝子を刺激するプロセス中で、これら二つのタイプの受容体と結合している。科学者らは、観察された影響を引き起こすることに関与する分子的メカニズムのいくつかを検証するために、ひとつ又はそれ以上の受容体タイプを欠く”ノックアウト”と呼ばれる遺伝的突然変異を利用する。”

何が分ったか?

 18.5日齢の胎児の卵巣から得た卵子の中に(妊娠中に暴露した母ラットから外科的に取り出した)、スシアルジョらは染色体異常が著しく増加していることを観察した。

 下図に示すように、BPA暴露した卵子で正常の染色体を持つものは少なく、様々なエラーが数多く見られた。

 BPAに暴露した卵子は、細胞分裂の間に適切に相同染色体が対合しない”不完全なシナプス(対合)”をもつ割合が高かった(下の顕微鏡写真を比べよ)。

 スシアルジョらはまた、非相同染色体が端と端をつないだ異常な配置が高い割合で発生することを観察した。

左の顕微鏡写真は対合中の2対の染色体を示している。その対はしっかりと絡み合っており、その parallel arms は見分けがつかない。右の写真の矢印は不完全な対合の例を指しており、相同対が対合していない。

Micrographs from Susiarjo et al.
組み換えが起きた染色体上の場所を示す染みを用いて、スシアルジョらはBPAに暴露した卵子はコントロールに比べて著しく高い割合で組み換えが起きることを見いだした(p < 0.0001)。

Adapted from Susiarjo et al.
右の顕微鏡写真は端と端をつないだ異常な結びつきの二つの例を示している。

 このことを確認するために、スシアルジョらは妊娠メスラットに前と同様にBPAを投与し減数分裂中に交叉( cross-over breaks)あるいはキアズマ(chiasmata)を調べた。組み換え率の増大によって予測されたように、BPA暴露の卵子には交叉が多かった((p < 0.05)。

 観察された染色体エラーの数が多いので、スシアルジョらは胎内で暴露したメスの卵子は、その卵子中及び受精した胚の中に高い割合で異数倍数体(aneuploidy)を持っているはずであると予測するにいたった。この予測をテストするために、彼らは、前と同様の方法でもうひとつの暴露実験を行った。

 彼らは胎内で暴露したメスを二つのグループに分けた。ひとつのグループでは、それらのメスが4〜5週齢に達した時にその卵子を調べた。他のメスのグループでは正常のオスと掛け合わせ、その胚の異数倍数体(aneuploidy)を調べた。彼らのデータは、子宮内でBPAに暴露したメスの卵子と胚の40%に染色体異常があることを明らかにした。それとは対照的に、実験室のマウスには、通常、異常は1%以下である。その相違は著しく有意である(p < 0.001)。

 エストロゲン受容体(ER)(の欠落した)ノックアウト(knockou)マウスのうち、 ERαの複写機能のないメスは正常なマウスと同様にBPAに対して感受性が高かいことを示したが、このことはBPAはこの影響についてERαを通じて作用していないことを示している。しかし、ERΒ についての結果は驚くべきものであった。暴露していない ERΒ マウスは、BPAに暴露した野生型(wild type)マウスと同様な染色体異常が起きていた。このことは、BPAがこれらのエラーを引き起こすメカニズムは、BPAはこの因果経路においてはエストロゲン様に振舞うのではなく、ERΒの制御の下の遺伝子の活動を阻止することかもしれないということを示している。

何を意味するか?

 これは、非常に低用量のビスフェノールAがマウスの卵子形成における細胞分裂中に染色体異常を引き起こすことを示した第二番目シリーズの実験である。第一番目のものは成獣メスの暴露した卵子は異数体(aneuploid)になる、すなわちその影響が一世代目から次の世代に継がれることを示した。スシアルジョらによってこの研究で示された結果は、第二世代影響:子宮中で暴露した娘の卵子における染色体の異常、孫に染色体異常をもたらす−を示している。この二つの影響は異なるメカニズムによって起こされる。

 ビスフェノールAへの暴露は非常に広範囲に広まっている。ヒトに関するデータによればヒトの血清と羊水中に見られるBPAのppbレベルはこの実験における用量に匹敵する。最近の米国疾病予防管理センター(CDC)のデータはアメリカ人の95%がBPAに暴露していることを示している。その測定方法(尿中)の違いのために、この実験と直接的には比較することはできないが、彼らはこれらに匹敵するレベルでのBPAへの暴露がアメリカ国民の間に広がっていると示唆している。ヒトにおけるBPA、異数体、及び流産との関係を示すひとつの研究 (訳注1)が発表されている。追加的な疫学的情報はほとんどない。

 EPA及びFDAの一日当たり50μg/体重kgという現在の安全閾値以下のレベルでのBPA暴露の有害影響を報告する研究はますます増加して100を超えている。EPA及びFDAの安全閾値は1980年代中頃に得られた50mg/kg の体重減少をもたらすとする研究に基づいたデータに基づいている。3世代にわたる非常に有害な影響を報告しているこの新たな研究は、BPAのリスクの再評価を強く求めている。


訳注1
ビスフェノールAへの曝露は習慣流産に関連がある/スギウラ−オガサワラら(OSF による解説)

訳注2:参考資料(遺伝子/染色体に関わる用語の解説)


化学物質問題市民研究会
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