Our Stolen Future (OSF)による解説
ビスフェノールAへの暴露は
習慣流産に関連がある


Human Reproduction, in press. 掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/bisphenola/2005/2005-0610Sugiuraetal.htm
Sugiura-Ogasawara, M, Y Ozaki, S Sonta, T Makino and Kaoru Suzumori 2005.
Exposure to bisphenol A is associated with recurrent miscarriage
Human Reproduction Advance Access published online on June 9, 2005

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年6月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/05_06_osf_bisphenol_A.html



 2003年、ハントらはビスフェノールAがマウスの染色体の異数性(meiotic aneuploidy)を引き起こすという報告を発表していた。染色体の異数性は人間の自然流産の最も知られている原因であり、また、消費者製品の使用を通じて人間のビスフェノールAへの暴露が広範に起きているので、ハントらの報告はそのことが人間にも関連するという懸念と予測を強くするものであった。マウスにその影響を及ぼす暴露レベルは一般の人々が暴露する範囲内のレベルであった。

 今回の研究調査で、スギウラ−オガサワラ(訳注:名古屋市立大学医学部産婦人科杉浦真弓助教授)らは初めて、ハントらが予測したように、ビスフェノールAが人間の習慣流産(3回以上の流産))と関連するということを示した。彼らは、習慣流産の経験がある女性の中に高いビスフェノールAレベル、及び、流産した胎児に染色体異数性の証拠を見出した。

 これは、動物実験に基づく、内分泌かく乱物質の人間における影響に関し、この1ヶ月の間に発表された2番目の研究調査である。つい2週間前にスワンらが、げっ歯類の実験で予測されていたフタル酸エステル類の高いレベルと男児の生殖器異常との高い有意な関連性を示したばかりである。
 内分泌かく乱物質の人間への影響に対する懐疑論者らは、数十年の間、いろいろ経験しているが、人間への有害影響の証拠は存在しないと繰り返し主張していた。彼らの主張の弱点は関連する人間の研究調査が行われておらず、安全性を証明するデータが存在しないことである。現在、疫学者らは動物実験データを研究のガイドに使用しており、我々は人間への有害影響はないという懐疑論者の断言を直接反駁することができる。

何を行ったか?

 先見性のある調査で、スギウラ-オガサワラらは、習慣流産(3回以上の流産)の経験のある45人の女性の血清中のビスフェノールA濃度を、過去に流産したことがない(正常出産)32人の妊婦の血清中濃度と比較した。

 彼らは彼女らが次の出産で正常出産するかどうかどうかを追跡した。彼らはまた流産した胎児について、異数性の染色体ダメージがあるかどうか検証した。さらに、彼らは彼女らの免疫系の指標と甲状腺レベルを検証した。

何がわかったか?

 習慣流産の経験を持つ女性のビスフェノールA濃度は3倍高かった(2.59 ng/mL 対 0.77 ng/mL)。この差異は統計的に有意であった(p = 0.024)。

 前回流産した女性らのうち、17人が今回の妊娠でも流産したことがスギウラ-オガサワラらによって確かめられた。彼女らのビスフェノールA濃度は今回の妊娠で正常出産した女性よりも高い傾向があったが、その差異は統計的に有意ではなかった(4.39 ng/mL 対 1.22 ng/mL)。

 その組織を分析することができた流産13胎児のうち、4胎児の染色体は異数性、すなわち1ケ余分な染色体を持っていた。母親たちの平均ビスフェノールA濃度は2.5 ng/MLであった。

 甲状腺の状態はについてはケース及びコントロールの母親たちに差異はなかったが、ケースの母親たちは、免疫系障害の指標である抗核抗体(antinuclear antibodies)(訳注:自己抗体の中で代表的なもので、細胞核内に含まれる多種の抗原物質に対する抗体群の総称)が高かった。

何を意味するか?

 この調査はサンプル数の少ない予備的なものである。しかしサンプル数は小さくてもスギウラ-オガサワラらが見出した習慣流産の経験がある母親らのビスフェノールA濃度が明らかに高いという事実は、動物実験からの予測を暫定的に確認するものである。この調査は、もっと大きなサンプル数で再現性を求められることは明らかであるが、このことが信頼できる動物実験に基づく予測された結果であるという事実は、たとえサンプル数が少なくても信頼性を高めるものである。

 これにより、懐疑論者が有害性の証拠が存在しないと断言することはもはや不適当である。そして、このことが信頼できる動物実験に基づく予測された結果であるという事実が信頼性を高めるものである。

 著者らによれば、一般の人々の散発的な自然流産の約40〜70%に受胎物の染色体異常が見られ、特に習慣流産ケースの10〜50%に見られる異常な胚胎核型を持った異数性は重要である。ビスフェノールAがこれらの流産の原因のある割合を占めるかもしれないという可能性は、自然流産のあるケースは暴露を削減することで防止することができるかもしれないという可能性を開くものである。


化学物質問題市民研究会
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