pressconnects.com 2012年1月7日
新たな研究:
トリクロロエチレンとテトラクロロエチレンによる
汚染土壌からの発生ベーパは
先天性異常に関係する


情報源:pressconnects.com Jan. 7, 2012
Study: Plume vapors linked to birth defects
Infants born in 70-block area of Endicott had higher rates of health problems
Written by Steve Reilly
http://www.pressconnects.com/article/20120107/NEWS01/201070332/
Study-Plume-vapors-linked-birth-defects?odyssey=nav|head


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年1月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/120107_Plume_vapors.html.html


【エンディコット】 先天性心臓欠陥、低出生体重、その他の先天性異常は、数十年間、ニューヨーク州北部のエンディコット及びの地下の穴に潜んでいた産業汚染物質から発生する土壌ベーパーに関連があることを、新たな研究が明らかにした。

 州健康局の研究者らは、IBMの元製造施設の南に位置するエンディコットの70ブロック地域に住む母親から生まれた幼児は、同州の他地域で生まれた幼児らに比べて高い割合で健康問題をかかえていることを発見した。

 この地域は、がんや神経系を含む健康問題と関係するトリクロロエチレン(TCE)(訳注1)とテトラクロロエチレン(PCE)(訳注2)という二つの工業用溶剤で汚染されている。

 トリクロロエチレン(TCE)とテトラクロロエチレン(PCE)の危険性は、エンディコット及び米国中の同様な汚染サイトで比較的よく報告されているが、それらの研究のほとんどは飲料水を通じての曝露に焦点を合わせたものであり、それはエンディコットでは問題があるとは信じられていなかった。

 ”これは、土壌ベーパーの侵入経路が関与してることを報告した最初の研究である”と、この研究の共同著者である州健康局の研究科学者スティーブン・フォランドは述べた。

 研究者等は、1978年から2002年までエンディコット土壌汚染地域内に住んでいた母親から生まれた1,440人の赤ちゃんの記録を調べた。

 ”我々はいくつかの顕著な発見をした。最も顕著なことは、心臓障害はTCE 及び PCEの影響を受けた両方の地域で高かったということである”とフォランドは述べた。

 エンディコットの出生サンプルの中で、1983年から2000年の間に出生障害をもって生まれた赤ちゃんは61例であり、1978年から2002年の間に低体重で生まれた赤ちゃんは88例であった。

 この研究は、ニューヨーク市を除いて、エンディコット調査地域の母親に生まれた子どもたちはニューヨーク州のそれ以外の場所にの母親から生まれた赤ちゃんとの統計比較で次の事実を明らかにした。
  • 心臓系疾患が2倍程度多い。
  • 出生低体重の赤ちゃんが20%以上多い。
  • 心臓の先天性異常の一種で心臓の出口管の異常形成による”conotruncal defect”が5倍近く多い。
歴史

 1980年、前年にIBMの施設で起きた4,100ガロン(約15,000リットル)の漏洩事故に端を発した調査中に、数千ガロンのTCE、PCE、その他の汚染物質がエンディコットの地下水を汚染していることが発見された。

 1990年代の後半に、汚染土壌からのベーパー経路が検出され、2002年までにIBMは州の健康及び環境機関の要求により大気のテストを開始した。

 最終的に400以上の家庭の地下室に換気装置が設置された。

 一連の有毒物質被害訴訟で、2008年1月の初めに約1,000人の原告が、TCE 汚染が病気と死をもたらし、財産価値を損ない、ビジネスに害を与えたと主張した。昨年6月のブルーム郡最高裁による裁判管理指示で、公判は10月1日までに開始されることになっている。

 原告側の弁護士とIBMの報道担当官の両方とも、この報告書にコメントすることを断ってきた。

 西ブルーム環境関係者連合議長ワンダ・フダクは、土壌ベーパー問題が最近認められたことは”長らく待ちわびていたことだ”と述べた。同グループは、TCE についてもっと多くの調査と、この物質を管理するためのもっと厳しい連邦基準を求めた。

 ”我々の大部分は、もはや子どもを生む世代ではない。子どもたちの大部分は、他の土地に移ってしまった。我々の懸念は、この TCE で汚染されているかもしれない他の場所だ。もしそれを問題にすることができるなら、子どもたちに伝えなくてはならない ”。

 TCE 汚染は、サウザンティアー(Southern Tier)、ニューヨーク州北部、そして国中の多くの土地の下に存在する。

 イサカ(Ithaca)の住人で、TCEで汚染された100-acreのサイト修復の取り組みを報告しているケン・ドシェルは、彼の家族と彼の隣人にとって健康の懸念は確かに非常に現実的であると述べた。

 ”私たちは、このことを知る前にこの家で子どもたちを育てたけれども、彼等はやはり健康状態が悪かった”と、ドシェルは述べた。

 しかし、曝露レベルは相対的に低いので、土壌ベーパーと健康問題の因果関係を確立することは難しいとドシェルは述べた。

 ”彼等は、真実を知るために十分なテストを実施しなかった”と彼は述べた。

現在行なわれている調査

 カリフォルニアを拠点とする公衆環境監視センターのディレクターであるレニー・シーゲルは、科学界はベーパー侵入の条件を理解しており、その防止のためのいくつかの措置を設計したと述べた。しかしこのベーパーを健康問題に結びつけるのは難しかった。

 ”我々は基本的には理解しているが、直接的な定量的関連性は大気中にある”とシーゲルは述べた。

 環境保護庁(EPA)が昨年9月に初めて吸入曝露のリスク値を確立するまで、環境団体は、TCE の脅威を政府に認めさせるために長年、圧力をかけてきた。”科学的裏づけが長年、あったのだから、それは大きな政治的な勝利である”とシーゲルは述べた。

 EPAは、TCE の地域スクリーニング濃度を2.1μg/m3 と設定した。
 州・保健局によれば、エンディコットでは、屋内の TCE レベルは 0.18〜140 μg/m3 であることが調査で分かった。

 フォーランドは、TCE 汚染のほとんどの地域健康調査は現在までのところ、飲料水について行なわれてきたと述べた。しかし、その特性により、土壌ベーパー関連問題は事実をはっきりさせるのが難しかった。

 ”これはまさに潜在的な曝露の研究である”とフォーランドは述べた。”曝露が何なのか、そのレベルはどのくらいなのか、同時に起こるかもしれない他の曝露はどうなっているのか、などについて我々は確かなことはわからない”。

 研究者等により言及されたもうひとつの限界は、サンプル数が少ないということであり、エンディコットの比較的小さなサイズに起因する制約である。

 この研究はすでにピアレビューされて、ウェブ上に掲載されており、国立環境健康科学研究所(NIEHS)のジャーナル『環境健康展望(Environmental Health Perspectives)』に掲載されることが決まっている。

 ”このことがもっとよく知られるようになれば、もっと多くの事例が出てくると思う。多分10年前までは、ベーパーの侵入など曝露経路としてほとんど考えられていなかった”。


訳注1:トリクロロエチレン
  • トリクロロエチレン/ウイキペディア
     有機塩素化合物の一種。エチレンの水素原子のうち3つが塩素原子に置き換わったもので、示性式 ClCH=CCl2 で表される。脱脂力が大きいため、半導体産業での洗浄用やクリーニング剤として1980年代頃までは広く用いられていた。しかし発癌性が指摘され、代替物質への移行が行われている。
     土壌汚染や地下水汚染を引き起こす原因ともなるため、各国で水質汚濁並びに土壌汚染に係る環境基準が定められている。日本では化学物質審査規制法により、1989年に第二種特定化学物質に指定された。国際がん研究機関の発がん性評価ではグループ 2A の「おそらく発がん性を持つ」物質として規定されている。
  • トリクロロエチレン/EIC環境ネット
     化学物質審査規制法(1973)では1989年に第二種特定化学物質に指定され、その製造・輸入に際して予定数量を国に届け出ることが必要となり、また取扱に際して国が示した環境保全の指針などを遵守することが義務づけられた。
     また、大気・水・土壌について環境基準が設定され、水質汚濁防止法(1970)、大気汚染防止法(1968)で排出が規制されている。大気汚染に係る環境基準は1年平均値が0.2mg/m3以下で、水質汚濁及び土壌汚染に係る環境基準は0.03mg/l 以下と定められている。
  • 第二種特定化学物質の管理の状況について
    −第8回安全対策小委員会資料(平成21年6月5日開催)より−

    平成19年度の製造・輸入等の実績
     主に代替フロン(HFC系=以下同じ)原料、金属脱脂洗浄用に用いられている。平成19年度の実績は、製造が 75.5千トン(対前年度比4.5%減)、輸入が90トン(同8.2%減)であり、出荷は74.8千トン(同2.5%減)となった。
    表示
     化審法第28条に基づき、第二種特定化学物質が使用されている製品等の容器、包装又は送り状に環境の汚染を防止するための措置等に関し表示すべき事項を定め告示するとともに、表示を義務付けている。なお、平成19年1月12日付でGHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)に基づく表示を化審法第二種特定化学物質に係る表示とみなす旨の通知を行った。
  • ロサンゼルス タイムス 2011年9月30日 工業用溶剤トリクロロエチレン(TCE) 考えらていたより人体に危険 全米のスーパーファンドの浄化が必要か? (当研究会訳)
訳注2:テトラクロロエチレン
  • テトラクロロエチレン/ウイキペディア
     ドライクリーニングや化学繊維、金属の洗浄などの目的で工業的に生産されている化合物である。他の化合物の原料としても用いられ、一般商品にも使われている。別名としてパークロロエチレン、パーク (perc)、PCE、テトラクロロエテンがある。
     多くのハロゲン系炭化水素と同じく中枢神経を麻痺させ、(特に密閉された換気の悪い場所で)蒸気を吸い込むと、めまい、頭痛、眠気、錯乱、吐き気、言語障害、歩行困難、意識不明などの症状におちいることがあり、時には死亡する。
     土壌汚染の原因物質として報道されることが多い。これは使用している工場(ドライクリーニング店)の数が多く、最近まで廃棄の規制がなかったため、地下へ浸透させてしまったことが直接的な原因である。
  • S4−3 岐阜市におけるテトラクロロエチレンによる地下水汚染対策につい


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