ロサンゼルス タイムス 2011年9月30日
工業用溶剤トリクロロエチレン(TCE)
考えらていたより人体に危険
全米のスーパーファンドの浄化が必要か?


情報源:Los Angeles Times September 30, 2011
Industrial solvent TCE even more dangerous to people
By Louis Sahagun, Los Angeles Times
http://www.latimes.com/news/local/la-me-toxic-risk-20110930,0,1063431.story

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html

掲載日:2011年10月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_11/110930_LAtimes_Industrial_solvent_TCE.html


 米国で最も広く地下水を汚染している物質のひとつが、当初考えられていたより人体に危険であると連邦政府機関EPAは決定したが、この決定はサンフェルナンド及びサンガリブエル渓谷の広い領域を含んで、全米で浄化のためのコストの問題が生じるであろう。

 米環境保護庁によるトリクロロエチレン(TCE)(訳注1)の最終的なリスク評価は、広範に使用されているこの産業用溶剤が、腎臓がん、肝臓がん、リンパ腫、その他の健康問題を引き起こすことを見つけた。それは、この汚染物質についての連邦飲料水基準:水中で5ppb、そして空気中で1μg/m3を再評価するための基礎をなすものであると当局者は述べた。

 EPA研究開発室の副長官ポール・アナスタスは、今週発表されたリスク評価で報告されたトリクロロエチレンの毒性値は、サンフェルナンド及びサンガリブエル渓谷の数百万人の住民のための飲料水を供給する帯水層と共に、761か所スーパーファンド・サイト(訳注2)の新たな浄化戦略を確立するために使用されるかもしれないと述べた。

 このリスク評価は10年以上遅れていた。トリクロロエチレンとがんとの強い関連を示唆した2001年のドラフト評価は、国防省、エネルギー省及びNASAにより反対された。

 ペンタゴンは、1,000か所以上の汚染サイトにおける浄化コストを計上する前に、産業化学物質ががんを引き起こすというもっと強い証拠を求めていた。

 ”このリスク評価は、トリクロロエチレンのベーパー雰囲気に住み、そこで働く多くの人々のための保護を強化することになり、浄化の取り組みの規模について真剣に考えさせるので、大変な出来事である”と、カリフォルニアを拠点とする公衆環境監視センターのディレクターであるレニー・シーガルは述べた。同センターは、全米の活動家が署名した最終的リスク評価の発表を要求する手紙を月曜日(9月26日)に出し、その最終評価が水曜日(9月28日)に発表された。

 天然資源防衛協議会(NRDC)の上席科学者ジェニファー・サスは、この決定は”安全基準はどうあるべきかについての議論を引き起こすものである。一方、この汚染物質により影響を受けた人々は、科学的には最早議論の余地がないのだから、もっと自信をもって訴訟で彼等の病気をこの物質に関連付けることができる。トリクロロエチレンはがんを引き起こす。”と述べた。

 トリクロロエチレンは、ほとんど全ての州で発見されているが、カリフォルニア州ほど広範なところはない。キャンプ・ペンドレトンとエドワーズ空軍基地を含む軍事基地にはトリクロロエチレン汚染のスーパーファンド・サイトがいくつか存在する。

 ロサンゼルス首都圏は、トリクロロエチレンの地下プリュームが格子状に存在し、この化学物質の空気中の濃度は高い。サンガリブエル渓谷の30平方マイル以上がトリクロロエチレンを含む4つのスーパーファンド・サイトのひとつの中にある。サンフェルナンド渓谷は、3つの個別のスーパーファンド・サイトに分類される大きなプリュームの上に位置している。オレンジ・カウンティーの海兵隊基地エルトロ(El Toro)は、数マイルの長さに渡りプリュームの上に位置している。

 19世紀の後半に科学者らによって開発されたトリクロロエチレンは、第二次世界大戦後、金属や電子部品の油落としに使用された後、最寄の廃棄ピットや工場や軍事基地にある保管タンクに投棄され、そこから帯水層に漏れ出した。

 公衆は、汚染された水でシャワーを浴びたり、土壌から家の中に侵入したトリクロロエチレンのベーパーを吸引することを含んで、いくつかの方法でトリクロロエチレンに曝露する可能性がある。汚染した地下水や土壌から、その上にある建物の中に流れ込むトリクロロエチレンの移動は大きな懸念のひとつである。

 ”ベーパーの侵入は、継続しており、避けるのは難しい有毒曝露を意味する”とシーガルは述べた。”あなたの家や学校で、びん詰めの空気を吸って生きていくわけには行かない”。


訳注1:トリクロロエチレン関連情報
  • トリクロロエチレン/ウイキペディア
     有機塩素化合物の一種。エチレンの水素原子のうち3つが塩素原子に置き換わったもので、示性式 ClCH=CCl2 で表される。脱脂力が大きいため、半導体産業での洗浄用やクリーニング剤として1980年代頃までは広く用いられていた。しかし発癌性が指摘され、代替物質への移行が行われている。
     土壌汚染や地下水汚染を引き起こす原因ともなるため、各国で水質汚濁並びに土壌汚染に係る環境基準が定められている。日本では化学物質審査規制法により、1989年に第二種特定化学物質に指定された。国際がん研究機関の発がん性評価ではグループ 2A の「おそらく発がん性を持つ」物質として規定されている。

  • トリクロロエチレン/EIC環境ネット
     化学物質審査規制法(1973)では1989年に第二種特定化学物質に指定され、その製造・輸入に際して予定数量を国に届け出ることが必要となり、また取扱に際して国が示した環境保全の指針などを遵守することが義務づけられた。
     また、大気・水・土壌について環境基準が設定され、水質汚濁防止法(1970)、大気汚染防止法(1968)で排出が規制されている。大気汚染に係る環境基準は1年平均値が0.2mg/m3以下で、水質汚濁及び土壌汚染に係る環境基準は0.03mg/l 以下と定められている。

  • 第二種特定化学物質の管理の状況について
    −第8回安全対策小委員会資料(平成21年6月5日開催)より−

    平成19年度の製造・輸入等の実
     主に代替フロン(HFC系=以下同じ)原料、金属脱脂洗浄用に用いられている。平成19年度の実績は、製造が 75.5千トン(対前年度比4.5%減)、輸入が90トン(同8.2%減)であり、出荷は74.8千トン(同2.5%減)となった。
    表示
     化審法第28条に基づき、第二種特定化学物質が使用されている製品等の容器、包装又は送り状に環境の汚染を防止するための措置等に関し表示すべき事項を定め告示するとともに、表示を義務付けている。なお、平成19年1月12日付でGHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)に基づく表示を化審法第二種特定化学物質に係る表示とみなす旨の通知を行った。
訳注2:スーパーファンド法関連情報


化学物質問題市民研究会
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