Environmental Factor 2022年9月
難燃剤が、そして母親の食事が、
子どもに及ぼす影響 講演の焦点

8月10日、NIEHS 環境健康科学コアセンター・プログラムに
所属する若手研究者らによる研究が取り上げられた。
スーザン・コージャー

情報源:Environmental Factor September 2022
Effects of flame retardants, maternal diet on children focus of talks
Research by early-career scientists affiliated with the NIEHS Environmental
Health Sciences Core Centers Program was highlighted August 10.
By Susan Cosier
https://factor.niehs.nih.gov/2022/9/awards-recognition/
early-stage-investigators/index.htm


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年9月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/flame_retardants/220900_EnvFactor_
Effects_of_flame_retardants_maternal_diet_on_children_focus_of_talks.html





メンディ(左) は、呼吸器への影響に対する感受性のウィンドウを特定するために、難燃剤の代替品への幼少期の暴露を研究している。 (写真提供:Colleen Kelley / シンシナティ大学)
バフィントン(右) は、母親の食事と神経発達障害に焦点を当てており、リスクを軽減する可能性のある栄養補助食品を調査することを目指している。(写真提供:シェリー・バフィントン)
 8月10日に NIEHS Environmental Health Sciences Core Centers Program が主催した最新の若手研究者注目ウェビナ(Early-Stage Investigator Spotlight Webinar)では、子どもの健康が最重要視されていた。アンジェリコ・メンディ博士は難燃剤の代替物質が子どもたちの呼吸器系健康にどのように影響を及ぼすか、及び、シェリー・バフィントン博士は、妊娠中の女性の食事誘発性肥満と子どもの神経発達障害との間の関連性を伝えた。

 シンシナティ大学の環境・公衆健康科学の助教授であるメンディは、同大学の環境遺伝学センター (CEG) に所属している。テキサス大学医学部の助教授であるバフィントンは、ベイラー医科大学のガルフ コースト精密環境健康センター (GC-PEH) と提携している。 CEG と GC-PEH はどちらもコア センター プログラムの一部である。

 このウェビナーは、1月に開始されたシリーズの 7番目のもであり、ほんの数例を挙げると、計算毒性学(computational toxicology)、パンデミック時の船員のメンタルヘルス、大気汚染、自閉症スペクトラム障害などのトピックに焦点を当てている。


難燃剤と呼吸器の健康(講演 1)
アンジェリコ・メンディ博士
シンシナティ大学環境・公衆健康科学 助教授
 メンディによると、米国企業は長年にわたり、火災のリスクを軽減するために、ポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)として知られる難燃剤類を製造及び輸入して、電子機器、家具、マットレス、車のシートに使用してきた。また、おもちゃや睡眠ポジショナーなどの幼児用製品にも使用されていた。物質は環境に浸出して室内の埃に蓄積し、人々がそれらを吸い込む可能性があり、その化学物質類の一部は胎盤関門を通過する可能性がある。研究者らは PBDEs を子どもの神経発達障害と結び付け始め、その知識が企業を 2004 年に同化学物質類の段階的廃止をもたらしたと彼は指摘した。

 企業は、これらの PBDEs を有機リン系難燃剤類及び代替の臭素系難燃剤類に置き換えた。しかし、研究者らはこれらの代用品類を呼吸することの健康への影響をまだ知らない、とメンディは説明した。

 ”代替難燃剤類と呼吸器の健康との関連に関する文献には多くのギャップがある”と彼はウェビナーの参加者に語った。

 メンディは、有機リン系難燃剤単独または混合物への若年期の暴露は、遺伝子発現の変化によって影響を受ける可能性のある有害な呼吸器系の転帰(respiratory outcomes)と関連するという仮説を立てた。彼は 2003年から 2006年の間にシンシナティ大都市圏で募集された 400人の女性を含む妊娠及び出産コホートである環境研究の健康結果と測定からのデータを使用した。

 埃を介した代替難燃剤類への暴露は、1歳の子どもたちで測定された。呼吸系の転帰を評価するために、メンディは 5歳になるまで 6か月間隔で子どもたちの呼吸器感染症、花粉症、及びアレルギーを報告した参加者からの調査を評価し、5歳での最大呼気流量(peak expiratory flow)も分析した。

 暫定的な結果では、1歳の時点で埃中の有機リン系難燃剤類の濃度が高いほど、5歳までのその後の呼吸器症状の頻度が高くなり、5歳での最大呼気流量が低下することが示されたと彼は述べた。これは、有機リン系難燃剤類への暴露が呼吸器への有害な結果につながる可能性があるという最初の証拠を提供するものであるとメンディは述べた。


訳注:有機リン系難燃剤関連情報

母親の栄養と脳の発達(講演 2)
シェリー・バフィントン博士
テキサス大学医学部 助教授
 近年、肥満率は世界中で増加しており、バフィントンはこの変化をメンタルヘルスの課題(a mental health challenge)と考えている。彼女は、肥満が、自閉症スペクトラム障害を含む神経発達障害の遺伝的素因を持つ子どもに影響を与える可能性があるためだと述べた。

 これらの個人では、”環境要因が病気の発現の転換点になる可能性がある”という新たな仮説がある。

 彼女はポスドクの訓練中に、高脂肪食を与えられた母親とそうでない母親から生まれたマウスの社会的行動を観察するためのモデルを作成した。彼女は、高脂肪食を与えられたマウスの子孫において、有意な欠損と相互作用時間の短縮を観察した。若いマウスが行った相互作用は質が低く、長続きしなかた。

 バフィントンは、”動物に自閉症のような社会的機能障害が見られ、その根底にあるメカニズムを本当に理解したいと望んだ”と述べた。そこで彼女は、母体の腸内の微生物叢を観察する実験を実施した。 彼女の結果は、マウスの腸内の特定のバクテリアをあるプロバイオティクス(訳注:体に良い(働きをする)バクテリア)に置き換えると、子孫の社会的行動を改善するのに役立つ可能性があることを示した。

 ”1960年代に神経管欠損症を救済する可能性がある葉酸の研究で見たように、おそらく今では母親のプロバイオティクスを神経発達障害を減少させる方法として見ることができる。

(スーザン・コージャー〈Susan Cozier〉 は、NIEHS Office of Communications and Public Liaison の契約ライターである。)

自閉症のリスクを軽減する

 最近の NIEHS ワークショップの参加者によると、妊婦が摂取する栄養補助食品は、子どもが自閉症スペクトラム障害を発症するリスクを減らす可能性がある。 2日間のイベントでは、栄養、暴露、自閉症の関連性に関する研究が取り上げられた。

 特に葉酸というサプリメントは、多くの妊婦が出生前のビタミンとして摂取しており、特定の化学物質への暴露による害を軽減する可能性がある。

 NIEHS 遺伝子・環境・健康支部の責任者であるシンディ・ロウラー(Cindy Lawler)博士は、次のように述べている。

 ”別の方法は、葉酸や多価不飽和脂肪酸など、有害な暴露によるリスクを軽減できるという前提で、有益な栄養への暴露を増やすことに焦点を当てることである。

 ワークショップの詳細をご覧ください。



化学物質問題市民研究会
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