Phys.org 2022年5月29日
海で見つかった難燃剤と可塑剤
海洋における有機リンエステル汚染

ドイツ研究センターヘルムホルツ協会

情報源:Phys.org May 29, 2029
Flame-retardants and plasticizers found in the oceans
by Helmholtz Association of German Research Centres
https://phys.org/news/2022-03-flame-retardants-plasticizers-oceans.html

Original Article: Organophosphate ester pollution in the oceans
published on 23 March 2022 in Nature Reviews Earth & Environment
https://www.nature.com/articles/s43017-022-00277-w

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年6月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/flame_retardants/220529_PhysOrg_
Flame-retardants_and_plasticizers_found_in_the_oceans.html



 2000年代初頭にポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)と呼ばれる難燃性物質の禁止に成功した後、それは 有機リン酸エステル類(OPEs) と呼ばれる別の問題ある化学物質類に置き換えられた。それ以来、有機リン酸エステル類(OPEs) の使用は著しく増加したが、それらが環境に与える影響についての知識は不足していた。研究者らは、有機リン酸エステル類(OPEs) の移動と存在を調査し、生物と人間に対する潜在的なリスクという文脈でとらえた。ヘルムホルツ−ツェントルム・ヘレオンの沿岸環境化学研究所のジヨン・シェ(Zhiyong Xie)は、国際的なグループを率いて、世界の海洋における 有機リン酸エステル類(OPEs) の最近の研究をレビューした。この論文は、2022年3月23日の Nature Reviews Earth & Environment 誌に掲載されている。

 有機リン酸エステル類(OPEs)は、産業界で見られるだけではない。電子機器、家庭用消費者製品、化粧品などの日常の製品には、これらの物質が含まれている。 有機リン酸エステル類(OPEs) は、主に難燃剤及び可塑剤として機能する。現在、有機リン酸エステル類(OPEs) は大気、海水、雪、堆積物に見られ、極地の海洋生物や哺乳類にも蓄積されている。研究チームは、内陸の発生源(廃水、地表水、電子廃棄物など)からヨーロッパ、北アメリカ、アジアの沿岸環境への 有機リン酸エステル類(OPEs) の存在と拡散を証明することができた。移動する大気と海流は、有機リン酸エステル類(OPEs) を人口密集地域や工業地域から外洋に運ぶ。北極圏や海岸から遠く離れた地域でも濃度の上昇が見られる。

 海洋生物における 有機リン酸エステル類(OPEs) の毒性と健康への影響に関する実際の研究は限られているが、実験室での実験により、一部の 有機リン酸エステル類(OPEs) は神経毒性と発がん性があることが証明されている。それらは、遺伝的構成、ホルモンバランス及び生殖に有害な結果をもたらす可能性がある。ヘルムホルツ−ツェントルム・ヘレオンのジヨン・シェは、次のように述べている。”ある有害物質を排除するとき、新たな問題を引き起こす別の有害物質を採用べきではない。どのような種類の有害物質の代替品についても我々はよく検討する必要がある。 したがって、毒性の少ない、すなわち環境にやさしいものを探す必要がある。

我々の環境中の 有機リン酸エステル類(OPEs)

 海洋環境と生物相に 有機リン酸エステル類(OPEs) が広く存在する中で、その物質グループの生物類への有害な影響が判明した。第一に、ある藻類種の光合成とそれらの個体群の成長に破壊的な影響をもたらし、第二に、有機リン酸エステル類(OPEs) の存在下での海洋ムール貝の免疫系が刺激される。 有機リン酸エステル類(OPEs) は海水中で光分解性であり、有機リン酸エステル類(OPEs) の分解生成物は、北極の海洋食物網で最上位の捕食者である海の魚とホッキョクグマ中で存在が確認されたということにヒントがある。

 有機リン酸エステル類(OPEs) が我々の日常生活製品にしっかりと組み込まれているという事実のために、適切なデータと強化された研究の必要性が高まっている。特に子どもたちに対する健康への影響はほとんど知られておらず、検出される濃度は年間トンの大きさであり、驚くほど高い。これらの合成有機化学物質はプラスチック製品に広く使用されているため、有機リン酸エステル類(OPEs) は摩耗、揮発、浸出によって環境中に放出される。さらに、非塩素系有機リン酸エステル類(OPEs)と塩素系有機リン酸エステル類(OPEs) は区別されなくてはならないが、水中での移動性と耐性が特徴である。後者(塩素系有機リン酸エステル類(OPEs))はより残留性があり、移動性がより高く、毒性がより高い。ライン川のような河川は、陸上汚染源からこれらの汚染物質を沿岸地域に運び、そこから海洋循環内を移動し、北極圏のような遠隔地にも出現する。大気は、この海の旅と同様に、化学物質の移動のために機能する。

気候変動のリスク

 注目に値する濃度の 有機リン酸エステル類(OPEs) が、雪氷圏と呼ばれる地球の凍結環境に蓄えられている。地球温暖化、したがって氷遮蔽の融解、氷河の後退、永久凍土層のthrowing は、水系における 有機リン酸エステル類(OPEs)の相対的な存在量と濃度を大きくし、海洋の健康に影響を与える可能性がある。この研究は、進行中の気候変動でおそらく新たに発生した問題に関する論文を支援することを目的としたとジヨン・シェは述べている。

政府規制の欠如

 有機リン酸エステル類(OPEs) 濃度の上昇に対処するための国際的な規制はほとんどないが、ストックホルム条約で対象化学物質のリストを公開した POPs レビュー委員会(POPRC)がある。 POPs は残留性有機汚染物質の略で、これらの化学物質を削減し、最終的に環境から廃絶することを目的としている。それらは 有機リン酸エステル類(OPEs) とは関係ないが、筆頭著者のシジヨン・シェは、”今後ずっと対象となるリストされた物質のいくつかよりも 100倍高い濃度の有機リン酸エステル類(OPEs)がある”と強調している。彼は、この研究を発表することにより、有機リン酸エステル類(OPEs) に注目を集め、リスク管理評価のための化学物質リストに導入することを望んでいると説明している。

 著者らは、国際的な生産停止に向けた 有機リン酸エステル類(OPEs)の使用に関する即時規制の要請で締めくくっている。 長期的には、この研究は、現在経験されている”残念な代替品を回避する”ために、難燃剤のより安全で毒性の少ない代替品の緊急の必要性を述べている。


訳注:参考資料:有機リン酸エステル類(OPEs)関連情報


化学物質問題市民研究会
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