EHP 2006年4月 特別号 論文集
野生生物に化学的に引き起こされる内分泌かく乱の生態学的関連
早期警告から遅ればせの教訓
内分泌かく乱物質における現実と予防
デーヴィッド・ギー(欧州環境庁/デンマーク)

(アブストラクトの紹介)
情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number S-1, April 2006
The Ecological Relevance of Chemically Induced Endocrine Disruption in Wildlife
Late Lessons from Early Warnings:
Toward Realism and Precaution with Endocrine-Disrupting Substances
David Gee / European Environment Agency, Copenhagen, Denmark
http://www.ehponline.org/members/2005/8134/8134.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年6月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp_2006_April_S-1/06_04_ehp_s-1_David_Gee.html

  アブストラクト

 公衆と環境の危険に関する選び出した歴史的事例、すなわち潜在的な危害について科学に基づく早期の警告とその後の予防と防止措置、が欧州環境庁によって2001年に初めて報告され、検証された(訳注1)。本論文は、これらの早期の警告からの"遅ればせの教訓"を、内分泌かく乱物質(EDSs)によって及ぼされる危険に予防原則を適用することに関する現在の議論に対応させるものである。
 ここでは、私は現在発生している定義及び解釈の問題のいくつかをとりまとめる。これらの問題は、知識には条件がつくという特性を内在している。予防(precaution)、防止(prevention)、リスク、不確実性、及び無知の定義、実証の異なるレベルの使用、そして環境健康科学の中にある方法論的及び文化的な偏向の特性と主なる方向である。
 科学的手法は内分泌かく乱物質(EDSs)の暴露と影響を特徴付ける複合要因、混合、暴露のタイミング、及び系の動特性の現実をもっとよく反映する必要があるということが、主張されている。この改善された科学は、内分泌かく乱物質(EDSs)によって及ぼされる脅威の評価と管理において、予防原則の幅広い賢い使用のためのより強固なベースをもたらすことができるはずである。
 そのような科学的証拠の評価(evaluation)は、複合要因の現実を説明する評価(assessments)を求める。しばしば用いられ、そして時には誤用される ”ブラッドフォード・ヒルの基準(訳注2:Bradford Hill "criteria)” の内の二つ、一貫性(consistency)と時間性(temporality)が、複合要因に照らして批判的に検証され、そのことで、科学と政策決定における40年間の進歩に照らして、基準の全てを見直すことの必要性を描き出している。

キーワード:因果関係、早期の警告、内分泌かく乱物質、誤った否定(false negatives 訳注3)、無知、不確実性、防止(prevention)、立証、驚き


訳注1 European Environment Agency
Late lessons from early warnings: the precautionary principle 1896-2000
http://reports.eea.eu.int/environmental_issue_report_2001_22/en
(日本語訳版) レイト・レッスンズ/14の事例から学ぶ予防原則 欧州環境庁 編
発行:七つ森書館
松崎早苗 監訳
水野玲子・安間武・山室真澄 訳
ISBN ISBN4-8228-0508-5

訳注2
オースティン・ブラッドフォード・ヒル教授が唱える有名な信頼できる疫学研究の特色
(Bradford Hill 1965年)
「関連の強さ(Strength)」、「「関連の特異性(Specificity)」、「関連の時間性((Temporality)」、「関連の一貫性(Consistency)」、「生物学的勾配(Biological Gadient)」、「生物学的妥当性(Biological Plausibility)」、「関連の整合性(Coherence)」

訳注3
 ”・・・不確実性と無知に対応して、このようなより進んだ予防的アプローチをとれば、正規の科学に内在している今の偏向を切り替えさせることにもつながるだろう。すなわち、現在の科学では"誤った肯定"(false positive)を犯すまいとする姿勢が強い(このため逆に"誤った否定"〈false negative〉を犯すことが多くなる)が、この傾向から離れて、2種類の誤りがバランス良く生じる方向に転換させることにつながるだろう。
「レイト・レッスンズ/14の事例から学ぶ予防原則/第5章 アスベスト:魔法の鉱物から悪魔の鉱物へ」より



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