EHN 2015年8月20日
子どもの免疫系障害に関連する化学物質が
授乳期間中に母親から赤ちゃんに移動する

ブライアン・ビエンコースキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, August 20, 2015
Chemicals that have been linked to child immune system problems transfer from mother to baby during breastfeeding
By Brian Bienkowski(EHN)
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2015/aug/
breastfeeding-baby-health-chemicals-endocrine-disruption


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年8月26日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/
ehn_150820_Breastfeeding_exposes_babies_to_water-and_stain-proofing_chemicals.html


 本日発表された研究によれば、授乳は免疫系障害に関連する工業化学物質のあるグループに暴露させるように見える。

 その研究は、授乳期間中にお母さんから赤ちゃんに、防水や防汚用化学物質の移動を推定した初めてのものであり、健康のための抗体、ビタミン、及び栄養を供給する母親の母乳はまた、発達中の子どもたちにとって有害なこれらの化合物の主要な供給源であることを示唆している。

 ”我々が有害であると理解し始めたこれらの化合物が実際に人間の母乳を通じて最も脆弱な集団に渡されるということは非常に残念な驚きである”と、ハーバード T.H. チャン公衆衛生大学院環境健康学教授であり、本日、Environmental Science and Technology 誌に発表された研究の共著者であるフィリップ・グランジャンは述べた。

 グランジャンとデンマーク及びフェロー諸島からの研究者らは、フェロー島で1997年から2000年の間に生まれた81人の子どもたちの血液中の5 種類のパーフルオロアルキルスルホン酸類(PFASs)を調べた。彼らは、子どもたちの血液を、11か月、18か月、及び5歳の時に調べ、彼らの母親の血液については妊娠32週の時に調べた。

 彼らは、母乳だけの子どもたちは、各月約20〜30%化学物質のレベルが高いことを見つけた。母乳を一部受けた子どもたちの化学物質レベルは低かった。

 ひとつの限界は、彼らは出生時における子どもたちの化学物質レベルを測定ではなく計算で求めたということであると、サイモンフレーザー大学の疫学者であり、博士研究員(post-doctoral fellow)であるグレニーズ・ウェブスターは述べた。彼らはまた、母乳中の化学物質レベルを測定しなかった。しかし、彼らが見つけたパターンは注目せずにはいられないものであり、そのような若い年齢におけるどのような暴露も懸念があるかもしれないと、ウェブスターは述べた。

 ”胎児期及び幼少期は多くの異なる暴露に対して極めて感受性が高い”と、彼女は述べた。

 今回の発見は、”これらの化学物質が消費者製品中に含まれていないことの重要性を示している”と、カリフォルニア州バークレーに拠店を置くグリーン・ポリシー研究所の上席科学者で、この研究には関与していないサイモン・バランは述べた。

 ウェブスターは、これは母乳が化学物質曝露に寄与することになり得ることの証拠であるが、授乳はやはり赤ちゃんの健康を増進すると述べた。

 ”授乳には多くの重要な便益があり、それはまだリスクよりはるかに勝る”と、彼女は述べた。”真の問題は、そもそも母親の暴露をどのように低減するかということである。”

 過フッ素化合物は、人の体内で3年以上の半減期をもち、その期間は長いので妊娠するかもしれない女性にとって暴露を避けることは難しいと、バランは述べた。今回の研究の結果は、数か月間の授乳が母親のこの化合物のレベルを低くしたが、そのことは恐らくそれらが赤ちゃんに移行したことを示唆していた。

 これらの化合物はまた、油溶性又は水溶性ではなく、従ってこびり付き防止や耐水性をもたせるために、防水布製品、食品容器、塗料及び潤滑油のような製品中で広く使用されている[テフロン、ゴアテックス、スコッチガードなど]。

 研究者らはこの化合物を世界中の人々の体内に見出している。

 これらには、長鎖と短鎖というふたつのタイプがあるが、後者は炭素原子の数が少ない。

 パーフルオロオクタン酸(PFOA)やパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)のような長鎖化合物は、より多く研究されており、人間の体内により長く残留し、精巣と腎臓がん、低出生体重、肥満、甲状腺障害、高コレストロール、高血圧に関係している。

 ラボでの動物研究で、長鎖化合物は、免疫系と内分泌系をかく乱し、脳に有害であり、腫瘍を引き起こした。

 3年前、グランジャンと同僚らは、今回の研究と同じフェロー諸島の子どもたちのコホートを用いて、過フッ素化合物への暴露は、5〜7歳の子どもたちの免疫反応低下と関係することを報告した。

 フッ素化合物製造会社の業界団体であるフルオロカウンシル(FluoroCouncil)のエグゼクティブ・ディレクターであるジェシカ・バウマンは、今回の研究は、この業界団体の会員会社がすでに製造を廃止している長鎖化合物を検証したものであると指摘した。

 ”10年以上前、フルオロカウンシルの会員会社は、米EPA及びその他の規制当局とともに、全ての長鎖パーフルオロアルキルスルホン酸類(PFASs)を2015年までに世界的に廃止する取り組みを開始した”と、回答e-メール中で述べた。その廃止の支援に役立てるために、我々の会員会社は、短鎖 PFAS に基づく代替物質を開発した。その代替物質は市場に投入された新たな化学物質の中で最もきちんと調査された化学部質の中のあるものである”。

 それらの残留性は低いかもしれないが、科学者らは短鎖代替物質の毒性についてほとんど分かっていないと、ウェブスターは述べた。

 長鎖過フッ素化合物は”極めて安定性が高い”とグランジャンは述べた。例え廃止されても、これらの化合物は環境中での分解は非常に遅いので、残留するであろう。

 ”それらは海洋の食物連鎖中にあり、それらは海洋を巡回しており、・・・それは広く普及し、いつまでも残留する問題である”と、グランジャンは述べた。

 PFOS は欧州連合では有機汚染物質として規制されており、 PFOA はノルウェーで制限されており、それを欧州連合の化学物質規則(REACH)の下に含めるという提案がある。

 今年の1月に米EPA は、もし製造者がある長鎖フッ素化合物を使用することを計画しているなら、その使用が必要かどうか EPA が評価できるよう90日前に EPA に知らせるよう求める提案をした。

 この化学物質は、ますます科学者の関心の対象となっている。5月には、200人以上の科学者らがバランが共著者である”マドリード声明”と称する報告書の中で、フッ素化合物による潜在的な健康懸念を概説し、その代替と規制の強化を訴えた(訳注1)。

 グランジャンは、母乳を通じての化学物質の移動は環境化学物質のテストに含まれていないと述べ、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)、及び難燃剤のような有害な化学物質の移動を研究者らが発見するのに長い年月がかかると指摘した。

 ”私の希望は、これが最後のものであるということであるが、それは現実的な希望ではない”と彼は言い、この研究のタイミングは米議会が化学物質を規制する有害物質規制法の改正の議論を続けている時なので、特に重要であると付け加えた。

 ”’我々は化学物質規制に関して正しいことをしているのか、そしてそれをより良くなすことができるのか’を我々は問う必要がある”と、グランジャンは述べた。”この様な驚くべきことは、将来起きるべきではない”。


訳注1
Green Science Policy Institute 2015年5月1日 ポリ−及びパーフルオロアルキル物質(PFASs)に関するマドリード声明



化学物質問題市民研究会
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