EHN 2014年10月29日
可塑剤等に使用される化学物質が
男の赤ちゃんの生殖器の変化に関連

リンゼイ・コンケル (EHN スタッフライター)

情報源:Environmental Health News, October 29, 2014
Plastics chemical linked to changes in baby boys' genitals
By Lindsey Konkel, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2014/oct/plastics-chemical-and-boys-genitals

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年11月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/
ehn_141029_DiNP_linked_to_changes_in_baby_boys'_genitals.html


 本日発表された研究によれば、胎内でビニル製品中で見いだされるある化学物質に高いレベルで暴露した男の子は、生殖器の発達がわずかに変わる。

 200人近くのスウェーデンの赤ちゃんの研究は、フタル酸ジイソノニル(DiNP)が人間の男性生殖器系の発達に変化を及ぼすことに関連するとする初めてのものである。

 男の赤ちゃんについての以前の研究(メキシコ日本)もまた、同様なプラスチック化学物質であるフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が男の赤ちゃんの外部生殖器の同じ変化に関連することを発見した。

 ビニル玩具、床材、包装材のような多くの製品でフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)に置き換えられていると科学者らがいうフタル酸ジイソノニル(DiNP)の生殖リスクについてはほとんど知られていない。マウスでは、高いレベルの DiNP が、テストステロン(訳注:男性ホルモンの一種)をブロックし、精巣の発達を変化させる。

 ”我々のデータは、この代替フタル酸エステルは、それが置き換えている元の化学物質より安全ということはないかもしれない”と、スウェーデンのカールスタード大学のカールグスタフ・ボルネハグに率いられた研究者らは、ジャーナル『環境健康展望(EHP)』に書いた。

 アメリカの成人と子どもの DiNP は、過去10年間で10倍以上になっている。

 ”この研究は、ビニルプラスチックを含有する製品中での使用量が増えている DiNP、及びその発達中の胎児への影響についての懸念を提起している”と、この新たな研究には関与していないハーバード大学公衆衛生校の環境・職業疫学教授ラス・ハウザー博士は述べた。

 研究者らは、(妊娠3期の)第一期に妊婦の尿中の5種類のフタル酸エステル類の代謝物を測定した。男性生殖器の発達はこの期間に始まると、ニューヨークにあるマウント・サイナイ病院の生殖科学の教授で上席研究著者であるシャーナ・スワンは述べた。

 研究者らは次に、男児の月齢が平均21か月の時に、肛門と生殖器の距離(anogenital distance)を測定した。胎内で最高レベルの DiNP に暴露した男児らは、最低レベルで暴露した男児らに比べて肛門生殖器間距離の平均がわずかに短かった−約100分の7インチ。

 ”これらは、本当にわずかな変化である”と、スワンは述べた。

 肛門生殖器間距離が短いという男児の不完全な男性化の兆候は、正常ではない精巣の発達及び精液の質の低下と不妊に関連している。男性ではこの距離は一般的には女性より50〜100%長い。

 しかし、幼児のわずかに短い距離が成人後の不妊問題と関連するのかどうかは不明である。

 ”出生時の短い肛門生殖器間距離が後の人生における生殖機能をどの程度損なうのかを理解するためにもっと多くの研究が必要である”と、ニューヨークのロチェスター大学医学センターの生殖健康科学者エミリー・バーレットは述べた。

 同研究は、他のフタル酸エステルについて濃度が高ければ肛門生殖器間距離は短いことを見出したが、統計的に有意ではなかった、すなわち、それらは偶然であったかもしれなかった。この新たな研究でのスウェーデン女性らは、スワンの以前の研究におけるアメリカ女性と同等のフタル酸エステルのレベルであった。スワンの2005年及び2008年の両方研究(訳注1)は、いくつかのフタル酸エステル類を短い肛門生殖器間距離に関連付けた。

 化学物質製造産業の代表である米国化学工業協会(American Chemistry Council)の報道担当者は、その研究は、”DiNP への暴露に関連する小さな変化を報告している”が、その化学物質がこの変化を引き起こしているということは証明していないと述べた。

   同報道担当者は、その新たな発見は、DiNP と男児の肛門生殖器間距離との間に関連性を見つけなかった著者らの以前の発見及び他の二つの研究に”矛盾しているように見える”と述べた。さらに、同研究は母親の単一尿サンプルに基づいている。結果として、”信憑性が低い”と同産業グループは述べた。”疫学の分野で因果関係を決定するために精査され考慮されるべき基準がある・・・。我々は、この研究は多くの重要な理由のためにこの研究の評価点は低いことを見出した”。

 産業グループは、 DiNP が使用されている製品のタイプについての質問に答えなかった。科学者らはこの化学物質への暴露は、食品又は備品や子ども用品への皮膚接触に由来する可能性があると述べた。

 2008年にアメリカは、玩具及び子ども用品中の DiNP 及び二つの他のフタル酸可塑剤の使用を暫定的に禁止した(訳注2)。”この禁止は、発達中の胎児を保護するために何も役に立たない”と、スワンは述べた。

 消費者製品安全委員会は 7月に、この禁止を恒久的なものとするよう勧告し、”食品及び他の製品からの DiNP 暴露の取り扱いに責任ある米機関は必要なリスク評価を実施するよう”強く求めた。

 フタル酸エステル類への暴露をなくすことはほとんど不可能であるが、妊婦は、加工していない、包装されていない食品を食事に使用することにより、そしてプラスチック容器中の食品を加熱したり保存することを避けることにより、彼女らの暴露を低減することが可能かもしれないとスワンは示唆した。


訳注1

訳注2
フタル酸エステル類について/食品分析開発センター
 フタル酸ジイソノニル(DINP):汎用可塑剤、主な用途(電線被覆、壁紙、フィルム)
日本では口にすることを本質とするおもちゃに使用禁止



化学物質問題市民研究会
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