EHN 2012年1月12日
プラスチック可塑剤は
流産のリスクをもたらす


情報源:Environmental Health News, Jan 12, 2011
Plastizer increases miscarriage risk
Synopsis by Renee Gardner
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2011/12/2012-0111-phthalates-miscarriage/

オリジナル:Toft, G, BAG Jonsson, CH Lindh, TK Jensen, NH Hjollund, A Vested and JP Bonde. 2011. Association between pregnancy loss and urinary phthalate levels around the time of conception.
Environmental Health Perspectives http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1103552.

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年1月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_120112_plastizer_miscarriage_risk.html


 この種の研究としては初めて、科学者らが、初めて妊娠を試みるカップルを調査し、プラスチック可塑剤に関連するフタル酸エステル類に多く曝露した女性は流産の可能性が高いことを発見した。
 デンマークの科学者らは、比較的一般的なレべルの特定のフタル酸エステル類に受胎日の近くに曝露した女性は、曝露が低い女性に比べて初期の流産を経験することが多いと報告している。

 流産に関連するフタル酸エステルはプラスチックでよく使われるあるフタル酸エステルの分解物質である。妊娠前の月ではなく、妊娠近くでの曝露だけが流産に関係している。

 これは、人間におけるフタル酸エステルへの曝露と流産を検証した最初の研究である。初期流産の重要なタイミング(window)である受胎後の特定のタイミングで曝露を測定したという点で、この研究は他に類を見ない。研究成果は、ジャーナル『Environmental Health Perspectives』に発表された。

 げっ歯類の研究もまた、フタル酸エステルへの曝露の生殖影響を報告している。以前の研究は、フタル酸エステル類は流産と一腹の子どもの数の低下をもたらすことができることを示している。これらの研究における動物は、一般的人間集団が遭遇するレベルより約100倍高いレベルのフタル酸エステルに曝露させられた。

 成獣は主に食餌を通じてフタル酸エステル類に曝露させられた。フタル酸エステル類は塩化ビニルなどを柔らかくし柔軟性を持たせるために使用されている。食品容器、医療用チューブ、子どものおもちゃなどにこの化学物質が含まれている。その他のフタル酸エステル類は、マニキュア液、香水、化粧品のような身体手入れ品中にも見出される。それらの広範な使用のために、この曝露はいたるところで続いている。

 全ての妊娠の約3分の1が所定の妊娠期間を全うしていない。その多くは、女性が妊娠したことを知る前かもしれない最初の数週間の間に流産している。

 1992年から1994年、初めて妊娠使用と試みているデンマークのカップルが日々の尿をサンプルとして提供することで、この研究に参加した。2009 年に、研究者等は hCG(human chorionic gonadotropin//ヒト絨毛性ゴナドトロピン)(訳注1)と呼ばれるホルモンのレベルについて尿サンプルを分析したが、これは自宅での妊娠検査で検出するのと同じホルモンである。研究者らは初期流産を女性の尿中の hCG レベルが高かった後に低下したことをもって流産したことを特定した。医師により妊娠が確認されると、女性は1年後に妊娠の結果を報告した。科学者らはまた、排卵の直前に採取された尿サンプルを分析して、いくつかのフタル酸エステル類とそれらの代謝物の濃度を調べたが、代謝物は体内でこれらの化学物質が処理された後に尿中に排出されたものである。

 148人の女性の中で、48人が流産しており、そのうちの32人が初期流産であり、hCG ホルモンレベルの変動により特定された。この研究における女性は、ドイツイやアメリカのような世界の他の場所の女性達と同じレベルのフタル酸エステル類に暴露していた。

 科学者らは、妊娠時頃の尿サンプル中のフタル酸モノ-エチルヘキシル(MEHP)が最も高い女性は、もっとレベルの低い女性に比べて流産の経験が多いように見えた。初期流産は懐胎後の最初の6週間以内に起きることが多いと研究者らは考えている。

 フタル酸モノ-エチルヘキシル(MEHP)のレベルが高いということは、プラスチック中でよく使用されている特定のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)への暴露が大きいことを意味している。

 科学者らは、妊娠した月内にフタル酸エステル類に暴露したとみなされる場合の関連性だけを検出した。妊娠月以前からのフタル酸エステル類への暴露は流産という脈絡からは検出可能な影響はなかった。

 この研究はヒトでは初めてのものなので、フタル酸エステル類と流産との関係を確認するために更なる研究が必要である。


訳注1: hCG(human chorionic gonadotropin/ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
  • ヒト絨毛性ゴナドトロピン/ウイキペディア
    ヒト絨毛性ゴナドトロピンは、受胎の直後から胎児の栄養膜合胞体層(胎盤の一部)で作られる。その役割は卵巣にある黄体の分解を防いで、ヒトの妊娠に重要であるプロゲステロンの産生を保たせる。hCGの別の働きに、例えば母児免疫寛容へ影響していると考えられている。早期の妊娠検査はhCGの検出や測定によるものである。
訳注2:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)
  • RoHS指令の追加物質:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)
    フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP,DOP)の用途は、軟質塩化ビニル(塩ビ,塩化ビニール)の可塑剤としての用途が多いです。 塩化ビニル製品(床材、電線被覆、一般用フィルム・シート、農業用ビニル、工業用原料、壁紙、ホース・ガスケット、レザー、塩化ビニル樹脂、履物など)のポリ塩化ビニル合成樹脂の可塑剤として多くの用途があります。
訳注:参考情報




化学物質問題市民研究会
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