EHN 2009年4月3日
過フッ素化合物 PFOS/PFOA
マウスの脳のたん白質レベルを高める


情報源:Environmental Health News, April 3, 2009
Stain-resistant chemicals increase brain protein levels in mice
Synopsis by Paul Eubig, DVM and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/pfcs-affect-proteins-needed-for-brain-growth/view

オリジナル論文:Johansson, N, P Eriksson, and H Viberg. 2009. Neonatal exposure to PFOS and PFOA in mice results in changes in proteins which are important for neuronal growth and synaptogenesis in the developing brain. Toxicological Sciences doi:10.1093/toxsci/kfp029.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年4月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090403_stain-resistant_chemicals.html

 過化フッ素化合物PFOS及びPFOAがマウスの脳の急速な発達の時期に投与されると、正常な脳の発達に重要ないくつかのたんぱく質のレベルを変更する。この研究は、シナプスを形成し神経細胞間でメッセージを伝達するために必要な脳のたん白質に影響を与えることがあるもうひとつの化学物質が存在するという証拠を提供するものである。

訳注:過化フッ素化合物 PFOS や PFOA はこげつき防止のテフロン加工調理器具、汚れのつかない家具や敷物、撥水加工のレインコートなどの製造に使われている。PFOS や PFOA の製造者はその使用を徐々に廃止しているが、非常に難分解性なので、環境に放出されると世界中のいたるところに拡散して、生態系そして人間や動物の血液を汚染している。

何をしたか?

 過フッ素化合物に仔マウスを暴露させた以前の研究で観察された多動症を含む”deranged spontaneous behavior(錯乱的自発行動?)”を引き起こす脳たんぱく質の変化を調べるものである。

 研究者らは10日齢のマウスに11.3 mg/kgのPFOS又は8.7 mg/kgのPFOAを単回経口投与した。この時期のマウスの脳の発達は、ヒトの急激な脳発達の時期に対応するものである。投与レベルは行動影響を引き起こした以前の研究から得られたものである。これらの化学物質が選ばれた理由は、他の過フッ素化合物はしばしば、環境中でより残留性の高い PFOS や PFOA に分解するからである。

 4つのたんぱく質が、脳の2つの領域、学習と記憶に重要な海馬と、学習、運動、調整、計画などに重要な大脳皮質で測定された。

 投与マウスのたんぱく質レベルは投与されなかったマウスのレベルと比較された。4つのたんぱく質、CaMKII, GAP-43, シナプス関連たん白質、及びタウたん白質が神経接続の成長と神経細胞間の信号伝達に重要である。

何がわかったか?

 PFOAとPFOSの投与は、投与されないマウスに比べて、新生マウスの脳中のたんぱく質のレベルを高めた。これの化合物は脳の異なる領域で異なる作用を示した。

 4つのたんぱく質は全て、海馬中でレベルが高くなった。PFOSはタウたんぱく質以外の全てに影響を与えたがPFOAは4つ全てのたんぱく質に影響を与えた。増大レベルは、GAP-43で20%、 CaMKIIで60%、タウたんぱく質で90%であった。

 大脳皮質では、両方の化合物とも、2つのたんぱく質、シナプス関連たん白質とタウたん白質にのみ影響を与えた。増大レベルは約60%から140%であった。

 しかし、必ずしもたんぱく質レベルが増加すればよいというものではない。脳の発達には、化学的伝達物質の精密なバランスが正常な発達と接続の形成に極めて重要である。たんぱく質が多すぎても少なすぎても脳の正常な発達に影響を及ぼす。

何を意味するか?

 これらの発見は、脳は発達中には PFOSとPFOA に敏感であることを示唆している。海馬は大脳皮質よりも敏感かもしれないが、両方の領域とも明らかに影響を受けた。

 たん白質レベルの変化は、それらがシナプスの形成の仕方や生涯を通じての機能の仕方を変えることができるので生涯の影響を与えることがありえる。研究結果によれば、暴露すると、それらのレベルが減少すべき正常な発達中に一度たんぱく質レベルを増大させた。

 この論文はまた特に脳が急速に発達する出生直後に暴露が起きると、脳化学に影響を与える既知の化学物質のリストに、さらなる証拠(訳注:PFOSとPFOA)を加えるものである。著者らは、”これらのたんぱく質は、我々が成獣マウスに機能的悪化を観察してきた用量で新生仔がPFOA, PBDE 203, 206, 209、及びケタミンへ暴露すると影響を受けることに留意することは価値がある”と述べている。

 ヒトの子どもたちは過フッ素化合物に出生前後に暴露するので、この研究は、これらの化学物質への典型的な家庭内暴露が子どもたちの脳の発達に影響を与えるかどうかを調べることが重要であることを示唆している。成長中の脳は、もし正常な発達が阻害されると非常に過酷であり、生涯にわたる影響を引き起こすことがある。

 ヒトにおいては、(タウたんぱく質のような)異常な脳たんぱく質構造はパーキンソン病やアルツハイマー病の”認定書”である。どちらのの病気も後々に発症するが、その原因は不明である。この研究は生涯の早い時期の暴露とこれらの病気を関連付けることはできないが、研究者らは動物実験からの結果に基づき、”生涯の早い時期のある種の過フッ素化合物への暴露は、認知機能の結果を伴う神経変性に関連するプロセスに影響を与えることができる”と推測している。

 この研究で用いられた PFOS と PFOA の量はヒトが通常暴露するレベルよりも高い。しかし、それが必ずしもこの研究の弱点とはならない二つの理由がある。

 第一に、マウスやラットのような動物は体内の過フッ素化合物をヒトよりも早く取り除くので、ヒトの暴露の程度を模擬するためにはより多くの量を投与しなくてはならない。

 第二に、このような研究は化学物質がどのような変化を及ぼすかを見つけることを意図している。そのような情報はその後で、評価されるべきヒトの暴露で生じる変化を特定するために用いられる。

 アメリカにおける過フッ素化合物の製造者らは、徐々に多くの過フッ素化合物の使用を廃止している(訳注1)。しかし、これらの化学物質は長期間、環境中に残留し、したがって今後長い年月、我々とともにあるので、それらの健康影響を調べることはやはり重要である。

情報源:

  • Johansson, N, A Fredriksson, and P Eriksson. 2008. Neonatal exposure to perfluorooctane sulfonate (PFOS) and perfluorooctanoic acid (PFOA) causes neurobehavioral defects in adult mice. Neurotoxicology 29(1):160-169.

  • Perfluorinated compounds. 2007. National Report on Human Exposure to Environmental Chemicals, Centers for Disease Control and Prevention.

  • Perfluorooctanoic Acid (PFOA). US Environmental Protection Agency.

  • Spotlight on polyfluorochemicals. 2007. National Report on Human Exposure to Environmental Chemicals, Centers for Disease Control and Prevention (PDF).

  • Viberg, H, W Mundy and P Eriksson. 2008. Neonatal exposure to decabrominated diphenyl ether (PBDE 209) results in changes in BDNF, CaMKII and GAP-43, biochemical substrates of neuronal survival, growth, and synaptogenesis. Neurotoxicology 29:152-159.


訳注1


化学物質問題市民研究会
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