EHN 2009年2月9日
ホルモン変更化学物質をのぞく
新たなウインドウ


ヒトの胎児の発達を示す時間軸を含む新たな相互作用データベースが
議論ある化学物質についての科学的データをグラフィカルな方法で表示する
解説:マーラ・コーン、EHN チーフエディター

情報源:Environmental Health News, Feb 09, 2009
A new window into hormone-altering chemicals
A new interactive database, including a timeline showing how human fetuses develop, displays scientific data about controversial chemicals in a graphic way.
Synopsis by Marla Cone, Editor in Chief Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/critical-windows

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年2月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090209_a_new_window.html


 火曜日(2月10日)に公開される電子データベースは、今日使用されている最も議論ある化学物質のいくつかに関する最新の科学を収集しており、赤ちゃんが胎内で発達中に暴露したときに受ける潜在的な健康影響を使いやすく調べることができる。

 ”発達のクリティカル・ウインドウズ(Critical Windows of Development)”と呼ばれるこの相互作用データベースは、内分泌かく乱化学物質の低用量影響を研究している数百人の科学者から得たおびただしい数のデータをまとめている。

 1990年代の初めに環境汚染物質がホルモン作用を擬態し変更することの発見にしばしば貢献した科学者であるテオ・コルボーンが、このデータベースを構築するための取り組みを指導した。彼女は、科学者、政策立案者、ジャーナリスト、その他の人々が使いやすく視覚的で興味深い方法で情報に迅速にアクセスできるようにすることを意図したと述べた。

 ”これは最も容易な方法で直接情報を利用できるようになっている”とシカゴのイリノイ大学生理学教授であり、このウェブサイトを事前検証した数十人の科学者の一人であるガイル・プリンスは述べた。

 ”電子化することによって、世界中で利用が可能となったことはデータの普及にとって計り知れない前進である”とプリンスは述べた。

 このウェブサイトは、数百の研究からの情報を編集し、男性と女性の生殖系を含んでヒトと動物の双方における主要な身体系、免疫系、及び神経系の発達を示す時間軸にその情報を挿入している。

 これらの時間軸に研究結果を重ねることにより、コルボーンは、低用量の化学物質がヒト胎児を害するかもしれないことを示唆する大量の動物研究が存在するということを示すグラフィックな証拠を提供している。

 クリティカル・ウインドウズの利用者がある化学物質を選ぶと、時間軸上に赤い線が現れ、低用量で暴露した実験動物で影響が見られた発達の領域を示す。三角形をクリックすると、それぞれの研究の概要が引き出され、そこから科学誌に発表された論文に直接アクセスできる。

 現在までのところ、表示される情報はビスフェノールA、ダイオキシン、及びフタル酸エステル類である。今日使用されている数十、おそらく数百の産業化学物質と農薬がホルモンをかく乱することができるが、それらのうちの二つ、硬質プラスチック中に見出されるビスフェノールA(BPA)と、化粧品やビニール中で使用されているフタル酸エステル類に最も議論がある。

 ”この新たなデータベースは、胎内における正常なヒト発達を、どこでいつビスフェノールA、フタル酸エステル類、及びダイオキシンへの低用量暴露が影響を与えたかを示す実験室での研究と結びつけている”と非営利組織であるエンドクリン・ディスラプション・エクスチェンジ社(TEDX)の創設者で社長であるコルボーン(訳注1)と、同社のディレクターであるカロル・クイアトコスキーは書いている。

 ある科学者らは、彼らはこの新たなデータベースを化学物質の規制についての決定がなされる来るべき公聴会において利用するであろうと述べた。

 水曜日(2月10日)、プリンスは、シカゴの政治家らが赤ちゃん用プラスチック製品でのBPA使用を禁止することを聴衆と議論するので、シカゴ市議会の前でこのウェブサイトをスクリーン上に映し出すことを計画している。

 ”それは単に学術的な演習ではない”と新生児のエストロゲン暴露がどのように前立腺に影響を与えるかを研究しているプリンスは述べた。”誰でもが視覚化された、どのような情報がそこにあるのかを把握できる”。

 ノースカロライナ州立大学生物学部名誉教授ジョーン G. バンデンバーグは、来月ドイツ環境庁がベルリンで開催するBPA暴露の可能性あるヒト影響を議論するためのワークショップでそれを使用するであろうと述べた。

 バンデンバーグは、”それは彼らが提起する項目を支持又は論破するための参照を呼び出すのに有用であろう”と述べた。

 クリティカル・ウインドウズができる前は、プリンスや他の科学者らは、”データを見つけるために労力をかけて探し回らなくてはならなかった”とプリンスは述べた。”文献探しは実際に人を泥沼にはめ込むものである。それは骨の折れる仕事である。数時間、数週間の時間がかかった”と彼女は述べた。

 たとえば、彼女は最近、BPAへの暴露が動物の免疫系に影響を与えたかどうかを知る必要があった。彼女は医学文献ウェブサイト検索、相互検索しなくてはならなかった。しかし、この新たなデータベースを使えば、彼女はマウスを数回クリックするだけで同じ情報を探し出すことができる。

 バンデンバーグは、最も重要な便益のひとつは、科学者がもっと研究が必要な場所はどこかを即座に特定することを新たな時間軸が助けることであると述べた。”たとえば、私は特に、フタル酸エステル類のデータにギャップがあるのを見て驚いた”と、胎児期の暴露がげっ歯類の生理学と挙動をいかにかく乱するかに焦点を当てた研究をしているバンデンバーグは述べた。

 コルボーンとクイアトコスキーは、”内分泌かく乱物質が我々の生活に広くはびこりその存在を回避することができない”ために、この時間軸を作ったと述べた。

 ぜんそく、自閉症、前立腺がん、乳がんを含む多くのヒトの疾病は記録的な数に達しているが、一方動物による研究は、子宮中でのある種の化学物質への暴露は脳、生殖系、その他の系の発達をゆがめることによって疾病に導くことを示している。

 クリティカル・ウインドウズは、胎児の発達に焦点を当てているが、それは胎児期がホルモンやホルモン擬態物質からのダメージに最も脆弱な期間であるからである。

 たとえば、時間軸上の早い時期の三角形をクリックすると、ラットが懐胎後の最初の数日間にフタル酸エステル類に暴露したときに、ラットの精子数が減少することが示される。BPAの三角形をクリックすると、ヒトの妊娠5〜6ヶ月に相当する出生数日後にBPAに暴露したマウスの前立腺中に初期がんの成長が見られることが示される。ダイオキシンについては8日目の暴露がラットの脳の重量の低下をもたらすことが示される。

 それぞれの概要は、テストされた動物、用いられた用量、化学物質の投与方法、ヒトの懐胎との対応などを記述している。

 このウェブサイトはヒトの懐胎38週に実験ラットとマウスの41日の発達期間を対応させている。このことは科学者やその他の人々が、それぞれの動物テストが妊婦にどのように関連するかを見ることを可能にしている。

 バンデンバーグは、このサイトは”非常に使い勝手がよく”、ヒトへのリスクを決定する人々に有用であろうと述べた。それは一般の人々には限られた魅力しかないかもしれないが、教師や教授には有用であろうと付け加えた。

 時間軸は人々が環境中や消費者製品中で遭遇するかもしれない量である1ppmあるいはそれ以下に暴露させた動物研究だけを含んでいる。

 時間軸上に含まれるすべての研究はピアレビューされ発表されたものであり、さらに加えて、エンドクリン・ディスラプション・エクスチェンジ社(TEDX)はそれらを時間軸上に挿入する前に40人の科学者による同社独自のレビューにかけた。

 ”我々は研究を勝手に解釈しなかったということは重要である。我々は情報を公衆に提供するために単純にそれを並べただけである”と、コルボーンとクイアトコスキーは彼らのウェブサイトで述べた。

 いわゆる”ネガティブ”研究の欠如がプリンスを煩わすことはない。

 ”時間軸は、影響を示した研究の参照データベースとして導入されている。すべての研究のデータベースであると宣伝していない。したがって、その点については正直であり誤解を与えることはない”と彼女は述べた”。”一方、もし政府又は食品医薬品局がすべてのポジティブ及びネガティブな発見を提供する同様なデータベースを作るなら、それはすばらしいことである”。

 バンデンバーグは、このサイト上の”あなたは毎日数百の化学物質に暴露している”という記述は削除することを勧めると述べた。

 ”これは、すべての’化学物質’が悪い”ということを暗示させるが、それは正しくない。多くのものは非常に有益であると彼は述べた。

 プリンスは1〜2時間費やしてこのウェブサイトを試してみた”が、その結果、コルボーンと彼女の仲間らは、”可能な限り包括的で完全なものにしようと試みている”と結論付けた。

 ひとつの主要な欠点として、PCB類、農薬、大豆製品、及び砒素を含むもっと多くの化学物質に関するデータがほしいとバンデンバーグとプリンスは述べた。

 クリティカル・ウインドウズのためのデータを編集するために同グループは数年を費やしたが、それは個人的な基金によって資金調達された。コルボーンは、最も重要な特徴のひとつは、必要に応じていつでも更新できるということであると述べた。彼女は、新たな研究が発表されればそれらは連続的に付け加えられるとし、彼女は将来新たな化学物質にまで拡張することを望んでいると述べた。

 コルボーンはフロリダ大学の動物学名誉教授である。1980年代の後半及び1990年代の前半に、彼女は世界野生生物基金の科学者であり、そこで彼女は、さまざまな科学者らが環境中の化学物質がホルモンのように振る舞い動物の発達を歪めるという証拠を見つけていることを知った。


訳注1
CHE パートナーとのインタビュー2006年4月 テオ・コルボーン博士



化学物質問題市民研究会
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