EXPLORE 2006年7月・8月号
環境汚染物質はヒトの不妊に寄与しているかもしれないド
2005年バロンブロッサ会議に関連して

情報源:EXPLORE July/August 2006, Vol. 2, No. 4
Environmental Contaminants May Contribute to Fertility Compromise
http://www.healthandenvironment.org/?module=uploads&func=download&fileId=250

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2006年9月7日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/che/0608_env_contaminants_fertility.html


 妊娠することあるいは出産まで妊娠を維持することが困難であると報告するアメリカのカップルの数が増加しているという事実(現在12%)に対応して、2005年に様々な領域の専門家のグループがヒトの生殖に影響するかもしれない環境汚染物質について何が分っているかを評価するために集まった。

 この会議 ”環境汚染とヒトの不妊を理解する:科学と戦略” は、不妊、女性の健康及び生殖の権利についての唱道者らが生殖疫学、生物学、毒物学、及び臨床医学の分野の研究者らとともに、ヒトの不妊に関連する環境健康科学の状況を評価するために初めて開かれた記念すべき会議である。
 この会議の結果のバロンブロッサ合意声明の中で、専門家らは、環境汚染は”ヒトの不妊の底に潜むに唯一の原因”ではなさそうであるが、ある化学物質への暴露が有害な生殖健康の結果を引き起こすことを確認する様々の分野からの十分な証拠がある−と述べている(訳注1)。

 生殖能力はどのような生物種にとっても生き残るために基本的なことなので、アメリカ国立健康統計センターの2002年全国家族増加調査健康統計のデータは懸念を呼び起こす。その調査は、730万人の女性が生殖障害を持つと報告しており、その数は1988年の490万人、1995年の610万人に比べて大幅に増加している。
 自己報告による最も劇的な障害増加(42%)は25歳以下の女性たちの障害であった。内分泌かく乱物質に暴露した広範な野生生物集団(鳥類、魚類、甲殻類、哺乳類)が繁殖の減少と生殖異常の増加を示しているという事実に関連して、ヒトの不妊の増加は、我々の環境中のある化学物質が今まで考えられていたよりヒトにもっと有害であるという懸念を引き起こした。
 "環境とヒトの健康との関係についての我々の科学的理解は進展している"−と環境健康連合(CHE)の生殖/早期不妊ワーキング・グループのコーディネータであり、バロンブロッサ会議の共同招集者であるアリソン・カールソンは述べている。”それは、ある生殖能力と生殖的健康の障害を含む健康問題の大きな部分は環境的暴露によって引き起こされるということが、生物学的に妥当であるということを明らかにしている。”

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校のOB-GYN(obstetrician-gynecologist 産婦人科)の議長であり、バロンブロッサ会議の共同招集者であるリンダ・ギディス博士は、不妊の直接的な原因(精子数の減少又はホルモンの不均衡など)はほとんどの場合、特定することができるが、その症状の根本的な原因(なぜ精子数が減少するのか、又はなぜホルモン不均衡が起きるのか)はほとんど分らないままである。これらのしばしば隠されている”なぜ”は環境汚染物質への暴露かもしれないと科学者らは信じている。
 すでにヒトの生殖能力を損なうことが証明されている鉛やジブロモクロロプロパン(Dibromochloropropane/燻蒸剤/訳注:東京都立衛生研究所ウェブサイト) に加えて、合意声明はタバコの煙及び医薬品ジエチルスチルベストロール(DES)を指摘している。さらに、同声明は、”かなりのデータが、農場で働く又は農場の近くに住む男性と女性が中程度の又は環境中の濃度で農業用農薬に暴露することと、彼らに生じる有害な生殖影響と関係があるということを支持している”と述べている。

 有害な影響には、男性の妊娠させにくさと精子損傷、生理変更、妊娠困難、自然流産の増加などが含まれる。科学者らは現在、有害な暴露が疾病や不妊を引き起こす経路を研究している。単一の汚染物質がヒトの体で多くの結果に影響を与えることが十分に報告されている。
 同報告書はまた、”ある汚染物質は多くのの遺伝子の発現を変更することが示されており、これらの影響は暴露のタイミングと用量によって変わる。さらに、異なる汚染物質が同じ信号経路に作用することにより、同じ生理学的影響をもたらすことがある”−と指摘している。
 現在までのところ、ほとんどの研究はこれら単一の化学的汚染物質に傾注しているが、しかしヒトは一回の用量でひとつの化学物質だけでなく、同時に多くの化学物質に暴露している。従って、合意声明は、”単一の化学物質による実験は混合物中におけるその化学物質の影響を著しく低く見積もる可能性があるので”、研究者は複合化学物質の影響に目を向けるよう求めている。
 さらに、生涯の異なる時期の化学物質汚染は異なる影響を与え、個人は遺伝子の変動のために汚染物質に対し異なる感受性を持つかもしれないということが、現在は知られている。

 合意声明への主要な貢献者であり、『奪われし未来』の共著者であるジョン・ピータソン・マイヤーズ博士は次のように説明している。”過去20年間の動物に関する実験室での研究は、もし彼らが影響を検知することができることを望むなら、疫学者は研究を設計する過程でもっと精巧で生物学によって導かれなくてはならないことを明らかにした。例えば、動物による研究は、子宮中で起きること、・・・ある特定の日に・・・は大人になってからの生殖能力を変更することがあることを示している。どのくらい多くのヒトの不妊の疫学的評価がその品質についての情報を持っていたであろうか?実際にはほとんど持っていなかった。その代わり、ほとんど全てのヒトの不妊に関する研究は成人になってからの暴露との関連性を探していた。動物研究から、我々は胎児期の発達は、成人のホルモン的プロセスに比べて、汚染によるかく乱に対し脆弱であることを知っている。”

 ”我々は成人での研究を実施して影響がないことを見つけて、汚染は関係ないと結論付けている。これは生物学的に合理的ではない。胎児期の暴露に関連する成人の不妊に目を向けた数少ないヒトでの研究のひとつは、保管されている出生時の臍帯血を利用している。臍帯血の示す高いレベルの DDT が出生後30年たった女性の不妊と関連しているこが分った”−とマイヤーズは述べている。”そして残念ながら、この発達期の暴露が成人してから影響をもたらすということは、新たな生物学が疫学的研究に挑戦するしかないということを示している。”

 今日まで、わずかな疫学的研究しか十分な考慮を研究設計に反映していないと、会議の共同議長であり、ニューヨーク州にあるロチェスター大学医科歯科校生殖疫学センターのディレクター兼教授のシャンナ・スワン博士は説明する。”米疾病管理予防センターのデータは、アメリカ国民は現在、数十、数百の化学物質に測定可能なレベルで暴露していることを示している。これらの化学物質の多くは生殖毒性として知られている又は疑われている。従って、我々は全て、そのリスクはよく分っていないが恐らくかなりのものであろう化学物質の未知の混合物に暴露している。”

 さらなる発見の必要性、拡大された研究議題、及び新たな研究設計に加えて、合意声明は、遺伝子と環境の相互作用が精子の質低下、子宮内膜症、子宮筋腫、早熟、卵巣機能不全、及び生殖系がんなどを含む多くの生殖系の問題の病因論に関与しているように見える。

 バロンブロッサ会議は、スタンフォード大学医学部、女性の健康スタンフォード・プログラム、および健康環境連合(CHE)によって2005年10月に開催された。この会議は、CHE、コプトン財団、ミカエル・カポール財団の基金を得て開催された。

 ”環境汚染とヒト不妊に関するバロンブロッサ声明”と、同会議のワークショップ後に作成された専門家ではない仲間の論文、”挑戦すべき概念:環境化学物質と生殖能力”のPDF版は下記ウェブサイトからダウンロード可能である。
 http://www.healthandenvironment.org/working_groups/fertility ワークショップの科学的な議事録は『Reproductive Medicine』に間もなく発表されるであろう。

 この会議のフォローアップとして、CHEとカリフォルニア大学サンフランシスコ校が主催する”生殖健康と生殖能力への環境の挑戦に関するサミット”が2007年1月開催目指して準備中である。この会議は300人が参加することができ、、生殖臨床医、臨床研究者、科学者(研修者を含む)、生殖患者団体の指導者、女性の健康と生殖に関する団体、地域の健康団体、環境生殖正義団体、政策立案者、及び環境健康基金提供者らが参加予定である。
 希望することは、環境生殖健康問題の理解を推進するために共同して働いている見識ある人々の声を広げていくことである。

 このサミットに関する詳細な情報については下記に問い合わせ願いたい。
 Mary Wade at the Program on Reproductive Health and the Environment at UCSF at (415) 476-2563 or e-mail at: wadem@obgyn.ucsf.edu


訳注1:
2005年10月 バロンブロッサ合意声明/環境汚染物質とヒトの不妊(当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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