科学と環境健康ネットワーク(SEHN)2009年5月
レイチェル・プレコーション・レポーター#184
予防が届く範囲:新しい報告書
ケイティ・シルバーマン

情報源:Science & Environmental Health Network May 2009
Precaution's Reach: a New Report #184
Precaution's Reach: a New Report
by Katie Silberman
http://www.sehn.org/rpr184.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年8月14日
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 生まれ変わったレイチェル・プレコーション・レポーター(RPR)の創刊号にようこそ! 科学と環境健康ネットワーク(SEHN)はピーター・モンターギュが彼の赤ちゃんを私たちに手渡してくれたことを光栄に思い、私たちはきちんと面倒を見ることを誓います(訳注1)。

 今号のレイチェル・プレコーション・レポーターで、SEHN は、分野を横断して予防原則の役割を検証する新しい報告書 『予防の議題を促進すること(Advancing The Precautionary Agenda)』 を発表することを喜びとします。私たちは10年以上予防原則を推進してきて、いかにその考え方が環境健康と環境正義の運動の中で(しばしば非常に直感的な人々のために)取り込まれたかを見てきました。しかし、私たちはそれら以外の他の人々が予防を利用しているのであろうか、そしてそれが様々な産業と運動体の目標、願望、運営に合致しているのであろうかと不思議に思っていました。

 この報告書は14の分野を横断して実施した17のインタビューの概要をまとめたものです。それは、広範なやり方で予防を統合するために、共有されている概念、課題、及び希望をひとつの絵に描くことです。私たちは、例えば私たちの経済システムが長期的計画よりもむしろ短期的な利益の方に報いるという事実、そのような予防的行動に対する共通の障害について学びます。しかし同時に、”予防は絶望に対する元気づける(tonic )”であると断言する労働運動の指導者ウイリアム・クリネフェルターのように領域を横断する倫理的人間愛の脈絡があります。

 広範な4つのカテゴリーに編集された 『予防の議題を促進すること』 は、この報告書が言うところの、やって来そうな将来を語るのではなく、望ましい将来を作り出す方向に動く社会を作る入り口に私たちを導きます。インタビューの反応は次のようにまとめることができます。

1.予防を制度化すること
 カリフォルニア州ハザード評価システム情報サービスのような予防的行動に対応する公式な組織を設立すること。

2.予防を測定すること
 例えば、もし私たちが文化的伝統のような定性的な価値を適切に測定することができないなら、私たちはどのようにして合理的なライフサイクル・アナリシスを行うことができるのか?

3.予防の経済的推進力
 科学に向けたほとんどの資金は、特許の取れそうな着想のものに注ぎ込まれるという事実。

4.予防を可視化すること
 それを実現するために私たちは何をイメージする必要があるのか?

 多くの分野は予防的行動をとっており将来を計画していますが、そのような行動は様々な名前で呼ばれており、必ずしも”予防原則”という名前である必要はありません。例えば、ニマン養豚社は、家族経営農場で人道的に飼育された豚の市場を設立し、現在は500の農場が参加しており、年間10%増加しています。そのような経営は、大規模な去勢豚の密集囲い飼育経営に関連する最近の新型インフルエンザ(swine flu epidemic)の流行に照らして、特に予防的であるといえます。アメリカの食品産業界の大手シスコ・フーズ(Sysco foods)さえ、数十万エーカーの農作物栽培に減農薬技術を使用しています。少年司法運動家としてダイアナ・フラピエールは、”もし防止(prevention)を私たちの優先事項とすれば、良い結果があちこちで見られるでしょう”。

 分野を横断して予防的行動を調査し、異なる役者を共通の願望で結びつけることが、全ての取り組みを促進する相乗効果をもたらすことができるということがSEHNの希望です。報告書が結論付けているように、”私たちは累積的で複雑な相互作用を考慮する既存の知識を統合するためのよりよい方法を必要としています”。これは、複雑系科学を探求するSEHNが言い続けていることです。すなわち、不確実性に満ちた多面的世界において、健康、生態系、そして将来の世代を守るために、私たちはどのどのように決定し、行動することができるのか? 報告書 ”予防の議題を促進すること”は、ある回答者が言った”将来との感情的な関係”を作り出すために協力して働きつつ、多くの分野に先を見通した戦略があることを明らかにしています。
 この報告書が見つけたことは、SEHN が将来のために予防的議題を設定するのに役に立ちます。他の人々もまた、それを利用してほしいという願いをもって私たちはこの報告書を公開します。報告書ははSEHN のウェブサイト http://www.sehn.org/ の下記からダウンロードできます。
http://www.sehn.org/pdf/Advancing%20the%20Precautionary%20Agenda.pdf

関連資料

 SEHN'の複雑系の科学(Science of Complexity)についてのもっと詳しい情報については、私たちの最近の報告書 ”健康な老齢化に対する環境的脅威:アルツハイマー病とパーキンソン病を検証する(Environmental Threats to Healthy Aging: with a Closer Look at Alzheimer's and Parkinson's Diseases)”をご覧ください。http://www.agehealthy.org

 SEHN の科学ディレックター、テッド・シェトラーを特集したた予防原則についての話をナショナル・パブリック・ラジオで聞くためには、ここをクリックしてください。

 予防の実践について読むためには、ニュージャージで農薬のない町が増えているというこの記事をご覧ください。

 科学的不確実性に直面したときに予防的行動をとるひとつの事例として、ひとつの建物での電磁界(EMF)暴露に関連しているという疑いのあるカリフォルニア大学サンディエゴ校の乳がんグループについてのこの記事をお読みください(訳注2)。



訳注1
レイチェル・ニュース #1000(最終号)さようなら レイチェル・ルニュースの最終号です 次はどうする? ピーター・モンターギュ

訳注2
NYT Well Blog, 2009年2月24日 がん発症は大学の建物が原因であると非難



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