2008年 プレゼンテーション
リスク評価と予防原則
欧州委員会 ベルナルド・デログ

情報源:Presentation 2008 by EC Bernardo Delogu
Risk assessment and the precautionary principle
Bernardo Delogu, Adviser for Research and Science,
Health and Consumers Directorate-General, European Commission
http://www.cumulativeimpacts.org/documents/08_Bernardo_Delogu_1400-1430.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico
掲載日:2011年8月13日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/eu/RA_PP_Bernardo_Delogu_2008.html

リスク評価と予防原則

ベルナルド・デログ, 2008年
研究・科学アドバイザー
欧州委員会 健康消費者総局
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いつまでも変わらぬテーマ
  • 定義の多様性。
  • 異なる解釈。
  • 語義に関する議論。
    • 予防(precaution)。
    • 予防的アプローチ(precautionary approach)。
    • 予防原則(precautionary principle)。
  • いくつかの議論ある問題の影響により、偏った議論(ホルモン、GMOsなど)。
  • EUレベルの予防原則は、欧州連合条約(マーストリヒト条約)、予防原則に関する欧州委員会コミュニケーション COM2000(訳注)と欧州連合理事会決議、広範な判例法によって形成される。
訳注:予防原則に関する欧州委員会コミュニケーション COM 2000/1
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予防原則はどこで始まったか・・・
  • 1970年代のドイツ環境政策(とりわけ大気汚染):天然資源の慎重な管理のための原則。
  • マーストリヒト条約。
  • BSE問題の余波。
  • 新たなリスク分析政策(1998)及び ECコミュニケーション COM2000と欧州連合理事会決議。
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予防原則アラカルト
多くの異なる記述がある。(しかし、国際レベルで成分化することには抵抗がある。)
  • 1992年リオ宣言は、”完全な科学的確実性の欠如”、”深刻な又は不可逆的な被害”、”費用対効果の大きい対策”に言及している。(訳注)
  • オリジナルの概念(Vorsorgeprinzip:予防原則)は、リスクを回避するために注意深い計画を求めている。
  • 第3回北海会議決議で、”たとえ、排出と影響との間の因果関係を証明するための科学的証拠がなくても”、”潜在的に被害を及ぼす影響を回避するための行動”に言及している。
  • ECコミュニケーション COM2000は、”十分ではない、決定的ではない、確かではない証拠”、”合理的な懸念の根拠”、”保護の選択されたレベルに一致しない潜在的な影響”に言及している。
  • その他
訳注:国連環境開発会議(地球サミット:1992 年、リオ・デ・ジャネイロ) 環境と開発に関するリオ宣言
第15原則:環境を保護するため、予防的方策は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない。
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予防原則の批判
いくつかの事例:
  • 実際には存在しないナイーブでロマンチックな牧歌的な展望に執着する人々のための原則(社会問題研究センター)。
  • 保護貿易主義と環境的科学技術恐怖症を正当化するために利用される(G. Conko 競争力企業研究所)。
  • 無力な原則(Cass R. Sunstein)。
  • 健全な論理的基盤に欠ける; 規制優先度を歪めるかもしれない; 保護主義者の措置を正当化するために悪用される; 国際的な規制協力を蝕む; 望ましくない分配影響があるかもしれない(G. Majone、欧州大学研究所)。
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予防原則の支持者
いくつかの主張:
  • 予防原則は、誤差や偏向に悩まされる将来のシナリオやリスク計算よりもよく定義された目標に基いて計画することを促進する。
  • 予防原則は、持続可能性に向けてダイナミックな変化を求めるが、リスク評価は、何も手を打たずに従来どおりの状況を永続させる。
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枠組みの必要性:目標
  • EU内市場統制。
  • EU立法、EUと国家実施法令の効果と一貫性。
  • 国際貿易ルールと約束との適合性。
  • 判例法と調和した強固なアプローチ(EU法令の公正なレビュー)。
  • 科学的不確実性がある場合、リスク管理/リスク評価インターフェースの説明。
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EUの予防原則へのアプローチ
  • リスク管理原則。
  • 科学的証拠が十分でなく、決定的ではなく、又は確かでない場合、及び、予備的、客観的、科学的な評価を通して潜在的に危険な影響が保護の選択されたレベルと一致しないかもしれないという懸念についての合理的な根拠が存在する場合に適用する。
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EUの予防原則へのアプローチ
  • リスク評価アプローチと矛盾しない。
  • 予防原則の適用を前提とし/伴う。
  • 潜在的な有害影響の特定。(リスクへの単なる不確かなアプローチではない。)
  • 最新の知識によって許されるかぎりの科学的評価。
  • 利用可能な全ての選択肢の考慮。
  • 均衡、非差別、一貫性の尊重。
  • 選択肢のコスト/便益の検証。
  • 科学的発展の監視と適切な場合には措置の再考。
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予防原則の特性と範囲
  • 裁判所は予防原則はEU法の一般原則であるとみなされなくてはならないことを確認した。
  • 環境政策に適用するが、全EU政策を通じて健康保護にも適用する。
  • EUの規制責任(実施を含む)に関する限り、EU機関と加盟国の双方に関して拘束的特性を有する。
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いまだ議論ある原則。混乱した議論:利害の危機
  • 予防原則は、社会的分野と文化的相違を越えて国際的に議論がある。
  • 予防原則の異なる定義と異なる解釈が議論を複雑にする。
  • 危機にあるもの:決定に関する不確実性と立証責任の影響。
  • 異なる組織にとっての戦略的意味合い。
  • 予防原則は、他のリスクの側面及び技術統制とごちゃ混ぜにされる傾向がある。
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関連する問題:リスク又はハザードに基く政策と法令?
  • 一般的に、リスクの概念はEU法令のベースである。
  • しかし、検討すべき必要性がある。
    • 曝露の評価/制限の実行可能性。
    • 措置の特定の目標。(例えば、物質の本質的な特性に関する情報を提供すること。)
    • リスク予防における様々な関係者(消費者など)の役割。
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我々は予防原則が必要か?
  • 決定はしばしば、不確実性の存在の下に、行われなくてはならない。
  • 何も決定しないこと(無干渉主義(laissez faire))も、ひとつの決定である。
  • 新たな技術:コリングリッジのジレンマ(Collingridge dilemma)。(訳注1)
  • 深刻/不可逆的なリスクがあるときに、偽陽性(False positive)は、偽陰性(false negative)より、一般的に低コストで修正できる。(訳注2)
  • 均一ではない様々なグループのリスクが考慮されなくてはならない。
訳注1:コリングリッジのジレンマ
 情報の問題:技術の影響はそれが広く発展・普及するまで十分に予測できない
 権力の問題:技術が確立してしまうと管理や変更が難しくなる。

訳注2:偽陽性と偽陰性
 偽陽性:実際には懸念が低いのに、懸念が高いと判定する。
 偽陰性:実際には懸念が高いのに、懸念が低いと判定する。
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検討(続き)
  • 予防原則の競争力への影響: 新たな技術、製品等の便益は、潜在的なリスクに起因する可能性あるコスト(定量的/定性的)の検討なしに評価することはできない。
  • 予防原則と国際貿易: 貿易協定のイメージのリスク
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結論
  • 責任ある効果的なリスク統制は、予防原則なしには考えられない。
  • 予防原則の誤用と誤解は、予防原則それ自身と混乱すべきでない。
  • いかに最も効率的な方法で予防原則を適用するかについて経験から学び、(観念上の議論には反対する)ことが必要。
  • もっと国際的な作業と建設的な議論が、予防原則についてのよりよい理解に向けて進むことに役立つ。
  • リスク統制の議論は、もっと統合的ナアプローチがふさわしい。(予防原則を選ぶ理由はない。)
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ありがとうございました。
THANKS

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