第1回全米予防原則会議
歓迎の演説/ロイス・ギブス(CEHJ代表)

情報源:The First National Conference On Precaution
Welcome Speech
Lois Gibbs, Executive Director Center for Health, Environment & Justice
http://www.besafenet.com/prec_conf_proceedings/lois_gibbs_welcome.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年7月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/NCP/NCP_welcome_speech.html


 皆さん、第1回全米予防原則会議へようこそ参加くださいました。これは、皆さんが計画し、検討し、そして協力して盛り立てた会議です。この会議は、健康環境正義センター(CHEJ)、科学と環境健康ネットワークS(SEHN)、又は環境研究基金(ERF)だけが、他のリーダーたちや運動と切り離して単独に決めたことではなく、国中のリーダーたちが参加して決めたことです。

 そのことを示しましょう。この大きなそして時には言うことを聞かない実行委員会のメンバーはどうぞ起立し、そのままお立ちください。60の支援組織とそこから参加している人々もどうか起立し、そのままお立ちください。この会議に自主的に協力してくださった方々、そして CHEJ, ERF 及びS EHN の全てのスタッフもどうぞ起立してください。スピーカーとファシリテーターの方々、どうぞ起立ください。そして最後になりましたが、このイベントの資金調達に協力いただいた各基金の実施プログラムの方々、どうぞお立ちください。
 皆さん、周りをご覧ください。これこそが、誰もがテーブルに着き、発言し、投票する場を持つ運動であり、そしてアメリカ中及び世界中で進歩的な健康保護の議題を成功裏に推進するために重要な運動なのです。皆さん、ありがとうございました・・・。

 予防は人々が毎日やっていることです。我々がこの会議を通じて取り上げようとしていることは決して新しい概念ではなく、政策決定者にとってのパラダイム・シフトなのです。我々は個人として、予防は重要なシート・ベルトであり、果物や野菜を洗うようなことだということをすでに理解しています。

 我々のビジョンを成し遂げるために−それはたとえ科学的確実性がなくても危害を防止するための行動をとること−、我々は政府と企業にこれまでとは異なる問いに基づいて決定を行うよう動かす必要があります。彼らに次のように問いを変えさせることです。地球、人々、そして生き物はどのくらいの危害なら許容できるかという問いから、我々はどのくらい危害を回避することができるかという問いに変えることです。

 そのようなことは常識であるとして簡単に聞こえますが、これは困難な行路です。それはビジネスを行うやり方と全く異なります。しかし、我々が成功する時には、”通常のビジネスのあり方”の新しい定義を作り出しているでしょう。

 我々は、先人から学ぶべき多くのことがらがあります。私は草の根の環境健康運動は一貫して危害を防ぐことであると常に言ってきました。例えば、数千の廃棄物焼却炉が建設されなかった、あるいは閉鎖されたという事実は地域の住民が、どのような汚染レベルに対しても”ノー”と言い、廃棄物管理は異なったやり方で行い、企業は最終的に廃棄物となる有害物質を使用しないよう提案してきたことの結果でした。

 20年前の1986年に、CHEJ はスタイロフォーム(訳注:商標/発泡スチロールの一種)についての McToxics キャンペーンを立ち上げて成功し、今日、2006年には、我々はジョンソン&ジョンソンやマイクロソフトに有害なプラスチックである塩ビの使用を止めさせました。これはひとつの危害防止戦略−有害容器包装が製造され、使用され、最後には廃棄される地域共同体での危害を防止すること−です。

 30年前、リーダーたちは新たな原子力発電所の建設に”ノー”と言い、その建設を完全に中止させました。放射性物質からの危害を防ぐ予防的行動です。

 今日、我々は新たに計画されている原子炉に反対するキャンペーンを再度立ち上げています。リーダーたちは、太陽光、風力、その他の安全なエネルギー源を唱道しています。

 たとえ汚染サイトのようにジニーがランプの外に出た時には(訳注:ジニーはアラビ童話に出てくる妖精、魔神:genie)、リーダーたちは、環境とヒトの健康に対する将来の危害を防ぐための警戒ステップとして永久的な浄化が答えであり、その都度、バンドエイドを張るようなアプローチではないと一貫して主張してきました。

 マサチューセッツ州ウォーバーンの家族は、他の子どもたちが白血病の犠牲になることを防ぐために予防的措置として汚染された飲料用井戸を閉鎖することを望みました(訳注1)。私はラブ・カナルにおける有害物質を調査している間に、ひとつの小学校を閉鎖するために働きましたが、これは児童と職員が有害物質に暴露することを防ぐための予防的措置でした(訳注2)。


訳注1:amazon.com.jp 「A Civil Action」内容紹介
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0679772677/249-3597424-6170748
 1960年代後半、ボストン近郊の町ウォーバーンでは急性リンパ性白血病に倒れる子どもが相次いだ。地区の8家族は水源の汚染が原因であるとし、産業廃棄物を捨てた疑いが濃厚な企業2社を相手に民事訴訟に踏み切った。・・・全米図書賞候補、全米批評家賞最優秀ノンフィクション賞受賞。

訳注2:Late Lessons 14の事例から学ぶ予防原則 七つ森書館/松崎早苗 監訳
 第12章 予防原則と五大湖の化学汚染に関する早期警告から
 ・・・ニューヨーク州ナイアガラ・フォールズ市のラブ・カナルは途中まで掘っただけで運河としてほ使われなかった。後に埋め立てられて住宅地とされたが、過去20年にわたってフッカー化学会社が2万トンもの毒性廃棄物をこの運河跡地に捨てていた。隣接する団地に住むロイス・ギプス(LoisGibbs)の告発によりラブ・カナル公害として有名になった。・・・


 労働運動の最前線で身を挺して関わる諸兄諸姉のおかげで、我々は有害物質への暴露と疾病との多くの関係を知ることができました。彼らは職場における知る権利を得るために、そして我々が危害を防ぐための予防的行動を推進するために必要な情報を持てるよう地域共同体のために活動しました。

 我々はこの戦いを長い間、続けてきました。私にとっては27年間です。しかし、それは、慎重な共同作業がない、そして時には共同作業ができないような、狭いネットワークと地下室でなされてきました。

 今日は新たな日です。我々は、どのようにして、メッセージ、枠組み、戦略、資源などを持って新たな方法で活動するかを解決するために、ここに集まりました。この部屋にいるリーダーたちを見てください。労働、環境正義、PTA、原子力、有毒物質、農薬、鉱業、軍事廃棄物、健康医療、企業、政府、そしてもっと多くの分野からのリーダーたち・・・。これこそが抜本的変革のための広範で深い取組です。

 私はこの運動を万華鏡のように考えています。万華鏡は多くの色と形状を含んでいますが、全ての色と形状は同じレンズで結ばれています。万華鏡を手にすると、それを回して動かし続けたい衝動に駆られます。それこそが、我々は互いに非常に異なる取組と問題(万華鏡の中の色と形状に相当する)について活動するために必要とすること−我々は互いに連携し、前進し続ける必要があるということなのです。

 我々は巨大な抵抗と力に立ち向かっています。企業は変化することに抵抗します。彼らは市場のシェアーを失うことや彼らの利益に影響を与えることを望みません。政府は意思決定プロセスとしてリスク評価とコスト便益評価に夢中です。

 BE SAFE (訳注3)は会議後の活動のコーディネーションを行い、また皆が行っている活動に相乗効果を与えるよう支援するつもりです。様々なグループがひとつのモザイクとなって前に進むということはすばらしいことであり、そのことのために、我々が予防と防止というこの目標を達成することができると私は信じています。

訳注3:プレスリリース 2003年10月20日 米市民団体 BE SAFE キャンペーンを立ち上げ(当研究会訳)

BE SAFE の枠組みは次のような4つの主要な原則からなっています。

  • 早期の警告に注意を払うこと(HEED EARLY WARNINGS)
     政府と産業は、危害が起きる又は起きそうであるという確かな証拠があれば、たとえ危害の正確な特性と規模の全貌がまだ証明されていなくても、危害を防止する義務がある。

  • 安全を第一とすること(PUT SAFETY FIRST)
     産業と政府は、新たな化学物質又は技術が使用される前に、それらが有害であることが分るまで無害であると仮定するのではなく、それらから引き起こされる可能性のある危害を徹底的に調査する義務がある。

  • 民主的であること(EXERCISE DEMOCRACY)
     政府と産業の決定は、意味のある市民のインプットと、その健康が影響を受けるかもしれない人々のために、そして、金銭的関心を持つ人々のためではなく我々の天然資源のために、最高に考慮した相互の尊敬に基いて行われるべきである。

  • 最も安全な解決を選ぶこと(CHOOSE THE SAFEST SOLUTION)
     政府、産業、及び個人による意思決定は、代替の評価、及び最も安全で技術的に実行可能な解決の選択を含まなくてはならない。我々は、健康な環境と経済を創造する技術と解決の革新と」推進を支援する。
 我々はこれを必ず実現できます。今日は我々の取組の第一章が始まったところです。この旅路を一緒に歩み、前進し続けましょう。我々は必要な変革を生み出すためにお互いを必要としているのです。



化学物質問題市民研究会
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