欧州環境庁(EEA)2013年1月 レイト・レッスンズ II
17. 生態系と回復力管理 (概要編)
Susan Jobling and Richard Owen
情報源:European Environment Agency
EEA Report No 1/2013 Part B Summary
17 Ecosystems and managing the dynamics of change
Jacqueline McGlade and Sybille van den Hove
http://www.eea.europa.eu/publications/late-lessons-2/late-lessons-chapters/late-lessons-ii-chapter-17

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico
掲載日:2013年2月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/LL_II/17_Ecosystems_summary.html


 レイチェル・カーソンの沈黙の春が刊行されてから10年後、アニー・ディラード(Annie Dillard )はピューリッツァー賞を受賞した本、『ティンカー・クリークの巡礼者( Pilgrim at Tinker Creek)訳注1:日本語訳版「ティンカー・クリークのほとりで」が出版されている』で、20世紀の有害物質の遺産を記述して異なる世界観を開いた。それは、世界経済は、もっと徹底的に自然、その機能及び物質的豊かさを理解することに基づくであろう21世紀を予兆するものであった。完全に記述的であり、大いに関連性がある彼女の本は、この章の正に本質:自然界の進化を予測することに日常的に役立つ観察の中に驚きの種−通常ではない驚き、将来の変化の前兆としての驚き−をとらえたものであった。

 そのような驚きを予期することについての我々の体系的な失敗がこの章の中心をなす。漁場、森林、サバンナ、水系からの一連の事例研究が、どのようにこれらの自然系に変化が出現し、しかしそれらが利用されなかったかについて、早期の警告を強調するために利用されている。

 この章は、政治的、分野的、及び地理的な区画への知識の分割が、どのようにして長期的な展望に打ち勝ち短期的な利益の”繰り返す悪夢”をもたらすか;競争が協力にとって代わる状況;価値と利害の分裂;権威と責任の分裂;そして、不適切な解決又は追加的な問題にすら導く情報と知識との分裂−に導いてきたかをハイライトしている。

 さらに、制度的な適合性の欠如が、しばしば生態系への助け(サービス)への効果(effectiveness of the stewardship of ecosystem services)を裏切っており、予期しない驚き、過度のレントシーキング(企業などの高利潤追求行動)(訳注2)、そして高い取引コストをもたらしてきた。

 地球の境界(planetary boundaries)、転換点(tipping points)、パナーキー(panarchy)(訳注3)、回復力(resilience)という4つの相互に関連する概念のまわりに構築された反実仮想(counterfactual thinking)(訳注4)を使用しつつ(すなわち、ひとつの出来事の発生が他の出来事の発生及び可能性ある出来事の変更に依存するかどうか、それはいつ、どのように)、この章は、なぜ多くの警告の兆候が見えなかったのか調べる分析手法(レンズ)を提供する。この章は、なぜ生態系が将来もっとリスクに曝されそうなのか、そして、もし我々が突然の不可逆的な生態系の変化を避けることにするなら、なぜ、我々は自然と制度の弾性(回復力)の両方をもっと密接に観察し理解する必要があるのかを示唆することで、締めくくっている。



訳注1:参考情報
訳注2:参考情報
レントシーキング/ウィディぺキア
 経済学における公共選択論における概念の一つで、「特殊利益追求論」とも呼ばれる。企業がレント(参入が規制されることによって生じる独占利益や、寡占による超過利益)を獲得・維持するために行うロビー活動等を指す。これによる支出は生産とは結びつかないため、社会的には資源の浪費と見なされる。

訳注3:参考情報
  • パナーキズム/ウィディぺキア
     パナーキズムの核をなすのは”寛容(tolelance)”の原則である。寛容であることとは、自己の考える理想はそれに賛同する者たちの間だけで”自分たちの費用と危険において(at their own expense and risk)”実践するにとどめ、意見を異にする他者にはそれを強要せず、彼らのすることには一切干渉しない態度のことを言う。人々が互いに”寛容”であることによって、現在まで支配的であった領土的国家による画一的強制から脱却し、個人の自由と権利は最大限に保護されるのだと言う。

  • パナーキー(Panarchy)/モジログ
訳注4:参考情報
反実仮想とは/ニコニコ大百科
 自然科学と異なり、社会科学では対照実験を行うことができない。「Aを行った(Aだった)場合」と「Aを行わなかった(Aではなかった)場合」との結果の違いは推測に頼るしかない。あくまでもこの推測は不確実であるため、論争の火種となりやすい。特に論争になりやすいのが戦争の勝敗や大きな政治・経済・社会的決定である。




化学物質問題市民研究会
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