The Conversation 2022年3月21日
計画されている世界プラスチック条約に 期待する4つの理由
エリザベス・カーク

情報源:The Conversation, March 21, 2022
Four reasons to be hopeful about the planned global plastics treaty
By Elizabeth Kirk; Professor of International Environmental Law, University of Lincoln
https://theconversation.com/four-reasons-to-be-hopeful-
about-the-planned-global-plastics-treaty-178444


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
更新 2022年3月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/news/220321_CONV_
Four_reasons_to_be_hopefu_about_the_planned_global_plastics_treaty.html

 175 か国によって承認された画期的な決議訳注1)は、2024年末までに最終決定される予定であり、プラスチック汚染を終わらせるための世界初の条約の交渉を開始した。(訳注:環境省決議概要によれば、政府間交渉委員会は 2022 年後半から開始し、2024 年までに作業を完了する。)

 このような合意の基礎は、行動に対する国民の支持を高め化学産業及びその他の産業からの反対を縮小することによって可能になりなった。これに加えて、土壌食品海洋にプラスチック汚染が蓄積しているという科学的証拠が増えている。

 それでは、条約は何をするのであろうか? 多くの専門家は、私のように、オゾン層を破壊する化学物質を段階的に廃止した 1987年のモントリオール議定書訳注2)と同様のプロセスに従うプラスチック条約を支持してきた。この場合、条約は使い捨てのプラスチック製品、又は使い捨ての容器・包装など、プラスチックのさまざまな用途を禁止し、各国は定期的に会合してこのリストを更新し、それぞれの禁止が発効する日付を合意する。

 しかし、それは決議が提案していることではない。そうではなくて、温室効果ガス排出に対処する気候変動に関する 2015年のパリ協定訳注3)に類似した条約を想定している。それは基本的な目的を設定し、各国がプラスチック汚染を防止、削減、廃絶するための独自の計画を設定できるようにする。

 石油化学産業やその他の人々によるロビー活動は、これらの国家行動計画を弱体化させる可能性がある。一方、プラスチック条約がモントリオール議定書で示されたモデルに従うなら、各国は特定のプラスチックの生産又は使用を停止したことを証明する必要がある。

 とは言うものの、交渉国が決議のガイダンスに従う場合、最終的な条約は、温室効果ガス排出に関して漠然と言葉で表現されたパリ協定よりも、プラスチック汚染を減らすために各国に設定する義務の方が正確である可能性が高い。私が楽観的であることを正当化する 4つの理由を以下に示す。

1. 明確な目的と基準

 この決議は、プラスチック汚染を防止、削減、廃絶するという条約の明確な目標を設定している。これは、世界の平均気温が産業革命以前のレベルを 2°C上回らないようにするというパリ協定の目的よりも、はるかに分かりやすい。

 決議はまた、各国に健全な廃棄物管理の実施を採用するよう指示している。これは、すべての国にとって困難であることが証明されている問題である。英国は、本来はリサイクルすべき廃棄物を海外の埋め立て地に投棄される<ことになるA HREF="https://www.bbc.co.uk/news/uk-51176312" target="_blank">廃棄物を輸出している。

 各国が対処しなければならないプロセスを示すことは、すべての国が同じことをするように求められたときに進行状況を監視するのが簡単になるので役立つ。パリ協定の下では、たとえば、ある国の公共交通システムの変更による排出量の削減と、別の国の電化製品のエネルギー効率の変更による排出量の削減を比較することは困難である。

2. プラスチック製品のライフサイクル

 決議は、製品のライフサイクルの各段階でプラスチックを規制することを各国に義務付けている。これは、温室効果ガスの排出を引き起こす製品やプロセス(化石燃料など)について言及しておらず、国がどのように排出を削減するかを自由に決定できるパリ協定で採用されているアプローチよりもはるかに進んでいる。

 プラスチック決議の下で、国は、再利用、作り直し、又はリサイクルできるプラスチック製品の設計を製造業者に要求する規制を採用するであろう。国はまた、消費者が製品を使用したくない、又は使用する必要がなくなったときに、製品に何が起こるかを計画することが期待される。携帯電話やノート型パソコンなど、将来製造される製品は、より簡単に修理できるように設計する必要がある。

 再利用又はリサイクルされるプラスチック製品の設計に重点を置くことは、将来の合意には、可能な限りプラスチックから作られた使い捨てアイテムを段階的に廃止するというコミットメントも含まれる可能性があることを意味する。パリ協定には同等の条項はない。

3. 既存のプラスチック汚染

 既存の条約は汚染を浄化するように設計されていない。代わりに、それらは将来の排出量の管理に焦点を合わせる傾向がある。しかし、この決議は、各国が協力して海洋からプラスチックを取り除くべきであることを示唆している。各国は領海内で行動を起こすことでそうするか、又はプラスチックの除去を監督できる国際機関を設立することを選択するかもしれな。

4. 知識

 プラスチック製品の普及と汚染を考えると、どの分野も単独で問題を解決することはできない。この決議は、科学界、伝統的及び先住民の知識保有者、業界の専門家などさまざまな人々や組織に環境にプラスチックが蓄積するのを防ぐ方法についての知識を提供するよう、求めている。

 パリ協定には、気候変動への適応に関する同様の要請が含まれている。しかし、プラスチック条約の決議は、プラスチック製品のライフサイクルの各段階に関連する政策の提案で問題の軽減に貢献するよう人々に求めることで、さらに一歩踏み出している。

 科学者や先住民の学者は、たとえば、生態系におけるプラスチック汚染の全範囲を条約交渉者に知らせ、製品の設計原則を特定するのに役に立つかもしれない。 産業界は、新しいプラスチックの製造と再利用を確実にするという課題について報告するかもしれず、地方自治体の役人は、人々がそれをリサイクルするのを妨げる課題をどのように克服できるかを提案するかもしれない。

条約は成功するか?

 条約がプラスチック汚染の大幅な削減につながるかどうかを言うのは難しい。しかし、国の権力に対して決議が敬意を示すために、条約の成功を損なう必要はない。 パリ協定とは異なり、決議には、世界条約の実施を支える、より多くの提案が含まれている。

 国際社会がこの問題を認識するスピードには勇気づけられる。 なすべきことはたくさんあるが、この決議は正しい方向への一歩である。


訳注1:国連環境総会(UNEA 5.2)決議
訳注2:モントリオール議定書
訳注3: パリ協定
  • 2020年以降の枠組み:パリ協定(外務省 令和4年2月24日)
    • 世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること。
    • 主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。
    • 全ての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し、レビューを受けること。
    • 適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新。
    • イノベーションの重要性の位置付け。
    • 5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組み(グローバル・ストックテイク)。
    • 先進国による資金の提供。これに加えて、途上国も自主的に資金を提供すること。
    • 二国間クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムの活用。

  • パリ協定(JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター 2017/08/17 )
    パリ協定とは
     2015年11月30日から12月13日までフランス・パリにおいて開催された 国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、新たな法的枠組みとなる「パリ協定」を含む COP 決定が採択された。パリ協定は、「京都議定書」の後継となるもので、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みである。


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