2011年3月19日 ECRRアドバイス・ノート
ECRR リスクモデルと福島からの放射線
クリス・バスビー
欧州放射線リスク委員会 科学委員長


情報源:ECRR Risk Model and radiation from Fukushima
Chris Busby, Scientific Secretary
European Committee on Radiation Risk
http://www.nirs.org/reactorwatch/accidents/ecrrriskmodelandradiationfromfukushima.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2011年3月25日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nuclear/articles/110319_ECRR_Risk_Model.html


 大惨事の福島原発からの放射能は現在、東京のような人口の密集地域に達しており、アメリカにも現れるであろう。当局は、国際放射線防護委員会(ICRP)の線量係数を用いた吸収線量レベルに基づき、そのリスクを軽視している。これらの線量係数と ICRP 放射線リスクモデルは、この目的にとっては安全ではない。これはチェルノブイリ事故の結果についての数百の調査研究から明らかである。それはまた、2009年4月にスウェーデンのストックホルムでクリス・バスビーとの討議の中で、ICRP リスクモデルの編集者、ジャック・バレンティン博士によって正当であると認められた。バレンティン博士は、ビデオ・インタビュー(www.llrc.org and vimeo.com)で、ICRPモデルは福島のような放射線放出の健康影響を政治家に助言するためには使用することができないと述べた。バレンティン博士は、ある内部被爆について、このリスクモデルは2桁のオーダーで不確かであるということに同意した。放射線内部被爆検証委員会(CERRIE)は、不確かさの範囲は10であり、委員会のメンバーは誤差は1000であるとしたが、それは核汚染サイトの子どもの白血病集団を説明するのに必要な係数である。 ECRR リスクモデルは福島のような状況のために開発された。

 ECRR 2003 は、2010年に更新されており、まさにこのような状況のために開発されたので、ガンやその他の健康障害のリスクを評価するために採用することができる。www.euradcom.org を参照いただきたい。それは、公衆が内部被爆した多くのケースについてチェックされており、正確であることが示されている。

 ECRR 2010 放射線リスクモデルを使用するときに、曝露の健康影響に対して次の指針を採用することができる。

 当局によって発表された線量を使用する。それを600倍する。これが福島原発から放出された放射性核種の内部混合の概略 ECRR 線量である。次にこの数値に0.1をかける。これが、ECRR 2010 のガンリスクである。

例題1:福島産の放射性ミルクへの曝露による線量は低いので、そのミルクを1年間飲んでもCTスキャンの線量と同等であると当局は言う。CTスキャン線量は約10ミリシーベルト(mSv)である。1日に500ミリリットル(ml)飲むと仮定すると、年間摂取量は180リットルなので、1リットル当りの線量は 0.055mSv となる。1リットル当りの ECRR 線量は、最大0.055 x 600 = 33mSvである。したがって、そのような汚染ミルクを1リットル飲むとガンの生涯リスクは0.0033 または 0.33%である。したがって、1000人がそれぞれ1リットルのミルクを飲んむと50年後には3.3件のガンを発症する。
 チェルノブイリ後、スウェーデンやその他の場所の結果から見ると、これらのガンは恐らく曝露10年後に現れるであろう。

例題2:ガイガー計数管により測定された外部線量が、100nSv/h から 500nSv/h に増加した。1週間の曝露でのリスクはどのくらいか? 外部線量は単なる内部線量の印(flag)なので、我々はこれは放射性ヨウ素、放射性セシウム、プルトニウム、ウラン、トリチウムなどの放射性核種から放出される内部 ICRP 線量であると仮定する。したがって、1週間の曝露は、400 x 10-9 x 24 x 7days 又は 6.72 x 10-5 Sv である。600倍すると0.04Sv という ECRR 線量となり、それに0.1をかけると0.4% となる。したがって、この場合には1000人の人がこのレベルで1週間曝露すれば、この曝露で4人がガンを発症するであろう。東京の人口が3,000万人なら(訳注:実際は1,300万人)、今後50年で120,000件のガン発症となる。ICRP リスクモデルで同じ曝露の場合、100件のガン発症が予想される。ここでも曝露10年後にガン発症の増加を見ることになると予想すべきである。これは、前ガン状態ゲノムの早期発現のためである。

 出生障害、心臓疾患、その他の多くの症状や疾患を含む健康影響が予想される。詳細については ECRR2010をごらんいただきたい。

 これらの計算はチェルノブイリ事故による放射性降下物に曝露したスウェーデン北部の集団の事例で、また1960年代の核兵器実験による放射性降下物による北半球諸国におけるガン発症の増加で、正確であることが実証されている(the cancer epidemic)。公衆と日本及びその他の国の当局は、これらの概算に基づき曝露リスクを計算し、公衆を保護しない ICRP モデルはやめた方がよい。これは、2009年レスボス宣言に署名した国際的専門家のグループの結論であった。
The Lesvos Declaration 6th May 2009
2009年5月6日 欧州放射線リスク委員会(ECRR) レスボス宣言 (日本語訳)

参照:
ECRR 2010. The 2010 Recommendations of the European Committee on Radiation Risk. The health effects of exposure to low doses of ionizing radiation. Regulators Edition. EDs: Chris Busby, Alexey V Yablokov, Rosalie Bertell, Molly Scott Cato, Inge.Schmitze Feuehake, Brussels: ECRR.


訳注:参考情報


化学物質問題市民研究会
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