WWICS 2007年7月22日 報告書
ナノはどこに行くのか?
廃棄ナノ物質の規制

エグゼクティブ サマリー

情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars
Project on Emerging Nanotechnologies
Where Does the Nano Go?
End-of-Life Regulation of Nanotechnologies
John Pendergrass and Linda K. Breggin
July 22, 2007
http://www.wilsoncenter.org/index.cfm?topic_id=166192&fuseaction=events.preview&event_id=267182

Download the Report

訳:野口知美 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年10月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/wwics/070722_Where_Nano_Go_Summary.html

WWICS 2007年7月22日 報告書に関するWWICSの報道発表


エグゼクティブ サマリー


 ナノテクノロジー
 粒径範囲が概略1〜100ナノメートルの物質を観察し、操作する能力‐が創造する一連の物質は、大きな形状の同一物質とは特性が基本的に異なり、さまざまな適用に役立つものである。すでに市場に出ているナノテクノロジー消費者製品は500以上あり、産業用製品も増加傾向にあると推定されている。こうしたナノテク製品は、最終的には耐用年数の限界に達し廃棄されるが、製造時にも廃棄物が生成されている。ナノテク製造の廃棄物の中には通常の廃棄物もあるが、埋立地や焼却炉に投入されるにせよ、他の廃棄シナリオにせよ、廃棄物の流れの中でナノ物質を含むこともあるであろう。この報告書は、最新の経験に基づく2つの仮定的なケース・スタディを用いて、どのようにして既存の連邦法の下で廃棄ナノ物質を規制することができるかを検討するものである。

法律:RCRA及びCERCLA

 特に廃棄物及び廃棄問題を扱う2つの連邦法は、資源保全回復法(RCRA)と包括的環境対処・補償・責任法(CERCLAまたはスーパーファンド法)である。RCRAは、有害廃棄物を含む固形廃棄物の取り扱い、再利用、リサイクル、貯蔵、処理、廃棄を規制している。CERCLAは、RCRAなど他の法律による規制システムが予め対処することのできなかった有害物質汚染に対処するために制定されたものである。

 RCRA及びその施行規則は廃棄ナノ物質を扱っているけれども、規制範囲の決定要因として質量に焦点を当てていることは廃棄ナノ物質にとって必ずしも適切ではない、とこの報告書は結論づけている。その上、ナノ物質を含有するほとんどの消費者製品の処理は、有害廃棄物規制から除外されるものと思われる。なぜなら、こうした製品は家庭廃棄物と見なされるからである。いくつかの廃棄ナノ物質は、リスト記載の有害廃棄物または毒性特性に属するものとして、おそらく現行規則の下で有害廃棄物に分類されるであろう。大型の固形廃棄物の取り扱い、処理、貯蔵、廃棄に関する既存の慣行が同一化学物質のナノスケール廃棄物にとっても適切かどうか判断するための研究が必要である。廃棄ナノ物質の発生者の多くは、与えるべき情報を十分に持っていないため、処理・貯蔵・廃棄施設の所有者や作業者がこうした廃棄物を適切に管理することができないということもあり得る。最後に、固形・有害廃棄物が健康や環境を切迫した重大な危険にさらす可能性のある状況を改善すべく訴えようとしている市民を扱う米国環境保護庁(EPA)当局は、RCRA有害廃棄物規制プログラムの下で扱われなかったリスクに対処する方法を提供している。まだ今のところ、いかなる廃棄ナノ物質も有害廃棄物として規制されていないが、現行規制の下で廃棄ナノ物質に関連するリスクを扱うには、この当局が最も適切なメカニズムであると思われる。

 さらに、スーパーファンド浄化当局が適用を求められている基本的要素は非常に幅広いため、理論上当局はナノ物質を扱うことができる、とこの報告書は結論づけている。重要かつ初めに取り組むべき問題は、ナノ物質が現在あるいは将来、スーパーファンド法の下で有害物質ということになるのかどうかということである。同法が強調するのは、EPAがCERCLAのみならず執行している他の法律の下でナノ物質を評価・指定するやり方が重要であるということである。なお、たとえナノ物質が有害物質でなくても、同法はEPAに対して切迫した重大な危険を引き起こす汚染物質・菌の放出に対処するための広範な権限を与えている。理論的にはナノ物質に対処するためにEPAを利用することができるけれども、この機関の行うことは浄化そのものに限定されており、浄化コストを責任ある当事者から回収することはできない。法的責任の免除のうち、量ベースの要素が含まれているものはナノ物質の浄化に適さないかもしれないが、毒性要素が含まれているものは、特定のケースでは量ベースの免除に対する懸念に対処するのに十分かもしれない。法に記されている浄化基準・プロセスは非常に広範であるため、ナノ物質の浄化に適用することができる。しかし、ナノ物質の浄化に効果的に適用することができるとしても、EPAは施行規則・政策・ガイダンスを見直し、ナノ物質特有の性質に対処するために修正が必要かどうか判断しなければならない。最後に、もし放出されるナノ物質が法における有害物質ということになれば、法における放出報告要件は報告義務のあるナノ物質量の放出に適用することも可能になる。しかし、EPAが具体的な報告義務量を設定していない場合、標準的な報告義務量が1ポンドであることによってナノ物質への放出報告要件の適用が制限されるかもしれない。

 ナノテクに対する規制措置のペースを考慮すれば、CERCLAは他の法律が取り組んでこなかった問題に取り組むという役割において重要であることが再び分かるかもしれない。さらに、CERCLAは有害物質に汚染された場所を浄化することに対して広範囲に及ぶ責任を課しているため、この法律は民間の監視及び実施によって民間が有害物質を慎重に取り扱うのに十分な動機づけを生み出している。ナノテク発展の比較的初期の段階でこのような法律の抑止機能が働いているのか、もしくは働くべきなのかという問題は、さらに検討されて然るべきである。

 したがって、理論上、RCRA及びCERCLAは非常に広範にわたっているため、ナノ物質や廃棄ナノ物質を規制する手段として用いることができる。これらの法律を効果的に用いるため、EPAはこうした規制プログラムをいかに適用するか、適用するか否かといった一連の決定をすることが必要になってくる。このような決定をするにあたってEPAのすべきことは特に骨の折れるものになるが、多くの場合のように、決定の基礎を形成するヒトの健康及び環境毒性のデータは不足している。

米国環境保護庁(EPA)に対する示唆

 この報告書で提供されている分析に基づき、著者はEPAに対して以下のことを勧告している。
  • 利用できるさまざまな手段を用いて、ヒトの健康、ナノ物質の環境毒性とその運命(行き着く先)、環境におけるナノ物質の移動に関するデータ開発にさらなる投資をし、これを促進すること。
  • 他の連邦機関と協力して、民間セクターの中でも特に小企業や新興企業に対しRCRA及びCERCLAをナノ物質にいかに適用できるかということについてアウトリーチ活動及び教育を行うこと。
  • 現行の法律をナノ物質に適用するか否か、いかに適用するかといった決定をすること。
特にRCRAに関して:
  • 廃棄ナノ物質が同一物質の粗大ごみと実質的に異なる特性及び機能を持っている可能性を考慮したとしても、有害廃棄物の4つの特徴が適切であるかどうかを判断するために、この4つの特徴を見直すこと。
  • 毒性指標浸出法(YCLP)が土地に投棄された廃棄ナノ物質の運命・輸送を正確に予測するかどうかを判断するために、YCLPを見直し、必要があればこれを修正すること。 ・具体的な廃棄ナノ物質あるいは廃棄ナノ物質の分類を有害廃棄物のリストに記載すべきか否かを考慮すること。
  • 1ヶ月1kgの蓄積という発生者の規則に従って、具体的な廃棄ナノ物質あるいは廃棄ナノ物質の分類を急性有害廃棄物と分類すべきかどうか考慮すること。 ・大型の固形廃棄物の取り扱い、処理、貯蔵、廃棄に関する既存の慣行はナノスケールの同一化学物質の廃棄物にとっても適切かどうか判断するための研究を行うこと。
特にCERCLAに関して:
  • 現在のスーパーファンド法における有害物質のうちナノ形態で生産されるものがあるかどうか判断し、もしあるのであれば、その物質がナノ形態であっても有害かどうか、有害ゆえにスーパーファンド・プログラムによって扱われるのかどうかを評価すること。
  • スーパーファンド法に基づき当局を利用して、ナノ物質が有害物質かどうか判断するための審査をすべきか否か評価すること。
  • 当局の執行する他の法律の下でナノ物質に影響を与える行動が間接的原因となり、ナノ物質がスーパーファンド法の有害物質リストに追加されることもあることを考慮に入れること。
企業に対する示唆

 民間セクターは、ナノ物質及び廃棄ナノ物質が法律に従って安全に管理されていることを保証する責任がある。こうした責任に取り組むため、企業は以下のことをすべきである。
  • ナノ物質がどの時点で廃棄物になるのか、その廃棄物は有害廃棄物の定義に合致するのかどうかについて判断し、有害廃棄物を要求されているとおりに管理するなどして、RCRA有害廃棄物規則をナノ物質に適用すること。
  • たとえナノ物質がRCRAの下で有害廃棄物ということにならないとしても、のちにEPAによりスーパーファンド法の下で有害物質と判断されることもあるということを認識すること。
  • 施設から環境中にナノ物質がのちに放出される、もしくは放出される重大なおそれのある場合、政府あるいは民間当事者に共同・各自の厳格な法的責任がのちに生じる可能性のあることへの責任を取るやり方でナノ物質を廃棄すること。
  • CERCLA、RCRA及び他の環境法の結果、多くの商取引や債券発行に伴う環境適正評価によってナノ物質の取り扱い及び廃棄に関する調査が行われる可能性のあることを認識すること。
  • ヒトの健康、ナノ物質の環境毒性とその運命、環境におけるナノ物質の輸送、廃棄ナノ物質の取り扱い・処理・貯蔵・廃棄の適切な方法についての研究を大学や政府とともに推進・実施すること。
投資家や保険会社に対する示唆

 ヒトの健康やナノ物質の環境影響に関する知識が欠如していること、この重大な局面において規制レビューが実質的に欠如していることにより、保険会社や投資家、銀行に対する懸念が特に高まっている。それゆえ、利害関係者は以下のことをすべきである。
  • 新たな保険契約を作成したり、現在の保険契約を解釈したり、将来発生する可能性のある責任を考慮したりするにあたって、廃棄ナノ物質や廃棄製品を放出あるいは廃棄することによりCERCLAもしくはRCRAにおける責任が生じる可能性のあることを考慮に入れること。
  • 融資・投資決定をする際に、廃棄ナノ物質や廃棄製品の放出あるいは廃棄により環境リスク・責任が生じる可能性のあることを考慮に入れること。


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る