環境政策のための科学(SEP) 2012年12月6日
ナノ粒子
自治体廃棄物焼却設備の残渣中に存在する


情報源:Science for Environment Policy, 6 December 2012
European Commission DG Environment News Alert Service
Nanoparticles present in residues of waste incineration plant
http://ec.europa.eu/environment/integration/research/newsalert/pdf/309na4.pdf

訳注:オリジナル研究:
Nature Nanotechnology 20 May 2012
Persistence of engineered nanoparticles in a municipal solid-waste incineration plant
http://www.nature.com/nnano/journal/v7/n8/full/nnano.2012.64.html?WT.ec_id=NNANO-201208

Tobias Walser,1 Ludwig K. Limbach,2 Robert Brogioli,3 Esther Erismann,4 Luca Flamigni,3 Bodo Hattendorf,3 Markus Juchli,5 Frank Krumeich,3 Christian Ludwig,6 Karol Prikopsky,4 Michael Rossier,2 Dominik Saner,1 Alfred Sigg,4 Stefanie Hellweg,1 Detlef Gunther3 & Wendelin J. Stark2

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年3月8日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/sep/sep_121206_nano_waste_incineration.html


 ナノ物質の消費者製品中での使用が増大しており、それに伴い廃棄物中での存在も増加している(訳注1)。新たな研究が、廃棄物焼却のプロセスを通じて工業ナノ粒子の運命(行き先)を初めて追跡した。その結果は現在のフィルター技術は、煙道ガスからのナノ粒子を除去するのには効果的であるが、ナノ粒子はまた、飛灰(フライアッシュ)やスラグなの残渣に付着し、最終的には埋立地に堆積することを示している。

 消費者製品中での工業ナノ粒子使用の増加傾向が予測され、そのことは廃棄物中のナノ粒子もまた増加するであろうことを意味する。埋め立てはまだ一般的であるが、1億トン以上の自治体固形廃棄物が毎年世界中で焼却されており、廃棄物熱処理(訳注2)の使用が増加することが予想される。工業用ナノ粒子はしばしば、消費者製品中に導入されるときに、使用中に放出しないよう不溶解性で安定するよう設計されているが、もしそれらが環境中に入り込んだときには長期間残留するので、このことが問題を引きこす。

  廃棄物焼却プロセスの一断面だけを分析する今までの研究とは異なり、この研究は初めて全体のプロセスを通じてナノ粒子の運命を追跡した。それはナノ形状の酸化セリウム(nano-CeO2)(訳注3)に焦点を合わせたが、ナノ酸化セリウム(nano-CeO2)は、例えば、セラミックス中で及びガラス研磨など広い用途を持つ。

 研究者等は大規模焼却炉に向けられる廃棄物にナノ酸化セリウム(nano-CeO2)を加えた。そしてナノ粒子は、焼却前に廃棄物に直接付着させるか、又は炉からの排出ガスに導入された。それからガスと、飛灰(ボイラーからの煙道ガス残渣)、スラグ(火床からの固形燃焼残渣)、スラッグ冷却水(熱いスラグを冷やすための水)のような焼却プロセスの残渣からサンプルが採取され、セリウム含有量が分析された。

 研究結果は、焼却炉のフィルター・システムは非常に効果的であり、ナノ酸化セリウム(nano-CeO2)をほとんど100%除去することを示した。このことは、廃棄物熱処理設備が最新の煙道ガス浄化システムを備えていれば、その設備から排出されるナノ酸化セリウム(nano-CeO2)はわずかであると推測できる。

 ナノ酸化セリウム(nano-CeO2)は焼却プロセスからの残渣に緩く結合しており、フィルター技術を用いることで効果的に除去できるので、フィルターは効果がある。しかし、ナノ酸化セリウム(nano-CeO2)は飛灰やスラグ中に存在しており、さらにその化学的および物理的特性は不変である。例えば、ナノ粒子が直接廃棄物に導入されたときに、スラグ1グラム当り835マイクロ・グラム(μg)のナノ酸化セリウムの濃度が測定された。

 このことは、処分の問題は埋立地及び最終処分場におけるスラグや飛灰の残渣の取扱いに移っていることを示唆している。ナノ粒子への曝露は、輸送や中間貯蔵の間に、又はスラグや飛灰が、例えば、銅、アルミニウム、亜鉛などの材料を回収するために処理されるなら、生じるかもしれない。この研究は、ナノ粒子廃棄物を管理するための措置の開発において、及び分解可能なナノ粒子の開発の更なる探求において、予防原則の適用を強く勧告している。


訳注1
LAWR 2012年10月3日 2012年10月3日 ナノ廃棄物:ナノマテリアル周辺の曖昧さを改善する

訳注2
代表的な廃棄物の熱処理システム

訳注3
セリウム/ウイキペディア



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る