英国王立協会/王立工学アカデミー 2006年11月
ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性
政府の行動の2年間の進展に関する検証:
証拠を求める科学技術協議会の要求に対する両アカデミー共同回答


情報源:The Royal Society / Royal Academy of Engineering, November 2006
Nanoscience and nanotechnologies: opportunities and uncertainties
Two-year review of progress on Government actions:
Joint academies' response to the Council for Science and Technology's call for evidence
http://www.innovationsgesellschaft.ch/images/fremde_publikationen/nov%2006_Nano-report_royal%20society.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年11月25日
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/royal_society/RS_year_review_Nov2006.html

概 要
  • イギリス政府が我々の2004年ナノ技術に関する報告書(訳注1)を委託した時には、イギリス政府はナノ技術の責任ある開発を推進する主導的な役割を持っていると国際的に認められていた。しかし、我々の報告書の中で明らかにされたとるべき措置について進展がなく、特にナノ物質の健康と環境への影響についての不確実性に対応しなかったことは、初期のイギリス政府の優位性は失われたことを意味する。我々はイギリス政府が今後2年間でこの分野にもっと多くのリソースを注ぎ込み、今日までの進展の遅れを取り戻すよう勧告する。

  • 我々は自由ナノ粒子とナノチューブの健康と環境に与える潜在的な影響の理解の進展がなされていないことを非常に憂慮している。イギリス政府の規制担当官らは自ら、知識のギャップが埋められるまでは現在の規制が適切であるかどうか決定することができないと結論付けている。公衆と環境を保護するためのバランスの取れた規制の実現はハザード又はリスクの証拠がなけれ不可能である。

  • 産業を支援し規制を支えるために研究が必要であるという一般的な合意がある。我々の2004年報告書で設定された優先事項はこの報告書の後に出されたイギリス政府の最初の報告書を含む国及び国際的なワークショップや報告書の中で裏付けられた。我々は研究を支えるナノ粒子の基本的な測定と特性化のために資金が投入されたことは認めるが、政府による目標とする資金投入が全体的に不足しているということは、これらの優先事項の多くが実施されていないということを意味する。一方、市場に出るナノ技術ベースの製品の数は増加している。

  • 研究へのすばやい資金投入は重要であるが、新規分野における領域間の問題には適切に投入されていない。特化した資金投入が求められる。学界は、知識のギャップを処理するために方向性をもった研究プログラムを持つ領域間研究センターが最良の仕組みであるとやはり信じている。実体のあるセンターとして領域間及び国際間の協力のための中心となり、研究の国際的調整を支援することが求めらていた。センターはまたキャパシティ・ビルディングを刺激し、欧州枠組み計画のような国際的な資金源からの資金調達のためのもっと効果的な競争を可能とすることができるはずである。それはまた、イギリス産業のための独立した専門家の勧告機関となるはずであり、我々はセンターへの投資は長期的にはイギリスに多大な科学的利益と商業的利益をもたらすはずであると信じている。

  • 学界は、公衆との対話に関連する勧告については一定の成果があったということを喜んでいる。しかし対話活動のために設定された目標に政策策定者を関与させるという改善により、そして、成果をもっと厳格に分析することにより、成果はもっと役に立つものになるはずである。我々は政府が今までに学習したことの上に構築し、そのような活動からの成果が政策決定に反映されることを確実にする仕組みを開発することを希望する。

  • 我々はナノ技術の社会的及び倫理的側面に対する一貫した研究プログラムの必要性を再度強調する。それは将来の公衆対話活動の展開のために、そして先端技術の倫理的及び社会的影響に関する博士課程科学者の教育と訓練に社会学者を関与させるためにある基礎を提供することができるであろう。研究プログラムはまたイギリスを社会におけるナノ技術に関する国際的なネットワーク開発協力の中核とするであろう。

  • 我々は、我々の報告書に対応して政府省庁間が協力することを歓迎するが、我々は政府がその活動にもっと多く活動独立系科学者と社会科学者を関与させることを強く勧告する。


    はじめに
    (省略)


    工業的応用
    (訳注) 2004年報告書には21項目の勧告が挙げられており、今回の2006年報告書は2年後の達成度を検証しています。以下に検証の一部を紹介します。

    ■規制に関する論点

    勧告10(R10)
     ナノ粒子又はナノチューブの形状の化学物質は、既存の新規物質の届出 (Notification of New Substances (NONS) ) 規制、及び REACH (現在 EU レベルで協議中であり、最終的には NONS に置き換わるであろう)の下に、新たな物質として扱われるよう勧告する。
     ナノ粒子又はナノチューブの毒性に関するもっと多くの情報が入手可能となったなら、関連する規制機関が、これらの形状の物質に関するテストとテスト手法を規定する年間製造量の閾値が NONS 及び REACH の下で修正されるべきかどうかを検討するよう勧告する。


     我々はREACHがまだナノ粒子の規制を適切に行わないということを懸念しており、我々はイギリス政府がREACHを実施する時にもこのことを考慮することを希望する。

     新規物質の届出(NONS)及び既存物質規制(ExistingSubstancesRegulation(ESR))を実施する規制当局は(イギリスでは HSE と Defra)、欧州既存商用化学物質目録(EINECS)に登録されていないナノ形状物質(例えばフラーレン)は新規物質とみなされるべきであるということに同意した。このことは構造的な届出手続きを必要とし、それにはハザードの同定、暴露評価、リスク評価、及びリスク管理に関する情報の提出が含まれる。しかし、ナノ物質がすでにEINECSに登録されている物質より小さいというだけなら(例えばニ酸化チタン)、それは届出の対象とならない。

     欧州理事会は2006年6月にREACHに関する合意に達し、このREACHは2006年末までに採択されることが期待される。その立場はナノ物質のための特別な条項を設けるというものではない。既存の規制と同様に、REACHは構造的に新しいナノ物質の登録を求めるが、そのナノ形状化学物質は、その化学物質のより大きい形状のものと同じ扱いを受けるであろう。

     現状及び将来の規制は、ナノ粒子の登録のために、同一化学物質のより大きなサイズの粒子の安全テストの結果を提出することができる。このことはナノ粒子は同一化学物質のより大きな形状のものとは非常に異なる物理化学的特性を持ち得るという事実を無視するものである。したがって我々はナノ粒子が適切な安全テストを受けずに登録され得るという懸念を持ち続けている。

     テスト要求が発生する年間製造量閾値は1トンのままである。あるナノ粒子は年間1トン以上製造されているが、短期的にはほとんどのナノ粒子は低生産量であるのでREACHの範囲外となると思われる。ある場合には、1トンに満たない製造量でも工業的には十分な量であるとみなされる(例えば量子ドット)。ナノ形状の物質は単位重量あたりの健康と環境への影響が異なるかもしれないという事実を認めていないが、テスト要求が発生する年間製造量の閾値は変更される必要があると我々は信じている。

     欧州議会の産業研究エネルギー委員会の最近の報告書はこの懸念を反映しており、ナノ粒子はREACHの下では新規物質として扱われ、閾値も検討されるべきであると提案している(European Parliament 2006)。


    訳注1
    英国王立協会・王立工学アカデミー報告 2004年7月29日ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性−要約と勧告(当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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