ナノテク研究プロジェクト
環境省工業用ナノ材料に関する 環境影響防止ガイドラインの 概要と分析 安間 武(化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2010年4月18日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/project/nano_moe_report.html ■はじめに 2008年に多層カーボン・ナノチューブがマウス(MCNTs)に中皮腫を引き起こす可能性を示す二つの研究報告が発表されました。ひとつは2008年2月に『ジャーナル・オブ・トキシコロジカル・サイエンス』[1]に発表された日本の国立医薬品食品衛生研究所の研究チームの研究、もうひとつは2008年5月に『ネイチャー・ナノテクノロジー』[2]に発表された英エジンバラ大学の研究チームの研究です。 日本では、これらの研究が発表されるまでは、ナノ物質の安全管理/対策についての方針をほとんど示してこなかった厚労省/環境省/経産省は、急遽、ナノ物質の健康、安全、環境(HSE)に及ぼす影響と対策についての検討会を各省個別に開催し、それぞれが報告書やガイドラインを年度末の2009年3月31日までに発表しました[3] [4] [5] [6]。 本稿では、環境省が2009年3月10日に発表した「環境省 工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン」[5](以降、環境省ガイドライン)の内容を理解しやすくするために概要をリスト形式で紹介するとともに、環境省の当面のナノ政策を知るために、ガイドラインに述べられている背景及び目的を分析しました。(引用部は、項目又は引用符号””で示す) ■分析結果 1. 環境省の取り組み方針 ガイドラインの”背景及び目的”を分析した結果、「現時点ではナノについては情報が不十分なので環境省は管理・規制措置を行なっていない。しかし被害を発生させないためにばく露の防止を未然に図ることが重要である。ナノについては事業者が一番よく知っているのだから、事業者が自主管理するのがよい。そのために事業者が適切な管理措置を行なえるようこのガイドラインを作った。実施は事業者の責任であり、環境省は当面何もしない。」というのが、環境省のナノに対する取り組み方針であると理解しました。 2. ナノ政策取組方針の問題点 ガイドラインの分析結果及びこのガイドラインが作成/発表された経緯に基づき、環境省のナノ政策取組方針の問題点を次の様に指摘します。
環境省の取組方針以外のガイドラインの内容は全体的には評価できると考えます。
1.構成と目次 環境省のガイドラインは55ページからなり、そのうち本文(第1章〜第3章)は13ページ、残りの42ページは参考資料です。 全体の構成はつぎの通りです。
2. ”第1章 はじめに−背景及び目的”の分析 ガイドラインの”第1章 はじめに 1.1 背景及び目的”の要点を抜粋して眺め、さらにそれを要約してみると、環境省のナノ政策に対する考えが見えてきます。そこで抜粋を要約し、環境省のナノ政策を分析しました。これにより環境省のナノ政策は次のようなものであるとの結論に達しました。 現時点ではナノについては情報が不十分なので管理・規制措置を行なっていない。しかし被害を発生させないためにばく露の防止を未然に図ることが重要である。しかしナノについては事業者が一番よく知っているのだから、事業者が自主管理するのがよい。そこで事業者が適切な管理措置を行なえるようこのガイドラインを作った。実施は事業者の責任であり、環境省は当面何もしない 一言で言えば、環境省はガイドラインを作ったのだから、その実施は事業者の責任であり、環境省は何もしません−という政策であると理解しました。 ------------------------------ 抜粋と要約及び分析と結論 ------------------------------ 第3段落: ”我が国において、法的な枠組みによるナノ材料に対する管理・規制措置は、現時点では講じられていない。その背景として、その管理措置の前提となるべきナノ材料のヒトや動植物への影響についての知見が必ずしも十分ではないこと、新たに開発されたナノ材料は・・・情報公開が必ずしも十分ではなく、・・・ばく露経路を同定することが困難・・・これらに関する評価手法については、国際的に検討・評価されている現状であり、各ナノ材料の詳細なリスク評価の実施にはまだ時間を要するものと考えられる。” 要約3:ナノ材料に対する管理・規制措置が講じられていない背景は、知見と情報が十分でなく、ばく露経路の同定が困難であり、評価手法は国際的に検討中なのでナノ材料の詳細リスク評価には時間を要するということである。 第4段落: ”これらの物質が環境中に放出された後にその有害性が明らかになった場合に、当該物質を回収し、かつ環境を回復するために多大なコストを必要とするであろうことは想像に難くない。また、環境経由のばく露がおこれば、有害性の評価が確定される前に、ヒトや動植物への被害が顕在化するおそれもある。” 要約4:環境に放出後に有害性が明らかになった場合、当該物質の回収と環境の回収に多大なコストがかかる。有害評価が確定する前に、ヒトや動植物への被害が出る恐れがある。 第5段落: ”我が国及び世界においては、有害性の同定がなされないままに使用が拡大し環境中への放出が起こった結果生じた深刻な健康被害を経験している。同じ過ちを重ねることはできない。アジェンダ21の第15原則でも予防的な取組が求められているが、・・・ナノ材料の利用にあたっては、そのような被害を発生させるばく露の防止を未然に図ることが肝要である。” 要約5:有害性が同定される前に使用が拡大し環境中への放出が起きて、深刻な健康被害を経験した。同じ過ちはできない。被害を発生させるばく露の防止を未然に図ることが重要である。 第6段落: ”過去の経験を踏まえ、環境政策においては、ヒトの健康や生活環境に影響を及ぼす汚染物質について、規制等に基づいた環境への排出抑制等の対応が取られているが、ナノ材料の特徴については社会が普遍的な知見を共有するに至っていない。” 要約6:過去の経験に基づきヒトの健康や生活環境に影響を及ぼす汚染物質は環境への排出が抑制等で規制されているが、ナノ材料については社会が普遍的な知見を共有するに至っていない。 第7段落: ”その一方で、ナノ材料の物理化学特性・ヒトや動植物への影響及び用途については、それを取り扱う事業者等(製造する事業者、使用し製品として利用する事業者、運搬あるいは廃棄物として処理する事業者等)が最も多くの知見を有することに鑑みれば、ナノ材料の利用が現に拡大しつつある現時点においては、ナノ材料を取り扱う事業者等によって、環境中への放出を防止するための自主的な管理が行われることが期待される。” 要約7:ナノ材料の物理化学特性やヒトや動植物への影響及び用途二ついては事業者が最もよく知っているので、事業者が環境中への放出を防止するための自主的な管理をするのがよい。 第8段落: ”本ガイドラインは、ナノ材料を取り扱う事業者等が適切な管理措置を講じることで、環境経由でヒトや動植物がナノ材料にばく露されることによって生ずる影響を未然に防止することを目的として策定し、あわせて現時点で得られている知見及び今後の課題についても整理したものである。” 要約8:本ガイドラインは事業者等が適切な管理措置を講じることで、環境経由のナノ材料暴露で生ずるヒトや動植物の影響を未然に防ぐこと、及び減じての知見と今後の課題を整理したものである。 以上の要約をつなげてさらに要約すると環境省の姿勢が次のように見えてきます。
3. ”第2章 当面の対応の基本的考え方”の概要 ”第1節 本ガイドラインで対象とするナノ材料とは”の概要
”第3節 管理方策”の概要 3.1 管理の方針
省略 (2)ナノ材料を含む製品の製造事業者 省略 (3)ナノ材料の廃棄及びナノ材料を含む製品の廃棄時 省略 4. ”第3章 今後の課題”の概要 (1)ナノ材料に関する情報の収集整理
リストを示します。非常に有益な情報があります。
参照 [1] p53+/-マウスにおける多層カーボンナノチューブ腹腔内投与による中皮腫の発生 日本トキシiコロジー学会『ジャーナル・オブ・トキシコロジカル・サイエンス』 2008年2月号 http://www.jniosh.go.jp/joho/nano/files/takagi2008/takagi2008jp.pdf [2] Carbon nanotubes introduced into the abdominal cavity of mice show asbestos-like pathogenicity in a pilot study http://www.nature.com/nnano/journal/v3/n7/abs/nnano.2008.111.html ウッドロー・ウィルソン国際学術センターPEN ニュース 2008年5月19日 アスベストに似たカーボン・ナノチューブはアスベストのように作用する http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/080519_Nanotubes_Asbestos.html [3] ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する 労働者ばく露の予防的対策に関する検討会 (ナノマテリアルについて) 報告書 平成20年11月/厚生労働省労働基準局 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1126-6a.pdf [4] ナノマテリアルの安全対策に関する検討会報告書 平成21年3月31日/厚生労働省医薬食品局 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/dl/h0331-17c.pdf [5] 工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン 平成21年3月 ナノ材料環境影響基礎調査検討会/環境省総合環境政策局環境保健部 http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=13177&hou_id=10899 [6] ナノマテリアル製造事業者等における安全対策のあり方研究会 報告書 平成21年3月/経済産業省製造産業局 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seisan/nanomaterial_kanri/001_s02_01.pdf [7] ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について(平成21年3月31日基発第0331013号により廃止) http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-49/hor1-49-4-1-0.htm [8] 基発第0331013号 平成21年3月31日 都道府県労働局長 殿 厚生労働省労働基準局長 (公印省略) ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/2001K210331013.pdf |