ナノテク研究プロジェクト
環境省工業用ナノ材料に関する
環境影響防止ガイドラインの
概要と分析


安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年4月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/project/nano_moe_report.html

はじめに

 2008年に多層カーボン・ナノチューブがマウス(MCNTs)に中皮腫を引き起こす可能性を示す二つの研究報告が発表されました。ひとつは2008年2月に『ジャーナル・オブ・トキシコロジカル・サイエンス』[1]に発表された日本の国立医薬品食品衛生研究所の研究チームの研究、もうひとつは2008年5月に『ネイチャー・ナノテクノロジー』[2]に発表された英エジンバラ大学の研究チームの研究です。

 日本では、これらの研究が発表されるまでは、ナノ物質の安全管理/対策についての方針をほとんど示してこなかった厚労省/環境省/経産省は、急遽、ナノ物質の健康、安全、環境(HSE)に及ぼす影響と対策についての検討会を各省個別に開催し、それぞれが報告書やガイドラインを年度末の2009年3月31日までに発表しました[3] [4] [5] [6]。

 本稿では、環境省が2009年3月10日に発表した「環境省 工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン」[5](以降、環境省ガイドライン)の内容を理解しやすくするために概要をリスト形式で紹介するとともに、環境省の当面のナノ政策を知るために、ガイドラインに述べられている背景及び目的を分析しました。(引用部は、項目又は引用符号””で示す)

分析結果

1. 環境省の取り組み方針
 ガイドラインの”背景及び目的”を分析した結果、「現時点ではナノについては情報が不十分なので環境省は管理・規制措置を行なっていない。しかし被害を発生させないためにばく露の防止を未然に図ることが重要である。ナノについては事業者が一番よく知っているのだから、事業者が自主管理するのがよい。そのために事業者が適切な管理措置を行なえるようこのガイドラインを作った。実施は事業者の責任であり、環境省は当面何もしない。」というのが、環境省のナノに対する取り組み方針であると理解しました。

2. ナノ政策取組方針の問題点
 ガイドラインの分析結果及びこのガイドラインが作成/発表された経緯に基づき、環境省のナノ政策取組方針の問題点を次の様に指摘します。
  • 被害を発生させないためにばく露の防止を未然に図ることが重要であるとしながら、情報が不十分であるから現時点では管理・規制ができないとしている。
  • これでは、せっかくの”ばく露の防止を未然に図ることが重要である”というガイドラインのことばがむなしく聞こえる。
  • ガイドラインを与えて後は事業者に自主的に管理させるとい施策は、行政の責任を事業者に押し付けるだけである。
  • 情報が不十分であるとして手をこまねいているのではなく、積極的に手を打つべきである。
  • 例えば、▼法的強制力のあるデータ届出制度 ▼有害性が特に指摘されているカーボンナノチューブの規制 ▼ナノ化粧品、日焼け止め、ナノ食品、抗菌剤としてのナノ銀の使用等の実態調査 ▼ナノ製品の表示−など、他省庁と連携してすぐに手を打つべきことが数多くある。
  • このガイドラインには法的強制力がなく、事業者の自主管理に委ねるだけであり、事業者に実施状況を報告させることも国が実施状況を調査することも義務付けていない。このようなガイドラインだけでは、ヒトの健康と環境を守ることはできない。
  • このガイドライン作成に当たって市民の参加がなく、パブリックコメントにもかけられていない。環境省だけでな他の省庁も含めて日本のナノ政策は、官産学だけで進められており、市民参加が全くない。これは遺伝子組み換え食品導入の議論の場合より、もっと状況は悪い。このままではナノ導入についての社会的受容は得られない。
  • 2008年11月26日発表の厚労省労働基準局報告書[3] が労働安全衛生法下でのナノ物質管理の問題として、”新しく開発されたナノマテリアルが既存の化学物質からなるナノサイズのものである場合、現行の労働安全衛生法では化学物質の形状や大きさに着目して化学物質を区分していないことから、ナノサイズのものであっても、あくまでも既存化学物質としか取り扱われず、労働安全衛生法第57条の3に基づく届出の対象とはならないとする”重要な点を指摘しているのに、環境省のガイドラインは、化審法においても同様にサイズは新規物質であることの要件ではないとする現行の運用について一言も触れていない。この問題についての認識に厚生労働省労働基準局と、環境省や経産省との間に大きな温度差がある。
3. ガイドラインの内容の評価
 環境省の取組方針以外のガイドラインの内容は全体的には評価できると考えます。
  • ”第2章 当面の対応の基本的考え方”及び”第3章 今後の課題”は、現時点で得られる知見に基づいたものとして、製造、使用、廃棄にわたるナノマテリアルのライフサイクルを検討しており、評価できる。
  • 本文中に”予防的な取組”又は”予防的対策”という記述が5回ある。これは労働省労働基準局の報告書が本文中に”予防的アプローチ”又は”予防的対策”などの記述が12回あるのに比べると少ないが、労働省医薬品局が”予防原則”を1回、経済産業省の報告書が”予防的取組”を1回だけ、それぞれ実体のない言葉だけの記述であるのに比べれば、環境省の報告書は予防原則という観点から評価できる。
  • 添付されている参考資料も有益なものが多い。

ガイドラインの内容

1.構成と目次

 環境省のガイドラインは55ページからなり、そのうち本文(第1章〜第3章)は13ページ、残りの42ページは参考資料です。
 全体の構成はつぎの通りです。
第1章 はじめに
  1.1 背景及び目的
  1.2 本ガイドラインの位置付け
第2章 当面の対応の基本的考え方
 第1節 本ガイドラインで対象とするナノ材料とは
 第2節 ナノ材料の使用の実態と環境放出の可能性
 第3節 管理方策
  3.1 管理の方針
  3.2 当面採るべき対策
第3章 今後の課題

「ナノ材料環境影響基礎調査検討会」の検討委員及び開催状況
(参考1)ナノ材料の定義・用途等
(参考2)ナノ物質に関する用語
(参考3)ナノ材料がヒトの健康、動植物へ影響をもたらす可能性
(参考4)ナノスケールの粒子の測定方法及び環境中挙動の現状
(参考5)ナノスケールの粒子の測定事例
(参考6)ナノ材料の環境中挙動に関する情報
(参考7)ナノ材料の試験方法及び今後の課題
(参考8)既存技術によるナノ材料の除去の可能性
(参考9)排ガス中のナノ材料の除去のためのフィルター
(参考10)ナノ材料の管理方策に関する既存指針等における廃棄物の取扱い
参考資料1 生物影響に関する試験結果
参考資料2 測定方法の原理・特徴(主に作業環境の測定方法)
参考資料3 環境中への放出の可能性(整理集約表)
参考資料4 国内外の取組の現状と動向(整理集約表)
参考資料リスト

2. ”第1章 はじめに−背景及び目的”の分析

 ガイドラインの”第1章 はじめに 1.1 背景及び目的”の要点を抜粋して眺め、さらにそれを要約してみると、環境省のナノ政策に対する考えが見えてきます。そこで抜粋を要約し、環境省のナノ政策を分析しました。これにより環境省のナノ政策は次のようなものであるとの結論に達しました。
 現時点ではナノについては情報が不十分なので管理・規制措置を行なっていない。しかし被害を発生させないためにばく露の防止を未然に図ることが重要である。しかしナノについては事業者が一番よく知っているのだから、事業者が自主管理するのがよい。そこで事業者が適切な管理措置を行なえるようこのガイドラインを作った。実施は事業者の責任であり、環境省は当面何もしない
 一言で言えば、環境省はガイドラインを作ったのだから、その実施は事業者の責任であり、環境省は何もしません−という政策であると理解しました。

------------------------------
 抜粋と要約及び分析と結論
------------------------------
第3段落:
”我が国において、法的な枠組みによるナノ材料に対する管理・規制措置は、現時点では講じられていない。その背景として、その管理措置の前提となるべきナノ材料のヒトや動植物への影響についての知見が必ずしも十分ではないこと、新たに開発されたナノ材料は・・・情報公開が必ずしも十分ではなく、・・・ばく露経路を同定することが困難・・・これらに関する評価手法については、国際的に検討・評価されている現状であり、各ナノ材料の詳細なリスク評価の実施にはまだ時間を要するものと考えられる。”
要約3:ナノ材料に対する管理・規制措置が講じられていない背景は、知見と情報が十分でなく、ばく露経路の同定が困難であり、評価手法は国際的に検討中なのでナノ材料の詳細リスク評価には時間を要するということである。

第4段落:
”これらの物質が環境中に放出された後にその有害性が明らかになった場合に、当該物質を回収し、かつ環境を回復するために多大なコストを必要とするであろうことは想像に難くない。また、環境経由のばく露がおこれば、有害性の評価が確定される前に、ヒトや動植物への被害が顕在化するおそれもある。”
要約4:環境に放出後に有害性が明らかになった場合、当該物質の回収と環境の回収に多大なコストがかかる。有害評価が確定する前に、ヒトや動植物への被害が出る恐れがある。

第5段落:
”我が国及び世界においては、有害性の同定がなされないままに使用が拡大し環境中への放出が起こった結果生じた深刻な健康被害を経験している。同じ過ちを重ねることはできない。アジェンダ21の第15原則でも予防的な取組が求められているが、・・・ナノ材料の利用にあたっては、そのような被害を発生させるばく露の防止を未然に図ることが肝要である。”
要約5:有害性が同定される前に使用が拡大し環境中への放出が起きて、深刻な健康被害を経験した。同じ過ちはできない。被害を発生させるばく露の防止を未然に図ることが重要である。

第6段落:
”過去の経験を踏まえ、環境政策においては、ヒトの健康や生活環境に影響を及ぼす汚染物質について、規制等に基づいた環境への排出抑制等の対応が取られているが、ナノ材料の特徴については社会が普遍的な知見を共有するに至っていない。”
要約6:過去の経験に基づきヒトの健康や生活環境に影響を及ぼす汚染物質は環境への排出が抑制等で規制されているが、ナノ材料については社会が普遍的な知見を共有するに至っていない。

第7段落:
”その一方で、ナノ材料の物理化学特性・ヒトや動植物への影響及び用途については、それを取り扱う事業者等(製造する事業者、使用し製品として利用する事業者、運搬あるいは廃棄物として処理する事業者等)が最も多くの知見を有することに鑑みれば、ナノ材料の利用が現に拡大しつつある現時点においては、ナノ材料を取り扱う事業者等によって、環境中への放出を防止するための自主的な管理が行われることが期待される。”
要約7:ナノ材料の物理化学特性やヒトや動植物への影響及び用途二ついては事業者が最もよく知っているので、事業者が環境中への放出を防止するための自主的な管理をするのがよい。

第8段落:
”本ガイドラインは、ナノ材料を取り扱う事業者等が適切な管理措置を講じることで、環境経由でヒトや動植物がナノ材料にばく露されることによって生ずる影響を未然に防止することを目的として策定し、あわせて現時点で得られている知見及び今後の課題についても整理したものである。”
要約8:本ガイドラインは事業者等が適切な管理措置を講じることで、環境経由のナノ材料暴露で生ずるヒトや動植物の影響を未然に防ぐこと、及び減じての知見と今後の課題を整理したものである。

以上の要約をつなげてさらに要約すると環境省の姿勢が次のように見えてきます。

分析のまとめ
 環境省は、知見、情報、暴露経路の同定、リスク評価手法が不十分なので、ナノ材料に対する管理・規制措置を行なっていない。
 しかし、環境に放出後に有害性が明らかになった場合、当該物質の回収と環境の回収に多大なコストがかかり、ヒトや動植物への被害が出る恐れがあるし、深刻な健康被害も経験してきた。
 同じ過ちは犯すべきでなく、被害を発生させるばく露の防止を未然に図ることが重要である。
 しかし排出抑制を規制するための普遍的な知見が共有されていない。
 したがってナノ材料については事業者が一番よく知っているのだから、事業者が環境中への放出を防止するための自主的な管理をするのがよい。
 本ガイドラインは、事業者等が適切な管理措置を講じることで、環境経由のナノ材料暴露で生ずるヒトや動植物の影響を未然に防ぐこと、及び、現時点の知見と今後の課題を整理したものである。

結論
 現時点ではナノについては情報が不十分なので管理・規制措置を行なっていない。しかし被害を発生させないためにばく露の防止を未然に図ることが重要である。ナノについては事業者が一番よく知っているのだから、事業者が自主管理するのがよい。そこで事業者が適切な管理措置を行なえるようこのガイドラインを作った。実施は事業者の責任であり、環境省は当面何もしない。

 一言で言えば、環境省はガイドラインを作ったのだから、実施は事業者の責任であり、環境省は何もしません−という施策である。
 これでは、せっかくの”ばく露の防止を未然に図ることが重要である”ということばがむなしく聞こえる。

3. ”第2章 当面の対応の基本的考え方”の概要

”第1節 本ガイドラインで対象とするナノ材料とは”の概要
  • ”本ガイドラインで対象にする物質は、その大きさ(一次粒径あるいは少なくとも1辺の長さ)がナノスケール(1nm〜100nm)で表されるものである。”
  • ”本ガイドラインでは、工業的に製造・使用されるナノスケールの物質(ナノ物質)及びそれらにより構成される構造体(ナノスケールの構造体を持つ物体、ナノ物質が凝集したものを含む)を「ナノ材料」と呼び、扱うこととする。”
”第2節 ナノ材料の使用の実態と環境放出の可能性”の概要
  • ”ナノ材料の製造、使用、廃棄といったライフサイクル、及びその過程で一般環境にナノ材料が放出される全般的な経路を次頁の図に示す。”
  • ”ナノ材料の製造や加工する際には、ナノ材料の取扱方法や種類に応じて排ガスや廃水、廃棄物に含まれてナノ材料が排出される可能性がある。一方、ナノ材料を用いた製品の使用に際しては、ナノ材料が環境中に放出されるおそれがある。”
  • ”化粧品に含まれるナノ材料は洗顔時に下水に流入し、下水処理場で一部汚泥として回収され、処理できない部分は公共用水域に流れ込む。回収されたナノ材料を含む下水汚泥は廃棄物(産業廃棄物)となり、直接又は中間処理を経た後、焼却処分あるいは埋立処分されると想定される。”
  • ”ナノ材料を含むプラスチック製品が不用になると廃棄される。ナノ材料を含む廃棄物を焼却すると、種類によっては熱分解されるが、熱分解されない無機系のものはばいじんや燃え殻に残存し、一部は大気中に放出される。これらのプラスチック廃棄物をリサイクルする場合も、リサイクル処理過程中で一部は排水中に移行し、汚泥として回収されない部分は公共用水域に放出されると想定される。”
  • ”現時点では知見が乏しいが、ナノ材料を大量に埋立処分を行う場合、廃棄物処分場跡地の改変及び利用の際にナノ材料を環境中に拡散させるおそれがある。”

”第3節 管理方策”の概要
3.1 管理の方針
  • ”ナノ材料は、製造・使用・廃棄に伴い適切な措置が取られない場合、環境中に放出され、ヒトあるいは動植物がばく露する可能性がある。”
  • ”このようなばく露を未然に防止するための管理方策としては、環境媒体への放出経路を特定し、それを踏まえたナノ材料を放出しない製造装置又は施設、製品設計、分別・管理等が行われることが基本である。”
  • ”外部放出の可能性がある場合には、それを捕捉し、除去する工程を置くことが必要となる。”
  • 仮に、外部放出されたナノ材料を除去する方策を採ることができない製造装置又は施設等があった場合、事業者等により安全性が十分担保されない限り、他の候補物質の活用等を検討するべきである。
  • ”管理方策としては、これらの直接的管理技術に加えて、その効果を検証・確認するための測定、生産量や廃棄量等の記録・保管、生物影響等に関する情報の収集、ばく露量の測定、リスク評価による安全性の確認等の対応も含まれる。”
(1)大気への放出の可能性
  • ”ナノ材料の大気放出の可能性としては、まず製造又は加工装置からのナノ材料の放出・飛散がある。”
  • ”また、ナノ材料の輸送時の大気への飛散、梱包又は開封時の飛散の可能性がある。”
  • ”光触媒機能を有する塗料及びナノ材料を含むスプレーなど、製品の使用時にもナノ材料が大気中に放出される可能性がある。”
  • ”光触媒機能を有する塗料(アナタース型二酸化チタン等)では、長期間の使用による劣化及び剥離に伴い、ナノ材料が環境中に放出される可能性がある。”
  • ”一方、ナノ材料を含むスプレーの場合は、その使用時に環境中に直接的に放出されることになる。”
(2)水への放出の可能性
  • ”製造工程又は加工工程から排出される排水や清掃等の作業により生じた廃水に含まれるナノ材料は公共用水域に放出される可能性がある。”
  • ”水質汚濁防止法特定施設等から排出される排水は、一般には事業者等が排水処理施設を設置し、凝集沈殿等の処理を行い、汚染物質を除いてから排出されるが、ナノ材料については除去効率が十分かどうかは現状では不明であり、十分な効率が得られないと、公共用水域に放出される可能性がある”。
  • ”化粧品や日用品に使用されているナノ材料(二酸化チタン、酸化亜鉛、銀、ポリスチレン等)は、その使用中(洗顔等を含む)に一般家庭下水に流入する。”
  • 一般家庭から排出される下水は通常、下水処理場で処理され、その過程で活性汚泥への吸着や凝集沈殿で除去される割合は高いと考えられるが、それらの処理による除去効率は現状では不明であり、十分な効率が得られないと、公共用水域に放出される可能性がある。
(3)廃棄物の排出の可能性
  • ”製造・加工や使用に伴ってナノ材料を含む様々な廃棄物が発生する。”
  • ”事業場で使用したフィルター(HEPA フィルターなど)、清掃時に使用した紙類、布類、使用済みの運搬容器や袋等が廃棄物として排出される可能性がある。”
  • ”不良品や開発用に使用したナノ材料が不要となった場合等、ナノ材料自体が直接廃棄される場合も考えられる。
  • 事業所内でナノ材料を含む排ガスや排水の処理を行う際にも、ばいじんや汚泥などの廃棄物に含まれてナノ材料が環境中に排出される可能性がある。”
  • ”これらの廃棄物が、排出事業者によって自社内で処理されるにせよ、廃棄物処理業者に引き渡されて処理されるにせよ、保管・廃棄時の取扱いが適切でなかったり、その性状に応じた処理方法が採られない場合には、廃棄物処理過程を通じてナノ材料が環境中に放出される可能性がある。”
  • ”中間処理として破砕処理が行われると、破砕時にナノ材料が飛散するおそれがある。”
  • ”ナノ材料又はナノ材料を含む製品が適切な条件下で焼却処理された場合は、現在一般的に使用されている炭素系のナノ材料は、我が国で規定されている焼却施設の性能(800℃以上、滞留時間2 秒以上)では分解される可能性が高い(参考10参照)。”
  • ”しかし、耐火性能の高い材料が開発された場合は、その物理化学特性に準じた処理条件を選定することが必要である。”
  • ”一方、無機系のナノ材料は焼却時に分解されるとは限らず、その挙動及び焼却排ガスの集じん装置の捕集効率が不明であり、一部は集じん装置で捕集できずに大気中に直接放出される可能性がある。
  • 焼却施設で生じたばいじん及び燃え殻で溶融等の固化処理が施されたものは環境中に再放出される可能性は少ない。”
  • ”そのまま埋立処分された場合は覆土等の措置により環境中への飛散は低減できるが、運搬時又は積み降ろし時の飛散の可能性がある。”
  • ”廃水処理で生じた有機系の汚泥は、コンポスト化や焼却処分が実施されている。
  • 焼却処分される場合は、汚泥に含まれるナノ材料も炭素系のものは適切な条件下では分解される可能性があるが、無機系のものは一部が集じん装置で除去できず大気中に放出される可能性がある。”
  • ”コンポスト化では炭素系のナノ材料でも分解・無害化されにくいと考えられ、コンポストの施用等に伴い、一般環境中への飛散の可能性が残る。”
  • ”分解・無害化されないナノ材料は最終的には埋立処分されることになる。”
  • ”覆土等の措置により環境中への飛散の可能性は少ないが、埋立処分場の跡地利用等における掘り起こし等の将来的な改変時の環境への放出の可能性については今後も検討が必要である。”
  • ”埋立処分場からの浸出水への溶出については、土壌等による吸着の可能性も考えられるが関連情報が乏しく、現状では環境中への放出の可能性は不明である。”
3.2 当面採るべき対策
  • ”前節の整理を基に、事業者等は自らが扱うナノ材料が、その性状や形状、種類と加工工程、用途等から考えて、どの段階でどのような環境媒体への放出の可能性があるのか、考えられる放出経路を具体的に特定することが必要である。”
  • ”その上で、現実の放出を防止するため、特定された放出経路ごとに、適切な管理技術を個別に検討する必要がある。”
  • ”ナノ材料の環境中への放出管理のためには、各事業者がそれぞれの事情に応じた対応を取ることになるが、以下に一般的に採ることが推奨される対策をまとめた。”
  • ”なお、現在商用化されているナノ材料の具体的な対応策について記述するが、新たに開発されたものについては、それらの特性を十分勘案し、適切な措置を講じる必要がある。”
(1)ナノ材料の製造事業場
  省略
(2)ナノ材料を含む製品の製造事業者
  省略
(3)ナノ材料の廃棄及びナノ材料を含む製品の廃棄時
  省略

4. ”第3章 今後の課題”の概要

(1)ナノ材料に関する情報の収集整理
  • ナノ材料については、その物理化学特性やヒトの健康及び動植物への影響等の基礎的な情報が徐々に得られつつあるが、今後の適切な利用拡大及び管理方策の検討にあたっては、これら情報を収集整理することが有効である。
  • 海外においては企業の自主的な情報提供が実施されている。
  • 今後、国において情報提供システムの整備がなされた場合には、ナノ材料の物理化学特性や生物影響に関する情報を有する企業や研究機関は、積極的な情報提供が望まれる。
  • また、ばく露評価のための基礎資料として重要である生産量や取扱量、廃棄量といった情報については、事業者等が記録し、保管することが必要である。
(2)ヒト及び動植物への影響の確認(試験方法)
  • ”ナノ材料がヒトの健康及び動植物へ及ぼす影響に関する情報は徐々に得られつつあるが、まだ、安全性を確保するために必要十分な情報が得られた状況にはない。”
  • ”今後は、それらの影響に関する試験の積極的な推進が必要であるとともに、それらの結果に関する情報の交換を促進する機構・システムの構築が必要である。”
  • 特に、ナノ材料が環境中で凝集されても、生体内に取り込まれると、再び分離して生体に影響を及ぼすという可能性も指摘されており、これも含めた体内での挙動についての検証が必要である。
  • ”また、生体内での残留性、慢性的な影響について、ナノ材料の物理化学特性を考慮しつつ出来る限り情報収集をすることが望まれる。”
  • ”また、これらの知見を得る際にも、ナノ材料の物理化学特性、目的とする性能や用途といった情報が不十分なため、有効な試験方法(試料の調製方法を含む)やエンドポイントが確立していない。”
  • ”試験方法等については現在OECD 等の国際機関で検討中であり、国はその活動に積極的に参画するとともに検討結果を周知する必要があり、事業者等も自らが有する情報を提供するなど、国の活動への協力が求められる。”
(3)測定方法
  • ”ナノ材料の測定では、一般環境中にはナノ材料以外にも同程度の大きさの粒子が存在するため(第2章第1節を参照)、大きさだけでは同定ができず、成分分析等によるナノ材料の特定が必要になる。”
  • ”一般環境中での微量な汚染物質の測定は容易ではないことが知られている。”
  • ”現状では、ナノ材料を扱う事業場の作業環境については複数の測定技術が適用できるとされているが、実際には上記のような問題点が残されており、その測定事例は必ずしも豊富ではない。”
  • ”ナノ材料の分析試料の採取方法として、繊維状のナノ材料については石綿と類似の手法が可能と考えられるが、粒子状ナノ材料については、特に水試料中のナノ材料についての分級技術等が未検討である。”
  • ”成分分析については、金属系のナノ材料は定量下限が必ずしも十分でないという問題は残るものの、PM2.5 の分析等で使用されている分析方法の活用が可能である。”
  • ”炭素系のナノ材料で有機溶媒に溶解しないもの(カーボンナノチューブ等)については分析が困難であり、更なる検討を要する。”
  • ”このため、国と事業者等が協力してナノ材料の計測技術の検討や一般環境中での測定の可能性についての検討を進める必要がある。”
(4)環境中での挙動、実態把握
  • ナノ材料の環境中での挙動については、推測情報はあるものの、実際の調査結果はない。
  • ばく露経路の推定のためには環境中の挙動に関する情報は必須であり、また環境試料の的確な採取場所や採取方法等を計画する上でもナノ材料の環境中での挙動に関する情報の収集が必要である。
  • 国と事業者等が協力して、測定方法の検討とあわせて、一般環境中でのナノ材料の存在状況等に関する情報の収集、蓄積を行う必要がある。
(5)管理技術
  • 現状の排ガス処理、排水処理、廃棄物処理で用いられている技術のナノ材料の除去性能等については不明な点が多い。
  • 特に以下のような点について、既存技術の有効性の確認及び新技術の検討をする必要がある。
    • 排水処理施設におけるナノ材料の除去効率
    • バグフィルター等の大型の集じん装置によるナノ材料の除去効率
    • 焼却処分時のナノ材料の挙動(特に、無機系のナノ材料について、大きな粒子としてばいじんや燃え殻中に残存する可能性等)
    • 埋立処分後の浸出水への移行挙動(土壌への吸着等)
    • 破砕処理を実施する際の製品中のナノ材料の飛散状況及び飛散防止技術
    • ナノ材料を含む塗料やスプレーからの環境中への放出実態の確認及び放出防止技術
参考資料
リストを示します。非常に有益な情報があります。
  • 「ナノ材料環境影響基礎調査検討会」の検討委員及び開催状況
  • (参考1)ナノ材料の定義・用途等
  • (参考2)ナノ物質に関する用語
  • (参考3)ナノ材料がヒトの健康、動植物へ影響をもたらす可能性
  • (参考4)ナノスケールの粒子の測定方法及び環境中挙動の現状
  • (参考5)ナノスケールの粒子の測定事例
  • (参考6)ナノ材料の環境中挙動に関する情報
  • (参考7)ナノ材料の試験方法及び今後の課題
  • (参考8)既存技術によるナノ材料の除去の可能性
  • (参考9)排ガス中のナノ材料の除去のためのフィルター
  • (参考10)ナノ材料の管理方策に関する既存指針等における廃棄物の取扱い
  • 参考資料1 生物影響に関する試験結果
  • 参考資料2 測定方法の原理・特徴(主に作業環境の測定方法)
  • 参考資料3 環境中への放出の可能性(整理集約表)
  • 参考資料4 国内外の取組の現状と動向(整理集約表)
  • 参考資料リスト

参照

[1] p53+/-マウスにおける多層カーボンナノチューブ腹腔内投与による中皮腫の発生
日本トキシiコロジー学会『ジャーナル・オブ・トキシコロジカル・サイエンス』 2008年2月号
http://www.jniosh.go.jp/joho/nano/files/takagi2008/takagi2008jp.pdf

[2] Carbon nanotubes introduced into the abdominal cavity of mice show asbestos-like pathogenicity in a pilot study
http://www.nature.com/nnano/journal/v3/n7/abs/nnano.2008.111.html
ウッドロー・ウィルソン国際学術センターPEN ニュース 2008年5月19日 アスベストに似たカーボン・ナノチューブはアスベストのように作用する
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/080519_Nanotubes_Asbestos.html

[3] ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する 労働者ばく露の予防的対策に関する検討会 (ナノマテリアルについて) 報告書 平成20年11月/厚生労働省労働基準局
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1126-6a.pdf

[4] ナノマテリアルの安全対策に関する検討会報告書 平成21年3月31日/厚生労働省医薬食品局
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/dl/h0331-17c.pdf

[5] 工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン 平成21年3月 ナノ材料環境影響基礎調査検討会/環境省総合環境政策局環境保健部
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=13177&hou_id=10899

[6] ナノマテリアル製造事業者等における安全対策のあり方研究会 報告書 平成21年3月/経済産業省製造産業局 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seisan/nanomaterial_kanri/001_s02_01.pdf

[7] ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について(平成21年3月31日基発第0331013号により廃止)
http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-49/hor1-49-4-1-0.htm

[8] 基発第0331013号 平成21年3月31日 都道府県労働局長 殿 厚生労働省労働基準局長 (公印省略) ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/2001K210331013.pdf



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る