Nanowerk Spotlight 2011年4月22日
ナノ物質がどのくらい製造されているか
誰か知っているか?


情報源:Nanowerk Spotlight, April 11, 2011
Does anyone know how much nanomaterials are produced? Anyone...?
By Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=20942.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年4月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/110411_how_much_produced.html


【Nanowerk Spotlight】揺りかごから墓場まで材料、化学物質、製品の健康と環境への影響を見る−ライフサイクル・アセスメント(LCA)は、新たな技術の安全で責任ある、そして持続可能な商業化を確実にするために重要なツールである。潜在的なナノ製品のLCAは、異なるプロセス代替を検討するのに役立つので、政策決定の早い時期にナノテクノロジー研究の一部をなすべきである。

 残念ながら、新規に出現したナノテクノロジーのLCAは、データの品質と製造プロセスの速い進展という特徴という問題のために、大きな不確実性に影響されやすい(参照: Evaluation of 'green' nanotechnology requires a full life cycle assessment)。

 LCAの意味あるどのような結果も調査対象とした物質の総量が重要な役割をもつ。特に曝露評価は、当該物質のある部分が最終的には環境に放出されるという仮定で製造される物質の総量を見積ることから始まる。

 結局は、誰も、研究所も、政府機関も、産業団体も、今日、一体どのくらいのナノ物質が製造されているのか、ほとんど知らないということがわかる。
 不確実性、特許問題、そして急速な状況の変化があるので、潜在的なナノ物質製造量に関する見積りを得るということは簡単にはできない”とデューク大学土木環境工学教授で、ナノテクノロジー環境影響センター(CEINT)のディレクターであるマーク・ウィスナー、ジェームス L. メリアムはNanowerkに述べた。”このような理由で、潜在的な製造量を1桁以内の精度ですら示すことは難しい。しかし、製造量の不確実性の定量化や製造量の上限は、ナノ物質への曝露の可能性を見積もるために必要となる重要な数値である”。

 最近の論文 Environmental Science & Technology ("Estimating Production Data for Five Engineered Nanomaterials As a Basis for Exposure Assessment")によれば、ウィスナーと彼のグループは、アメリカで製造されている5種類の工業用ナノ物質(ENM)、ナノ銀、カーボン・ナノチューブ(CNTs))、酸化セリウム、C60フラーレン、及びナノ二酸化チタンの製造量の上限と下限を見積ることを試みた。

 工業用ナノ物質の製造量を得る簡単な方法がないので、同チームはデータを集めるのにほとんど犯罪捜査のようなアプローチをとらなくてはならなかった。研究者らは、様々な製造元を評価して、製造タイプ、製造容量、及びアメリカにおける工業用ナノ物質の製造量を見積もるための代用として用いられたその他の様々なパラメータを収集した(輸出及び輸入の影響は無視した)。このようにアメリカという地域に焦点を合わせても、世界の製造量を把握することは不可能であり、まして全ての工業用ナノ物質については、少なくとも現在は、全く問題外であるように見える。

 ”専門的な報告書がENM市場についてのいくつかの定量的なデータを提供しているが、典型的には製造より金額に焦点を合わせている”とウィスナーは述べている。”製造方法と製造能力は、しばしば企業秘密であると考えられており、ほとんど開示されることはない。EPAが、自主的なデータ報告のためのナノ物質スチュアードシップ・プログラム(Nanoscale Materials Stewardship Program )(訳注1)を検証したところ、わずか2社だけが製造情報を自主申告していた。我々のチームも同様に、接触していた会社に秘密は守ると保証した上で情報についてもっと公式な質問をしたが、回答は全てゼロであった”。

 ENMに関する確実なデータを生成することはできなく、研究者らは次のような主要な結論を得た。
 1) 製造量情報の欠如
 2) 様々なナノ物質を通じて入手可能なデータ間の矛盾。

 確実なデータがない状況で、同チームは、データがない会社より信頼性のある見積りデータを持つ会社から得た製造量を基に仮定を改良して使用した。その結果、5種のENMsのそれぞれのアメリカにおける製造量の見積りの上限と下限を得た(トン/年)。

製品 下限 上限
ナノ二酸化チタン 7,800 38,000
ナノ銀 2.8 20
ナノ二酸化セリウム 35 700
カーボン・ナノチューブ 55 1,101
フラーレン 2 80

 全ての範囲にわたって最良の入手可能なデータに基づくこれらの見積りは、まだ2桁、そしてある場合には3桁の範囲にある。

 とりわけ消費者保護・環境団体による批判的な評価を通じて社会の注目を浴びている身の回り品、化粧品、食品/飲料などに含まれるいくつかの物質については、製造者らはどのような情報を開示することにも消極的となっていると推測される。

 ”ただし、フラーレンについてのデータが最も多く収集された”と彼らはと書いている。これらの粒子は現状では多くの消費者製品中で使用されているわけではなく、むしろ高度に技術的な応用又は研究のために購入されている。この最も技術的な又は科学的な顧客の純度要求や製造要求に合わせる能力があることを示すことは、他社と区別することを示す良い機会になるので、製造者にとって情報を開示することは価値がある。

 このような状態は、明らかにうまく機能しない自主的スキームに頼ることなく、政府が製造者に必要なナノ物質製造データを完全に開示することを強制しない限り、ライフサイクル評価は現実の状況を反映しないであろう。

 ”これらのデータなしに、放出された物質を最終的に自然界で検出する前に、環境中の濃度を予測しようと努力しても、うまくいかないであろう”とウィスナーは結論付けた。


訳注1:
米EPA 2009年1月 ナノスケール物質スチュアードシップ・プログラム 暫定報告−概要と結論の紹介



化学物質問題市民研究会
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