ICONN 2010 / 2010年2月22-26日
海岸でヒトに塗布した日焼け止めからの
酸化亜鉛の皮膚吸収

ブライアン・ガルソン他

情報源:2010 International Conference On Nanoscience and Nanotechnology
22- 26th February 2010
Dermal absorption of ZnO particles from sunscreens applied to humans at the beach
Brian Gulson, Maxine McCall, Laura Gomez, Michael Korsch , Phil Casey, Les Kinsley
http://realizebeauty.files.wordpress.com/2010/02/iconn2010-abstract-gulson1.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年3月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/100222-26_Dermal_absorption_ZnO.html


I. はじめに

 皮膚がんの発症は世界的に増大している。人々が余暇で叉は仕事で屋外にいる時は、紫外線を遮断することにより皮膚がんのリスクを低減するために日焼け止めの使用が唱えられている。ナノテクノロジーを使用した調合が進み、紫外線(UV)吸収のための二酸化チタン(TiO2)及び酸化亜鉛(ZnO)は、市販の日焼け止めに4%〜30%(w/w)の範囲で導入されている。これらの微小化された日焼け止めが透明なフィルムとして皮膚を覆い、主に光を反射、散乱させることによって日焼け止めとして機能する。オーストラリア医薬品審査当局(Therapeutic Goods Administration) は、オーストラリアには商業的に入手可能な約400の日焼け止め製品があり、その多くは二酸化チタン(TiO2)叉は酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子を含んでいると述べている。

 身体手入れ用品からの酸化金属ナノ粒子の皮膚浸透には議論があり、メディアも注目している。ほとんどの研究はインビトロ(生体外)で拡散セル叉は動物モデルを使用しており、インビボ(生体内)のヒト研究は非常に少ない。ナノ粒子は毛穴や汗腺に入ることができるにも関わらず、近年、いくつかのレビュー及び多くの調査がナノ粒子は角質層(stratum corneum)を浸透しないと結論付けている。今日まで、身体手入れ用品中のナノ粒子使用についての最も包括的なレビューは、アメリカのNGOであるエンバイロンメンタル・ワーキング・グループによるものであり[1]、彼らは400以上の文書のピアレビューの後、市場で入手可能な証拠に基づけば亜鉛とチタンをベースにした調合は最も安全であり、最も効果的な日焼け止めであり、皮膚吸収に関する16の研究は全て、小スケールの亜鉛とチタンの日焼け止め成分は健康な皮膚から吸収することはないことを示していると結論付けた。

II. 方法
 ナノ粒子の皮膚吸収と浸透についての懸念は、同位体トレーサー手法(isotopic tracing approach) [2]によって対応することが出来るが、それは当該元素の濃縮安定同位体(訳注1)が製品中に導入され、高解像度誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)、複コレクタ誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)、叉は熱イオン質量分析計を用いて、どのような移動でも検出を可能とするものである。
 この論文は、通常の使用条件でヒトの皮膚に塗布される日焼け止め中の酸化亜鉛ナノ粒子から亜鉛の潜在的な吸収を追跡するための、亜鉛の安定同位体の使用について述べる。亜鉛は5つの安定同位元素を持つ。ひとつの安定同位元素68Znは天然存在比(natural abundance18.8%である。この研究で使用する酸化亜鉛粒子は、68Znを51%叉は99%以上に濃縮した。したがって、血中及び尿中の68Znのレベルの増大は日焼け止めからの亜鉛の皮膚吸収を示すであろう。安定同位体法の感度はまた亜鉛の吸収を0.1%以下で検出することを可能とする。


Figure 1. ボランティアの皆さん、ありがとう!
 ボランティアの人に塗布した日焼け止めからの酸化亜鉛粒子の皮膚吸収を評価するために3回の実験が行われた。最初の実験は、2人の男性の背中に径が30nm以下で68Znを51%に濃縮した酸化亜鉛ナノ粒子を含む調合を塗布した。いくつかの血液と尿サンプルが当日中、及び実験後の数日間、採取された。第2の実験は同じ2人の男性と1人の女性が参加した。同一の調合が1日に2回、合計5日間、塗布された。被験者の紫外線暴露を制限するためにこの実験は冬に行われた。血液は毎日3回、尿は少なくとも毎日3回、そして実験後も126日間採取された。これらの実験は、海岸での本番の実験のための基礎試料と手法の改良を目的とするものであり、68Znを99%以上に濃縮した酸化亜鉛ナノ粒子を異なる調合に導入した。様々な年齢、皮膚の種類、人種の各10人からなる2つのグループが2009年3月にシドニーのある海岸で実施した研究に参加した (Figure 1)。10人のボランティアからなるひとつのグループは68のナノ粒子(20nm以下)を含む日焼け止めでテストし(ナノ粒子グループ(NP)と呼ぶ)、他のグループは、68のナノ粒子(100nm以上)でテストした(バルクグループと呼ぶ)(Figure 2)。日焼け止めは1日2回、5日間にわたりボランティアの背中に塗布され、それぞれの塗布後、最低1時間の紫外線暴露を受けた。血液サンプルは毎日2回、尿サンプルは毎日3回採取された。血液と尿サンプルは5日間の海岸暴露の前及びその後のフォローアップ期間にも採取された。


Figure 2. 日焼け止め塗布の背中の様子
ナノ粒子調合:透明(左)とバルク調合:白色(右)
 亜鉛は、イオン交換法によって血液及び尿サンプルから精製された。複コレクタ誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)によって測定された精錬サンプルの68Znの存在の変化は日焼け止めからの亜鉛の皮膚吸収を評価するために用いられた。

III. 結果と討議
 同位体の存在の変化は一般的に比で表現され、この場合は濃縮トレサー68Znを天然に存在する64Znで割ったもの、すなわち、68Zn/64Zn である。あるいは、それらはサンプル中の68トレサーの重量%で表すことができる。この事例では結果を比で表す。

予備実験
 最初の2回の実験の同位体の比は0.1%以下であり、これは皮膚吸収が0.1%以下であると推定される。

海岸での実験
 NPグループの血液サンプルにおける68Zn/64Znの変化は海岸実験の最後は0.1〜0.8%の範囲である。驚くべきことに、全ての被験者は、実験終了後6日目に68Znの存在に著しい増加があった。

 バルクグループの血液サンプルの変化はNPグループの変化と同様であり、実験終了後6日目に68Znの存在の著しい増加という傾向も同じであった。

 二つの外れた値を除けば、NPグループとバルクグループのボランティアの皮膚吸収には統計的に有意な差はなく、平均増加は約0.4%である。

 尿サンプルは同じ時間間隔で68Znの存在に大きな増加を示しているが、同じボランティアの血液中の変化との単純な関連性はない。

Figure 1. Thanks to the volunteers!
Figure 2. Appearance on the skin of the formulation
containing nanoparticles on the left and the bulk material on the right.

IV. 結論
 これらの結果は、日焼け止め中の酸化亜鉛粒子からの亜鉛は健康な皮膚に浸透し、血液と尿中に観察されることを示す初めての決定的な証拠を提供するものである。亜鉛は粒子として存在するのか溶解亜鉛イオンとして存在するのか現時点では不明である。

 これらの研究は、マッコーリー大学大学及びCSIROの倫理委員会によって承認されている。

謝辞
We thank: David Ellis of Ellis and Associates and Brent Baxter of Baxter Pharmaceuticals for preparation of the sunscreen formulations; Gavin Greenoak for measuring the SPF on the "Beach" formulations, assessment of skin types for the volunteers, and providing ongoing encouragement and advice; Mary Salter for phlebotomy; the North Curl Curl Surf Life Saving Club and Macquarie University Medical Centre and Aquatic Centre for use of their facilities; Yalchin Oytam in measuring UV levels for the beach trial; Malcolm McCulloch and Julie Trotter for mass spectrometer assistance in the earlier trials; Dianne Gulson as the applicator and assistance with logistics.

We thank the CSIRO Flagship Collaboration Scheme and Macquarie University for partial funding of these trials.
参照
[1] Environmental Working Group. http://www.ewg.org; accessed August 2009.

[2] B. Gulson and H. Wong. "Stable isotope tracing - a way forward for nanotechnology": Environ Health Persp vol 114, 1486 - 1488, 2006.


訳注1:安定同位体
安定同位体とは

訳注:関連記事


化学物質問題市民研究会
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