米国立環境健康科学研究所 EHP 2004年9月号
ナノ技術: 跳びながら見る 情報源: Environmental Health Perspectives Volume 112, Number 13, September 2004 Nanotechnology: Looking As We Leap 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution) 掲載日:2005年12月11日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_04_Sep_Looking_As_We_Leap.html 1989年、IBM の研究者らが、35 の原子を操作して会社のロゴを描写することで科学技術の躍進を示して以来、個々の原子を操作する能力はナノ(ギリシャ語の”dwarf(小人)”に由来)スケールでの研究と開発の潮流を生み出した。ナノ粒子は、少なくとも 1 次元の寸法が 100 ナノメートル以下−平均的なウィルスのサイズ−の物質と定義される(訳注:ナノ=10億分の1)。ナノスケールで物質を生成し、操作し、適用するナノ技術は、極微小の人工粒子から現われる特異な化学的、物理的、そして電気的特性を設計し制御し利用する能力に関わる。 ナノ粒子は、その挙動が固体とも液体ともガスとも異なり、量子力学の世界に存在し、そこでは十分に小さいためにニュートン力学から逸脱する物質を支配する。このことにより、ナノ粒子は導電性、反応性、光学的感度など様々な特性においてほとんど魔術的な芸当を振舞う。 ”このことが、ナノ粒子が有用で興味深く、そして現在、そのように熱狂している理由である”とライス大学生物環境ナノ技術センター(CBEN)の教育・政策専務理事クリオステン・クリノウスキーは述べた。”この量子支配にあると、同じ物質でもサイズがもっと小さかったり又はもっと大きい時には決して可能ではない、又は現われない新たな特性が出現することがあり得る。これらには、その粒子に依存して、異なる色、電気的特性、磁気的特性、機械的特性を含み、これらの一部又は全てがナノスケールでは変更されることがあり得る。” 多くの観察者は誇張ではなく、ナノ技術は"次の"産業革命”と呼んでいる。連邦政府のよく資金が投入された広範なナノ技術活動をを監督する政府機関コンソーシアムであるナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)は、この分野はアメリカ経済だけで2015年までに又はそれより早くに、1兆ドル(約110兆円)に達すると予測している。明らかに、ナノ技術は近い将来、世界経済の中で主要な要素となり、我々の日常生活の一部となる。この微小な科学は、すぐに非常に大きくなろうとしている。 踏み切り台 ナノ技術の潮流の高まりの最初の予感は既に海辺にまで来ていた。人工ナノ粒子は既に製造され、販売され、スポーツ用品、タイヤ、防汚衣類などの製品中で商業的に用いられている。化学物質流出時用の非毒性、非腐食性、非可燃性の中和剤用に、あるいは化学兵器用に設計されたナノ物質が現在、市場に出ている。日焼け止めもさえもナノを使っており、あるものはナノスケールの二酸化チタン又は酸化亜鉛粒子を含んでいる。それらは、大きなサイズの物質が半透明の白色であるのとは異なって透明であるが、紫外線は効果的に遮断する。半導体からボーリングのボールのコーティングまで商業製品に用いられているフラーレンは、日本で三菱化学がトンのオーダーで製造している。
この第二段階の方向への進歩の証拠として、チャド・ミルキンに率いられたノースウェスタン大学の化学者らのチームは最近、平面又は曲面構造に組み立てるナノスケールのビルディングブッロクを精密に構築する方法を開発したと発表した。束、シート、チューブのような通常ではないナノ構造を作り出す能力は、新しくて強力なドラッグ搬送システム、電子回路、触媒、光分解触媒の期待を確かなものにする。 2010年までに、相互に作用する数千の要素を持つナノシステムを特徴とする第三世代が到来するであろうとロコは述べている。そして、その後数年で、最初の”分子”ナノデバイス、すなわち、その内部で細胞のように機能するシステムからなるデバイスが出現するであろう。 製造技術が完成し規模が大きくなるので、ナノ技術はすぐに普及し、電子産業から軍需産業まで、医療産業から農業まで、我々が車を運転し家で明かりをともすために使用するエネルギーから我々が飲む水や食べる食物にいたるまで、事実上、全ての産業分野の活動を根本的に変えることが予想される。ナノ技術は今日の宇宙開発競争版であり、世界中の国々が一生懸命に数十億ドル(数千億円)の金を研究、開発、そして商品化のためにつぎ込んでいる。
他の疑問にもまた答えが必要である。誰かこれらの健康と安全の問題を見ている人がいるのか? そして、公衆がこの技術の拡散に安心できるだけの十分に確実で信頼性のあるリスク評価の知識がいつ入手できるのか? パラダイムシフトはナノの世界に円滑に進むのか? あるいは、かつて遺伝子組み換え生物(GMOs)の達成で起きたような、その可能性を妨げる議論を伴う安全と信頼の問題がナノ技術を取り囲んでいるのか? クリノウスキーは、この分野の唱道者のほとんど共通な感情を述べている。”我々は、ナノ技術が全ての様々な分野と適用において−次世代のがん治療から環境的適用、エネルギーにいたるまで−社会に役に立つ並はずれた潜在的能力を持っていると考える。したがって、我々は人工ナノ物質に関連する現実の又は認識されるリスク要素によってその潜在能力が制限されたり排除されることを望まない”。ナノ技術が責任をもって、そして強い公衆の支持を得て繁栄することを確実にするために、唱道者はこの技術開発がたどった軌跡の中に答えを見出し、問題に目を向けることができるよう、リスクデータを収集することは非常に重要であると信じる−とクリノウスキーは述べている。 ナノ技術の通商協会であるナノビジネス・アライアンスの専務理事ショーン・マードックは、新技術が健康と安全情報からかけ離れて出現した過去の誤りを避けることは可能であると考えている。”リスクは存在し、それは真実であるが、それらは管理することができる。結局、正しいプロセスを適切に行って、我々はこれら全てのリスクを取り扱うであろうし、我々はこれらのリスクを緩和するであろうし、我々はこの潜在的能力の上昇を実現するであろう”と彼は述べている。 ナノ医療:健康への小さな用量 ナノ医療として知られるナノ技術の最も期待される適用のひとつは、全てを生体細胞と小器官の分子工場の中で、健康を監視し、薬を投与し、疾病を治癒し、損傷した組織を修復するよう設計されたツールとマシンの開発を伴う。
発見のペースを促進し、生物医学的予防戦略、診断、及び治療への新たな知識の適用のスピードを上げるための国立健康研究所(NIH)の基本計画である ” NIH 医療研究のためのロードマップ−”は、3〜4 か所のナノ医療開発センターの設立に着手する重要なナノ医療イニシアティブを含んでいる。これらの複合領域施設は取り組みに対する知的及び技術的中核として機能するであろう。これらのセンターのための年間60億ドル(約7,000億円)の予算は2005年から執行される。
カーンは、このことや同様な展開に興奮している。”我々は放出について心配しなくてもよいように、そして事後の浄化について心配しなくてもよいように、廃棄物を出さず、環境に優しい方法で粒子を作るために、この新たな技術によるそのような機会を実際に持っている”。 警戒(黄色)信号 そのような信じられない程の有用性を人工ナノ粒子に与える同じ特性が、生物学的システムとの相互作用の特質についての懸念を引き起こす。すなわち、ある生理学的環境下では、そのサイズ、その形状、その高い反応性、その塗被(コーティング)、そして、その他の特異な特性が有害であると証明された。あるナノ物質は本質的に良性ではないということを示すいくつかの最近の研究が文献の中に現われている。あるものは、容易に体内に入り込み、臓器システムに蓄積し、個々の細胞に浸透し、超微粒子として環境科学でよく知られており、しばしば、サイズの大きい同一物質よりはるかに毒性が強いことが知られている環境中のナノ粒子に見られるものと同様な炎症性反応を引き起こす。環境中のナノ粒子と人工のナノ粒子の主な相違は、前者は様々な形状、サイズ、成分があるのに対し、後者は単一で一様な成分であるということである。 ロチェスター大学の環境毒物学者ギュンター・オバドルスターは、2004年6月に『Inhalation Toxicology』誌に発表されたげっ歯類を使った研究で、吸入されたナノ粒子はラットの鼻腔、肺、及び脳に蓄積することを示している。そして2004年1月発行の『Toxicological Sciences』で、NASAの科学者チウウィン・ラムが最近、直接マウスの肺に導入されたカーボン・ナノチューブ(最も広く使用され研究されている人工ナノ粒子)の浮遊物が、 酸素吸収を妨げる異常な障害である肉芽腫を引き起こすことを報告した。ラットでの同様な実験を行ったデュポン社の研究者デービッド・ウォーハイトは、同年月発行の『Toxicological Sciences』に発表しており、ラットの肺の中のナノチューブの凝集の周りに免疫細胞が集まっていることを発見した。最も高い用量ではラットの15%は、ナノチューブが気管支を詰まらせたために窒息死した。ラムとウォーハイトの研究は実世界の曝露を反映したわけではないが、彼らの結果はそれでも懸念を引き起こすものであり、少なくともナノチューブは生物学的に活性で恐らく有毒であるということを示している。 2004年7月発行の『Environmental Health Perspectives』 に発表された水中のフラーレンに曝露させたオオクチバスの脳中の酸化ストレス(炎症の兆候)を報告した研究は、恐らく最も衝撃的に受け取られ、今日までのナノ物質の健康影響に関する実験の中で最も大きな警告を呼び起こすものであった。 サザーン・メソディスト大学の環境毒物学者エバ・オバドルスター(ギュンター・オバドルスターの娘)は、この研究発表に対する国の主要なメディアの報道の量に彼女自身が”ショックを受けた”と述べている。彼女は、いくつかの報道は、魚の”脳の損傷”、さらには”深刻な脳の損傷”とさえ記述したけれども、彼女は実際にはその発見を、”脳の中の著しい損傷であり、脳の損傷とは非常に異なる”として特徴付けたと強調している。かなり高用量のフラーレンへの48時間の曝露の後に、恐らく魚はひどい頭痛があったかも知れないがと彼女は言うが、とにかく魚はその曝露を生き延びた。炎症に関しては、外部刺激物に対する適切な反応、又は実際の生理学的損傷の症状であったとオバドルスターは述べている。彼女はこの問題を、生じる炎症をもっと徹底的に特徴づけ、魚が実際に粒子を代謝し排出するかどうか見るために、遺伝子マイクロアレイの実験でさらに研究することを計画している。
クリノウスキーは、初期の研究は答えよりも多くの疑問を提起していると感じており、彼女は個々の研究を過剰解釈することに対し警告している。しかし彼女は、技術的進歩に楽天的であり、人工ナノ粒子の潜在的な負の影響は全体として最小化又は除去できるとしている。”私は、人工ナノ粒子に関して我々が持つ管理をもってすれば、我々はそれらを、リスクでもハザードでもはなく、便益をもたらすものとして設計することができるかも知れないという良いニュースを見ている”。やはり表面が全てであるとして、”もし、我々がナノ粒子の表面特性を管理することができれば、我々は毒性を調整することができるかもしれない・・・。それはランプの調光用スライド・スイッチのようなものである。測定する能力をはるかに超えて我々それを調整することができる。” ナノ技術の大きな問題 ナノ技術の完成はすぐに地球上の全ての人々に影響を及ぼす。しかし、ナノ推進者も懐疑者も等しく、その意見は事実上同じである。すなわち、ナノ技術の有する潜在的な便益を完全に実現することが、ナノ物質が人の健康と環境に及ぼす潜在的な負の影響に関する現在の懸念によって脅かされている。ナノ技術の適用は力強く追求されている。疑問は、関連する知識が伴ってついて来ているかどうかということである。 1990年代に遺伝子組み換え生物(GMOs)に対する戦いで主要な役割を果たしたカナダの環境行動団体である ETC グループ(Action Group on Erosion, Technology, and Concentration/腐食、技術、及び濃縮に関する行動グループ)は、2002年8月、研究所を含む労働者の保護のために適切な計画案(protocols)ができるまで人工ナノ物質の研究と商業化の世界的な一時的停止(モラトリアム)を呼びかけた。彼らはナノ物質の潜在的な負の側面についての研究データの不足、及び、研究所又は工場においてナノ物質の取り扱いに関する特定の規制管理又は最良の実施の確立が欠如していることを特記した。 恐らく、時を同じくして、ETCグループのモラトリアムの呼びかけの後2年の間に、この難問の欠落部分に関して研究活動と官僚的活動が明白に急増した。遺伝子組み換え生物(GMO)の経験を警戒して、利害関係者の全ては、ナノ技術が人の健康と環境に及ぼすリスクの完全で透明性のある特性化なしには、ナノ技術の豊穣な便益は収穫することができないということに明らかに同意している。 ”我々は、懸念や問題に前向きに取り組むことを確実にれば、長期的利益について安泰である”とマードックは述べている。”そのことは、我々が新たな領域を探求することについて過敏になったり、遠慮することを意味しない。それは探求を通じてのみ我々は進歩するからである。しかし、負の側面のたゆまぬ検証をもってバランスをとり緩和する必要がある。” 世界中のナノ技術の安全の側面と潜在的な社会的影響の両方に向けられるナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)の現在の取り組みに関与してきたロコ は、今が、責任あるリスク評価を行う時機であるということに同意している。”これは最早、事実の後で、他の研究をした後で、なにかするというようなものではなく、はじめから、研究全体の一部としてなされるべきことがらである。何かを作り出した最初の段階だけでなく、活動の全体のサイクルを見なくてはならない。” ライス大学生物環境ナノ技術センター(CBEN)は、国立科学基金(NSF)によって設立された6つのナノスケール科学エンジニアリング・センターのひとつであり、2001年の創立以来、ナノ粒子の環境的運命(行方)を調査しており、クリノウスキーは、ナノテク環境健康と安全研究の関心と基金の中での最近の研究について述べた。”我々は過去一年半にわたり、我々が暗闇に向かって叫んでいるようにほとんど感じる点から、人々が現在自主的に前向きに動いている点まで、この問題に関する巨大な動きを見てきた。最も勇気付けられることは連邦政府の対応である。我々はまた、産業界からの多大な反応を見てきた。・・・それは我々がナノ技術製品の商品化に向かって動いているので、これらの疑問は、開発中に、製品が市場に出る前に、あるいは出る時に、対応されるであろうという希望を我々に与える」と彼女は述べている。
ナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)は多くの参加機関の中核である。国立環境健康科学研究所(NIEHS)、環境保護局(EPA)、国立職業安全衛生研究所(NIOSH)を含む関連機関の代表がナノ技術の環境及び健康への影響に関するワーキング・グループを立ち上げた。このワーキング・グループは知識を共有し、活動を調整し、研究ギャップと目標を特定し、規制や用語のような緊急な課題に対応するために毎月、会合している。 人工ナノ物質の毒物学的特性についての基本的な知識を確立することを目指す二つの主要な研究イニシアティブが現在その初期の段階にある。双方ともに知識ベースに著しく貢献し、また将来、もっと合理的なリスク評価が行えるようになるであろう。 これら主要なイニシアティブの第一のものは、国家毒性計画(NTP)による研究のためのCBENの2003年ナノ物質指名から生じたものである。国立環境健康科学研究所(NIEHS)に本部を置くNTPは、典型的な人工ナノ物質の安全研究に関わる研究プログラムに着手している。調査の主席科学者ニーゲル・ウォーカーは、”我々のプログラムの目的は、産業と技術が生体適合性の論議に先行したために生じた遺伝子組み換え食品のような状況の問題を回避することができるよう、ナノ物質の有毒性に対するナノ物質の生体適合性を得るための主要なパラメーターを特定する時に、ナノ物質産業を指導するのに役立てることである。 NTP プログラムは当初、単層カーボンナノチューブ、二酸化チタン量子ドット(画像装置で使用される蛍光半導体ナノクリスタル)、及びフラーレンの研究に焦点を当てるであろう。今日、使用されているこれらのナノ物質への曝露経路の大部分は皮膚を経由するものらしいので、いくつかの研究は皮膚毒性に特化するであろう。しかし、他の曝露経路もまた検証され、一般、急性、亜慢性、慢性の各レベルの曝露が調査される。 NTP イニシアティブの広範な目標の一つは、新たな人工ナノ構造が出てきた時に、それを評価することに役立てるために用いることができるナノ物質の化学的、物理的、及び薬物動態学的特性のモデルを作ることである。NIEHS 環境毒物学プログラムの副長官ジョン・ブッチャーによれば、このイニシアティブの目的は、”ナノ”という名の下に製造される全ての物質の毒性を防止する又は理解することではない。その代わり、”我々が試みようとしていることはナノ物質のある基本的特性を理解することである。すなわち、どのように移動するのか、どのような毒性を持つのか、一般的にどのような器官が目標となるのか、表面コーティングの影響はどうか・・・”と−彼は述べている。我々は世界をナノ技術から安全にしようとするものではないし、世界が現在、又は将来ですら、必ずしもナノ物質によって大きなリスクに曝されているとは信じない。しかし、どのような情報であれ全く存在しないということなら我々はそれを追求しなくてはならない”と彼は述べている。 NPT はまた、フロリダ大学と共同して、2004年11月に、毒物学界からの科学者、環境エンジニア、及び医薬品と化学産業界からの代表を集めてワークショップを開催することを計画している。このワークショップはナノ物質への曝露を最良に評価すること、及びその毒性と安全性を評価することについての疑問に焦点を当てるであろう。 ウォーカーはこれらの取り組みは完全に良いタイミングであると考えている。"もし、我々がこれを2〜3年前にやろうとしていたなら、実際には重要ではないことを目標としていたであろう。早すぎてもいけないし遅すぎてもいけない。いまがちょうど良い時である。・・・我々は物事がどのように動いているのかについて非常にオープンであるが、それは NTP が完全にオープンであり、全てのデータは、最終的には公共のものであるからである。" 第二の主要なイニシアティブであるナノ物質の製造と使用に関連する職業衛生リスクに関する研究は国立職業安全衛生研究所(NIOSH)が先頭に立っている。同研究所は最近、ナノ技術研究センターを、成果を調整し追跡し測定するために、そして同研究所全体のナノ技術関連活動の成果を広めるために設立した。 NIOSH はまた、NIOSH ナノ技術と安全衛生研究プログラムとして知られる5か年複合領域イニシアティブを実施している。NTP の取り組みと同様に、その考えはこの産業の発展の早い時期にリスクを特定することであり、職場は現在曝露が最も存在する場所のようであるという認識である。”これらの物質の影響がわからないという懸念があり、一般化された産業衛生、一般化された管理措置、そして最良の作業実施を早い時期に行うことに重要性がある”とプログラム調整プロジェクト及び用量測定基準としての粒子の表面積を調べるもうひとつの研究の主席調査官であるビンセント・キャストラノバは述べている。”通常、これらの要素の関心は結果として起きる疾病を証明した後に生ずるものであった。 しかしこの場合は、我々が健康に関する結果を完全に知る前に産業界及び政府機関が良い作業実施と事前の予防措置を取らせるのに十分な懸念が存在する事例である。” もう一人の NIOSH の科学者アンドリュー・メイナードは、大気中に浮遊するナノ粒子の特性化と監視の手法を調査している。”私のプロジェクトの一部は、ナノ粒子の化学的物理的性質、及びこれらの実験で用いられている粒子の濃度を非常に正確に理解することができるよう、特性化技術を開発し使用することである。また、人々が職場で使用することができる、簡単で強固で安価な技術を持つことができるようにするために、職場における曝露を効果的に監視することができるよう調査するであろう”とメイナードは述べている。 日焼け止めやある種の化粧品が現実に使用されている結果として、ナノ粒子への皮膚曝露はすでに起きているが、職場では吸入が曝露経路として最もありそうに見えるので、このプログラムの中の他のプロジェクトが、肺に疾患をもたらす毒性に関する疑問、特にカーボン・ナノチューブの関連について焦点を当てるであろう。これらの疑問は、ナノ物質の特異な属性のために、手際に注意を要する。それらは技術的には超微粒子であるが、同じ手法で判定することができるであろうか? ”これは、現在、議論のある大きな領域のひとつである”とメイナードは述べている。”どの程度まで、人工ナノ粒子を他の超微粒子と同じように扱うことができるのであろうか? ナノ粒子に関する我々の懸念の大部分は、超微粒子についての我々の経験によって呼び起こされていると言うのがフェアであろう。超微粒子は微粒子よりも本質的に悪性で有毒である”。 未解決のもうひとつの問題は、これらのナノ粒子が凝集する傾向があるということであり、凝集はしばしば、直径が100ナノメートル以下ではないということである”とキャストラノバは述べている。”したがって、それらは超微粒子というよりも、むしろ微粒子として振舞うのではないか? そのことは、取り扱い中に凝集するのか、あるいは一旦肺に入ってから起きるのかに依存するが、どちらかは分からない。肺に入る、血液−空気隔壁を通過する、又は炎症を引き起こす等の能力は【凝集分解】に影響を受ける”。NIOSH は、これらの問題を討議するために、2004年10月にイギリスで開催する「第一回国際シンポジウム−ナノ物質の職業衛生への影響」を支援している。 波及効果 NTP と NIOSH のイニシアティブは職場に関する主要な取り組みであるが、他の分野でも非常に多くの活動が続けられており又は開始されている。NNI はその支援を(負の)影響研究に広げており、最近、25カ国及び欧州連合からナノ技術プログラムの指導者が集まった画期的な国際会議を開催した。「ナノ技術の責任ある研究開発に関する国際的対話」は2004年6月17−18日にバージニア州アーリントンで開催されたが、その目的は、この技術が社会的問題と環境、健康及び安全への影響についての懸念に対しどのように適切な注意と考慮を促進することができるかの世界的視点の展開に役立たせることであった。 ロコは、この会議を”歴史的な出来事”と呼び、責任あるナノ技術開発に特化した進行中の国際的組織の確立を提案した。参加者らは、ナノ技術の研究開発における国際的な対話、協調、及び調整を確実にするよう意図された恒久的制度の構築に関わる可能性ある活動、メカニズム、時機、制度的枠組み、及び原則を調査することを委任された”準備グループ”を形成することに同意した。 ETC グループの代表パット・ムーニーもまたこの集まりに好意的に反応した。”この様な国際会議を持つのは初めてのことである。私は、これは非常に望みのある兆候であると思う”。 今年の初旬に開催された他の二つの画期的なイベントもまた公約と進歩の有望な兆候である。2004年3月に NIEHS は「改善されたリスクの層別化と疾病防止のための技術」と呼ばれるワークショップを開催したが、NIEHS は来年の研究課題にナノ技術をいかに織り込むかに関する特定の勧告を得るために、専門家委員団を招聘した。参加者らは、NIEHS は、個々の化学物質曝露を検出し、システムから有毒物質を排除し、曝露によって引き起こされたかも知れないどのような有害影響をも転換させ介入する単一の小さな基盤を開発する方法を導くべきであるという考えに賛同した。その後、5月に”環境健康科学、研究、医療に関する医療ラウンドテーブル研究所”によって1日の討論会が開催され、そこで専門家と公衆のメンバーが、公衆健康の展望からナノ技術により引き起こされる問題を議論した。討論では、公衆健康への潜在的便益が明らかにされたが、一方、最近の毒物学的懸念についても認識した。これらのようなイベントは、科学界及び公衆に等しく情報を提供し、この技術の責任ある開発を促すものである。 近い将来膨大な機会が得られるということを認識しつつ、化学産業界もまたナノ技術影響研究に高い優先度を置いている。NNI 「化学産業展望2020 技術パートナーシップ」と呼ばれるコンソーシアムは、アメリカエネルギー省エネルギー効率と再生可能エネルギー局との協力で、『設計によるナノ物質のための化学産業R&Dロードマップ:基本から機能まで』というタイトルの包括的な白書を2003年に発表した。この文書は、ナノ物質産業の長期的成功を促進するためにアメリカの化学会社の中で前例のないレベルでの協力と連携を求め、環境、安全、そして健康に関する知識が重要な要素であることを強調している。”ナノ粒子使用における期待される成長は、ハザードの特定、曝露評価、そしてリスク評価に関する同時並行の取り組みを保証する”と白書は述べている。”化学会社は、物質の特性化、潜在的リスクの特定、そして安全と効果的な使用のためのガイドラインの作成分野におけるリーダーとして、このプロセスで主要な役割を果たす準備ができている”。 EPA のSTAR プログラムは、ナノ技術影響調査への基金をすぐに授与することを計画しており、CBEN は、”ウェット−ドライ・イナターフェース”、すなわち、人工ナノ物質と、生態系及び生き物を含んで水中又は水ベースの環境において活性なシステムとの間の相互作用に関する研究を続けている。 ”我々は、影響研究と特性化できるであろういくつかの研究プロジェクトを持っている”とクリノウスキーは述べている。”ナノ物質が土壌又は水供給系に入り込んだ時に何が起きるかを調べること”。ナノ粒子(一般的には水溶性ではない。したがって”ドライ”側)が水生環境(”ウエット”側)とどのように作用するかを理解することによって、研究者らは、生物適合ナノ粒子や有機汚染物質を分解するナノ構造触媒のような人の健康と環境を改善するであろう技術を作り出すことを希望している。ウェット−ドライ・イナターフェースはまた、ナノ物質の環境的運命(行方)と移動を確定するために主要な役割を果たす。 環境保護局(EPA)、食品医薬品局(FDA)、及び職業安全衛生管理局(OSHA)のような規制当局は全て NNI に参加者しており、研究の進捗を注意深くフォローしつつ、彼らの視野の範囲でナノ特化の規制の枠組みの最終的な開発と実施に目を向けて、彼ら自身の知識ベースを構築している。現時点では、既存の規制はナノ物質に関連する懸念に適切に対応するために十分にしっかりしているが、リスクとハザードはもっと詳細に特性化されるので、その点は変更すべきというのが一致した見方である。 ETC グループでさえ、モラトリアム(一時中止)の要求は撤回していないが、最近の進捗には元気付けられているように見える。”我々は政府から期待できるだけの合理的な応答を受けたと感じている”とムーニーは述べている。”そして、我々が指摘した問題を修正しようとする試みが行われている”。ムーニーは、個々の国がナノに特化した研究所プロトコールを適切に用意するなら、彼のグループはそのような国には最早モラトリアウムを要求しないと述べている。 この研究活動の全てが当を得た時機に重要な段階に到達している。ナノ技術の弾丸列車は、夢にさえ見たことことのない魔法の場所に我々を連れて行くために大きな推進力を持って駅を出発した。この技術に対する公衆の不信は列車を脱線させる可能性があるが、多くの乗客は、ナノ技術の潜在的な便益と危険の両方の理解の増大が列車を脱線させず、発見への旅を続けることを可能にすることを希望している。 エルニー・フード(Ernie Hood) |