米国立環境健康科学研究所 EHP 2004年9月号
ナノ技術: 跳びながら見る

情報源: Environmental Health Perspectives Volume 112, Number 13, September 2004
Nanotechnology: Looking As We Leap


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution)

掲載日:2005年12月11日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_04_Sep_Looking_As_We_Leap.html

 1989年、IBM の研究者らが、35 の原子を操作して会社のロゴを描写することで科学技術の躍進を示して以来、個々の原子を操作する能力はナノ(ギリシャ語の”dwarf(小人)”に由来)スケールでの研究と開発の潮流を生み出した。ナノ粒子は、少なくとも 1 次元の寸法が 100 ナノメートル以下−平均的なウィルスのサイズ−の物質と定義される(訳注:ナノ=10億分の1)。ナノスケールで物質を生成し、操作し、適用するナノ技術は、極微小の人工粒子から現われる特異な化学的、物理的、そして電気的特性を設計し制御し利用する能力に関わる。

 ナノ粒子は、その挙動が固体とも液体ともガスとも異なり、量子力学の世界に存在し、そこでは十分に小さいためにニュートン力学から逸脱する物質を支配する。このことにより、ナノ粒子は導電性、反応性、光学的感度など様々な特性においてほとんど魔術的な芸当を振舞う。

 ”このことが、ナノ粒子が有用で興味深く、そして現在、そのように熱狂している理由である”とライス大学生物環境ナノ技術センター(CBEN)の教育・政策専務理事クリオステン・クリノウスキーは述べた。”この量子支配にあると、同じ物質でもサイズがもっと小さかったり又はもっと大きい時には決して可能ではない、又は現われない新たな特性が出現することがあり得る。これらには、その粒子に依存して、異なる色、電気的特性、磁気的特性、機械的特性を含み、これらの一部又は全てがナノスケールでは変更されることがあり得る。”

 多くの観察者は誇張ではなく、ナノ技術は"次の"産業革命”と呼んでいる。連邦政府のよく資金が投入された広範なナノ技術活動をを監督する政府機関コンソーシアムであるナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)は、この分野はアメリカ経済だけで2015年までに又はそれより早くに、1兆ドル(約110兆円)に達すると予測している。明らかに、ナノ技術は近い将来、世界経済の中で主要な要素となり、我々の日常生活の一部となる。この微小な科学は、すぐに非常に大きくなろうとしている。

踏み切り台

 ナノ技術の潮流の高まりの最初の予感は既に海辺にまで来ていた。人工ナノ粒子は既に製造され、販売され、スポーツ用品、タイヤ、防汚衣類などの製品中で商業的に用いられている。化学物質流出時用の非毒性、非腐食性、非可燃性の中和剤用に、あるいは化学兵器用に設計されたナノ物質が現在、市場に出ている。日焼け止めもさえもナノを使っており、あるものはナノスケールの二酸化チタン又は酸化亜鉛粒子を含んでいる。それらは、大きなサイズの物質が半透明の白色であるのとは異なって透明であるが、紫外線は効果的に遮断する。半導体からボーリングのボールのコーティングまで商業製品に用いられているフラーレンは、日本で三菱化学がトンのオーダーで製造している。

比較用 ナノワイヤーがヒトの髪の毛にループを描いて巻きついていることを顕微鏡が示している。ナノワイヤーは50ナノメートル位の細さであり、ヒトの髪の毛の径の約1000分の1である。
image credit: Limin Tong/Harvard University
 数年以内に、これらの初期市場進出製品はいずれ、8トラックのテープのように古風なものとなるであろうと専門家らは見ている。国立科学基金(NSF)のナノ技術に関する上席顧問であり、NNIのコーディネータでもあるミハイル・ロコによれば、ナノ技術は発展における4つの世代又は段階を持つことになるであろう。我々は既に、”受動的”ナノ構造−ひとつの仕事を実行するよう設計された単純な粒子からなる第一世代階にいる。ロコは第二世代は2005年に始まり、それは特別な駆動装置、ドラッグ搬送装置、新しいタイプのトランジスターとセンサーなどのような”能動的”ナノ構造の商業的プロトタイプの出現である。

 この第二段階の方向への進歩の証拠として、チャド・ミルキンに率いられたノースウェスタン大学の化学者らのチームは最近、平面又は曲面構造に組み立てるナノスケールのビルディングブッロクを精密に構築する方法を開発したと発表した。束、シート、チューブのような通常ではないナノ構造を作り出す能力は、新しくて強力なドラッグ搬送システム、電子回路、触媒、光分解触媒の期待を確かなものにする。

 2010年までに、相互に作用する数千の要素を持つナノシステムを特徴とする第三世代が到来するであろうとロコは述べている。そして、その後数年で、最初の”分子”ナノデバイス、すなわち、その内部で細胞のように機能するシステムからなるデバイスが出現するであろう。

 製造技術が完成し規模が大きくなるので、ナノ技術はすぐに普及し、電子産業から軍需産業まで、医療産業から農業まで、我々が車を運転し家で明かりをともすために使用するエネルギーから我々が飲む水や食べる食物にいたるまで、事実上、全ての産業分野の活動を根本的に変えることが予想される。ナノ技術は今日の宇宙開発競争版であり、世界中の国々が一生懸命に数十億ドル(数千億円)の金を研究、開発、そして商品化のためにつぎ込んでいる。

小さな学習曲線 金ポリマーのナノロッドの自己組織化(self-assembly)は曲面構造を作り出す。ナノ構造のサイズと曲率を制御する能力は、ドラッグ・デリバリーや電子工学の分野で役に立つであろう。
image credit: Chad Mirkin/ Northwestern University
 環境と人の健康という観点から、ナノ技術は過去の主要な技術進歩と同様に二面性を持つ。良い適用という点で莫大な便益をもたらすかもしれないが、本質的なリスクもまたある。それが意図的であろうと事故によるものであろうと、ナノ物質やナノ粒子が土、水、そして大気の中に入り込んだ時に何が起きるのであろうか? 環境的曝露であろうと目標投与であろうとそれらが我々の体内に必然的に入り込んだ時に何が起きるのであろうか? これらに対する答えはほとんど得られていないが、最近の調査でオオクチバスの脳中でフラーレンが酸化ストレスを引き起こすことを示すなどのいくつかの初期研究の結果によれば安心できるものではないことが示されている。[フラーレンと魚の脳:ナノ物質が酸化ストレスを引き起こす(当研究会訳)  EHP 112:A568 (2004)]

 他の疑問にもまた答えが必要である。誰かこれらの健康と安全の問題を見ている人がいるのか? そして、公衆がこの技術の拡散に安心できるだけの十分に確実で信頼性のあるリスク評価の知識がいつ入手できるのか? パラダイムシフトはナノの世界に円滑に進むのか? あるいは、かつて遺伝子組み換え生物(GMOs)の達成で起きたような、その可能性を妨げる議論を伴う安全と信頼の問題がナノ技術を取り囲んでいるのか?

 クリノウスキーは、この分野の唱道者のほとんど共通な感情を述べている。”我々は、ナノ技術が全ての様々な分野と適用において−次世代のがん治療から環境的適用、エネルギーにいたるまで−社会に役に立つ並はずれた潜在的能力を持っていると考える。したがって、我々は人工ナノ物質に関連する現実の又は認識されるリスク要素によってその潜在能力が制限されたり排除されることを望まない”。ナノ技術が責任をもって、そして強い公衆の支持を得て繁栄することを確実にするために、唱道者はこの技術開発がたどった軌跡の中に答えを見出し、問題に目を向けることができるよう、リスクデータを収集することは非常に重要であると信じる−とクリノウスキーは述べている。

 ナノ技術の通商協会であるナノビジネス・アライアンスの専務理事ショーン・マードックは、新技術が健康と安全情報からかけ離れて出現した過去の誤りを避けることは可能であると考えている。”リスクは存在し、それは真実であるが、それらは管理することができる。結局、正しいプロセスを適切に行って、我々はこれら全てのリスクを取り扱うであろうし、我々はこれらのリスクを緩和するであろうし、我々はこの潜在的能力の上昇を実現するであろう”と彼は述べている。

ナノ医療:健康への小さな用量

 ナノ医療として知られるナノ技術の最も期待される適用のひとつは、全てを生体細胞と小器官の分子工場の中で、健康を監視し、薬を投与し、疾病を治癒し、損傷した組織を修復するよう設計されたツールとマシンの開発を伴う。

 発見のペースを促進し、生物医学的予防戦略、診断、及び治療への新たな知識の適用のスピードを上げるための国立健康研究所(NIH)の基本計画である ” NIH 医療研究のためのロードマップ−”は、3〜4 か所のナノ医療開発センターの設立に着手する重要なナノ医療イニシアティブを含んでいる。これらの複合領域施設は取り組みに対する知的及び技術的中核として機能するであろう。これらのセンターのための年間60億ドル(約7,000億円)の予算は2005年から執行される。

 今日、その取り組みの長期的目標は、まさに、アイザック・アシモフの空想の旅から出てきたように響く。がん細胞を見つけ出し腫瘍を形成する前にそれらを破壊することができるナノボット、・・・細胞の損傷部を除去し置き換えることのできるナノマシン、・・・必要な時に必要な場所に薬の目標用量を正確に送り出すことのできる分子サイズの埋め込みポンプ、・・・どのような細胞中でも病状又は不安要素を検出することができ、直ちに医師に情報を伝達することができる”賢い”ナノセンサー。科学的空想はすぐに科学的事実となるかも知れなず、これらや他の多くのナノ医療革新が現在、展開中であり、国立健康研究所(NIH)はナノ医療イニシアティブは10年以内に医療における便益を生み出し始めると予測している。ロコはまた、2015年までに全ての薬の発見と投与技術の半分はナノ技術に基づくようになると予測している。

 専門家はまた、ナノセンサーが、リアルタイムで内部及び外部双方の曝露を決定し、リスクを評価し、曝露と疾病原因を関連付け、遺伝と環境の相互作用を特性付け、最終的には公衆の健康を向上させるための著しく改善されたツールを提供すると予測している。国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、その外部からの基金授与とスーパーファンド基本研究プログラムを通じて、これら多くの期待される革新の背後で研究と開発に基金を出している。

 例えば、”小規模ビジネス革新研究基金”により、NIEHS は、ウィンスコンシン州マディソンのカモノハシ・テクノロジー社の有毒成分へのリアルタイム累積曝露を検出する個人用測定器として使えるようデザインされた知能ナノセンサーに関する開発を支援している。

 曝露検出のための独特な感受性を形成するために極小の光学とナノ物質を結合した初期プロトタイプのデバイスは、有機リン系殺虫剤への非常に低レベル曝露であっても検出するよう意図されている。2年以内に商業化されることが期待されるこのセンサーは、小型で、軽量で、不活性で、高価ではなく、そして容易に操作できる。すぐに適用できるのは、子どもの化学環境のモニタリングである。

 カモノハシ社の CEO であるバーバラ・イスラエルは詳しく次のように述べている。”我々の製品は、曝露の異なる濃度範囲とモニタリング時間を調整できる。したがってそれは労働者の製造時における有毒成分への職業曝露のモニターとしても、農業労働者の農場でのモニターとしても適用することができる”。同社はまた、非常に低濃度で大気中に存在する有毒物質に即座に反応するセンサーを開発中であり、また、”空港や駅のような施設において数千のセキュリティ・システムをネットワークする装置の開発も予測している。  国立環境健康科学研究所(NIEHS)施設外研究訓練部門内のリスク統合科学センター長のウィリアム・サックによれば、”この技術は我々のビジネス、すなわち環境健康科学のビジネスのやり方を根本的に変えようとしている。” サックは、ナノ技術に関連する NIEHS の外部基金の多くを統括している。”この技術の本当の潜在的能力のひとつは、遺伝子と環境の相互作用を理解することができること、Omics 改革を行うことができること、そして、物事がいかに互いに適合するか理解することへの包括的な世界的アプローチのような方法でスケールダウンすることである。我々は実際、いかにシステムが情報伝達しているか、いかに細胞がそれらの中でまた我々の体内の他の細胞システムと情報伝達しているかを理解するために、システム生物学の中におけるこれらの技術の用途を見ている。それは全て結合されている”と彼は述べている。

 サックの見解に合致する並外れて精巧な様々なナノバイオセンサーが NIOHS の基金受給者らの中で開発されている。例えば、ミシガン大学の神経毒物学者マーティン・フィルバートはニューロン中のミトコンドリアの中の化学的不安要素を測定し特定するセンサーを完成しつつあり、最終的にはそのような細胞障害の調停又は防止を可能にするかも知れない。カリフォルニア大学サンディエゴ校の薬理学、生物化学、化学の教授ロジャー・ツエンは、ゲノムのレベルでリアルタイムに毒性が引き起こす曝露と不安要素を示すことができる毒性センサーを開発している。ロレンス・ライブモア国立研究所の科学者ケニス・タートルタウブは、原子レベルで不安要素を特性化しつつ、発がん性化学物質への曝露のバイオマーカーのためのナノ構造を調べている。サックによれば、これら及び他のナノデバイスは今後5年の間に環境健康の分野に大きな貢献をするであろうとしている。ナノ技術がその全影響を出す時に、トキシコゲノミクスはその揺籃期を越えて進化し、公衆健康の目覚しい改善の期待を実現し始めると彼は述べている。

大きな世界での小さな進歩

 環境への適用のための研究と開発はまだ、ナノ技術の比較的狭い範囲であるが、現在、急速に成長しており、ナノ物質は他の分野と同様に人の目を奪うような便益の数々を約束している。ナノ技術は環境の領域の両端、すなわち既存の汚染を浄化すること、及びその発生を減少させるあるいは防止することに適用されるであろう。それはまた、環境監視と環境健康化学の分野において近い将来目覚しい飛躍に貢献することが期待されている。

 米環境保護局(EPA)の国立環境研究センターによって管理されているEPAの ”結果を達成するための科学プログラム(STAR)”はナノ技術の環境適用への初期の投資及び推進の立役者であった。2001年のはじめに、EPAは予算の一部を自由裁量としてナノ技術に割り当てた。”我々は最初に、環境に関連する適用を行うことに決定した”とこのプログラムのナノ技術領域を監督するバーバラ・カーンは述べている。”我々は、EPAの負の遺産のために新たな技術を役立てる事例を作りたかった”。

 汚染された土壌と地下水は負の遺産の中で最も顕著なものであり、ナノ技術ベースの改良方法に目覚しい進歩があった。STAR基金の受給者であり、また国立科学基金(NSF)からも基金を得ているリーハイ大学の環境技師ウェイキャン・ザンは、1996年以来、ナノスケールの金属粒子、特に、彼が強力な還元剤であることを見出した鉄のナノ粒子を用いる改良方法を開発するために研究している。”もし、汚染物質が分解又は変換することができるなら、鉄ナノ粒子を使うことができる”と彼は述べている。彼はこの方法について2000年から、パイロット研究、及び、PCBs、DDT、ダイオキシン類などで汚染されたいくつかの産業サイトにおいて実地テストを行っており、その結果は良好である。

 ザンのナノ改良は既存の手法に比べ、いくつかの潜在的な優位性を示している。実施は非常に簡単である。ナノ粒子はスラリー中に浮遊しており、基本的に汚染サイトの中心に直接ポンプで送り込まれる。従来のやり方は、土壌を掘り起こしそれを処理するという手法であった。”ナノ粒子は一般に困難な状況で注入することができる。例えば、河床の下、建物の下、その他通常のエンジニアリング手法では困難であるような場所である”とザンは述べている。

 ナノ物質は表面原子の比率が大きく、どのような物質の表面も反応が起きる。ナノ物質の巨大な表面積と非常に高い表面活性のために、労働者は潜在的にはるかに少ない量の物質を使うことができる。表面積が相対的に大きいので、中間体−生物分解における生成物で時には元(親)の化合物より毒性が高い−を生成する時間を短くし早い反応を可能にする。最後に、ザンの手法ははるかに早い。”高い活性のために、従来の技術に比べて改良目標を達成する時間が短い。生物学的プロセスを用いた従来の手法では数年かかることがある”と彼は述べている。鉄ナノ粒子を用いれば、ほとんどの場合、汚染物質は数日で良性の成分に中和されることを彼のチームは観察した。

 ザンは現在、鉄ナノ粒子をもっとコスト競争力を持つよう製造規模を上げることに注力しており、彼の技術に基づいたビジネスを確立することを計画している。彼の手法は数多くある改良手法の一つに過ぎないが、しかし多分、大規模展開に最も近い位置を占めており、彼は1〜2年以内に金属ナノ粒子を利用した数十から数百のプロジェクトが立ち上がると予測している。そしてこの種の”受動的”適用は始まったばかりである。

 ”将来は、処理デバイスとしてだけでなく、地面に置いて異なる環境パラメーターに関するフィードバックを得ることができる検出機能と通信能力を持ったセンサーとして機能することができるもっと精巧なデバイスを持つようになるであろう”とザンは述べている。この種のデバイスは、いつ処理が適切に完了したかを決定する能力−現在は非常に難しい−を環境改良者に与えるであろう。汚染物質のリアルタイムでのその場での検出と分析を可能にする同様なナノセンサーが環境監視の目的で開発されている。

 ナノ技術によってもたらされるかもしれない環境的便益はまだまだ多くある。例えば、ナノ物質に支えられた膜技術の進歩は、より細かく”より賢い”選択的ろ過により、水のろ過、海水の淡水化、及び排水処理を大いに強化するであろう。もっと急激に拡大することが予測されるこの技術は、非常に単純で非常に安価になることが期待される。これらの開発は、最終的には、世界の多くの地域を悩ませるクリーンで豊富で低価格の飲料水の不足を改善するという遠大な方向に向かうことが期待される。

 マードックは、ナノ技術はまた、経済強化に資するエネルギー基盤の再構築の機会を提供することによって、将来、非常に多くの汚染を防止するのに役に立ちそうであり、そのことは環境派が過去数十年間にわたり懸念していた問題の多くを片付けると述べている。ナノスケール物質とデバイスは、水素と太陽エネルギーのデバイスを通じてエネルギー生産の従来のやとり方を根底から変えるブレークスルーをもたらし、炭素ベースのエネルギーの効率と清浄さに広範な改善を生み出すことができる。例えば、ナノ技術は、石炭を直接、清浄な燃焼ジーゼル燃料とガソリンに変換するナノ触媒を用いてエネルギー生産における石炭の使用を持続可能な形で拡大することを可能にすることができるという、真面目な話がある。

 一方、ナノベースの照明は既に現実のものとなり、国中の交通信号は現在、電球に比べて耐用期間が長く消費エネルギーの少ない小さなLED表示を用いている。ナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)は、家庭と事務所の照明にナノ技術が広範に拡大すればアメリカのエネルギー消費は10%、炭素排出は年間2億トン、削減することができると推測している。

内部を探針で探る 亜鉛、カルシウム、カリウムなどのイオンを結合した分子に散りばめられたナノ探針が、細胞を機能させるイオン交換のパターンを明らかにするために細胞に注入される。目標イオンを捉えた時の蛍光識別探針の発光を解釈するためにコンピュータモデルが用いられる。
image credit: Christopher Burke/ University of Michigan Life Sciences Institute
 極端に高い反応性をもつナノ物質はまた、”グリーン”化学と”厳密な”製造を可能にするかも知れず、そこでは化学物質やその他の製品は原子毎にボトムアップで製造される。この展開は、有害廃棄物と大量の有毒原材料の必要性の両方を削減又は排除して有毒性のより低い製造を可能にする−(いわゆるソースリダクション)。グリーン化学の概念はナノ粒子自身の製造にも適用される。オレゴン大学の化学者ジェームス・ハッチンソンは最近、金ナノ粒子製造のためのより良性な(及びより早くより安価な)手法の特許を得たが、それは特に半導体産業にとって重要である。

 カーンは、このことや同様な展開に興奮している。”我々は放出について心配しなくてもよいように、そして事後の浄化について心配しなくてもよいように、廃棄物を出さず、環境に優しい方法で粒子を作るために、この新たな技術によるそのような機会を実際に持っている”。

警戒(黄色)信号

 そのような信じられない程の有用性を人工ナノ粒子に与える同じ特性が、生物学的システムとの相互作用の特質についての懸念を引き起こす。すなわち、ある生理学的環境下では、そのサイズ、その形状、その高い反応性、その塗被(コーティング)、そして、その他の特異な特性が有害であると証明された。あるナノ物質は本質的に良性ではないということを示すいくつかの最近の研究が文献の中に現われている。あるものは、容易に体内に入り込み、臓器システムに蓄積し、個々の細胞に浸透し、超微粒子として環境科学でよく知られており、しばしば、サイズの大きい同一物質よりはるかに毒性が強いことが知られている環境中のナノ粒子に見られるものと同様な炎症性反応を引き起こす。環境中のナノ粒子と人工のナノ粒子の主な相違は、前者は様々な形状、サイズ、成分があるのに対し、後者は単一で一様な成分であるということである。

 ロチェスター大学の環境毒物学者ギュンター・オバドルスターは、2004年6月に『Inhalation Toxicology』誌に発表されたげっ歯類を使った研究で、吸入されたナノ粒子はラットの鼻腔、肺、及び脳に蓄積することを示している。そして2004年1月発行の『Toxicological Sciences』で、NASAの科学者チウウィン・ラムが最近、直接マウスの肺に導入されたカーボン・ナノチューブ(最も広く使用され研究されている人工ナノ粒子)の浮遊物が、 酸素吸収を妨げる異常な障害である肉芽腫を引き起こすことを報告した。ラットでの同様な実験を行ったデュポン社の研究者デービッド・ウォーハイトは、同年月発行の『Toxicological Sciences』に発表しており、ラットの肺の中のナノチューブの凝集の周りに免疫細胞が集まっていることを発見した。最も高い用量ではラットの15%は、ナノチューブが気管支を詰まらせたために窒息死した。ラムとウォーハイトの研究は実世界の曝露を反映したわけではないが、彼らの結果はそれでも懸念を引き起こすものであり、少なくともナノチューブは生物学的に活性で恐らく有毒であるということを示している。

 2004年7月発行の『Environmental Health Perspectives』 に発表された水中のフラーレンに曝露させたオオクチバスの脳中の酸化ストレス(炎症の兆候)を報告した研究は、恐らく最も衝撃的に受け取られ、今日までのナノ物質の健康影響に関する実験の中で最も大きな警告を呼び起こすものであった。

 サザーン・メソディスト大学の環境毒物学者エバ・オバドルスター(ギュンター・オバドルスターの娘)は、この研究発表に対する国の主要なメディアの報道の量に彼女自身が”ショックを受けた”と述べている。彼女は、いくつかの報道は、魚の”脳の損傷”、さらには”深刻な脳の損傷”とさえ記述したけれども、彼女は実際にはその発見を、”脳の中の著しい損傷であり、脳の損傷とは非常に異なる”として特徴付けたと強調している。かなり高用量のフラーレンへの48時間の曝露の後に、恐らく魚はひどい頭痛があったかも知れないがと彼女は言うが、とにかく魚はその曝露を生き延びた。炎症に関しては、外部刺激物に対する適切な反応、又は実際の生理学的損傷の症状であったとオバドルスターは述べている。彼女はこの問題を、生じる炎症をもっと徹底的に特徴づけ、魚が実際に粒子を代謝し排出するかどうか見るために、遺伝子マイクロアレイの実験でさらに研究することを計画している。

形状とサイズ ナノハイドローリック・ピストンの視覚化。カーボンナノチューブ(青)、ヘリウム原子(緑)、及びバッキーボール分子(灰)を含むナノ技術共通の要素からなる。
image credit: Oak Ridge National Laboratory
 オバドルスターは、その発見は”黄色信号”であり、”赤信号”ではないと述べ、さらに、吸引及び魚の研究がナノ粒子が組織と反応して炎症を生成する可能性があること示していると説明している。”したがって、次のステップは、我々がこれら全ての製品を市場に出す前に広い範囲でよく調査し、消費者が保護されるようそれらが安全であることを確実にするこである”と彼女は述べている。

クリノウスキーは、初期の研究は答えよりも多くの疑問を提起していると感じており、彼女は個々の研究を過剰解釈することに対し警告している。しかし彼女は、技術的進歩に楽天的であり、人工ナノ粒子の潜在的な負の影響は全体として最小化又は除去できるとしている。”私は、人工ナノ粒子に関して我々が持つ管理をもってすれば、我々はそれらを、リスクでもハザードでもはなく、便益をもたらすものとして設計することができるかも知れないという良いニュースを見ている”。やはり表面が全てであるとして、”もし、我々がナノ粒子の表面特性を管理することができれば、我々は毒性を調整することができるかもしれない・・・。それはランプの調光用スライド・スイッチのようなものである。測定する能力をはるかに超えて我々それを調整することができる。”

ナノ技術の大きな問題

 ナノ技術の完成はすぐに地球上の全ての人々に影響を及ぼす。しかし、ナノ推進者も懐疑者も等しく、その意見は事実上同じである。すなわち、ナノ技術の有する潜在的な便益を完全に実現することが、ナノ物質が人の健康と環境に及ぼす潜在的な負の影響に関する現在の懸念によって脅かされている。ナノ技術の適用は力強く追求されている。疑問は、関連する知識が伴ってついて来ているかどうかということである。

 1990年代に遺伝子組み換え生物(GMOs)に対する戦いで主要な役割を果たしたカナダの環境行動団体である ETC グループ(Action Group on Erosion, Technology, and Concentration/腐食、技術、及び濃縮に関する行動グループ)は、2002年8月、研究所を含む労働者の保護のために適切な計画案(protocols)ができるまで人工ナノ物質の研究と商業化の世界的な一時的停止(モラトリアム)を呼びかけた。彼らはナノ物質の潜在的な負の側面についての研究データの不足、及び、研究所又は工場においてナノ物質の取り扱いに関する特定の規制管理又は最良の実施の確立が欠如していることを特記した。

 恐らく、時を同じくして、ETCグループのモラトリアムの呼びかけの後2年の間に、この難問の欠落部分に関して研究活動と官僚的活動が明白に急増した。遺伝子組み換え生物(GMO)の経験を警戒して、利害関係者の全ては、ナノ技術が人の健康と環境に及ぼすリスクの完全で透明性のある特性化なしには、ナノ技術の豊穣な便益は収穫することができないということに明らかに同意している。

 ”我々は、懸念や問題に前向きに取り組むことを確実にれば、長期的利益について安泰である”とマードックは述べている。”そのことは、我々が新たな領域を探求することについて過敏になったり、遠慮することを意味しない。それは探求を通じてのみ我々は進歩するからである。しかし、負の側面のたゆまぬ検証をもってバランスをとり緩和する必要がある。”

 世界中のナノ技術の安全の側面と潜在的な社会的影響の両方に向けられるナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)の現在の取り組みに関与してきたロコ は、今が、責任あるリスク評価を行う時機であるということに同意している。”これは最早、事実の後で、他の研究をした後で、なにかするというようなものではなく、はじめから、研究全体の一部としてなされるべきことがらである。何かを作り出した最初の段階だけでなく、活動の全体のサイクルを見なくてはならない。”

 ライス大学生物環境ナノ技術センター(CBEN)は、国立科学基金(NSF)によって設立された6つのナノスケール科学エンジニアリング・センターのひとつであり、2001年の創立以来、ナノ粒子の環境的運命(行方)を調査しており、クリノウスキーは、ナノテク環境健康と安全研究の関心と基金の中での最近の研究について述べた。”我々は過去一年半にわたり、我々が暗闇に向かって叫んでいるようにほとんど感じる点から、人々が現在自主的に前向きに動いている点まで、この問題に関する巨大な動きを見てきた。最も勇気付けられることは連邦政府の対応である。我々はまた、産業界からの多大な反応を見てきた。・・・それは我々がナノ技術製品の商品化に向かって動いているので、これらの疑問は、開発中に、製品が市場に出る前に、あるいは出る時に、対応されるであろうという希望を我々に与える」と彼女は述べている。

小さなビーチ・パラソル 稠密な球形含有物をもつ二酸化チタン・ミクロスフェア(直径約1〜50ミクロン)は、光を非常に効果的に散乱しながら、小さな”光子クリスタライト”として日焼け止めの機能をする。
image credit: Sascha Klein, Fred Lange, and David Pine/University of California, Santa Barbara
 批評家やある関係者らさえも(負の)影響研究の基金は、政府のナノ技術開発に対する現在の投資額10億ドル(約1,100億円)に比較してまだ十分ではないと主張している。しかし、ナノ技術の負の側面をよりよく理解する努力は明らかに増大している。重要な新たな研究イニシアティブが行われており、関連する連邦政府規制機関と研究機関の間で調整と協調が増大している。

 ナショナル・ナノ技術イニシアチブ(NNI)は多くの参加機関の中核である。国立環境健康科学研究所(NIEHS)、環境保護局(EPA)、国立職業安全衛生研究所(NIOSH)を含む関連機関の代表がナノ技術の環境及び健康への影響に関するワーキング・グループを立ち上げた。このワーキング・グループは知識を共有し、活動を調整し、研究ギャップと目標を特定し、規制や用語のような緊急な課題に対応するために毎月、会合している。

 人工ナノ物質の毒物学的特性についての基本的な知識を確立することを目指す二つの主要な研究イニシアティブが現在その初期の段階にある。双方ともに知識ベースに著しく貢献し、また将来、もっと合理的なリスク評価が行えるようになるであろう。

 これら主要なイニシアティブの第一のものは、国家毒性計画(NTP)による研究のためのCBENの2003年ナノ物質指名から生じたものである。国立環境健康科学研究所(NIEHS)に本部を置くNTPは、典型的な人工ナノ物質の安全研究に関わる研究プログラムに着手している。調査の主席科学者ニーゲル・ウォーカーは、”我々のプログラムの目的は、産業と技術が生体適合性の論議に先行したために生じた遺伝子組み換え食品のような状況の問題を回避することができるよう、ナノ物質の有毒性に対するナノ物質の生体適合性を得るための主要なパラメーターを特定する時に、ナノ物質産業を指導するのに役立てることである。

 NTP プログラムは当初、単層カーボンナノチューブ、二酸化チタン量子ドット(画像装置で使用される蛍光半導体ナノクリスタル)、及びフラーレンの研究に焦点を当てるであろう。今日、使用されているこれらのナノ物質への曝露経路の大部分は皮膚を経由するものらしいので、いくつかの研究は皮膚毒性に特化するであろう。しかし、他の曝露経路もまた検証され、一般、急性、亜慢性、慢性の各レベルの曝露が調査される。

 NTP イニシアティブの広範な目標の一つは、新たな人工ナノ構造が出てきた時に、それを評価することに役立てるために用いることができるナノ物質の化学的、物理的、及び薬物動態学的特性のモデルを作ることである。NIEHS 環境毒物学プログラムの副長官ジョン・ブッチャーによれば、このイニシアティブの目的は、”ナノ”という名の下に製造される全ての物質の毒性を防止する又は理解することではない。その代わり、”我々が試みようとしていることはナノ物質のある基本的特性を理解することである。すなわち、どのように移動するのか、どのような毒性を持つのか、一般的にどのような器官が目標となるのか、表面コーティングの影響はどうか・・・”と−彼は述べている。我々は世界をナノ技術から安全にしようとするものではないし、世界が現在、又は将来ですら、必ずしもナノ物質によって大きなリスクに曝されているとは信じない。しかし、どのような情報であれ全く存在しないということなら我々はそれを追求しなくてはならない”と彼は述べている。

 NPT はまた、フロリダ大学と共同して、2004年11月に、毒物学界からの科学者、環境エンジニア、及び医薬品と化学産業界からの代表を集めてワークショップを開催することを計画している。このワークショップはナノ物質への曝露を最良に評価すること、及びその毒性と安全性を評価することについての疑問に焦点を当てるであろう。

 ウォーカーはこれらの取り組みは完全に良いタイミングであると考えている。"もし、我々がこれを2〜3年前にやろうとしていたなら、実際には重要ではないことを目標としていたであろう。早すぎてもいけないし遅すぎてもいけない。いまがちょうど良い時である。・・・我々は物事がどのように動いているのかについて非常にオープンであるが、それは NTP が完全にオープンであり、全てのデータは、最終的には公共のものであるからである。"

 第二の主要なイニシアティブであるナノ物質の製造と使用に関連する職業衛生リスクに関する研究は国立職業安全衛生研究所(NIOSH)が先頭に立っている。同研究所は最近、ナノ技術研究センターを、成果を調整し追跡し測定するために、そして同研究所全体のナノ技術関連活動の成果を広めるために設立した。

 NIOSH はまた、NIOSH ナノ技術と安全衛生研究プログラムとして知られる5か年複合領域イニシアティブを実施している。NTP の取り組みと同様に、その考えはこの産業の発展の早い時期にリスクを特定することであり、職場は現在曝露が最も存在する場所のようであるという認識である。”これらの物質の影響がわからないという懸念があり、一般化された産業衛生、一般化された管理措置、そして最良の作業実施を早い時期に行うことに重要性がある”とプログラム調整プロジェクト及び用量測定基準としての粒子の表面積を調べるもうひとつの研究の主席調査官であるビンセント・キャストラノバは述べている。”通常、これらの要素の関心は結果として起きる疾病を証明した後に生ずるものであった。 しかしこの場合は、我々が健康に関する結果を完全に知る前に産業界及び政府機関が良い作業実施と事前の予防措置を取らせるのに十分な懸念が存在する事例である。”

 もう一人の NIOSH の科学者アンドリュー・メイナードは、大気中に浮遊するナノ粒子の特性化と監視の手法を調査している。”私のプロジェクトの一部は、ナノ粒子の化学的物理的性質、及びこれらの実験で用いられている粒子の濃度を非常に正確に理解することができるよう、特性化技術を開発し使用することである。また、人々が職場で使用することができる、簡単で強固で安価な技術を持つことができるようにするために、職場における曝露を効果的に監視することができるよう調査するであろう”とメイナードは述べている。

 日焼け止めやある種の化粧品が現実に使用されている結果として、ナノ粒子への皮膚曝露はすでに起きているが、職場では吸入が曝露経路として最もありそうに見えるので、このプログラムの中の他のプロジェクトが、肺に疾患をもたらす毒性に関する疑問、特にカーボン・ナノチューブの関連について焦点を当てるであろう。これらの疑問は、ナノ物質の特異な属性のために、手際に注意を要する。それらは技術的には超微粒子であるが、同じ手法で判定することができるであろうか?

 ”これは、現在、議論のある大きな領域のひとつである”とメイナードは述べている。”どの程度まで、人工ナノ粒子を他の超微粒子と同じように扱うことができるのであろうか? ナノ粒子に関する我々の懸念の大部分は、超微粒子についての我々の経験によって呼び起こされていると言うのがフェアであろう。超微粒子は微粒子よりも本質的に悪性で有毒である”。

 未解決のもうひとつの問題は、これらのナノ粒子が凝集する傾向があるということであり、凝集はしばしば、直径が100ナノメートル以下ではないということである”とキャストラノバは述べている。”したがって、それらは超微粒子というよりも、むしろ微粒子として振舞うのではないか? そのことは、取り扱い中に凝集するのか、あるいは一旦肺に入ってから起きるのかに依存するが、どちらかは分からない。肺に入る、血液−空気隔壁を通過する、又は炎症を引き起こす等の能力は【凝集分解】に影響を受ける”。NIOSH は、これらの問題を討議するために、2004年10月にイギリスで開催する「第一回国際シンポジウム−ナノ物質の職業衛生への影響」を支援している。

波及効果

 NTP と NIOSH のイニシアティブは職場に関する主要な取り組みであるが、他の分野でも非常に多くの活動が続けられており又は開始されている。NNI はその支援を(負の)影響研究に広げており、最近、25カ国及び欧州連合からナノ技術プログラムの指導者が集まった画期的な国際会議を開催した。「ナノ技術の責任ある研究開発に関する国際的対話」は2004年6月17−18日にバージニア州アーリントンで開催されたが、その目的は、この技術が社会的問題と環境、健康及び安全への影響についての懸念に対しどのように適切な注意と考慮を促進することができるかの世界的視点の展開に役立たせることであった。

 ロコは、この会議を”歴史的な出来事”と呼び、責任あるナノ技術開発に特化した進行中の国際的組織の確立を提案した。参加者らは、ナノ技術の研究開発における国際的な対話、協調、及び調整を確実にするよう意図された恒久的制度の構築に関わる可能性ある活動、メカニズム、時機、制度的枠組み、及び原則を調査することを委任された”準備グループ”を形成することに同意した。

 ETC グループの代表パット・ムーニーもまたこの集まりに好意的に反応した。”この様な国際会議を持つのは初めてのことである。私は、これは非常に望みのある兆候であると思う”。

 今年の初旬に開催された他の二つの画期的なイベントもまた公約と進歩の有望な兆候である。2004年3月に NIEHS は「改善されたリスクの層別化と疾病防止のための技術」と呼ばれるワークショップを開催したが、NIEHS は来年の研究課題にナノ技術をいかに織り込むかに関する特定の勧告を得るために、専門家委員団を招聘した。参加者らは、NIEHS は、個々の化学物質曝露を検出し、システムから有毒物質を排除し、曝露によって引き起こされたかも知れないどのような有害影響をも転換させ介入する単一の小さな基盤を開発する方法を導くべきであるという考えに賛同した。その後、5月に”環境健康科学、研究、医療に関する医療ラウンドテーブル研究所”によって1日の討論会が開催され、そこで専門家と公衆のメンバーが、公衆健康の展望からナノ技術により引き起こされる問題を議論した。討論では、公衆健康への潜在的便益が明らかにされたが、一方、最近の毒物学的懸念についても認識した。これらのようなイベントは、科学界及び公衆に等しく情報を提供し、この技術の責任ある開発を促すものである。

 近い将来膨大な機会が得られるということを認識しつつ、化学産業界もまたナノ技術影響研究に高い優先度を置いている。NNI 「化学産業展望2020 技術パートナーシップ」と呼ばれるコンソーシアムは、アメリカエネルギー省エネルギー効率と再生可能エネルギー局との協力で、『設計によるナノ物質のための化学産業R&Dロードマップ:基本から機能まで』というタイトルの包括的な白書を2003年に発表した。この文書は、ナノ物質産業の長期的成功を促進するためにアメリカの化学会社の中で前例のないレベルでの協力と連携を求め、環境、安全、そして健康に関する知識が重要な要素であることを強調している。”ナノ粒子使用における期待される成長は、ハザードの特定、曝露評価、そしてリスク評価に関する同時並行の取り組みを保証する”と白書は述べている。”化学会社は、物質の特性化、潜在的リスクの特定、そして安全と効果的な使用のためのガイドラインの作成分野におけるリーダーとして、このプロセスで主要な役割を果たす準備ができている”。

 EPA のSTAR プログラムは、ナノ技術影響調査への基金をすぐに授与することを計画しており、CBEN は、”ウェット−ドライ・イナターフェース”、すなわち、人工ナノ物質と、生態系及び生き物を含んで水中又は水ベースの環境において活性なシステムとの間の相互作用に関する研究を続けている。

 ”我々は、影響研究と特性化できるであろういくつかの研究プロジェクトを持っている”とクリノウスキーは述べている。”ナノ物質が土壌又は水供給系に入り込んだ時に何が起きるかを調べること”。ナノ粒子(一般的には水溶性ではない。したがって”ドライ”側)が水生環境(”ウエット”側)とどのように作用するかを理解することによって、研究者らは、生物適合ナノ粒子や有機汚染物質を分解するナノ構造触媒のような人の健康と環境を改善するであろう技術を作り出すことを希望している。ウェット−ドライ・イナターフェースはまた、ナノ物質の環境的運命(行方)と移動を確定するために主要な役割を果たす。

 環境保護局(EPA)、食品医薬品局(FDA)、及び職業安全衛生管理局(OSHA)のような規制当局は全て NNI に参加者しており、研究の進捗を注意深くフォローしつつ、彼らの視野の範囲でナノ特化の規制の枠組みの最終的な開発と実施に目を向けて、彼ら自身の知識ベースを構築している。現時点では、既存の規制はナノ物質に関連する懸念に適切に対応するために十分にしっかりしているが、リスクとハザードはもっと詳細に特性化されるので、その点は変更すべきというのが一致した見方である。

 ETC グループでさえ、モラトリアム(一時中止)の要求は撤回していないが、最近の進捗には元気付けられているように見える。”我々は政府から期待できるだけの合理的な応答を受けたと感じている”とムーニーは述べている。”そして、我々が指摘した問題を修正しようとする試みが行われている”。ムーニーは、個々の国がナノに特化した研究所プロトコールを適切に用意するなら、彼のグループはそのような国には最早モラトリアウムを要求しないと述べている。

 この研究活動の全てが当を得た時機に重要な段階に到達している。ナノ技術の弾丸列車は、夢にさえ見たことことのない魔法の場所に我々を連れて行くために大きな推進力を持って駅を出発した。この技術に対する公衆の不信は列車を脱線させる可能性があるが、多くの乗客は、ナノ技術の潜在的な便益と危険の両方の理解の増大が列車を脱線させず、発見への旅を続けることを可能にすることを希望している。

エルニー・フード(Ernie Hood)



化学物質問題市民研究会
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