EHN 2009年11月17日 論文解説
消費者製品中のナノ銀
魚に希望の光はない

解説:ゴードン・シェトラー
情報源:
Environmental Health News, Nov. 17, 2009
Nanosilver in consumer products: No silver lining for fish
By Gordon Shetler, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/nanosilver
オリジナル
ゼブラフィッシュ胎仔における複数サイズの金と銀のナノ粒子の毒性評価、他
Original:
Small. 2009 Aug 17;5(16):1897-910.
Toxicity assessments of multisized gold and silver nanoparticles in zebrafish embryos.
Bar-Ilan O, Albrecht RM, Fako VE, Furgeson DY.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19437466?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=2

Barrier Capacity of Human Placenta for Nanosized Materials
http://dx.doi.org/ [Online 12 November 2009]
Peter Wick, Antoine Malek, Pius Manser, Danielle Meili, Xenia Maeder-Althaus, Liliane Diener, Pierre-Andre Diener, Andreas Zisch, Harald F. Krug, and Ursula von Mandach

Project on Emerging Nanotechnologies, September 9, 2008
http://www.nanotechproject.org/news/archive/silver/

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2009年11月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehn/ehn_091117_nanosilver.html



 ウイルスよりも小さく200以上の消費者製品中で使用されている銀ナノ粒子は魚の胎仔を殺し突然変異を起こさせることができることを新たな研究が示している。

 銀の小さな粒子−接触してバクテリアを殺すことができる潜在的な抗菌剤は、洗濯機、冷蔵庫、衣料、おもちゃなどを含んで消費者製品中でますます普及するようになってきた。

 しかしこれらの微細な銀粒子の使用が増大するにつれ、科学者らは環境とヒトの健康への潜在的な影響について懸念し始めている。

 ナノ銀を含む多くのナノ粒子は排水に流され、下水処理設備で除去されることはなく、湖や川に放出され、そこでは魚やその他の水生生物が暴露する。これらの銀ナノ粒子の環境への影響の調査は始まっているが、それらが生態系に入り込んだときに何が起こるかについての答はまだない。

 ”我々はそのように大量のナノ粒子を作ったことは早まった行動であった”とユタ大学の研究者ダーリン・ファーガソンは述べた。”我々はそれらを消費者製品に投入し、その結果、それらを生態系に放出する前に、これらの新たなナノシステムをもっと時間をかけてよく調べるべきである。”

 ナノテクノロジーは、2015年までに1兆ドル(約100兆円)の産業となり、ある人々はそれは次の産業革命の中心になるであろうと言う。ワシントンを拠点にナノテクノロジーを追跡している非営利団体である新興ナノテクノロジープロジェクト(PEN)によれば、日焼け止め、塗料、ビタミン剤、食品添加物、電子機器、自動車、家電などナノ物質を使用している製品の数は2006年以来380%増大している。

 ナノ粒子は、長さが100ナノメートル以下で生成された金属又はその他の物質である。1ナノメートルは10億分の1メートルである。ヒトの血液細胞は8,000ナノメートルであり、HIVウイルスは約13ナノメートルである。

 米環境保護庁(EPA)は最近これらの微細な粒子の環境的影響をよりよく理解するための新たな研究戦略を発表した。さらに昨年、EPAと国家科学基金はナノテクノロジーの環境的影響を検証するためにUCLAとデューク大学に新たなセンターを設立した。

 ”ナノスケールの物質を有益にする同じ特別な特性は、また、ヒトと環境に潜在的なリスクを及ぼすナノ物質の特性でもある。この点に関しては、これらのリスクを十分に評価するための情報は十分には存在しない”とEPAは1月に発表した報告書で述べている。この報告書は、ナノ粒子を製造又は使用している会社からの自主的な情報を収集するEPAの”ナノスケール物質スチャワードシップ・プログラム”を概説したものである。


Stacey L. Harper
ナノ毒性のテストに使用されたゼブラフィッシュの胎仔
 新たな実験で、医薬品科学の教授ファーガソンはゼブラフィッシュの胎仔を実験室で銀ナノ粒子に暴露させた結果、あるものは死に、他のものは劇的な突然変異を起こしていることを発見した。

 ”魚のあるものは著しく変形し、直線であるべき魚がほとんど数字の(9)又はカンマ(,)のようになっていた”と彼は述べた。

 ナノテクノロジー・ジャーナル『Small』に8月に発表された研究によれば、ナノ銀は、目、浮き袋、尾を奇形にし、充血性心臓疾患を引き起こす心臓周囲の液体を生じさせていた。

 ファーガソンは、が胎仔を殺さない濃度でナノ銀がどのように振舞うかを観察するために、致死的ではない濃度、約0.01g/l を見つけるまでテストを実施した。

 科学者らはこの毒性がヒトや環境にとって何を意味するのかまだ理解していない。銀ナノ粒子の魚と他の生物でのテストは、それらが人間の体とどのように作用するのかを理解するための重要なステップである。これらのナノ粒子が特定の生物に蓄積するのか又はどのような種類のダメージを引き起こすのか明確ではない。

 ”ゼブラフィッシュは我々と同様な組織及び器官を持っている”とファーガソンは述べた。”それらは肺を持っていないが、肝臓、腎臓、そして2室だけではあるが心臓を持っており、また血液脳関門を持っている。”

 人の健康への潜在的な危害についての懸念を生じさせるものとして、他の最近の研究がある金属ナノ粒子がDNAを損傷する又は細胞を殺すことを示している。ある新たな研究はナノスケール粒子胎盤を通過して子宮に入り込むことを見出した。

 今回の魚(訳注:ゼブラフィシュ)の研究によれば、異なる物質は異なる影響を及ぼす。この研究では金と銀のナノ粒子の両方がテストされたが、銀ナノ粒子だけが全てのサイズで魚の胎仔に有毒であった。金のナノ粒子は影響を示さなかった。他の研究は銅ナノ粒子がラットに有毒であることを示唆している。

”ナノ粒子の化学的成分は毒性という点において、少なからず重要である”と著者らは報告書の中で述べている。

 ファーガソンらは、ゼブラフィッシュは、”ナノ物質の特性として毒性が最小又は毒性がないというレベルを特定し、ナノスケールの物質の合理的な設計に導くために”使用することができるであろうと述べた。

 ”数百万人の人々が写真を現像をした時に環境中に排出された銀は、環境への銀のわずかな追加が大きな影響を招くことを我々に教えた”と元米地質調査所(USGS:U.S. Geological Survey)の地球科学者であり、新興ナノテクノロジー・プロジェクト(PEN))の報告書の主著者であるサムエル・ルオマ博士は述べている”。同プロジェクトはウッドロー・ウイルソン国際学術センター(WWIC)及びピュー・慈善基金によって設立された産業、政府、及び科学者のパートナーシップである。

 ”環境中にナノ銀がいったん放出されると、たとえその濃度が水生生態系に有毒なレベルまで上昇しても、我々はナノ銀を検出する方法がない”とルオマは、報告書『ナノスケール銀 希望の光はないのか?』(訳注1)が昨年発表されたときに声明の中で述べた。

 産業グループである銀ナノテクノロジー・ワーキング・グループは、銀イオンの安全で規制された使用の長い歴史があり、そのことは”EPAが適切に銀ナノ粒子のリスクを適切に管理していることを示唆するものでる”と述べた。

 銀イオンは、EPAに承認された藻の処理剤、水フィルター、消毒剤などを含む様々な抗菌剤が過去60年間、使用されてきた。産業グループは、それらと新たなナノ銀との間には、名前以外には相違はなく、したがって”顕著な新たなリスク”はないと述べている。

 しかし、PEN の提携研究者であるトッド・クイケンは、銀イオンとは異なり、消費者製品に使用される粒子は”その特性のために意図的にナノスケールで生成されており”、それらが接触する何に対しても異なる反応を示すかもしれないと述べた。”ナノ銀は従来の銀イオンやコロイド状の銀とは異なる反応をすることを示す研究がいくつかある”と彼は述べた。

 EPAの報道官デール・ケメリは、ナノテクノロジーの分野は、”比較的新しく、潜在的な環境及び人の健康リスクに関する科学的情報は限定されている”と述べた。

 その結果、彼はEPAはどのようにして潜在的なリスクを評価するかを解決するために科学者委員会と協議していると述べた。9月にEPAは、日焼け止め、塗料、自動車、電子機器などの製品で使用されているナノ物質に何が起きるのか、そして潜在的な健康と生態系の問題をどのようにして回避するのかを特定するための研究戦略を発表した。

 UCLAの環境工学教授であり、カリフォルニア大学ナノテクノロジー環境影響センターのメンバーであるエリック・ホークは、銀は人に対して有毒ではないという知識が普及していると述べた。しかし彼は、銀ナノ粒子の使用が増大した近年までは、人の銀ナノ粒子への暴露は多くはなかったと付け加えた。PENによれば、今日、259製品が市場に出ている。

 ”これらの物質はとてつもない潜在的能力をもっているが、我々は注意深い楽観主義をもって進める必要がある”とホークは言った。”我々は懐疑的な人々を必要とするが、不当に恐れたり不必要に恐れを煽ってはいけない”。

 デューク大学ナノテクノロジー環境影響センターのディレクターであるマーク・ウィズナーはナノ物質が個々の動物よりも生態系に及ぼす影響を研究している。彼のセンターは、30の異なるメスコム−実験用の小さな生態系施設−を建設中で、そこには少量のナノ粒子が放出されて実験が行われる。

 ”分子から微生物レベルまで見れば、予測もつかないようなものを我々は見ることになるであろう”とウィズナーは述べた。”例えば、DDTについて微生物から微生物への影響を予測するときに、それらが生物蓄積するということを想像しなかったかもしれない。競合するシステムを見ると初めて明確になる生態系レベルの影響がある”。

 ホークは銀粒子は環境中で動的なので、それらは”異なる形状、反応、新たな粒子形成をする”。
 ”それらがよい又は悪いと結論を出すにはまだ早すぎる”と彼は述べた。

 銀ナノ粒子の毒性については答えが必要な多くの疑問がまだたくさんあるとPENのクイケン述べた。
 ”製品はすでに市場に出ているが、我々はそれらが本当に安全かどうか分かるのを待っている”と彼は述べた。


訳注1
WWICS/PEN 2008年9月9日 ナノスケール銀 希望の光はないのか? 既存の知識は評価の出発点 研究の必要性に光を当てる


化学物質問題市民研究会
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