エンバイロンメンタル・ディフェンス/デュポン
2007年6月21日
ナノ・リスク・フレームワーク
エグゼクティブ・サマリー

情報源:A Pertnarship of Environmental Defense and DuPont
Posted on: June 21, 2007
Nano Risk Framework Executive Summary
http://www.nanoriskframework.com/content.cfm?contentID=6498
PDF 版

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年6月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/e_defence/e_Dupont_Nano_Risk_Framework_Summary.html


 2005年6月14日付けウォールストリート・ジャーナルに発表されたデュポン社会長・CEOのチャド・ホリデーとエンバイロンメンタル・ディフェンス代表フレッド・クルップの共著によるコラム『ナノテクを正そう(Let's Get Nanotech Right)』は、もし我々がナノテクが約束する便益を享受しようとする場合に社会が奉ずるべきいくつかの約束の概要を示している。特に、それは潜在的な環境、健康または安全に関するリスクを特定し取り扱うために、一緒に取り組む関心ある利害関係者による広範な連合を求めている。その後3ヶ月足らずでエンバイロンメンタル・ディフェンスとデュポンは、人工ナノスケール物質の責任ある開発、製造、使用、最終処分またはリサイクリング、すなわち製品の全ライフ・サイクルを通じたフレームワーク(枠組み)を開発するために提携することとなった。

 我々が提案したものは、ナノスケール物質の潜在的なリスクを評価し取り扱うための包括的で実際的で柔軟性のある”ナノ・リスク・フレームワーク”すなわち体系的で統制の取れたプロセスである。このフレームワークは、そのような物質の応用を開発する際に組織が考慮すべき主要な問題点に関する、また適切なリスク評価とリスク管理の決定を行うために必要な重要な情報に関する指針を提供するものである。このフレームワークは、ユーザーが合理的な仮定と適切なリスク管理の実施を用いることによって不完全または不確かな情報を処理することを可能とする。さらに、このフレームワークは、情報生成の仕方を示し、新たな情報が入手可能となった時に仮定、決定、及び実施を更新するためのシステムについて述べている。そして、このフレームワークはどのようにして利害関係者と情報及び決定について意思伝達するかに関する指針を提供する。

 我々は、このフレームワークの採用はナノ技術製品の責任ある開発を促進し、公衆の同意に役立ち、ナノ技術の安全性に関する合理的な政府の政策のための実際的なモデルの開発を支援することになると信じている。

 我々は全体的なアプローチについて広範な国際的利害関係者にフィードバックを要請し、それを反映してきた。我々はまた、このフレームワークをいくつかの物質と応用に関し、様々な開発段階で実験的にテストしてきた。

 他のリスク管理ツールに精通するユーザーはこのフレームワークの中にいくつかのなじみの要素を認めるであろう。さらに、それはいくつかの新たな典型的な要素を反映している。例えば、それは、リスクを評価し意思決定を導くために、与えられたナノ物質及びその応用に関連する特性、ハザード、及び暴露情報に関する情報提供用のプロファイル(またはベース・セット)を開発するよう勧告している。特に、このフレーム・ワークは、従来の典型的なリスク管理プロファイルよりも物理化学的特性、環境毒性、及び環境的運命にについて、もっと多くの情報を提供するライフサイクル・プロファイルを開発することを勧告している。

 このフレームワークは情報駆動型である。それはどのような物質についてもリスクまたは安全性を暗示的に仮定することはない。特定のハザードまたは暴露の可能性に関する決定を導くための情報は少ないかほとんどない場合には、このフレームワークは、その選択に適切な管理方法とともに、”合理的な最も悪いケースを仮定する”、又は、その代わりに、もっと良い特性を持つ物質又はプロセスと比較することを提案している。このフレームワークはまた、特に製品の市場への投入が間近になったらなら、より正確な情報と置き換え、それに従い管理方法に磨きをかけることを促すよう設計されている。

 このフレームワークは柔軟性を持つよう設計されているが、柔軟性にはユーザーがその実施に当たり透明性と説明責任を果す責任が伴う。最後に、このフレームワークは、ユーザーがその物質についてどのような情報を持っているかをまとめ、文書化し伝達するためのツールとして、情報のどこが不完全であるかを確認するためのツールとして、情報ギャップがどのようして処理されるのかを説明するためのツールとして、そしてユーザーのリスク管理の決定と行動の背後にある理論的根拠を正当化するためのツールとしての機能を果す。

 このフレームワークはアウトプット・ワークシート[Word Doc]を含んでいるが、それは評価、管理、及び情報伝達に役立つことを意味している。ワークシートは、このフレームワークによって要求される全ての情報を取りまとめ、その情報の全体的な評価をとらえ、その結果の管理決定を記録するためのテンプレートを提供する。

フレームワークの全体像

 このフレームワークは6つの異なるステップからなる。それは開発が進み、新たな情報が入手可能になった場合には、ステップを繰り返して使用するよう設計されている。

■ステップ1.物質と応用について記述する

 第1ステップは、開発者が所有するまたは文献中の情報に基づき、ナノ物質と意図する用途の一般的な記述を開発することである。これらの一般的な記述は、ステップ2で、物質の属性、ハザード及び暴露のもっと完全なレビューを提供する。ユーザーはまた、このステップ及び他のステップにおけるデータのギャップを埋めるのに役立つ類似の物質と応用を特定する。

■ステップ2.ライフサイクルを描写する

 第2ステップは、3つのプロファイル、すなわちナノ物質の特性、固有のハザード、及び物質のライフサイクルを通じての関連する暴露を開発するプロセスを定義することである。特性プロファイルはナノ物質の物理的及び化学的特性を特定し特性化する。ハザード・プロファイルはナノ物質の潜在的な安全、健康及び環境へのハザードを特定し特性化する。暴露プロファイルは、意図した用途及び事故時の放出を含んでナノ物質への人または環境への暴露の機会を特定し特性化する。

 ユーザーは、物質の入手から、製造そして使用、そして最終処分またはリサイクリングまでナノ物質の全ライフサイクルを考慮する。そうすることでユーザーは、物質のライフサイクル中に物質の特性、ハザード、及び暴露がどのように変化するが、(例えば、製造中または使用中の物理的相互反応のために、または処分後に分解が起きるかもしれない化学的変化から)検討する。このステップは、これらのプロファイルの開発を導くための情報のベースセットを提案する。様々な条件、(例えば、開発段階、用途のタイプ)はユーザーがいかにそのベースセットを完全に完結するか、またはユーザーは追加的情報をプロファイルに取り込むかどうかに影響を与えるであろう。3つの全てのプロファイルは、例えば、暴露情報はどのハザードが調査のために最も重要かを示唆するかもしれないし、その逆かもしれない−というようにお互いに影響を与えあう。同様に、物質の特性はどのハザードまたはシナリオがもっとも起こりそうか示唆するかもしれない。

■ステップ3.リスクを評価する

 このステップは、プロファイルの中に収集された情報の全てが、この特定のナノ物質とその予期される応用によって示されるリスクの性質、程度、及び起こる見込みを特定し特性化するためにレビューされる。そうすることで、ユーザーは、データを生成するか、またはそのようなデータの代わりに合理的な最も悪いケースの仮定または数値を使用することによって、ライフサイクル・プロファイル中のギャップを検討し、それらのギャップを優先付け、それらをどのように扱うか決定する。

■ステップ4.リスク管理を評価する

 ここではユーザーはステップ3で特定されたリスクを管理するための入手可能な選択肢を評価し、取るべき行動の方針を勧告する。選択肢はエンジニアリング管理、防護装置、リスク・コミュニケーション、及び製品またはプロセスの修正を含む。

■ステップ5.決定し、文書化し、行動する

 このステップでは、製品開発の適切な段階にユーザは適切なレビューチームと相談し、開発と製造を継続するかどうか、あるいはどの程度にするかを決定する。透明な意思決定プロセスを通じて、ユーザーはこれらの決定とその根拠を文書化し、内部及び外部の関連する利害関係者と適切な情報を共有する。ユーザーはまた、更なる情報が必要であり、それを収集するための行動を起こすかもしれない。そしてユーザーはナノ物質またはナノ物質を含む製品のためのリスク評価とリスク管理決定のさらなる更新とレビューの引き金となるタイミングと条件を決定する。情報、仮定、及び決定を文書化するためにワークシートが付属(appendix)の中に用意されている。

■ステップ6.レビューし適合させる

 通常の定期的なレビュや必要が生じて行われるレビューを通じて、ユーザーはリスク評価を更新し再度実行し、リスク管理システムが期待通りに機能することを確実にし、新たな情報(例えば、ハザードデータ)、あるいは新たな条件(例えば、新たな又は変更された暴露パターン)の出現に対して、これらのシステムを適合させる。レビューは多くの状況(例えば、開発工程、製造又は用途の変更、またはハザード又は暴露に関する新たなデータ)が引き金となるかもしれない。ステップ5にあるように、ユーザーは変更、決定、行動を文書化するだけでなく、適切な情報を関連する利害関係者と共有する。
 これらの6ステップを通じて、このフレームワークは、実際的で包括的で透明で柔軟なリスク評価と管理のためのプロセスを導くことを求めている。

 このフレームワーク及び、様々なナノ物質と応用の実施を実証する事例調査はPDF版をダウンロードすることが可能である。

訳注1:
 エンバイロンメンタル・ディフェンス−デュポンの提案に反対するフレンドオブアース(FoE)・オーストラリア、ETCグループ(カナダ)、天然資源防衛協会/INRDC(アメリカ)等の環境団体、消費者団体、労働組合、約20団体が、「自主的なリスク評価は最悪人をチェックせずに放置し、厳格な規制と強制力のあるリスク評価を遅らせるために利用される。人の健康と環境をナノ毒性のリスクから守ることは”任意(optional)”であってはならない」 とする公開書簡を発表した。


化学物質問題市民研究会
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