ドイツ環境審議会(SRU)2011年9月
ナノ物質管理のための予防戦略

政策決定者のためのサマリー

情報源:German Advisory Council on the Environment (SRU)
PRECAUTIONARY STRATEGIES FOR MANAGING NANOMATERIALS
Summary for policy makers September 2011
http://www.umweltrat.de/SharedDocs/Downloads/EN/02_Special_Reports/
2011_09_Precautionary_Strategies_for_managing_Nanomaterials_KFE.pdf?__blob=publicationFile


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年9月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/SRU/110901_SRU_Precautionary_Strategies_for_Nano.html

内容

論点:予防原則と論点

 新しい技術は、多くの異なる方法で我々の生活を豊かにし、緊急の社会的な問題の解決に役立つ。ドイツのような国もまた、世界的な競争に勝ち残るために革新に依存している。しかし、新たな技術は、その特性と範囲が時間が経過してやっと少し分かってくるようなリスクをもたらす。したがって、新しい技術をどのように開発し続けるのか、どこでそれらを制限するのか、に関する決定は、しばしば、不確実な条件の中でなされる。

 過去において、もし、危害を及ぼすという可能性について十分に科学的に証明されなければ、環境又は健康に関わるという理由で商業的活動が制限されたということは通常はなかった。しかし、しばしば”革新”で起きることであるが、もし、物質、製造プロセス、又は製品が危害を引き起こすということを示す実験と発見が欠如しているならば、法律で定義されるような危険防止への従来のアプローチに用いられる十分な程度の”蓋然性(probability)”は与えられない。苦い経験をした後、今では、厳格なコスト・ベネフィット分析を条件として、たとえ科学的には結論がでていなくても、人の健康と環境へのリスクもまた予防(precautionary)に基いて回避されるべきであるということが受け入れられている。これが、欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union)の第191条(2)の二番目の文章の中で規定されている共同体の目的、及び持続可能な開発の国際的な法原則(リオ宣言の第15原則)対応するドイツ基本法(German Basic Law)第20条aに規定される環境保護の国家の目的の拡張として、法律の中で広く堅固に確立されている予防原則の背後にある考えである。

 予防原則は、科学的証拠が決定的ではない又は専門家の間で議論されているが、予備的なそして客観的なリスク・アセスメントにより、物質、製造プロセス、又は製品が人の健康又は環境に害を及ぼすかもしれないという正当な懸念が提起されている場合に、特に適用される。リスク防止において、危害が起きるかもしれないとするこの抽象的な懸念(又は合理的な疑い)は、道理にかなった国家の行動にとって十分である。それは、危険な領域に達する前の早期の国家の介入を許すものである。

 予防のための予防の執行を回避するためには−これはどうあろうとも法的に問題があるが−予防的介入のための発動基準を特定することが最初に必要である。これは二段階のプロセス、(科学ベースの)リスク・アセスメント((science-based) risk assessment)と規範的リスク・エバリュエーショ(normative risk evaluation)がかかわる。

 それでも、まだ懸念の原因について不確実性があるなら、予防原則は、法的措置を可能とするために立証責任の逆転(a reversal of the burden of proof)を求める。そのあと、危険(danger)であるという推定、したがって懸念の原因に反駁するのは、リスク生成者次第である。

 リスクを防ぐために行動が求められるときに、広い範囲の利用可能なオプションがある。革新のための機会を開く経済的権利を考慮して、オプションの選択は、潜在的などのような危害の程度も含めて、懸念を引き起こす抽象的な可能性によって知らされるべきである。
 とりわけ危険に関する知識(法的な意味において)が大いに不足しているナノ物質の導入と使用は、予防原則が重要な役割を果たすべき状況の典型的な例である。予防原則は、ナノ物質のリスクと機会が体系的に特定されアセスされることを求める。これは、潜在的なリスクを制限しつつ、技術の開発を促進する規制的決定を行なうための根拠を提供するものである。率直に機会とリスクのバランスをとることによって、予防原則は公衆の信頼とナノ物質の使用についての受容を得ることに役立つことができる。

 ドイツ環境審議会(SRU)は、新たな技術に固有な不確実性を取り扱う指針原則として、社会、政府、法律及び行政プロセスの中で、予防原則に大きな場所を与えることに賛成である。ナノテクノロジー、特にナノ物質の事例を調査するに当り、この報告書は、予防原則が今日、すでにどの程度、使用されているのか、どこに不足とギャップがあるのか、そして、どうすればこれらを解決することができるのかについて分析する。ナノテクノロジーの主題は、この新たな技術のリスクを取り巻く脈絡に焦点を合わせるレンズとして働くので、この種の社会的な議論の様々な調査に特に適している。全ての技術的領域に根本的な変化をもたらすそれらの最先端の特性と範囲のために、ナノテクノロジーは21世紀の主要な技術の中に位置づけられる。同時に、潜在的なリスクを予知することは異質であり、困難なことである。これは、一部には物質そのものの新たな特性を扱わねばならず、また一部にはそれらの構造、製品、及び応用の多様性を扱わなくてはならないからである。


ナノ物質の機会

 抗菌処理された家庭用品のように、今日、’ナノ’として売られている多くの製品の中で、ナノテクノロジーを構成する要素は限定的であり、又は便益の疑わしいものがある。しかし、この種の消費者製品は、ナノテクノロジーの広い範囲の中の小さな部分でしかない。技術的にそして経済的にもっと重要なのは、ナノプロセスとナノ物質の利用がエレクトロニクスや化学産業のプロセス中の中間製品のように、明白には見えないような応用の部分である。ナノテクノロジーが長期的には広い範囲で新たな技術的機会を開くことは疑いない。ある領域では、これらの機会が単に経済的な便益だけでなく、例えば医療におけるように、大きな社会的便益をもたらすことを期待することができる理由がある。ナノテクノロジーの環境的な機会もまた、広く強調されている。しかし、現在までのところ、そのような期待をもたれたもので実現したものはほとんどない。今日までになされたわずかなライフ・サイクル・アセスメントは、ナノテクノロジーの応用は必ずしも全く小さなエコロジカル・フットプリントではないことを示している。それにもかかわらず、もっと長い期間では、太陽光技術やエネルギー貯蔵のような分野で、決定的な改善が期待される。


ナノ物質のリスク

 リスク研究の重要な予備的発見は、ナノ物質はそれらと同一成分でマクロサイズのもの(counterparts)と、単に物理的及び化学的に異なるだけでなく、生物組織中と環境中における挙動と影響も異なるということである。問題ある領域のひとつは、ナノ物質は、従来の物質と生物学的に著しく異なり、また、環境媒体と生物組織の中をマクロ構造の固体よりもっと容易に移動することができるということである。したがって、生物学的な影響は、ナノ物質は従来の同等物質と同一には括れず、’新規’物質として取り扱われるべきもうひとつの領域である。

 ナノ物質のリスクについて一般的に述べることは不可能である。現在の知識に基づけば、いくつかの物質は本質的に懸念を生じさせないが、他の物質に関する研究は著しく潜在的なリスクを示している。現在までのところ、今日、作られ使用されているナノ物質で、環境又は人の健康に実際に危害を及ぼしたという科学的な証拠は存在しない。しかしこのことをもって、全てが明快になったとすることはできない。それは多くのナノ物質について、完全なリスク評価のための標準化されたテスト手法がなく、それらの潜在的な有害影響の知識は限定されているからである。多くの製品と用途が(予防原則の脈絡で定義されたように)、懸念を提起している。これらには、消費者用スプレー中でのナノ物質の使用、銀ナノ粒子を含む消費者製品の増加、発がんの可能性あるカーボン・ナノファイバーやナノチューブの製造と使用などがある。今後数年間にもっと多くの製品が市場にでてくることが予想される。したがって、懸念ある製品の数が増加するというリスクがある。製造プロセス、製品、排水、及び固体廃棄物中のナノ物質濃度もまた、増大しそうである。

 いくつかのナノ物質の特性には問題があるが、現在の知識に照らして見れば、ナノ物質の具体的な危険性はそれほど多くは見えておらず、リスク研究と規制は技術の速い発展についていくのがやっとである。ひとつの主要な局面は毒性テストにおける特定の手法的困難さに関連しており、例えば、テストされるべき物質の準備と標準化である。しかし、同様に大きな問題は、新たな物質の途方もない多様性である。ひとつの物質へのわずかな小さな変更が、影響と環境的な挙動に相違を生じる数十、あるいは数百の異る類型を生み出すことがあり得る。


ナノ物質への予防的アプローチのための勧告

 この報告書は、予防原則のナノ物質への首尾一貫した適用を確保することを目指している。しかし、このことは、全ての潜在的にリスクのある製品と物質が制限される又は禁止されるべきということを意味するものではない。予防原則の目的は、革新を止めることではなく、機会とリスクのバランスを取ることである。ドイツ環境審議会(SRU)は、懸念の理由がある時には、このバランスを取ることを可能とする広範な措置を提案する。主要な勧告は以下に取りまとめられている。

行動のための主要な勧告

  • ナノ物質の製造者は、ナノ物質のリスクに関するデータを提出するための、もっと厳格な義務を課せられるべきである。
  • リスク研究は、公的な資金供給がナノテクノロジー研究のかなりの部分を占めるようにすべきである。
  • 既存の対話活動は、社会の広範な横断分野に拡大されるべきである。
  • ナノ物質の全てを包含する定義のために、上限サイズを300nmとすることが勧告される。もっと小さなサイズ限度が特定の規制目的のためには適切かもしれない。
  • 法律の多くの領域に、予防原則に基いて可能なかぎり速やかにふさぐべきナノ固有の規制ギャップがある。しかし、この報告書の分析は、ある領域では、他の物質や製品に関してはなされている予防原則の適用が欠けていることを明らかにしている。したがって多くの勧告がナノ物質の規制を超える行動の必要性に関連している。
  • 市場の透明性を強化するために、既存のラベル表示義務は、’ナノ’という表示を追加するよう補足されるべきである。ナノ物質を放出する又は(抗菌特性のような)特定の特性を達成するためにそれらを使用する製品はまた、義務的な表示が求められるべきである。他のナノ製品については、準公的製品登録としての届出義務が導入されるべきである。
  • 化学物質規則(REACH)には広範な変更が必要である。ナノ物質は、あたかも生得の物質であるように一貫して取り扱われ、それ自身の書類をもって登録されるべきである。中核となるデータセットが、それらのサイズに従い、観察又は予備的なリスク見積りを確実にするために提出されなくてはならない。量的閾値はナノ物質のために下げなくてはならず、標準的情報要求は修正される必要がある。認可はもっと密接に予防原則に基くべきである。ナノ物質を単なる抽象的な懸念に基いて制限する又は禁止することを可能とすべきである。
  • 製品法では、ナノ物質は常に別に承認されるという認可手順を確実にしなくてはならない。規制の弱い製品については、予防原則に基いて介入するための権限が与えられるべきである。
  • 環境法では、研究と評価のための相当な必要性がある。産業設備の操業者は抽象的な懸念をもたらすナノ物質の排出を最小にするよう義務付けられるべきである。
1. リスク研究の強化

 技術が責任ある発展を続けるためには、現在、広がっている技術進歩とリスク知識との間のギャップふさぐ必要がある。この目標を達成するために次のことがなされるべきである。

 ナノ物質の製造者は、ナノ物質リスクに関するデータ提出について、もっと厳格な義務を課されるべきである。既存のヨーロッパの化学物質規則は、この目的のためによい枠組みを提供しているが、ナノ物質のために修正されなくてはならない。(下記参照)

 リスク研究は、公的な資金供給がナノテクノロジー研究のかなりの部分を占めるようにすべきである。

 科学的リスク評価がデータ不足のために可能ではない場合、予備的リスク評価が、懸念ある又は懸念なしを示す特定の基準をベースに、実施されるべきである。これは、不確実性の条件下で、リスクと機会のバランスを取ることを可能にする。ドイツ環境審議会(SRU)は、ナノ物質に特有の潜在的な懸念を決定するためのベースとして、基準と意思決定ツリーを提案する。

2. 社会的対話の推進

 バランスに関し、ドイツ環境審議会(SRU)は、現在までドイツ及びEUレベルで実施されている対話の取り組みを積極的な観点でとらえる。しかし、今日までに確立された制度と対話フォーラムは、専門家の比較的小さなグループに届いただけである。その結果、ナノ物質の開発、使用、及び規制は、一般的に広範な公衆に見えないところで進み続けている。したがって、ドイツ環境審議会(SRU)は、既存の対話活動を社会のより広い横断分野に拡張する必要があると見ている。そのようにするにあって、全ての情報伝達プロセスは透明性のあるやり方で運用され、平等な手段でリスクと機会に目を向け、重要な詳細を強調し、消費者や関心を持つ公衆のような非専門家を含めることを確実にする配慮が払われるべきである。特に、ドイツ環境審議会(SRU)は、ナノ物質に関する社会的な対話を継続するために既存の制度に権限を与え、さらに社会的な科学研究を伴いつつ制度化することを唱える。

3. ナノ物質の規制のための法的な枠組み

 ナノ物質は様々な特性を持つが、今日製造されているナノ物質は、基本的にはすでに包括的な規制(とりわけREACH)の対象である化学物質である。それらはまた、生得の特性(in their own right)によって規制される製品中で使用されている。したがって、ナノ物質のどのような特定のルールも既存の法律の上に構築されるべきである。しかし、非常に多くの異なる政策領域が影響を受けるので(化学物質、廃棄物、汚染管理、食品、化粧品等)、非常に多くの個別の法律を修正すると、公衆は透明性の喪失を被る。体系的な理由から、法案は、ナノ物質の管理のための分野横断的なベースのもとに、ある基礎となるルールの規定が採用されるべきである。したがってドイツ環境審議会(SRU)は、ある分野横断的な規定が、ひとつの一般的なレベルでカバーされることができるよう、様々な分野特定の修正をひとつの法案に統合することを提案する。提案される法案はヨーロッパ・レベルで立法化されることが望ましい。一般条項は、最初に、そして最も重要なこととして、すべてを包含する定義を与え、予防原則の適用を求め、その原則に基く個々の行動のための権限を確立すべきである。規制のための枠組みとして機能することを意図する全体を包含するナノ物質の定義について、ドイツ環境審議会(SRU)は、上限サイズとして300nmを勧告する。この上限サイズは、専ら一次粒子に関連すべきである。一次粒子のアグロメレート(agglomerate)やアグリゲート(aggregate)はサイズ制限なしに、この定義によってカバーされるべきである。この定義は特定の規制的目的のために、例えば、どのようなリスクをも及ぼさない物質を除外するために、適当に狭めることができる。

4. ナノ特有の規制のギャップを閉じる

 ナノ物質は、通常、支配的な法律の中で、単独に取り扱われることはない。例えば、ナノスケールの二酸化チタンは、法律の中では、サイズの大きな粒子からなる従来の二酸化チタンと全く同様に扱われる。このことは、ある物質のナノスケール形状のものは従来の同等のものとは異なるリスクを及ぼすことができるので、問題を生じる。既存の法的制限は手ぬるすぎることが分かるかもしれない。例えば、あるナノ物質は、制限が最初に設定された従来の物質より反応性が高かいかもしれない。ナノ物質のリスク見積りは通常、別に要求がなされる必要のある、追加的なテストとデータを要求する。この種のナノ特有の規制のギャップは可能なかぎり速やかに閉ざされるべきである。技術的実施文書の改訂と共に、これはまた、法の様々な領域に対して変更が必要となる。

 この報告書の中の分析は、一般的にナノ物質に関する特定の規制のギャップだけでなく、他の物質や製品にも適用される化学物質、環境、及び製品に関する法律の様々な領域で、予防原則の広い範囲での適用不足を示している。この報告書で提案される法的変更のいくつかは、他の物質及び製品の規制のためのモデルとしても役に立つかもしれない。

5. ラベル表示と製品登録

 予防的な理由で、ドイツ環境審議会(SRU)は、製品中でのナノ物質の使用に関し、もっと透明性を高める必要性を検討している。一方、当局は、もし特定の危険の兆候が知られるようになったなら、早急に対応することができるよう、市場の概要を少なからず得ることができなくてはならない。他方、消費者は、一般的に選択の自由を許されるべきである。したがって、とりわけドイツ環境審議会(SRU)は下記を提唱する。

 その成分がすでに容器に表示されなくてはならない(食品のような)製品については、ラベル表示は、追加的な’ナノ’という表示で補足されるべきである。新たなラベル表示要求は、ナノスケール成分を(抗菌特性のような)特定の特性を達成するために用いている、あるいはナノ物質を放出する製品にのみ導入されるべきである。

 合成ナノ物質であるが、ラベル表示要求の対象とならないナノ物質を含んでいる製品については、届出要求が導入されるべきである。この届出要求は、準公的に製品登録されるべきである。もし特定のリスクがナノ製品の使用に帰するなら、その事実は、使用に関する情報の提供により、消費者に注意の喚起がなされなくてはならない。

6. 化学物質法の改正の必要性

 ナノ物質は、それらが登録され、テストされ、評価され、ラベル表示され、個別に取り扱われることを確実にするために、生得の権利として、一貫して取り扱われなくてはならない。ナノ物質はまた、定義され、特定の法的義務に焦点が当てられるべきである。

 REACHでは、ナノ物質は、それ自身の書類により登録されるべきである。既存物質のための移行期間と特定物質のために作られる例外は、ナノ物質には適用されるべきではない。量的閾値はナノ物質のために低くしなくてはならない。登録のための標準的な情報要求もまた、修正され、補足されなくてはならない。ドイツ環境審議会(SRU)は、さらに追加的に、ナノ物質のサイズにより範囲が変わる中核的データセットの導入を提唱する。中核的データセットは、ナノ物質が年間1トン以下の量で製造されても、やはり提出されるべきである。全てのナノ物質について、ある予備的リスク見積りが疑いの根拠を明らかにしたなら、包括的な化学物質安全報告書は義務的とすべきである。

 REACHの中に、予防原則に従う介入の法的根拠を作る必要がある。

 人の健康または環境に深刻な影響を及ぼす単なる可能性であっても認可要求を正当化することができるようにするために、REACHの下に認可を求める権限が体系的に作り上げられるべきである。これは、予防原則に従い、申請者への立証責任によって反証できる危険推定を含むべきである。

 抽象的な懸念が特定されたなら、可能なかぎり速やかにナノ物質を禁止又は制限することを可能とすべきである。

7. 製品法の改正の必要性

 製品法のある分野では、予防原則に基く規制制度をすでに持っている。ここでは、ナノ物質の特別な特性が考慮されることを確実にすることが、ただひとつの問題である。一般的にこのことは、ナノ物質の認可は個別に適用されなくてはならないようにするために、既存の認可手続き(食品、食品接触物質、及び化粧品など)は、修正して適合させなくてはならないことを意味する。そのような認可は、第一に、ナノ物質の使用が安全であることが証明された場合にのみ、与えられるべきである。未解決のリスク評価手法と関連するテスト標準に関し、オプションのひとつは、その後のテスト実施を条件に、予備的承認を与えることであろう。二番目に、もし製品中のナノ物質を検出するための手法が存在する場合にのみ、認可が与えられるべきである。

 今日まで弱い規制の対象となっていた製品について、もし、’単に’抽象的な懸念しかない場合、当局が、(認可を求める又は制限とラベル表示要求を課す権限のような)措置を取るための基礎が規定されるべきである。これらの権限は、ドイツ環境審議会(SRU)によって提案された分野横断的法律(上記参照)に含めることができる。

8. 環境法の改正の必要性

 環境をナノ物質から守ることについての基本的な問題は、それらの環境的放出、挙動、及び影響についてのつぎはぎだらけの知識である。このことは、政策決定者らが準法令レベルの制限を定めるために科学的ベースが十分ではないことを意味する。したがってドイツ環境審議会(SRU)は、今後当分の間、多くの領域で、決定は1件ごとの処理ベースでなされ続けるであろうと予想する。

 現在までのところ、少数の合成ナノ物質だけがより広く環境中に入り込んでいるということが推定できる。しかし、この量は増大していると推定される。したがって、ナノ物質が環境中に入り込む可能性のある量は最小とすることを確実にする緊急の必要がある。ドイツ環境審議会(SRU)は、このことに関連して、現在の優先度を次のように特定した。

産業設備を統制する法律
 不溶解性又はわずかに溶解性のナノ物質は、汚染法の下に承認を求める権限に従属させるべきである。ナノ物質の全ての製造及び使用に対する届出要求を確立することについて熟考すべきである。ドイツ主要事故法令(The German Major Accidents Ordinance)が、懸念の理由があるナノ物質を製造又は処理している設備に適用されるべきである。

環境媒体の保護
 個別のナノ物質又は特定できるナノ物質のグループについて、禁止、品質基準、又は排出制限を課すことができる場合を決定するために、速やかな審査が必要である。現状の先端技術が記述され、適切なテスト手法が開発される必要がある。立証責任を容易にするために、抽象的な懸念が特定されている場合のナノ物質の排出は、可能なかぎり制限されるべきである。当局は、1件毎をベースとして体系的に作り上げられる要求のためのガイドラインを提供されるべきであり、この目的のために広範な情報が与えられる必要がある。

廃棄物
 この分野での研究は大いに必要である。例えば、廃棄物リサイクルと回収、焼却、埋立における適切なテスト手法の開発、ナノ物質の挙動及び放出に関する研究である。廃棄物ストリーム中でのナノ物質の挙動について正確な知識が未解決なので、予防的な理由のために、少なくともナノ物質を含む製造廃棄物は有害廃棄物として分類されるべきである。ナノ物質を含むある廃棄物について、そのような物質が自治体廃棄物の一部として処分されることを防ぐために、回収制度(take-back schemes)の確立が検討されるべきである。


ナノテクノロジーを越えた予防

 この報告書は、予防原則が実際問題として成功裏にナノ物質に適用できる方法、及び、そのことを可能とするためになされるべき変更について示している。ドイツ環境審議会(SRU)の意見は、主要な発見は原則として他の技術やリスク領域に転換できるということである。現在進められている技術の開発が予防原則により導かれ、持続可能性を求める諸原則が考慮されるなら、民主的な社会が必要とする技術の進歩における信頼を確保することができる。

Published by:
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 ドイツ環境審議会(SRU)は1972年以来、ドイツ政府に助言を与えてきた。この審議会は、異なる環境関連領域の7人の大学教授らから構成されている。このことは、経済、法律及び政治の科学的展望と共に、自然科学及び技術的展望に基く、包括的で独立した評価を確実なものにする。審議会は現在、下記のメンバーからなる。

Prof. Dr. Martin Faulstich (Chair), Technische Universitat Munchen
Prof. Dr. Heidi Foth (Vice Chair), Universitat Halle-Wittenberg
Prof. Dr. Christian Calliess, Freie Universitat Berlin
Prof. Dr. Olav Hohmeyer, Universitat Flensburg
Prof. Dr. Karin Holm-Muller, Rheinische Friedrich-Wilhelms-Universitat Bonn
Prof. Dr. Manfred Niekisch, Goethe-Universitat Frankfurt und Zoologischer Garten Frankfurt
Prof. Dr. Miranda Schreurs, Freie Universitat Berlin


訳注:関連情報




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