FoE 2007年1月 発表
FoE オーストラリア ICON ナノ会議(東京)で発言
報告:ジョージア・ミラー


情報源:Friends of the Earth Australia, January 2007
FoE Australia speaks at International Council on Nanotechnology conference (Tokyo)
Georgia Miller
http://nano.foe.org.au/node/163

掲載日:2007年2月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_ICON_Tokyo.html

 昨年、私は、東京で開催された国際ナノ技術協議会(ICON)の会議で発表するよう招待された。私の発表は3つの要点からなっている。
  1. ナノの毒性についての既存の証拠は、リスク評価に予防的アプローチをとることを求めている。−我々は、労働者、公衆、そして環境がナノ物質への規制のない暴露に直面し続けることを放置すべきではない。
  2. 我々は、目的、予測可能性、所有権、責任についての重要な疑問を究明するために毒性リスク評価の範囲を越えてこれらに目を向けなくてはならない。(誰がリスクを負うのか?、誰が利益を得るのか?)
  3. もしナノ技術の予測される影響が大きいなら、我々はナノ技術の導入についての意思決定に公衆を関与させるべきである。

 概 要
 国際ナノ技術協議会(International Council on Nanotechnology (ICON))は、ナノ毒性問題に取り組んでいる産業界、政府、学界、及びNGOs が参加するネットワークである。ICONの使命は、”ナノ技術の潜在的な環境及び健康リスクに関する情報を開発して伝え、それによって社会的利益を最大化する一方でリスク削減を図ることであるとしている。”東京でのワークショップの主要な焦点はナノ物質を取り扱う労働者の安全を向上することの必要性であった。私の発表は、ナノ技術のリスクに対する予防的管理、ナノ技術のより広い社会的影響、及びナノ技術意思決定への公衆の参加について主張するものであった。


 報 告
 2日間にわたる”ナノ技術の環境健康安全に関する国際協力 アジア・ワークショップ”は約80人の招待参加者があり、その多くは主にアメリカと日本、少数の他のアジア諸国、ヨーロッパから3人、そしてオーストラリアから3人であった。参加者は主に産業、政府、及び学界の代表者であった。私はNGOとしてただ1人の発表者であり、参加者80人のうちNGOとして参加したわずか7人のうちの1人であった。会議の焦点は職場の暴露と安全問題であったにもかかわらず、労働衛生専門家、労働者代表、労働安全専門家は1人も参加していなかった。このことについて批判する議論が多くあり、会議主催者はICONの将来の取組にこれらの分野の主要な人々を関与させることを約束した。

 私の発表、”ナノ技術の社会、環境、及び政治的影響”に対する反応は驚くほどに大きかった(少なくとも小さくはなかった)。参加者の何人かは興味ある質問をし又は会議後に私の考えを支持すると言ってきた。彼らはナノ技術が提起する広範な社会的問題についての議論に非常に関心があるようでに見え、また軍事用ナノ技術研究予算に関連する問題について認識しているように見えた。
 ある人々は、主流派のナノ技術論(ナノ技術は必ず掛け値のない便益をもたらす。毒性リスクの研究=”責任あるナノ技術”、ナノ技術の管理は科学ベースのリスク評価に限られるべき)を支える前提を批判的に見るべきであると提案することで異議を唱えているように見えた。
 この会議には二つの主要な目的があった。第一の目的はICONによって着手されているナノ技術研究と環境・健康・安全の取組についての情報をアジア−太平洋諸国で共有することであった。これはこの地域で取り組まれている研究と政策の興味ある一面を示した。発表者全員の発表資料はICONのウェブサイトで入手可能である。
 第二の目的はナノ物質に暴露する労働者の安全をいかにして改善するかということについての設問に参加者のフィードバックを求めることであった。
 次の二つの設問が提起された。1) ナノ物質の安全な取り扱い(職場での)のための最善の実施方法を開発し改善するためにどのような既存のフォーラム又はメカニズムがあるのか? 2) 世界で採用される最良の実施方法(職場でのナノ物質の安全な取り扱いのために)の開発を加速するためにどのような取組が取られるべきか? これらの設問は最終日に会議参加者により編成された各グループにより討議された。各グループによる勧告をまとめたショートリストはICON実行委員会によって検討され、どのように行動に移すかについて決定を行うであろう。その結果はICONのウェブサイトに掲載されるであろう。第二の設問に対する主要な提案は次のようなものである。
  • ナノ物質は新規化学物質として分類すること(このことは既存の規制の下で新たな安全評価要求の引き金となる)−この重要な勧告に対しオーストラリアのアンドリュー・ハーフォード博士に感謝します。
  • 労働団体と労働衛生専門家をもっと関与させること(彼らはナノ物質への職業的暴露に直面している人々に最も近いところにいる)−ICONの能力と妥当性にとってこれらの関係者の参加がなぜ重要なのかを明確に示したNRDCのジェニファー・サス博士に感謝します。
 しかし、驚くべきことではないが、我々がナノ物質の安全性を確立するまで、又は職業暴露のリスクを管理するために規制を実施するまでナノ物質の職場での取り扱いを一時停止することを支持するという私の提案はICONの検討用のショートリストには入っていなかった。

 ICONはナノ技術関連産業が発展しているので、もっとナノ毒性学研究が実施されるべきと主張してきた。そして同組織とそのメンバーはナノ物質の取り扱いにおける新しい最良の手法を特定し推進したいと明らかに望んでいる。しかし、会議の組織者がフレンドオブアースに発表の要請をしたにもかかわらず、会議の出席者のほとんどは予防原則がナノ技術管理に取り入れられるべきかどうかについて真剣に討議することにほとんど関心を示さなかった。実際に最良の方法はナノ製品を市場に出す前に不安全なナノ暴露から労働者を確実に守ることであり、又は労働者、公衆、そして環境の健康を守るための政府の規制を求めることであるという主張には、ほとんど支持がないように見えた。

 世界で最も古い科学研究機関であるイギリスの王立委員会が2004年の報告書注1)の中で次のように勧告しているにもかかわらず、ICONがナノ技術の予防的管理を明示的に支持しなかったことは非常に残念なことであった。
  • 我々はナノ粒子形状の成分は認可される前に適切な科学諮問機関によって完全な安全性評価がなされなくてはならないと勧告する(Section 8.3.3: paragraph 24 & 23)。
  • 我々は、製造者はナノ粒子を含む彼らの製品の安全性評価に用いたナノ粒子の特性が形状が大きい場合と異なるということをどのように考慮したのかを示す手法の詳細を公表することを勧告する(Section 8.3.3: paragraph 25)。
  • ナノ粒子とナノチューブの環境への影響についてもっと多くのことが分るまで、我々は人工ナノ粒子とナノチューブの環境への放出は可能な限り避けるよう勧告する(Section 5.7: paragraph 63)。
  • 特に、自由ナノ粒子とナノチューブの現在のそして潜在的な環境への放出の主要な二つの源に関連して、我々は下記を勧告する。
    a) 工場と研究所ラボは人工ナノ粒子とナノチューブを危険なものとして取り扱い、廃棄物への流入を削減又は排除するよう求めること(Section 5.4: paragraph 41)。
    b) 自由(非固定)人工ナノ粒子を環境浄化のためというような用途で環境中に放出するような使用方法は適切な研究が行われ、潜在的な便益が潜在的なリスクに勝るということを示すことができるまで、禁止されること(Section 5.4: paragraph 44)。
 管理と持続可能性のための連携ある”国際ナノ技術協議会”は興味深い組織である。ナノの毒性問題に取り組んでいる産業、政府、学界、及びNGOsの国際的協力ネットワークを形成しようという企ては賞賛に値する。しかし、私は東京会議に出席してみて分ったことであるが、ICONは無理をしており、ある組織的な内部矛盾に苦しんでいると思った。

 ”国際協議会”と名づけられているが、ICONは世界を代表する立場ではない。国際的に手を広げているが(例えば今回の東京でのアジア・ワークショップの開催)、その会員はアメリカが支配的であり、ライス大学が主体である。その名前は産業界の”スチュアードシップ”であるというような懸念を与える(例えば、より広い社会的な影響、公正さの問題、研究優先度)。しかし、その使命声明:”ナノ技術の潜在的な環境と健康へのリスクに関する情報を開発し伝え、そのことにより社会的な便益を最大化しリスク削減を進めること”は、ナノ毒性問題の取り扱いを制限し、一方恐らく産業の拡大を促進することになる。

 そこに、リスク削減の推進を使命とし、それはまた産業の拡大を本質的に使命とする組織体としてのICONの有効性に関する主要な制限のひとつがある。東京会議での発表から判断して、ナノ技術産業の拡大を推進することはその会員の多くの支配的な優先事項である。問題は、産業界の発展のこの段階において、ナノ物質は新たな有毒リスクをもたらすという証拠については十分な証拠があるが、これらのリスクを管理するための情報が十分にないということであり、産業の拡大を推進することはリスク削減を求めることと相反することは間違いない。

 ICONのこの矛盾に寄与する主要な要素はその会員である。産業はナノ技術の商業化の推進を使命としており(それが彼らの核となるビジネスである)、政府はナノ技術の商業化に大きく関与しており(政府は早期に産業の拡大を図らないと世界の市場競争に遅れると確信している)、学界はナノ技術の商業化に大きく関与しており(学界はナノ技術の科学的潜在能力に興奮させられているか又はナノ技術は進歩であるとする主張によって確信させられており、又はナノ技術産業にわずかな研究費に恩義を受け、船を揺らしたくない)。

 このことはNGOsを否定的な批判家にする。ICONの運営に対して財政的寄与能力が最も少ないパートナーなので、共同的ネットワークとしてICONの妥当性に批判的な参加者ではあるが、NGOs はICONの方向性決定に対し当然のことであるが影響力が最も小さい。

 したがって、ICONのような組織は、”リスク削減を推進し社会的便益を最大化する”ために何が必要かということを十分に批判的に質問するために必要なステップをとることができるであろうか? その答えがナノ技術の商業化をやめ、我々の少ない公共資金を他の分野の研究のために使用するということならどうなるか?

 私は、私の発表で指摘した3つの主要な点に戻りたい。 1) ナノの毒性についての既存の証拠は、リスク評価に予防的アプローチをとることを求めている。−我々は、労働者、公衆、そして環境がナノ物質への規制のない暴露に直面し続けることを放置すべきではない。
2) 我々は、目的、予測可能性、所有権、責任についての重要な疑問を究明するために毒性リスク評価の範囲を越えてこれらに目を向けなくてはならない。(誰がリスクを負うのか?、誰が利益を得るのか?)
3)もしナノ技術の予測される影響が大きいなら、我々はナノ技術の導入についての意思決定に公衆を関与させるべきである。

 これらの主要な論点は科学界が直視しなくてはならない緊急の課題である。

謝辞:私はICONが私の旅費、登録、及び宿泊費を持っていただいたことに感謝します。


訳注1
ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性−要約と勧告/英国王立協会・王立技術アカデミー報告 2004年7月29日 (当研究会訳)


化学物質問題市民研究会
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