FoE オーストラリア2009年6月22日
オーストラリア
アスベストの悲劇を繰り返そうとしている


情報源:Friends of the Earth Australia
reprinted from New Matilda 22.06.09
Australia risks repeat of asbestos tragedy
http://nano.foe.org.au/node/345

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年7月28日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_090622_asbestos_tragedy.html


 ”総理大臣ケビン・ラッドはバーニ・バントン訳注1)を彼のたゆまないアスベスト被害者のための正義のキャンペーンに対し”偉大なオーストラリアの英雄”とたたえた”。しかし科学者やリスク評価者らのカーボンナノチューブがアスベストと同様なリスクを及ぼすことがあり得るという真剣な警告にもかかわらず、ラッド政府はアスベストの悲劇を繰り返さないことを確実にするための新たな規制をすることを拒否している。

 新たなナノテクノロジー安全措置の必要性についての政府の拒絶は、アスベストの甚大な人の犠牲をよく承知しているオーストラリア人にとってショックかも知れない。

 アスベストはかつては”奇跡の”物質と言われた。オーストラリアでは、建築材料からブレーキのパッド、オーブン用手袋まであらゆるものに使用された。

 イギリスとともに、我々は世界で最も高い割合で中皮腫の被害を受けている。イギリスの疫学教授ピーター・ジュリアン・ぺトは、全てのオーストラリア人の肺がんの25%はアスベストに起因すると言うことができると示唆している。ぺト教授は、今世紀の中旬までに3万人のアーストラリア人がアスベスト関連疾病で死ぬであろうと推定している。新たな患者が出現し続けている。

 アスベストの悲劇は教訓として役に立つが、それは”奇跡の”物質について盲信し、その有害性についての早い時期の警告の兆候を無視することの危険だけでなく、企業の貪欲さの危険についての教訓である。アスベスト被害者の治療のためのキャンペーンの中で最もぞっとさせる画像のひとつは一枚のポスター”ジェームス・ハーディーは知っていた”である(訳注2)。

 ACTU (オーストラリア労働組合協議会)は、1930年代からアスベストの危険性を知っていたという証拠があるが、1978年なるまでその製品に関する警告や説明書を発行しなかったと述べている。オーストラリア政府は2004年まで全ての職場においてアスベストを禁止しなかった。

 一見して、新興ハイテク分野の”微小の科学”ナノエTクノロジーは20世紀の災害アスベストとはほとんど関係なさそうに見える。しかし、炭素原子からできた極小の円筒状物質であるカーボンナノチューブは形状がアスベスト繊維に似ているだけでなく、同じような健康ハザードを持っているという恐れが高まっている。

 先週、科学者らはABC(オーストラリア放送会社)の7時半の番組”リポート”で、アスベストの経験を繰り返さないためにカーボン・ナノチューブに関する措置が必要であると述べた。彼らはオーストラリア労働組合協議会(ACTU)とオーストラリア・ナノビジネス・フォーラムの義務的表示と登録の要求を支持した。

 ナノ毒性学者であり”ナノセーフ・オーストラリア”のディレクターである助教授ポール・ライトは、7時半の番組”リポート”で次のように述べた。”アスベストと同様な挙動をするどのようなナノ物質も懸念があり、管理し規制すべきものである。・・・カーボン・ナノチューブはラベル表示されるべきである”。

 今週、アメリカの投資家らは、ナノテクノロジーとアスベストに関連する健康リスクの類似性を無視し、開示についての弱い規制は、ナノテクノロジー会社を数十億ドル(数千億円)の訴訟リスクにさらすことになると警告した。オーストラリアの労働安全衛生専門の弁護士の一人も同様な警告を以前に出している。

 しかしオーストラリア労働組合協議会(ACTU)の全ての商業的に使用されるナノ物質に対する義務的な登録と表示要求に対し、革新産業科学研究大臣の報道官キム・カールは、”政府は労働者の健康と安全について非常に懸念しているが、政府は新たな規制は導入するつもりはない”と述べた

 カーボン・ナノチューブは現代の”奇跡の”物質である。”鋼鉄より100倍強く6倍軽い”と、しばしば言及されるが、カーボン・ナノチューブはまた、信じられないほど優れた電気的導電性を持つ。それらは、国際的に製造されるますます多くの電子機器、強化プラスチック、専門建材、スポーツ用品に使用されている。それらは、キャパシター、医薬品、太陽電池、防衛用途での将来性がやかましく言われている。

 しかし、5年前、非常に敬意を払われている英国王立協会と王立工学アカデミーの科学者らと世界第二の再保険会社であるスイス・リー(Re)社のリスク専門家らは、カーボン・ナノチューブは多くの物理的特性をアスベストと共有しているので、それらは同様な健康リスクを持つかもしれないと警告した(訳注3)。

 スイス・リー社は遠慮なく次のように述べている。”・・・ナノチューブのあるものはサイズと形状がアスベスト繊維に類似している。潜在的有害性は類似であるとする類推は明白であるように見える。”

 2004年以来、一連の動物実験はカーボン・ナノチューブは肺に炎症、肉芽腫、 繊維症、心臓発作の要因となる動脈”プラーク”、DNAダメージ、免疫不全などを引き起こすことを示している。

 昨年、二つの独立した研究(訳注4)(参照:Nature Nanotechnology PubMed)がカーボン・ナノチューブのある形状のものは中皮腫を引き起こすことことができることを示した。これらの研究のうちのひとつ(PubMed)は、カーボン・ナノチューブに暴露すると、最も有害なアスベストに暴露するより中皮腫で多くのマウスが死亡したことを発見した。

 ナノチューブは、オーストラリア中の研究所で扱われておリ、そこでは研究、管理、洗浄、保守の要員が潜在的な暴露に直面している。カーボン・ナノチューブがすでにオーストラリアの製造業で使用されている可能性があるが、公衆や影響を受ける労働者らがそれを知ることは不可能である。

 現在、カーボン・ナノチューブが使用されている製品に表示する、又は会社が職業的暴露をするかもしれない労働者に知らせることについての法的要求はない。オーストラリアの労働者にとって、雇用主が軽減措置をとったかどうかはもちろん、カーボン・ナノチューブが職場で使用されているのかどうかすら知る方法がない。

 カーボン・ナノチューブには既知の暴露の”安全”レベルは存在しない。アスベストと同様に、ナノチューブへのどのようなレベルの職業暴露でも健康ハザードを及ぼすことが可能である。しかし、驚くべきことに、人造黒鉛(synthetic graphite)のように毒性がはるかに低いカーボンに対して法的暴露評価基準がある。

 オーストラリア国立大学法科医科校の助教授トム・ファウンスはABCの7時半の番組”リポート”で次のように述べた。”我々は、職場におけるこれらの安全基準を開発する方向に動き始めなくてはならない。もしそれをしなければ、アスベストと同じ悲劇が我々を待ち構えており、我々は何も教訓から学んでいないということが示されるであろう”。

 「地球の友」は、更なる研究がナノチューブ暴露のどのようなレベルも安全であるとみなすことができるのかできないのか特定することができ、適切な許容可能暴露が決定されて実施され、影響を受ける労働者への告知が義務づけれれるまで、カーボン・ナノチューブの商業的製造と販売は一時的に停止すべきであると信じる。

 労働組合、ナノテクノロジー産業、ナノ毒性学者、保険会社、投資家、及びNGOsとの間に、カーボン・ナノチューブに対して緊急の予防的措置が求められるという合意ができつつある。アスベストの経験は、子えっらの措置に取り組むために産業側に依存することはできないということを実証した。もし我々がアスベストの悲劇を回避したいなら、ナノテクノロジーの政府規制が緊急に求められる。

ジョージア・ミューラー

オリジナル記事は下記にてアクセスできる。
http://newmatilda.com/2009/06/22/australia-risks-repeat-asbestos-tragedy
訳注1:ジェームス・ハーディ社
  • James Hardie 'knew of asbestos danger'
     ジェームス・ハーディー社のトップマネージメントはアスベスト粉塵の危険性を知っており、そのことを公表しないよう職員に指示していたと裁判所は告げられていた。この建材メーカーの巨人は、余命いくばくもないアスベスト疾病末期症状の運動家バニー・バートンによって補償請求を受けているいる核心である。バートン(61才)はアスベストに関連する腹膜中皮腫に罹っている。
     アスベスト粉塵疾病裁判の開始冒頭、バートンの弁護士ジャック・ラッシュは、ジェームス・ハーディー社はアスベストの危険性を長年承知していたが、措置をとらなかった。・・・

訳注2:バニー・バートン
訳注3
訳注4


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る