FDA 長官室 2011年6月9日
FDA 規制製品がナノテクノロジー応用に
関わるかどうかを検討する
産業向けガイダンス


情報源:U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration
Office of the Commissioner June 2011
Considering Whether an FDA-Regulated Product Involves the Application of Nanotechnology
Guidance for Industry
http://www.fda.gov/RegulatoryInformation/Guidances/ucm257698.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FDA/FDA_110609_Draft_Guidance.html

産業向けガイダンス[1]
ドラフト・ガイダンス
 このガイダンス文書はコメントを得る目的のために配付されている。
 このドラフト文書に関するコメントと提案は、連邦官報がこのドラフトガイダンスの入手可能を告知してから60日以内に提出されるべきである。
書面によるコメントは下記に提出すること。
Division of Dockets Management (HFA-305), Food and Drug Administration, 5630 Fishers Lane, rm. 1061, Rockville, MD 20852.
電子媒体によるコメントは http://www.regulations.gov によること。
 全てのコメントは、連邦官報に記載されているドケット番号 (FDA-2010-D-0530) をつけること。

 このドラフトガイダンスは、完成すれば、医薬品局(FDA)のこの課題に関する現在の考えを提示するものとなるであろう。もし代替アプローチがあり、それが適用可能な法と規制を満たすなら、その代替アプローチを使用することができる。もしある代替アプローチについて議論したいと望むなら、このガイダンス実施に責任あるFDA担当官にコンタクトしていただきたい。も適切なFDA担当官が分からなければ、このガイダンスの表紙に示される電話番号に電話していただきたい。

I. はじめに

 このガイダンスは、製造者、供給者、輸入業者、及びその他の利害関係者向けに意図されている。このガイダンンスは、FDAが規制する製品 [2] がナノ物質を含んでいるかどうか、あるいはナノテクノロジーの応用に関わっているかどうかに関するFDAの現在の考えを述べるものである。

 この文書を含むFDAのガイダンス文書は、法的に強制力のある責任を確立するものではない。その代わり、ガイダンスは、ひとつの課題に関するFDAの現在の考えを述べるものであり、特に規制的又は法的要求が引用されていない限り、単に勧告としてみなされるべきである。FDAガイダンス中のこの表現の使用は、何かを提案している又は勧告しているが、要求しているわけではないことを意味する。

II. 範囲

 このガイダンス文書は、どのような規制のための定義をも確立するものではない。むしろ、産業やその他がFDA規制製品中のナノテクノロジーの応用により生じるかもしれない規制状態、安全性、有効性、又は公衆の健康への潜在的な影響を検討するときに、それらを特定するのに役立つよう意図されている。このガイダンスへの公衆のインプットもまた、必要に応じて、将来の規制のためのどのような定義の開発にも、役に立つかもしれない。

 ナノ物質を含む、又はナノテクノロジーの応用に関わる製品について、現在はFDAの既存のレビュー・プロセスを用いて個別に対応しているが、このガイダンス文書は、それらの製品の規制に対応するものではない。

 ナノテクノロジーの応用は、従来の製造法による製品の特性とは異なる製品特性をもたらすかもしれず、したがって、検証する価値があるかもしれない。しかし、FDAは、ナノ物質を含む又はナノテクノロジーの応用が関わる全ての製品が、本質的に無害である又は有害であるとして、断定的に判断することはない。

 将来、FDAは、2011年3月11日に発表された”新たに出現している技術の規制と監督のための原則Principles for Regulation and Oversight of Emerging Technologies”及び、2011年6月9日に発表された”ナノテクノロジーとナノ物質の応用の規制と監督に関する米国の意思決定のための政策原則 (訳注:日本語訳版Policy Principles for the U.S. Decision-Making Concerning Regulation and Oversight of Applications of Nanotechnology and Nanomaterials”、これらは行政管理予算局(OMB)、科学技術政策局(OSTP)、及び米国通商代表部(USTR)により共同で発表された [3] −と矛盾することのない、特定の製品又は製品グループの検討に対応するための追加的なガイダンス文書を発行するかもしれない。

III. 議論

 FDAは今日まで、”ナノテクノロジー”、”ナノスケール”、又は関連する表現の、規制のための定義を確立したことはない[4]。しかし、”ナノテクノロジー”の定義は数多くある。この表現は、少なくとも1次元のサイズが概略 1〜100 ナノメートルの範囲にある物質のエンジニアリング(すなわち計画的な操作、製造、又は選択)を参照するときに、恐らく最も一般的に使用されている。例えば、国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)プログラムは、ナノテクノロジーを、”寸法が概略 1 と 100 ナノメートルの間にある物質の理解と制御であり、そこでは独自の現象が新たな応用を可能とする”として定義している[5]。機能、形状、電荷、表面積と体積の比、又はその他の物理的又は化学的特性のような他の要素もまた、発表された様々な定義の中で述べられている。

 FDAが規制する製品がナノ物質を含んでいるかどうか、あるいはナノテクノロジーの応用に関わっているかどうかを検討するためのFDAの枠組みを開発するための第一歩として、FDAは、以下に述べる点を開発した。ナノ物質及びそれらの特性についてのFDAの現在の科学的及び技術的理解に基づけば、FDAは、そのような製品の安全性、有効性、又は公衆の健康への影響の評価は、ナノ物質が示すかもしれない独自の特性と挙動を考慮すべきであると信じている。

 考慮すべきこれらの点は、将来適切なら、追加ガイダンスが特定の製品のために示されるという理解の下に、全てのFDA規制製品に広く適用可能となるよう意図されている。

A. 考慮すべき点

 今回、FDAが規制する製品がナノ物質を含んでいるかどうか、あるいはナノテクノロジーの応用に関わっているかどうかを検討するに当り、FDAは下記のことを問う。
  1. 工学的(engineered)物質又は最終製品が、少なくとも1次元がナノスケール(概略1nm〜100nm)の範囲にあるかどうか、又は
  2. 工学的(engineered)物質又は最終製品が、物理的又は化学的特性、又は生物学的影響を含んで、たとえその寸法がナノスケールの範囲を外れても、最大1マイクロメートル(1,000nm)までの寸法に帰すことができる特性又は現象を示すかどうか
B. 考慮すべき点にある要素の根拠

1. 工学的(engineered)物質又は最終製品

 この表現は、ナノ物質を含める又はナノテクノロジーの応用を関与させるために計画された製品を、非意図的又はバックグラウンドレベルのナノ物質を含む製品、又はナノスケールの範囲で自然に発生した物質を含む製品から区別するために用いられる。FDAは、特定の特性を生成するために粒子サイズの計画的な操作及び制御に特に関心があるが、それは、これらの新たな特性又は現象の出現が更なる評価を行なうことを妥当とするかもしれないからである。このことが、微生物やたんぱく質のように自然界にナノスケールで存在する生物学的又は化学的物質のもっとよく知られている使用と異なることである。

2. 少なくとも1次元がナノスケール範囲(概略1nm〜100nm)

 概略 1nm〜100nm というサイズ範囲は、規制及び科学関連諸機関によって提案されている様々な作業用定義や記述の中でよく使用されている[6]。このサイズ範囲における物質は、新たな応用を可能とする新たな又は変更された物理化学的特性をしめすことがある[7]。したがって、概略1nm〜100nm という範囲は、FDAが規制する製品がナノ物質を含んでいるかどうか、あるいはナノテクノロジーの応用に関わっているかどうかを検討するに当り、最初の参照点として適用されるべきである。

3. そのサイズに帰する・・・特性又は現象を示す

 これらの表現は、ナノスケールにおける物質の特性と現象が、FDA規制の製品の安全性、有効性、能力、品質、及び適用可能なら公衆の健康に影響を及ぼすことができる応用を可能とするという理由で使用される。例えば、寸法依存の特性又は現象は、生物学的利用能の増加、用量の減少、又は薬の効力強化[8]、薬の毒性低下[9]、病原体のより良い検出[10]、改善された食品容器包装による保護強化 [11]、又は食品中の機能成分又は栄養素の伝達改善のような機能的効果[12]のために用いられるかもしれない。その特性と現象は、変更された化学的、生物学的、又は磁気的な特性、変更された電気的または光学的活性、増強大された構造的健全性、又は、大きなサイズの場合には通常観察されないがナノスケール物質の場合には観察されるかもしれないその他の独自の特性[13] に帰するものである。これらの変化は、製品の安全性、有効性、能力、品質、又は公衆の健康への影響についての疑問を提起するかもしれない。さらに、様々な生物学的系(特定の組織や器官を含む)における曝露経路、用量、及び挙動がFDA所管の広範な製品群の評価にとって重要となる。

4. 1マイクロメートル(1,000 nm)までのサイズ範囲

 物質又は最終製品はまた、概略 100 nm 以上の寸法に帰すことができる特性又は現象を示すことがある。サイズの減少は、物質又は製品自身が必ずしもナノスケールの範囲になくても、従来サイズの物質の特性とは明らかに異なる特性をもたらすことができる。この文脈において、”アグロメレート(agglomerate)”及び”アグリゲート(aggregate)”のような構造は、表面処理された、機能化された、又は階層的に組み立てられた構造とともに興味深い[15]。そのような物質を説明するために、ナノ物質のいくつかの定義が、内部構造に 100 nm 以上の寸法を適用している[16]。上限として設定すべきかどうかの明確な境界線がないので、FDAは、1マイクロメートル(すなわち 1,000 nm)という上限が、これらの物質がそれらの寸法に由来し、ナノテクノロジーに関連する特性又は現象を示すかどうかを決定するための更なる検証のために、ナノスケールの範囲を越える寸法を持つ物質をスクリーニングするための合理的なパラメータとして利用できるであろうと考える[17] 。

 FDAは、上述の考慮すべき点としての2項目に提示した 1 マイクロメートル上限が下記2点に役立つと信じる。
(1) 寸法に帰することができる特性を持つかもしれないが、ナノテクノロジーには関連しそうにないマクロスケールの物質を除外すること。
(2) ナノテクノロジーに関連する寸法依存の特性を示すかもしれない 100 nm 以上の寸法を持つ、”アグロメレート(agglomerate)”及び”アグリゲート(aggregate)”又は表面処理された、機能化された、又は階層的に組み立てられた構造のような物質を含め、マクロスケールの物質と区別すること。

IV. 結論

 FDAによって規制される製品を製造する時に用いられるかもしれない工学的ナノ物質によって示される特性における寸法の潜在的な役割と重要性について、もっと学ぶことには極めて重要な必要性がある。もし要求されるなら、上市前のレビューが工学的ナノ物質を含む又はナノテクノロジーの応用が関わる製品の特性と挙動をもっと良く理解する機会を提供する。そして、ナノテクノロジーを適用している製品が上市前レビューの対象でない場合には、FDAは、製造者が製品開発プロセスの早い時期にFDAに相談するよう強く促す。この方法によって、これらの製品の規制状態、安全性、効力、又は公衆への健康影響に関連するどのような疑問も適切に十分に対応することができる。

[脚注]
1. このガイドラインに示される考慮すべき点は、米食品医薬品局のナノテクノロジ・タスク・フォース(以後タスク・フォース)によって準備された。2006年8月に創設されたこのタスクフォースは、革新的で安全で効果的なナノスケール物質を使用するFDA規制製品の継続する開発を可能とするであろう規制的アプローチを決定することを任務としている。

2. このガイダンス文書中での”製品”という言葉の使用は、FDAによって規制される製品、物質、成分、及びその他の物質を含むことを意味する。

3. http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/inforeg/for-agencies/
Principles-for-Regulation-and-Oversight-of-Emerging-Technologies-new.pdf

http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/inforeg/for-agencies/
nanotechnology-regulation-and-oversight-principles.pdf


4. 2007年の報告書の中で、FDAナノテクノロジー・タスク・フォースは次のように述べている。”タスク・フォースは、FDAが物質のサイズの潜在的な重要性と、進化する科学の状況を考慮する規制アプローチを追求し続けるべきであると信じる。さらに、”ナノテクノロジー”、”ナノスケール物質”又は関連する表現又は概念のためのひとつの定義は、ひとつの文脈の中では有意な指針を提供するかも知れないが、その定義を他の文脈で使用する場合には狭すぎる又は広すぎるかもしれない。したがって、タスク・フォースは、現時点では規制目的のためのそのようなような用語の公式な、固定された定義を採用する試みを推奨しない。FDAは、ナノスケール物質の生物学的系との相互作用及び、FDAの判断を伝えるとができる一般化できる概念についてもっと多くを学ぶので、公式で、固定された、FDA規制製品中のナノスケール物質の規制に適切に合わせた定義を開発することは建設的であるかもしれない。”(ナノテクノロジー 米医薬品局ナノテクノロジー・タスク・フォースの報告書 2007年7月25日 6〜7頁)
http://www.fda.gov/ScienceResearch/SpecialTopics/Nanotechnology/
NanotechnologyTaskForceReport2007/default.htm
)

5. National Nanotechnology Initiative Website, http://www.nano.gov/nanotech-101/what

6. 例えば、概略 1 nm〜100 nm というサイズ範囲が、国家ナノテクノロジー・イニシアチブ、米環境保護庁、消費者製品に関する欧州科学委員会、欧州委員会、ヘルス・カナダ、国際標準化機構、経済協力開発機構ナノテクノロジー作業部会及び工業用ナノ物質に関する作業部会、国家がん協会、アメリカ国家標準協会などにより発表されている定義、作業用定義、又は記述の中で使用されている。

7. National Nanotechnology Initiative Website, http://www.nano.gov/nanotech-101/what; Powers KW, Brown SC, Krishna VB, et al. Research Strategies for Safety Evaluation of Nanomaterials. Part VI. Characterization of Nanoscale Particles for Toxicological Evaluation. Toxicological Sciences 90: 296?303, 2006.

8. Merisko-Liversidge EM and Liversidge GG. Drug nanoparticles: formulating poorly water-soluble compounds. Toxicologic Pathology, 36:43-48, 2008.

9. Paciotti GF, Myer L, Weinreich D, et al. Colloidal gold: a novel nanoparticle vector for tumor directed drug delivery. Drug Delivery, 11:169-183, 2004.

10. Kaittanis C, Santra S, Manuel PJ. Emerging nanotechnology-based strategies for the identification of microbial pathogenesis. Advanced Drug Delivery Reviews 62:408-423, 2010.
11. Chaudhry Q, Scotter M, Blackburn J, et al. Applications and implications of nanotechnologies for the food sector. Food Additives and Contaminants 25:241-258, 2008.

12. IOM (Institute of Medicine). Nanotechnology in food products: Workshop Summary. Washington, DC: The National Academies Press, 2009; Chen L, Remondetto GE, Subirade M. Food protein-based materials as nutraceutical delivery systems. Trends in Food Science & Technology 17:272-283, 2006.

13. Nanotechnology. A Report of the U.S. Food and Drug Administration Nanotechnology Task Force, July 25, 2007; available online at: http://www.fda.gov/ScienceResearch/SpecialTopics/Nanotechnology/
NanotechnologyTaskForceReport2007/default.htm
).

14. Considerations on a Definition of Nanomaterial for Regulatory Purposes, Joint Research Centre, 2010; available online at: http://ec.europa.eu/dgs/jrc/downloads/jrc_reference_report_201007_nanomaterials.pdf

15. Scientific Basis for the Definition of the Term “Nanomaterial”, Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks, July 6, 2010; available online at: http://ec.europa.eu/health/scientific_committees/emerging/docs/scenihr_o_030.pdf

16. ISO Technical Specification on Nanotechnologies ? Vocabulary ? Part 1: Core terms (ISO/TS 80004-1:2010); European Commission draft recommendation on the definition of the term “nanomaterial” (October, 2010).

17. 100 nm を越える寸法を持つ物質を含めることは、欧州委員会の共同リサーチセンターと、新たに出現し新たに特定された健康リスクに関する科学委員会によって発表された最近の結論と一致している。”規制目的のナノ物質定義をサイズだけに基づかせるために、ナノスケール上限は、ナノスケールサイズに帰する規制のために特別の注意を必要とするであろう。物質の全てのタイプを捕らえるために理想的には上限は十分高くあるべきである。既存の定義の中でしばしば使用される上限、例えば、100 nm は、規制において100 nm 以上のサイズを持つ構造(例えば、アグロメレート(agglomerate)やアグリゲート(aggregate))を捕らえるために、サイズ以外の構造的特徴又は特性に基づく、ひとつ又はそれ以上の資格を与えるものを導入することが必要かもしれない。”(Considerations on a Definition of Nanomaterial for Regulatory Purposes, Joint Research Centre, 2010);”100 nm というひとつ又はそれ以上の外部寸法という上限は、それ以上の外部寸法を持つであろうアグロメレート(agglomerate)、アグリゲート(aggregate))及び多要素構成を潜在的に除外することにより複雑になる。”(Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks, July 6, 2010);”100 nm というひとつの上限は一般的な合意により広く使用されているが、この値の適切性を認める科学的な証拠はない。”(Stated as SCENIHR conclusions in the EC draft recommendation on the definition of term “nanomaterial”, October 2010; available online at: http://ec.europa.eu/environment/consultations/pdf/recommendation_nano.pdf) さらに、ISO は、”意図的に製造された及び付随的なナノ物質に関連する健康と安全の考慮は、やぶから棒に 100 nm と結論付けないことを認めた。”(ISO/TS 80004-1:2010)



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